ややシリアス寄り。桜木がかなでルートだったらこんな感じになる、というIFストーリーになります。
ストーリーが繋がっているため、ゆりルート、音無ルート、ハーレム編の既読推薦です。
「桜木くん。ちょっと来なさい」
「? はい」
放課後。NPCの男性教師に呼び出され、廊下を歩く。そして生徒会室に辿り着き、席についた。「少し悪い知らせがあってね」という、不穏な前置きをされる。
「はあ……なんですか」
長年この学園にいるが、こんなことは初めてだ。
「落ち着いて聞いてほしい。君にとっては信じられないことかもしれないがね。立華くんがこの間の定期テストで、不適切な解答用紙を提出したんだ」
「不適切って……どういうことですか?」
「これを見てくれ」
教師はファイルから、テストの答案用紙を見せてきた。
名前には「立華 かなで」の文字があり、解答欄には将来なりたいものが書き連ねられている。別の解答欄には英語をカタカナで記入されていたり、歴史は宇宙人に支配されていたりと滅茶苦茶だ。珍回答、なんてレベルじゃない。これではまるで、この学園の教師をバカにするかのような、そんな内容である。
驚いたし、動揺もした。だけど、あのかなでがこんなことをするわけがない。そもそも動機がない。
努めて、冷静になり文字を観察する。見慣れたかなでの文字。だが、極めて似ているだけで少し違うような気がした。かなり器用な奴が真似したような、そんな印象である。
脳裏には「あいつら」の顔がよぎる。
「それで。話っていうのは」
俺が恐る恐る、男性職員に聞く。
「職員会議で決まったことでね。立華 かなでを、生徒会長から解任することになった」
煮えたぎる衝動を抑えきれず、俺は戦線の本部へと乗り込んだ。扉を蹴り壊し、大声を上げる。
「こらああああああああ、てめえら! よくもかなでを――」
刹那。
とんでもない横殴りの衝撃によって、俺は意識を失った。
「ちくしょうが! 姑息な手を使いやがって、てめえらあああ!」
厳重に椅子へ縛り付けられた俺は、本部のど真ん中で座らされ、捕虜となった。
「お前も意外とアホだよな。まんまと野田のトラップに引っ掛かりやがって」
日向が呆れた視線を向けて来る。野田はふん、と誇らしげに胸を張った。
「貴様にはお似合いの格好だ、桜木」
「てめえ……! 高慢女の犬がよ」
「こうまん……? よくわからんが、それはゆりっぺに対する侮辱か? 撤回してもらおうか、天使の犬が」
野田がハルバートの切っ先を向けて来る。俺は縛られているため、無抵抗だ。睨み返すことしかできない。
「はいはい。執拗に煽ってあげないの、野田くんはハルバートを下げて」
「……ふん。命拾いしたな、貴様」
ゆりの命令により、野田がハルバートを下げる。ゆりは上座に座りながら、俺へ視線を向けた。
「で。なにか用かしら」
「かなでに陰湿な攻撃しやがって。なんのつもりだ」
「なんのこと?」
「とぼけるな。答案用紙の細工をしたのは、お前らだ。他に誰がいる」
「すごい言いがかりね」
憎たらしいくらいに、ゆりは白々しい態度を貫く。俺は鼻で笑ってやった。
「そんなことだから陰湿なイジメだって、第五話で人気が下がってかなでに負けるんだよ、ヒロイン降格女」
「あーん? なんかよくわからないけど、すごくムカついたわね」
バチバチ、と火花を散らす俺とゆり。
大山がおどおどした様子で、声を上げる。
「えっと……ゆりっぺ。結局、桜木くんをどうするの?」
野田がハルバートを再び向けて来る。
「ふん。今、この場で首をとってやろうか!」
「やめなさい。あと、どうせ死なないわよ」
ゆりが再びたしなめると、野田がハルバート下げる。椎名が「浅はかなり」と呟いた。
