※この作品はR-18です。

Angel Beats! ゆりルート   作:音有五角

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R18短編「かなでルート4」

 つい、かなでを部屋に呼んだまま、二人で眠りこけてしまった。

 朝。時計を確認すると、もう起きなくてはいけない時刻になっていた。今日も登校日なのだ。休日ではない。

「かなで。起きろ」

「……すう」

 ベッドから起き上がり、声を上げるも、かなでは応答しなかった。すやすや、と愛らしい寝息が聞こえる。かなでは裸のまま、ぴったりこちらへくっつくように、横向きで眠っていた。

「起きろ、時間だ」

「麻婆豆腐……」

「どんな寝言だ。つーか、どんだけ好きなんだよ」

 意外と朝に弱いタイプなのだろうか。

 やもえず、少し強めに頬を引っ張る。

「……ん。いひゃいわ」

 引っ張られたまま口を開いたので、妙な日本語になる。

 かなではのっそりとした動作で上体を起こし、右手で目をごしごしと眠たそうにこすった。

「おはよう。春斗……」

 まだ目はとろんとしていて、ひどく眠そうであった。

「朝に弱いタイプか?」

「……違うわ。だって昨日、あなたとあんなにしたんだもの……夜更かしたみたいになって、眠いわ」

「それは悪かった」

「おやすみなさい……」

 ぽてん、とかなでは再び眠りに落ちた。

 愛らしい寝顔はずっと眺めていたくなるが、残念ながらそういうわけにはいかない。

「かなで。生徒会長だろう」

「麻婆豆腐……」

「もういいから、そのネタは。ほら」

 体を揺らし、強引に小柄な上体を起こしてやると、ぼんやりと目を開いた。すると眠気眼のまま俺の顔をじっと見て、甘えるように腕を首の後ろへ絡めて来た。

「春斗……キス……?」

「違う。頼むから、目を覚ましてくれ、かなで」

 もう時間がない。デコピンをしてやると、「んう」と小さい悲鳴が上がった。

 

 

 朝食を大食堂で手早く済ませた後、俺とかなでは一緒に登校した。通学路にて、かなでは目をこすっている。

「本格的に眠そうだな」

「激しかったわ……」

「わ、悪い。連れ出しておいてあれだが、大丈夫そうか?」

「平気よ」

「無理するなよ。最悪、今日は生徒会業務、代わりにやっておくから。早く帰って眠っておけ」

「そうするわ……」

 かなではそう言って、欠伸をした。そんな仕草すら愛おしく思えて、俺はかなでの頭を撫でた。さらさらとした銀髪は初雪のようにきれいで、儚くて、溶けてしまうような良い手触りだ。

 かなでは顔を赤くして、少しだけうつむいた。

「恥ずかしいわ。みんな、見ているのに……」

 通学路には他のNPCも大勢いる。生徒会長と副会長という組み合わせだけあって、イチャイチャするとさらなる注目を浴びていた。

「わざと見せてんだよ。生徒会長と副会長がデキているって事実を広めてやるんだ」

 本人だけではなく、周りにもかなでへの愛を伝えてやる。

 そうすれば、また不安にさせることもないだろう。

「あたしもなにかした方がいい?」

「なにかしたければ」

「……」

 ちょこん、と上着の袖を右手でつまんできた。けれど顔を赤くして、すぐにぱっと放す。

「やっぱり、恥ずかしいわ」

 かなでは結構、恥ずかしがり屋であった。

 

 

 昼休み。大食堂から本館から戻ると、天上学園とは違う制服を着た男子生徒が、片っ端から通りかかる生徒に声をかけている。男子、女子構わず、ナンパというわけではなさそうだ。

 その中の一人、童顔の少年に俺は声をかけた。昨日、校長室へ向かった男の一人である。

「なにしているんだ?」

「え……うわあ⁉ 天使の仲間だ! 殺される! 助けて、日向くん!」

 童顔の少年は戦慄した表情を浮かべ、慌てて青い髪――日向、と呼ばれた男子生徒の元へと駆け寄る。

「大山? どうした」

「あ、あの人だよ! 野田くんを撃った人!」

「ん? ああ、たしか……桜木って言ったか」

 比較的肝が据わっているのか、日向は大して動じないで俺と向かい合った。大山は日向の影に隠れている。

「どうしよう⁉ ゆりっぺに野田くん、椎名さん……みんな呼んできた方が良いかな⁉」

「落ち着け、大山。大丈夫だ」

「ええー⁉ ゆりっぺだって、持っていた銃を撃たれたんだよ!」

「そうだけど。多分こいつ、そんなに悪い奴じゃないと思うぜ?」

 日向がなにを根拠にしているのか、そんなことを言った。

「なにをしているか、聞いただけなんだがな」

 俺が言うと日向が人懐っこい笑みを浮かべた。

「仲間集めさ。生前の記憶がないかどうか、NPCに聞いて回っているんだ」

「仲間ねえ。例の死んだ世界戦線か」

「そう、そう。まだまだ人数が少ないからよ」

 びくびく震えて、後ろに隠れる童顔の少年といい、ごく普通の男の子といった感じだ。あのハルバートを持った男子生徒のように、仲村 ゆりに陶酔している感じもない。まだ話がわかる奴らな気がした。

「警告しておく。俺の生前、ちょっと特殊でな。色んなタイプの悪人と、何度も対峙してきたんだ。どんな人生を送ったかは知らねえが、あの少女の見た目のくせに、仲村 ゆりもそれらに似た危うい雰囲気がある。あいつに従うのは、危険だぞ」

