※この作品はR-18です。

Angel Beats! ゆりルート   作:音有五角

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かなでルート FINAL 下

「春斗。朝よ」

 かなでの可愛らしい声と共に、体を揺らされる。俺は起き上がろうと体を起こす。瞬間、かなでのおでこと俺のおでこが勢いよくぶつかった。

「「~~っ⁉」」

 痛むおでこを抑えながら、俺は声を上げた。

「何故顔を近づけた……⁉」

「キスをしようと思ったわ」

「それ、起こす前にやるのが正解だったな……」

 かなでの天然に翻弄されつつ、俺はぎゅっと彼女を抱き寄せた。ピンク色の寝巻を着るかなでからは、甘い香りがした。

「ん……♡」

「おはよう、かなで」

「ええ。おはよう、春斗」

 かなではぎゅっと、背中に腕を回してきた。

 

 

 かなでと二人での登校途中、戦線のメンバーの一人である遊佐が、突如として現れて声をかけてきた。

「お二人とも。今、いいでしょうか?」

「……ゆりのオペレーターか」

 振り返るかなでと、身構える俺。

 遊佐は特に動揺せず、淡々と用件だけを伝えてきた。

「ゆりっぺさんを助けてください」

「なに?」

「一人きりで、地下へ潜ってしまったのです。ですがあそこは影が多く、とても危険です。お二人の力が必要です」

「また都合が良い時だけ頼りやがって。ダメだ、帰れ帰れ」

 俺が剣呑に言い放つも、かなでは「わかったわ」と言って頷いた。

「――って、かなで! 安易に引き受けるな。大体、どういう話かもよくわからねえんだぞ」

「そうだったわね。案内してくれるかしら?」

「全く話聞いてねえな、本当……たく、どれだけお人よしなんだ」

 これだから、放っておけない。

 俺とかなでは遊佐の案内の元、ゆりのいる場所へと向かった。

 

 

 コンピューター室の床に、隠し通路があった。梯子は地下深くまで伸びており、その果てには灯りが点いている。

「すげえな。こんなところに地下施設なんてあったのか」

 俺とかなでが覗き込む。遊佐がライトで中を照らした。

「はい。ですが、ここは我々が作った施設ではありません。ゆりっぺさんが単独行動で見つけました」

「やるな、あいつ。こいつはたしかに匂う。今回の騒動となにか関係があるかもしれない」

「桜木さん。行ってくれる気になったでしょうか」

「仲村 ゆりを助けられる保証はないし、そもそもそんな気はあまりないが、この騒動は片付けたい。行ってみる価値はあるな」

 かなでがこくりと頷き、梯子に手をかけ降り始めた。俺もその後に続く。遊佐は降りやすくするため、ライトで中を照らし続けてくれた。

 

 

 地下は複雑に入れ込んでおり、しかもなにかを守るように、定期的に影がその行く手を阻んできていた。俺とかなでの二人なので大した脅威にはならないものの、物量で攻められたら厄介だし、時間はかかる。体力と気力もじわじわと奪われ始めていた。

「ゆりの奴、いねえな。さすがのあいつも、食われてNPC化か?」

 俺が言うと、かなでが制服の袖をくいくい、と引っ張った。

「春斗。あれ、見て」

 アサルトライフルを持ちながら物陰に身を隠し、梯子の下を見下ろすゆりの姿があった。俺は舌打ちをする。

「しぶとい奴め。おい、仲村 ゆり」

 そちらの方へ向かいながら声を上げると、ゆりが顔だけをこちらへ向けた。銃先は梯子の向こうへと向けられている。

「天使に、桜木くん……来ていたの?」

「まあな。俺としては、お前が無事なことにびっくり仰天だがな」

「ふん。あたしはあたしのやり方で神に辿り着く。それまでは終われないのよ」

「相変わらずだな。重い女め」

 俺とかなでもゆりに習い、物陰から梯子の下を見た。すると重厚な扉の前に、影が無数に集まっているのが見えた。気味の悪い光景で、まるで影が大きな一つの巨人にでもなったかのように、数多く群がっている。

