※この作品はR-18です。

Angel Beats! ゆりルート   作:音有五角

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 裏ルート的な感じで、かなでルートも一つのストーリーとして完結させます。

 ややシリアス寄り。桜木がかなでルートだったらこんな感じになる、というIFストーリーになります。

 ストーリーが繋がっているため、ゆりルート、音無ルート、ハーレム編の既読推薦です。


かなでルート FINAL 上

「桜木くん。ちょっと来なさい」

「? はい」

 放課後。NPCの男性教師に呼び出され、廊下を歩く。そして生徒会室に辿り着き、席についた。「少し悪い知らせがあってね」という、不穏な前置きをされる。

「はあ……なんですか」

 長年この学園にいるが、こんなことは初めてだ。

「落ち着いて聞いてほしい。君にとっては信じられないことかもしれないがね。立華くんがこの間の定期テストで、不適切な解答用紙を提出したんだ」

「不適切って……どういうことですか?」

「これを見てくれ」

 教師はファイルから、テストの答案用紙を見せてきた。

 名前には「立華 かなで」の文字があり、解答欄には将来なりたいものが書き連ねられている。別の解答欄には英語をカタカナで記入されていたり、歴史は宇宙人に支配されていたりと滅茶苦茶だ。珍回答、なんてレベルじゃない。これではまるで、この学園の教師をバカにするかのような、そんな内容である。

 驚いたし、動揺もした。だけど、あのかなでがこんなことをするわけがない。そもそも動機がない。

 努めて、冷静になり文字を観察する。見慣れたかなでの文字。だが、極めて似ているだけで少し違うような気がした。かなり器用な奴が真似したような、そんな印象である。

 脳裏には「あいつら」の顔がよぎる。

「それで。話っていうのは」

 俺が恐る恐る、男性職員に聞く。

「職員会議で決まったことでね。立華 かなでを、生徒会長から解任することになった」

 

 

 煮えたぎる衝動を抑えきれず、俺は戦線の本部へと乗り込んだ。扉を蹴り壊し、大声を上げる。

「こらああああああああ、てめえら! よくもかなでを――」

 刹那。

 とんでもない横殴りの衝撃によって、俺は意識を失った。

 

 