 日向は目を丸くした。

「やっぱお前、悪い奴じゃなさそうだな」

「お人好しだな。仲間を撃ったんだぞ?」

「そりゃ、野田とゆりっぺを撃ったのは許せねえことだけどな。でも、天使ちゃんのための行動だったんだろ?」

「天使……ねえ」

「俺からすれば、天使ちゃんの方がよっぽど恐ろしいけどな。言いなりになったら、消されちまう」

「それがこの世界の役割だ」

「かもしれねーけど。少なくともあいつは、そうは割り切れねーんだよ……。だから、最後まで守ってやるって、そう決めたんだ」

「あいつのこと、好きなのか?」

「え?」

「仲村 ゆりのこと」

 刹那、日向の顔がさーっと青ざめた。

「何故⁉ ワッツ、ホワーイ⁉ んなわけねーだろ!」

「違うのか」

「なにをどうしたらそんな風に見えるんだよ。間違ってもゆりっぺの前で言うなよ、鳥肌が立つ!」

 信頼関係のある間柄のようであるが、恋人とは違うようだ。しかしいずれにせよ、彼には彼なりの信念があって、戦線の仲間をやっているようだ。

 悪い奴じゃなさそうだが、わかり合うことはなさそうである。

 

 

 桜木に言われ、かなでは生徒会には出席せず、放課後になるなり寮へと向かった。しかし彼女が入ったのは、桜木の部屋であった。桜木がこの世界の隙を突いて制作した合鍵を使い、侵入したのだ。

「……つい、来てしまったわ」

 ほとんど無意識の行動であった。

 それでも、またここへ来たくなったのである。

「こんなこと、校則違反なのに……」

 というか倫理的に考えて、男子寮への侵入は色々と問題である……。いくら相手が恋人とはいえ。

 無論、NPC――一般生徒も、大っぴらにしていないだけで、こういった男女の密会はごく稀にある。

 まさか、自分がその一員になるとは思わなかった。かなではピンク色の寝巻に着替えた後、桜木のベッドに潜り込む。

「パジャマが置きっぱなしだわ」

 だらしのないところがあるんだなと思いつつ、毛布に潜り込みながら、ぎゅうううう、と桜木が脱ぎ捨てたパジャマを抱きしめた。

 布団と、パジャマからは桜木の匂いを感じながら、かなではうとうととした。

「春斗……すう」

 疲れが溜まっていたため、すぐに意識が落ちる。その横顔はとても幸せそうであった。

 

 

 生徒会業務を終え、大食堂で飯を食うと、もう時刻は夜の八時を回った。さすがにかなでがいないと長引く。

 男子寮の中を歩きながら、ふと昼間の出来事を思い出す。

「日向、か」

 フレンドリーで話しやすそうな奴だった。後ろに隠れている大山も、等身大の男子生徒といった面持ちで、好感が持てる。

 天上学園にいるのは作り物の男子生徒ばかり。

 友達、と呼べるものはいない。

 だからつい、想像してしまう。ああいう奴らと友達になれたら、楽しいんじゃないかって。

 だけどそんなことは、甘い想像だ。

 かなでは孤独だ。学園の規律に従う彼女には、友人がいない。いたとしても、それは天上学園のルールに従うわけだが、消えることになる。だからかなでは必然的に、孤独になる。

 俺も副会長ならば、そうでなければいけない。かなでの味方になるということは、彼女の側にずっといるということは、そういうことなのだ。

 友達や仲間なんて、そんな生温いことは考えてはいけない。

 俺は、かなでの味方なのだから。

「――って、びっくりした。なんでこいついんだよ」

 部屋に入るなり、俺のベッドで眠りこけるかなでがいて、思わず声が漏れる。横向きで体を丸くしながら、すうすうと穏やかな寝息を立てている。寝顔は当然、穏やかで可愛らしい。とても気持ちよさそうだ。そして何故か、俺のパジャマを抱きしめている。

「……春斗」

 そのせいか、俺のことを寝言で呼んでいる。

 今回は、麻婆豆腐じゃなかったか。

 俺はベッドに腰かけて、かなでの頭を撫でてやる。綺麗な銀色の髪は柔らかく、俺の手を迎え入れてくれる。

「んう。好きよ……」

 かなでが寝言で、そんなことを言ってくれる。

「ああ。俺も好きだ」

 俺は、そう答えてやった。

 

 

 深夜。寝不足であったとはいえ、早く眠ったせいか、かなでは途中で目を覚ました。部屋にはわずかに差し込んだ月明かりだけが差し込み、薄暗い。それでも同じベッドで、桜木が眠っているのを発見した。かなではすかさず、甘えるように彼の胸元へ抱きつく。死者であるはずなのに不思議なもので、胸からは心臓の鼓動を感じた。

「あなたではないのね」

 かなではそう言って、息を吐いた。

「いつかあたしの心残りが無くなっても、あなたがこの世界に縛られている理由がわかるまでは、ここに居続けるわ」

 かなではむくりと起き上がり、桜木の頬にキスをした。寝顔を眺めた後、ぎゅっと上から抱きしめる。

「あたしは、あなたを必ず見送るから」

 それがいつになるのかは、わからないけれど。

 気が遠くなるほどの月日が、かかるのかもしれないけれど。

 それでもかなでの決意は、変わらなかった。

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