「……あー。質問、いいか。桜木っていうのは、人間だけど生徒会のメンバーをやっている、ってことでいいんだよな?」
挙手をした新人隊員――音無がそんな質問をした。それに日向が答える。
「ああ、そうだぜ。そして恐ろしいことに、あの天使と恋人関係だ」
「マジかよ……大丈夫なのか、それ」
音無が胸の辺りを抑える。こいつは一度、かなでに刺されたことがある。
「交渉したいことがあるの。みんな、席を外してくれるかしら」
ゆりがそう言うと、松下五段が怪訝そうな声を上げた。
「この男と二人になるのか? 危険ではないのか……」
「ゆりっぺ! 俺はここに残って、そ、その、守ってやるぞ!」
野田が微妙にどもりながら言う。が、ゆりは首を横に振った。
「縛りつけられているんだから、どうも出来ないわよ。ただ、ちょっと二人で話したいことがあるの。任せてくれないかしら」
ゆりが言うと、隊員達が黙り込む。クラスSSSはリーダー、仲村 ゆりを信頼している。彼女が任せてくれないか、といえば必然的に従う空気が流れた。
「ま、ゆりっぺがそう言うならいーけどよ」
藤巻が言うと高松がクールに眼鏡を上げ「ゆりっぺさんなりの狙いがあるのでしょう。私達は解散としましょうか」と続けた。日向は肩をすくめ、音無の背中を軽く叩いた。
「だな。行こうぜ、音無」
「ああ。気をつけろよ、ゆり」
音無に言われ、ゆりは「ええ。ありがとう」と手を上げた。
騒がしい戦線本部が、静寂に包まれる。
「なんのつもりだ」
俺が睨むと、ゆりはため息をついた。
「その常にケンカ腰なの、やめてくれるかしら」
「神にケンカ腰なお前が言うか」
「……それもそうね」
ゆりは立ち上がり、窓の外を見た。
「ねえ、桜木 春斗。あなた、天使と付き合っていて、こう思ったことはないかしら」
「???」
「天使は――人間なんじゃないかって」
俺は眉間に皺を寄せた。
「そんなわけあるかよ。異能を使うし、身体能力も説明がつかないほど強力だ。普通の人間なわけがない」
「例えば。その力に、カラクリがあるのだとしたら?」
「……なに?」
「彼女の部屋には、ANGEL PLAYERと呼ばれるコンピューターソフトがあった。つまり、あの子の力の正体は、プログラム。世界のルールにのっとった人為的に作られたものよ」
「なっ」
俺は思わず、息を飲んだ。
長年ずっと一緒にいたが――そんなこと、初耳だ。
「そんなバカな!」
「あたしはね、確かめたいのよ。天使が天使なのか、それとも人間なのかを」
「……」
「ねえ。あなたのためにも、どちらかはっきりさせた方が、いいんじゃないの? あの子が人間なのか、天使なのか」
もし。もしも、あいつが天使じゃなくて、人間なのだとしたら。
それは――。
「そ、そうか。俺はちゃんと人間の女の子と、恋をしていたんだな。ははは、ふふふ、あ、やべ、ニヤニヤが止まらない」
「まだ決まってないし、目の前でのろけるな」
ゆりが睨みつけて来る。俺は鼻で笑ってやった。
「お前はモテなさそうだよな」
「んだと、コラあ⁉」
唾を飛ばして来る。顔が近いっての。
ゆりは大きなため息をつき、背中を向けた。
「今夜、トルネードを行う。そこで確かめたいことがある。あなたには、その時まで天使と接触しないでほしいの」
「なぜ」
というか、今日それまで会ってないことを、なんでこいつは知っている……。相変わらず、気味の悪い女だ。
「それが、交渉。そしてトルネードの決行時に、彼女と会ってほしいのよ」
「……」
俺は返事の代わりに、ゆりをまっすぐに見据えた。彼女は振り返る。美しい相貌は、同じように真っ直ぐこちらを見据える。