「ちくしょうが! 姑息な手を使いやがって、てめえらあああ!」

 厳重に椅子へ縛り付けられた俺は、本部のど真ん中で座らされ、捕虜となった。

「お前も意外とアホだよな。まんまと野田のトラップに引っ掛かりやがって」

 日向が呆れた視線を向けて来る。野田はふん、と誇らしげに胸を張った。

「貴様にはお似合いの格好だ、桜木」

「てめえ……! 高慢女の犬がよ」

「こうまん……? よくわからんが、それはゆりっぺに対する侮辱か? 撤回してもらおうか、天使の犬が」

 野田がハルバートの切っ先を向けて来る。俺は縛られているため、無抵抗だ。睨み返すことしかできない。

「はいはい。執拗に煽ってあげないの、野田くんはハルバートを下げて」

「……ふん。命拾いしたな、貴様」

 ゆりの命令により、野田がハルバートを下げる。ゆりは上座に座りながら、俺へ視線を向けた。

「で。なにか用かしら」

「かなでに陰湿な攻撃しやがって。なんのつもりだ」

「なんのこと?」

「とぼけるな。答案用紙の細工をしたのは、お前らだ。他に誰がいる」

「すごい言いがかりね」

 憎たらしいくらいに、ゆりは白々しい態度を貫く。俺は鼻で笑ってやった。

「そんなことだから陰湿なイジメだって、第五話で人気が下がってかなでに負けるんだよ、ヒロイン降格女」

「あーん? なんかよくわからないけど、すごくムカついたわね」

 バチバチ、と火花を散らす俺とゆり。

 大山がおどおどした様子で、声を上げる。

「えっと……ゆりっぺ。結局、桜木くんをどうするの?」

 野田がハルバートを再び向けて来る。

「ふん。今、この場で首をとってやろうか!」

「やめなさい。あと、どうせ死なないわよ」

 ゆりが再びたしなめると、野田がハルバート下げる。椎名が「浅はかなり」と呟いた。

「……あー。質問、いいか。桜木っていうのは、人間だけど生徒会のメンバーをやっている、ってことでいいんだよな?」

 挙手をした新人隊員――音無がそんな質問をした。それに日向が答える。

「ああ、そうだぜ。そして恐ろしいことに、あの天使と恋人関係だ」

「マジかよ……大丈夫なのか、それ」

 音無が胸の辺りを抑える。こいつは一度、かなでに刺されたことがある。

「交渉したいことがあるの。みんな、席を外してくれるかしら」

 ゆりがそう言うと、松下五段が怪訝そうな声を上げた。

「この男と二人になるのか? 危険ではないのか……」

「ゆりっぺ! 俺はここに残って、そ、その、守ってやるぞ!」

 野田が微妙にどもりながら言う。が、ゆりは首を横に振った。

「縛りつけられているんだから、どうも出来ないわよ。ただ、ちょっと二人で話したいことがあるの。任せてくれないかしら」

 ゆりが言うと、隊員達が黙り込む。クラスSSSはリーダー、仲村 ゆりを信頼している。彼女が任せてくれないか、といえば必然的に従う空気が流れた。

「ま、ゆりっぺがそう言うならいーけどよ」

 藤巻が言うと高松がクールに眼鏡を上げ「ゆりっぺさんなりの狙いがあるのでしょう。私達は解散としましょうか」と続けた。日向は肩をすくめ、音無の背中を軽く叩いた。

「だな。行こうぜ、音無」

「ああ。気をつけろよ、ゆり」

 音無に言われ、ゆりは「ええ。ありがとう」と手を上げた。

 

 

 騒がしい戦線本部が、静寂に包まれる。

「なんのつもりだ」

 俺が睨むと、ゆりはため息をついた。

「その常にケンカ腰なの、やめてくれるかしら」

「神にケンカ腰なお前が言うか」

「……それもそうね」

 ゆりは立ち上がり、窓の外を見た。

「ねえ、桜木 春斗。あなた、天使と付き合っていて、こう思ったことはないかしら」

「???」

「天使は――人間なんじゃないかって」

 俺は眉間に皺を寄せた。

「そんなわけあるかよ。異能を使うし、身体能力も説明がつかないほど強力だ。普通の人間なわけがない」

「例えば。その力に、カラクリがあるのだとしたら?」

「……なに?」

「彼女の部屋には、ANGEL PLAYERと呼ばれるコンピューターソフトがあった。つまり、あの子の力の正体は、プログラム。世界のルールにのっとった人為的に作られたものよ」

「なっ」

 俺は思わず、息を飲んだ。

 長年ずっと一緒にいたが――そんなこと、初耳だ。

「そんなバカな!」

「あたしはね、確かめたいのよ。天使が天使なのか、それとも人間なのかを」

「……」

「ねえ。あなたのためにも、どちらかはっきりさせた方が、いいんじゃないの? あの子が人間なのか、天使なのか」

 もし。もしも、あいつが天使じゃなくて、人間なのだとしたら。

 それは――。

「そ、そうか。俺はちゃんと人間の女の子と、恋をしていたんだな。ははは、ふふふ、あ、やべ、ニヤニヤが止まらない」

「まだ決まってないし、目の前でのろけるな」

 ゆりが睨みつけて来る。俺は鼻で笑ってやった。

「お前はモテなさそうだよな」

「んだと、コラあ⁉」

 唾を飛ばして来る。顔が近いっての。

 ゆりは大きなため息をつき、背中を向けた。

「今夜、トルネードを行う。そこで確かめたいことがある。あなたには、その時まで天使と接触しないでほしいの」

「なぜ」

 というか、今日それまで会ってないことを、なんでこいつは知っている……。相変わらず、気味の悪い女だ。

「それが、交渉。そしてトルネードの決行時に、彼女と会ってほしいのよ」

「……」

 俺は返事の代わりに、ゆりをまっすぐに見据えた。彼女は振り返る。美しい相貌は、同じように真っ直ぐこちらを見据える。

「わかった。その代わり、これは貸し一つだ。かなでを傷つけた代償は、いつか払ってもらう」

「ええ。それでいいわよ」

 そうして、俺とゆりの間で交渉が成立した。

 

 

 そして時刻は18:30。夜の帳が降り、学園は外灯と月明かり照らされる。戦線メンバーがNPCを誘導し、食堂に集まったガルデモメンバーをガードマンが守る。ミーハーな野次馬が大食堂へあれよあれよと集まっていく。

 やがてライブが始まり、新曲――Thousand Enemiesが流れる。ニューボーカル、ユイを迎えた新生ガルデモがスタートした瞬間であった。美しくも激しい音楽が、外にまで響き渡る。

 そんな大食堂へと続く連絡橋の上。

 そこでかなでの姿を見つけた。その後ろ姿はどこか心元ない。足が重く、どこかしょんぼりとした様子であった。俺は急いで走り、駆け寄る。

「かなで」

「……」

 かなでは振り返らない。聞こえていないのだろうか。俺は大きな声を上げ、その細くて小さい肩を叩く。

「かなで!」

「あら、春斗……」

 いつになく小さい声で、ぼんやりと返事をされる。心なしか表情に元気がなく、目が泳いでいた。

「聞いたぞ、テストの件」

「あたしはあんなこと、していないわ……」

「わかっているよ」

「とっても怒られたわ。違うって言ったら、嘘をつくなって。バカにするなって」

「……」

「先生も、生徒のみんなも、誰も信じてくれなかった……」

「ああ。生徒会長も解任だそうだ」

「あたしは、一人きりだわ」

 かなではそう言って、俺の胸元へ顔をうずくめた。華奢な体を震わせ、涙を流す。ずっとこの学園を守ってきた。たくさんの魂を見送って来た。よかったね、と手を振って来た。そうして、数多の魂を導いて来た。

 その結果が……これか。

「一人にさせない」

「春斗……」

「俺はかなでの味方だ」

「うん。ありがとう……」

 かなでを落ち着かせるため、美しい銀色の髪を撫でる。華奢で柔らかな体をぎゅっと抱きしめた。

 そうして、長い、長い時間が流れた。

 

 

 スコープ越しにその光景を見ていた日向が、頬を引きつらせた。

「……撃てるかよ、あんなの。ラブラブしやがって、くそ」

 銃を降ろす。すると、音無が顎に手を当て、怪訝そうな表情を浮かべていたのが気になった。

「どうした?」

「いや。天使というのは、あんなにも人へ心を開くのだろうか……」

「まあ、桜木はそれくらいの色男だってことだろ」

「……」

 音無はなおも、考え込むように黙った。

 

 

 大食堂の窓から、双眼鏡でその光景を見ていたゆりは、ため息を漏らす。その表情は暗く、ステージから聞こえる明るい音楽には似合わないくらい、影が差し込んでいた。

「……滑稽な話ね。天使は、人だ。恋人に慰めてもらう天使がどこにいるのよ? あの反応は、恋する女の子そのもの。心を持つ人間よ」

 ぎり、と歯ぎしりをする。

「これが事の顛末。神への糸口も、まだ掴めていなかったなんて……」

 落ち着かない面持ちで、もう一度双眼鏡を除き二人を観察した。月明かりの下。キスを交わす二人が映り、ゆりが別の意味で舌打ちをする。

「……イチャイチャ、イチャイチャ。よくもまあ、飽きないわね、このクソが」

 

 

 トルネードは成功し、大食堂から食券から雪のように舞い降りた。戦線メンバーは校外時間で夕食をとる。本当は校則上良くないが、俺もその輪に混じるため、親子丼定食をもって連中に近づいた。戦線メンバーの一角。テーブルには音無、日向、ゆりがいた。

「よう」

「うおっ⁉ 桜木!」

 日向が声を上げると、戦線メンバーが一斉に身構えた。

「てめえ、なんのつもりだ!」

「天使の手先が。単身で攻撃か!」

「今すぐここで蜂の巣にしてやる!」

 楽しい夕餉が一転、穏やかなでない雰囲気に包まれる。一触即発の中、ゆりが「やめなさい。彼、ごはんを食べに来ただけよ」と言ってたしなめる。それでも納得のいかなそうなメンバーもいたが、ゆりが一瞥すると大人しく座った。