「わかった。その代わり、これは貸し一つだ。かなでを傷つけた代償は、いつか払ってもらう」
「ええ。それでいいわよ」
そうして、俺とゆりの間で交渉が成立した。
そして時刻は18:30。夜の帳が降り、学園は外灯と月明かり照らされる。戦線メンバーがNPCを誘導し、食堂に集まったガルデモメンバーをガードマンが守る。ミーハーな野次馬が大食堂へあれよあれよと集まっていく。
やがてライブが始まり、新曲――Thousand Enemiesが流れる。ニューボーカル、ユイを迎えた新生ガルデモがスタートした瞬間であった。美しくも激しい音楽が、外にまで響き渡る。
そんな大食堂へと続く連絡橋の上。
そこでかなでの姿を見つけた。その後ろ姿はどこか心元ない。足が重く、どこかしょんぼりとした様子であった。俺は急いで走り、駆け寄る。
「かなで」
「……」
かなでは振り返らない。聞こえていないのだろうか。俺は大きな声を上げ、その細くて小さい肩を叩く。
「かなで!」
「あら、春斗……」
いつになく小さい声で、ぼんやりと返事をされる。心なしか表情に元気がなく、目が泳いでいた。
「聞いたぞ、テストの件」
「あたしはあんなこと、していないわ……」
「わかっているよ」
「とっても怒られたわ。違うって言ったら、嘘をつくなって。バカにするなって」
「……」
「先生も、生徒のみんなも、誰も信じてくれなかった……」
「ああ。生徒会長も解任だそうだ」
「あたしは、一人きりだわ」
かなではそう言って、俺の胸元へ顔をうずくめた。華奢な体を震わせ、涙を流す。ずっとこの学園を守ってきた。たくさんの魂を見送って来た。よかったね、と手を振って来た。そうして、数多の魂を導いて来た。
その結果が……これか。
「一人にさせない」
「春斗……」
「俺はかなでの味方だ」
「うん。ありがとう……」
かなでを落ち着かせるため、美しい銀色の髪を撫でる。華奢で柔らかな体をぎゅっと抱きしめた。
そうして、長い、長い時間が流れた。
スコープ越しにその光景を見ていた日向が、頬を引きつらせた。
「……撃てるかよ、あんなの。ラブラブしやがって、くそ」
銃を降ろす。すると、音無が顎に手を当て、怪訝そうな表情を浮かべていたのが気になった。
「どうした?」
「いや。天使というのは、あんなにも人へ心を開くのだろうか……」
「まあ、桜木はそれくらいの色男だってことだろ」
「……」
音無はなおも、考え込むように黙った。
大食堂の窓から、双眼鏡でその光景を見ていたゆりは、ため息を漏らす。その表情は暗く、ステージから聞こえる明るい音楽には似合わないくらい、影が差し込んでいた。
「……滑稽な話ね。天使は、人だ。恋人に慰めてもらう天使がどこにいるのよ? あの反応は、恋する女の子そのもの。心を持つ人間よ」
ぎり、と歯ぎしりをする。
「これが事の顛末。神への糸口も、まだ掴めていなかったなんて……」
落ち着かない面持ちで、もう一度双眼鏡を除き二人を観察した。月明かりの下。キスを交わす二人が映り、ゆりが別の意味で舌打ちをする。
「……イチャイチャ、イチャイチャ。よくもまあ、飽きないわね、このクソが」
トルネードは成功し、大食堂から食券から雪のように舞い降りた。戦線メンバーは校外時間で夕食をとる。本当は校則上良くないが、俺もその輪に混じるため、親子丼定食をもって連中に近づいた。戦線メンバーの一角。テーブルには音無、日向、ゆりがいた。
「よう」
「うおっ⁉ 桜木!」
日向が声を上げると、戦線メンバーが一斉に身構えた。
「てめえ、なんのつもりだ!」
「天使の手先が。単身で攻撃か!」
「今すぐここで蜂の巣にしてやる!」