「教育の届いた犬どもだな、お姫様」

 俺が皮肉を言いながら、ゆりの隣に座る。日向が半笑いを浮かべた。

「すげーこと言うな、お前」

「事実だろ。ゆりのご命令がないと動けないのかよ、お前らは」

「なにカリカリしてんだよ。そりゃ、俺達は敵同士だけどよ……」

 不穏な会話を交わしていると、突如として音無が悲鳴を上げた。

「いてえええええええええ⁉ 一口で激辛!!!」

 激辛麻婆豆腐を口にした音無が、悶絶する。日向が「だから、それやめとけって言ったのにな……」と呟いた。

 が、音無はここで「いや、待て」と目を丸くした。

「でも、これ美味いぞ。なあ、日向。食ってみろよ」

「ええっ⁉ 嘘つけよ、お前……」

「本当だって。ほら」

「……じゃあ、一口だけだぞ」

 日向が激辛麻婆豆腐をぱくり、と口にする。

「ぎゃああああああ⁉ 痛い、辛い、痛い、辛い! ……あれ? でも、この後から来る風味。なるほど、こいつは味わい深いかもしれないな」

「だろ? こんな美味い麻婆豆腐、食ったことないだろ?」

「ああ。案外、当たりメニューなのかもな。知る人ぞ知る、みたいな感じかもしれねーぜ」

「NPCはミーハーな奴らばかりだと思っていたが、案外、通なところもあるんだな」

 盛り上がる二人へ水を差すように、ゆりがぴしゃりと言い放つ。

「音無くん。それ、NPCの食券じゃないわよ」

「え? そうなのか?」

「天使の食券よ」

「これが?」

「そう。それが」

「……これ、食いたかったのか。なあ、桜木。もしかして激辛麻婆豆腐って、天使の好物なのか?」

 音無の問いかけに、俺は頷いた。

「ああ、そうだ」

「そっか。好きな物を食べるなんて、そんなささやかな幸せまで奪っちまった、俺……」

 音無が深刻そうに言うと、日向が心配そうな表情を浮かべた。

「そう大袈裟にとらえるなよ、音無」

「いや。音無の言う通りだ」

「桜木……?」

「お前らはささやかな幸せを奪ったし、かなでを大きく傷つけた。どうせ見ていたんだろ。あんなにも落ち込んでいるあいつを見て、お前らはなにも思わなかったのか?」

 俺の言葉に、三人は押し黙った。気まずい空気が流れる。まあ、咎めたところで、仕方ないんだけどな。それに優しいかなでのことだ。どうせ、こいつらのことは許すのだろう。

「……で、アンタの言いたいことは、それだけ?」

「そうだ。咎めに来たんだ」

「その大好きな天使ちゃんを、あなたが慰めてあげればいいじゃない。あたし達はあたし達の道を行く。悪いけれど、それだけよ」

「別の意味で落ち込んで、迷い始めているくせに、よく言うな」

「っ、うっさい! 余計なことを言うな!」

 瞬間。ガタン、ゴトン! と乱雑に扉が開けられ、複数の慌ただしい足音が響き渡った。武装した、物々しい雰囲気の生徒会が戦線メンバーを囲む。

「そこまでだ、貴様ら!」

 NPCの一人が、仰々しく言い放つ……あいつは。

「生徒会長代理、直井 文人だ。色々と容疑はあるが。とりあえず、時間外活動の校則違反により連行する」

 即座に反応したメンバーが銃を構えるが、ゆりがその銃先を瞬時に抑えて「一般生徒よ。下げなさい」と窘めた。それでも納得のいかないメンバーが「でも……!」と不満そうに声を上げるも、ゆりは首を横に振る。戦線ポリシーは崩さない、徹底した姿勢。その気概に押され、メンバーは今度こそ銃を下げた。

「おやおや。桜木 春斗さんじゃないですか」

 直井が見下すような声音を出しながら、俺へ近づく。

「生徒会にも出ず、教師の言うことも聞かず飛び出したかと思いきや。彼女達と慣れあっていましたか」

「かなでを信じない学園に従うつもりはない」

「それが生徒会を辞める理由ですか?」

「ああ」

「愚かな愚民だ……まあ、いい」

 ゆりが驚いたようにこちらを見やった。ま、これで俺も生徒会から除名か。でも、どうせかなでも除名されているんだ。所属する理由なんてない。俺は元々、かなでに誘われて生徒会へ入ったのだから。

「僕は立華さんほど優しくはない。全員、連れていけ」

 俺も抵抗する気はない。大人しく全員連行されたかと思いきや――日向が、とある異変に気がついた。

「なあ、えっと……直井、さん? 背後のその黒い影は、なんだ?」

「黒い影……? なにをわけのわからないことを言っている、貴様」

 その刹那であった。

 黒い大きな影が、直井文人に覆いかぶさった。まるで重い物の下敷きになったかのように、直井が床へ叩きつけられる。「ぐわあああああ⁉」悲痛な叫びが、大食堂に響き渡る。

「なん、だ、これは……⁉ なにかが、なにかが、僕の中に入って来る……!」

 不快そうに、苦しそうに叫ぶ。生徒会も、戦線メンバーも混乱した。日向が銃を構えるが、突然すぎる事態にどうしたらいいか、わからずにいた。

「なんだよ、これ⁉ 撃っていいのか、ダメなのか?」

 が、ここでは音無が瞬時に拳銃を「影」へ向けて発砲した。影に銃弾の穴が空く。

「迷っている場合かよ! 助けるしかねえだろ⁉」

 音無の声へ続き、戦線メンバーが影へ向けて発砲。直井に覆いかぶさった影は消えていった。

「っ」

 直井の元へ、音無が駆け寄る。

「無事か⁉」

「……何故、僕を」

 音無が返事をしようとした瞬間、ゆりが大声を上げた。

「音無くん、上!」

「っ⁉」

 音無が直井を引っ張ってその場を回避。上から降って来た、先ほどよりも大きな「影」が着地した。

「なんなんだよ、これは⁉」

 藤巻が悲鳴に近い声を上げる。

 さらに。事態は混迷を極めた。

「ぐはあ⁉」

 野田が悲痛な叫び声を上げる。胸をハンドソニックによって貫かれていた。血を吐き、振り返ると――そこには、異能の刃を腕から生やしたNPCが不敵な笑みを浮かべている。

「野田⁉ なにがどうなっているというのだ……⁉ あれは、天使の力ではないか!」

 松下五段が目を見張る。大山が動揺して、ゆりへ助けを求めた。

「ねえ、どうしたらいいの、ゆりっぺ⁉ 野田くんはまた真っ先にやられるし! あれはNPCなの? 天使なの?」

「っ、それは……」

 さすがのゆりも、あまりに混迷具合に、頭の回転が追い付かずにいた。

 俺にはポリシーなんてない。戦線の銃を拝借し、刃を生やしたNPCを撃ち抜いた。NPCは影と同じように、塵となって消えていった。

「NPCじゃねえだろ、あれは。天使。悪魔。イレギュラー。好きに呼べ、とりあえず戦わなきゃやられるぞ!」

 俺の言葉が終わる瞬間、直井を除く取り囲んでいたNPC達が一斉にハンドソニックを取り出す。その背後には、影も複数いる。

「みんな、出来るだけ集まって! なにが起きているのかは、生き残ってから考えて!」

 ゆりが指揮をとり、影と天使の力を使うNPCと戦い始めた。俺も銃を使い、応戦する。突如として、大食堂は血みどろな戦場と変わり果てたのであった。

「くっ……しまった⁉」

 影から伸びた腕に捉えられたゆりは、引っ張られて集団から引き離された。俺は舌打ちをして、そちらの方を追いかける。腕を撃ち抜き、ゆりを開放するが、壁に叩きつけられた彼女は脳震盪を起こし、その場で倒れ込んだ。