楽しい夕餉が一転、穏やかなでない雰囲気に包まれる。一触即発の中、ゆりが「やめなさい。彼、ごはんを食べに来ただけよ」と言ってたしなめる。それでも納得のいかなそうなメンバーもいたが、ゆりが一瞥すると大人しく座った。
「教育の届いた犬どもだな、お姫様」
俺が皮肉を言いながら、ゆりの隣に座る。日向が半笑いを浮かべた。
「すげーこと言うな、お前」
「事実だろ。ゆりのご命令がないと動けないのかよ、お前らは」
「なにカリカリしてんだよ。そりゃ、俺達は敵同士だけどよ……」
不穏な会話を交わしていると、突如として音無が悲鳴を上げた。
「いてえええええええええ⁉ 一口で激辛!!!」
激辛麻婆豆腐を口にした音無が、悶絶する。日向が「だから、それやめとけって言ったのにな……」と呟いた。
が、音無はここで「いや、待て」と目を丸くした。
「でも、これ美味いぞ。なあ、日向。食ってみろよ」
「ええっ⁉ 嘘つけよ、お前……」
「本当だって。ほら」
「……じゃあ、一口だけだぞ」
日向が激辛麻婆豆腐をぱくり、と口にする。
「ぎゃああああああ⁉ 痛い、辛い、痛い、辛い! ……あれ? でも、この後から来る風味。なるほど、こいつは味わい深いかもしれないな」
「だろ? こんな美味い麻婆豆腐、食ったことないだろ?」
「ああ。案外、当たりメニューなのかもな。知る人ぞ知る、みたいな感じかもしれねーぜ」
「NPCはミーハーな奴らばかりだと思っていたが、案外、通なところもあるんだな」
盛り上がる二人へ水を差すように、ゆりがぴしゃりと言い放つ。
「音無くん。それ、NPCの食券じゃないわよ」
「え? そうなのか?」
「天使の食券よ」
「これが?」
「そう。それが」
「……これ、食いたかったのか。なあ、桜木。もしかして激辛麻婆豆腐って、天使の好物なのか?」
音無の問いかけに、俺は頷いた。
「ああ、そうだ」
「そっか。好きな物を食べるなんて、そんなささやかな幸せまで奪っちまった、俺……」
音無が深刻そうに言うと、日向が心配そうな表情を浮かべた。
「そう大袈裟にとらえるなよ、音無」
「いや。音無の言う通りだ」
「桜木……?」
「お前らはささやかな幸せを奪ったし、かなでを大きく傷つけた。どうせ見ていたんだろ。あんなにも落ち込んでいるあいつを見て、お前らはなにも思わなかったのか?」
俺の言葉に、三人は押し黙った。気まずい空気が流れる。まあ、咎めたところで、仕方ないんだけどな。それに優しいかなでのことだ。どうせ、こいつらのことは許すのだろう。
「……で、アンタの言いたいことは、それだけ?」
「そうだ。咎めに来たんだ」
「その大好きな天使ちゃんを、あなたが慰めてあげればいいじゃない。あたし達はあたし達の道を行く。悪いけれど、それだけよ」
「別の意味で落ち込んで、迷い始めているくせに、よく言うな」
「っ、うっさい! 余計なことを言うな!」
瞬間。ガタン、ゴトン! と乱雑に扉が開けられ、複数の慌ただしい足音が響き渡った。武装した、物々しい雰囲気の生徒会が戦線メンバーを囲む。
「そこまでだ、貴様ら!」
NPCの一人が、仰々しく言い放つ……あいつは。
「生徒会長代理、直井 文人だ。色々と容疑はあるが。とりあえず、時間外活動の校則違反により連行する」
即座に反応したメンバーが銃を構えるが、ゆりがその銃先を瞬時に抑えて「一般生徒よ。下げなさい」と窘めた。それでも納得のいかないメンバーが「でも……!」と不満そうに声を上げるも、ゆりは首を横に振る。戦線ポリシーは崩さない、徹底した姿勢。その気概に押され、メンバーは今度こそ銃を下げた。
「おやおや。桜木 春斗さんじゃないですか」