「こんな時に……!」

 ゆりは立ち上がろうとするが、上手くいかない。そこへハンドソニックを生やしたNPCが、無慈悲に近づいていく。終わりを覚悟したゆりが目をぎゅっとつむるが――その刃は、届かない。俺がゆりを覆うように庇い、代わりに右肩を貫かれたからだ。焼けるような激痛が走る。

「アンタ、どうして⁉」

 NPCが刃を引き抜き、再びハンドソニックを振り下ろそうとする。

 しかしその瞬間、聞きなれた声が颯爽と現れた。

「――ガードスキル・ハンドソニック」

 駆けつけたかなでが、NPCの刃を弾いた。

 

 

「かなで!」

 俺が声を上げる。まさに九死に一生を得る、だ。

「すごい音がし――」

 かなでが振り返るも、何故かぴたりとそこで固まる。そしてその柳眉を悲し気に曲げたのであった。俺は首を傾げるも、すぐに事態を理解した。俺は倒れたゆりを、庇うように覆いかぶさっているのだ。慌ててゆりから離れる。

「誤解だ! そんな悲しそうな顔をするな!」

「やっぱり、仲が良いのね……」

「違う!」

「今日は厄日だわ……」

「だから悲しむな! そしてなにもかもが誤解だあああああ!」

 かなでは俺の胸元へぎゅっと抱きついてきた。

「抱きしめるのは、あたしだけにしてほしいわ」

「かなで……」

「春斗……」

 見つめ合う。ゆりがジト目を向けてきた。

「お熱いところ申し訳ないけど。後ろ、すごいことになっているわよ」

「あら大変」

 かなでが瞬時に離れ、ハンドソニックで一掃する。ものすごいパワーだ。

 大食堂では、あちこちから悲鳴が上がっている。「うわあああ⁉」「くそ、まだいんのかよ!」「ちくしょう!」「誰か、誰か助けて!」「そっちのフォロー回ってくれ!」

 ゆりが怪我の痛みを抑え、駆けつける。俺はかなでを後ろから抱きしめた。

「春斗???」

「かなで。あいつらは、お前を苦しめた奴らだ。だけど……頼む。助けてやってくれ。かなでの力が、必要なんだ」

 ……癪だけど。本当に、癪だけど。

 あいつらは、本当は悪い奴らじゃないのだ。だから……力のあるかなでに、無責任にも頼んだ。助けてほしいと。救ってほしいと。

 残酷な願いなのは。勝手な頼みだというのは、わかっている。それでも俺は、頼らざるをえなかった。

 心優しいかなでは、俺の腕をぎゅっと抱きしめ、こくりと頷いた。

「ええ。もちろんよ。みんなを、助けないと」

 かなではそう決心して、腕から離れる。戦場を見据え、彼女は新たな力を発動する。

「――ガードスキル。ハーモニクス」

 かなでの体から、複数の赤い目をしたかなでが現れる。分身天使はハンドソニックを手に、戦場を駆け巡る。本体のかなでが、こちらを振り返った。

「春斗」

「なんだ?」

「あたしを愛してくれて。味方でいてくれて、ありがとう。みんなのために、そしてあなたのために……あたしは、戦うわ」

「ああ。頼んだ」

 こくり、とかなでは頷き、影とNPCの元へと駆けて行く。

 その姿はどこまでも美しく、力強かった。

 

 

「――役者は揃った、というところですか。桜木 春斗……いえ、カウンター」

「っ⁉」

 戦場へ戻ろうとした瞬間、そんな声に引き留められた。

 振り返る。そこには美しい少年がいた。NPCの制服。だけど、どこか違う雰囲気。浮世離れしたような、機械じみているような――ひどく、不気味な雰囲気である。

「誰だ、お前」

「僕ですか? そうですね……彼の意志、でしょうか」

「なに?」

「長い、長い月日が経ちました。そして時が来ました。「彼」が目覚めたのですよ」

「なにを言っている……?」

「僕達は、この世界を書き換える。邪魔はさせませんよ、カウンター」

 謎の少年は、不敵な笑みを浮かべ。瞬きした瞬間には、跡形もなく消えていった。

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