直井が見下すような声音を出しながら、俺へ近づく。
「生徒会にも出ず、教師の言うことも聞かず飛び出したかと思いきや。彼女達と慣れあっていましたか」
「かなでを信じない学園に従うつもりはない」
「それが生徒会を辞める理由ですか?」
「ああ」
「愚かな愚民だ……まあ、いい」
ゆりが驚いたようにこちらを見やった。ま、これで俺も生徒会から除名か。でも、どうせかなでも除名されているんだ。所属する理由なんてない。俺は元々、かなでに誘われて生徒会へ入ったのだから。
「僕は立華さんほど優しくはない。全員、連れていけ」
俺も抵抗する気はない。大人しく全員連行されたかと思いきや――日向が、とある異変に気がついた。
「なあ、えっと……直井、さん? 背後のその黒い影は、なんだ?」
「黒い影……? なにをわけのわからないことを言っている、貴様」
その刹那であった。
黒い大きな影が、直井文人に覆いかぶさった。まるで重い物の下敷きになったかのように、直井が床へ叩きつけられる。「ぐわあああああ⁉」悲痛な叫びが、大食堂に響き渡る。
「なん、だ、これは……⁉ なにかが、なにかが、僕の中に入って来る……!」
不快そうに、苦しそうに叫ぶ。生徒会も、戦線メンバーも混乱した。日向が銃を構えるが、突然すぎる事態にどうしたらいいか、わからずにいた。
「なんだよ、これ⁉ 撃っていいのか、ダメなのか?」
が、ここでは音無が瞬時に拳銃を「影」へ向けて発砲した。影に銃弾の穴が空く。
「迷っている場合かよ! 助けるしかねえだろ⁉」
音無の声へ続き、戦線メンバーが影へ向けて発砲。直井に覆いかぶさった影は消えていった。
「っ」
直井の元へ、音無が駆け寄る。
「無事か⁉」
「……何故、僕を」
音無が返事をしようとした瞬間、ゆりが大声を上げた。
「音無くん、上!」
「っ⁉」
音無が直井を引っ張ってその場を回避。上から降って来た、先ほどよりも大きな「影」が着地した。
「なんなんだよ、これは⁉」
藤巻が悲鳴に近い声を上げる。
さらに。事態は混迷を極めた。
「ぐはあ⁉」
野田が悲痛な叫び声を上げる。胸をハンドソニックによって貫かれていた。血を吐き、振り返ると――そこには、異能の刃を腕から生やしたNPCが不敵な笑みを浮かべている。
「野田⁉ なにがどうなっているというのだ……⁉ あれは、天使の力ではないか!」
松下五段が目を見張る。大山が動揺して、ゆりへ助けを求めた。
「ねえ、どうしたらいいの、ゆりっぺ⁉ 野田くんはまた真っ先にやられるし! あれはNPCなの? 天使なの?」
「っ、それは……」
さすがのゆりも、あまりに混迷具合に、頭の回転が追い付かずにいた。
俺にはポリシーなんてない。戦線の銃を拝借し、刃を生やしたNPCを撃ち抜いた。NPCは影と同じように、塵となって消えていった。
「NPCじゃねえだろ、あれは。天使。悪魔。イレギュラー。好きに呼べ、とりあえず戦わなきゃやられるぞ!」
俺の言葉が終わる瞬間、直井を除く取り囲んでいたNPC達が一斉にハンドソニックを取り出す。その背後には、影も複数いる。
「みんな、出来るだけ集まって! なにが起きているのかは、生き残ってから考えて!」
ゆりが指揮をとり、影と天使の力を使うNPCと戦い始めた。俺も銃を使い、応戦する。突如として、大食堂は血みどろな戦場と変わり果てたのであった。
「くっ……しまった⁉」
影から伸びた腕に捉えられたゆりは、引っ張られて集団から引き離された。俺は舌打ちをして、そちらの方を追いかける。腕を撃ち抜き、ゆりを開放するが、壁に叩きつけられた彼女は脳震盪を起こし、その場で倒れ込んだ。
「こんな時に……!」
ゆりは立ち上がろうとするが、上手くいかない。そこへハンドソニックを生やしたNPCが、無慈悲に近づいていく。終わりを覚悟したゆりが目をぎゅっとつむるが――その刃は、届かない。俺がゆりを覆うように庇い、代わりに右肩を貫かれたからだ。焼けるような激痛が走る。
「アンタ、どうして⁉」
NPCが刃を引き抜き、再びハンドソニックを振り下ろそうとする。
しかしその瞬間、聞きなれた声が颯爽と現れた。
「――ガードスキル・ハンドソニック」
駆けつけたかなでが、NPCの刃を弾いた。
「かなで!」
俺が声を上げる。まさに九死に一生を得る、だ。
「すごい音がし――」
かなでが振り返るも、何故かぴたりとそこで固まる。そしてその柳眉を悲し気に曲げたのであった。俺は首を傾げるも、すぐに事態を理解した。俺は倒れたゆりを、庇うように覆いかぶさっているのだ。慌ててゆりから離れる。
「誤解だ! そんな悲しそうな顔をするな!」
「やっぱり、仲が良いのね……」
「違う!」
「今日は厄日だわ……」
「だから悲しむな! そしてなにもかもが誤解だあああああ!」
かなでは俺の胸元へぎゅっと抱きついてきた。
「抱きしめるのは、あたしだけにしてほしいわ」
「かなで……」
「春斗……」
見つめ合う。ゆりがジト目を向けてきた。
「お熱いところ申し訳ないけど。後ろ、すごいことになっているわよ」
「あら大変」
かなでが瞬時に離れ、ハンドソニックで一掃する。ものすごいパワーだ。
大食堂では、あちこちから悲鳴が上がっている。「うわあああ⁉」「くそ、まだいんのかよ!」「ちくしょう!」「誰か、誰か助けて!」「そっちのフォロー回ってくれ!」
ゆりが怪我の痛みを抑え、駆けつける。俺はかなでを後ろから抱きしめた。
「春斗???」
「かなで。あいつらは、お前を苦しめた奴らだ。だけど……頼む。助けてやってくれ。かなでの力が、必要なんだ」
……癪だけど。本当に、癪だけど。
あいつらは、本当は悪い奴らじゃないのだ。だから……力のあるかなでに、無責任にも頼んだ。助けてほしいと。救ってほしいと。
残酷な願いなのは。勝手な頼みだというのは、わかっている。それでも俺は、頼らざるをえなかった。
心優しいかなでは、俺の腕をぎゅっと抱きしめ、こくりと頷いた。
「ええ。もちろんよ。みんなを、助けないと」
かなではそう決心して、腕から離れる。戦場を見据え、彼女は新たな力を発動する。
「――ガードスキル。ハーモニクス」
かなでの体から、複数の赤い目をしたかなでが現れる。分身天使はハンドソニックを手に、戦場を駆け巡る。本体のかなでが、こちらを振り返った。
「春斗」
「なんだ?」
「あたしを愛してくれて。味方でいてくれて、ありがとう。みんなのために、そしてあなたのために……あたしは、戦うわ」
「ああ。頼んだ」
こくり、とかなでは頷き、影とNPCの元へと駆けて行く。
その姿はどこまでも美しく、力強かった。
「――役者は揃った、というところですか。桜木 春斗……いえ、カウンター」
「っ⁉」
戦場へ戻ろうとした瞬間、そんな声に引き留められた。
振り返る。そこには美しい少年がいた。NPCの制服。だけど、どこか違う雰囲気。浮世離れしたような、機械じみているような――ひどく、不気味な雰囲気である。
「誰だ、お前」
「僕ですか? そうですね……彼の意志、でしょうか」
「なに?」
「長い、長い月日が経ちました。そして時が来ました。「彼」が目覚めたのですよ」
「なにを言っている……?」
「僕達は、この世界を書き換える。邪魔はさせませんよ、カウンター」
謎の少年は、不敵な笑みを浮かべ。瞬きした瞬間には、跡形もなく消えていった。