 かなでが俺の肩越しに、その光景を見た。

「たくさんいるわ」

「影が集まることなんてなかったのに、あの扉の前だけは例外のようだな。まるであそこを守っているみたいだが」

 俺の言葉を聞いたゆりが、肩をすくめた。

「あら、奇遇ね。あたしも同じことを思っていたわ」

「ラスボスへ通じる扉ってわけか。かなで、いけそうか?」

 かなではこくりと頷き、飛び降りていった。校舎三階ぐらいの落差があるが、躊躇はない。どすん、と地面へ着地し、ハンドソニックを二本取り出して影へ立ち向かっていった。

 物量があるから心配であったが、それは杞憂に終わる。ハンドソニックを目にも止まらぬ速さで振り回し、影を掃討。かなでの圧倒的な戦闘能力により、影は数分で片付きそうであった。

「相変わらずの戦闘能力ね……」

 ゆりはそう言いながら、梯子に降り始める。俺もその後に続いた。

 

 

 重厚な扉には、第二コンピューター室というネームプレートがぶら下げられていた。

「バカにしている……」

 ゆりが忌々しそうにつぶやいた。

 扉に手をかけようとしたその瞬間、俺はその手を止めた。

「なによ?」

「お前、ちゃんと覚悟は決めているのか」

「覚悟?」

「この騒動を起こせる犯人の可能性が高い。俺達だけで対処は出来ない相手かもしれない。それでも行くのか?」

「ええ。行くわよ。あたしは真相が知りたいの。この事件の……この世界の、ね」

「……そうか」

「外では仲間が戦ってくれているの。それを無駄に出来ないわ」

 なら、もう言うことはない。

 ゆりは今度こそ、重厚な扉に手をかける。そして扉を開けると――そこには、近未来的かつ不気味な光景が広がった。数え切れないほど、精巧に並べられた複数のパソコンのモニター。床には複数のケーブルがびっしりと人間の血管のように張り巡らされている。

 モニターに表示されているのは、ANGEL PLAYERのソフトウェアであった。人間の姿が表示されて、消えて、また表示されてを繰り返している。その横にはプログラミング言語がいくつか表示されており、あらゆるデータの処理がされているのが伺えた。

「間違いない。ここが、影の元凶よ。一体、どれだけのPCを盗んできたのよ……!」

 ゆりが忌々しそうに言う。

 俺はため息をついた。

「……そりゃ、俺達の来るずっと前からいたんだからな」

「は?」

 ここ最近のことだったが、カウンターとしての力か、記憶が俺の中に入り込んでいた。

 だから、この第二コンピューター室がどういう経緯で作られたのかも知っている。名も知れない魂にして、ANGEL PLAYERの創始者。彼が作り上げたものなのだ。

 ゆりに、かなでに、ANGEL PLAYERの創始者の目的を告げてやった。するとゆりが困惑したような声を上げた。

「ちょっと、なんであんたがそんなことを知っているのよ?」

「俺がイレギュラーに対するカウンターだからだ」

「はあ???」

 なおも困惑するゆりであったが、ここでモニターを背に座る番人――謎の少年が、現れる。

「やはり、辿り着きましたか。SSSのリーダーに生徒会長、そしてカウンター」

 だが、驚くべきことはその次であった。

「……音無くん?」

 ゆりが当惑とした声を上げる。

 まあ、無理もない。少年の隣に座るのは――音無によく似ている、男子生徒であったのだ。

「俺は「彼」ではない。因果を観測すると、似たポジションではあるようだがな」

「……?」

 音無に似た男子生徒の言葉に、ゆりは首を傾げた。声まで似ている。

「アナザーエピローグ。繰り返された結末。全く、嫌になるぜ。俺の存在はまさにボツプロットと言っていい。卒業した「彼」はハッピーエンド、採用された出来の良いプロットだ。だから俺は、そこにいる桜木 春斗と同じ紛い物にして失敗作なのだろう」

 銃を構えるゆりを制止しつつ、俺は皮肉げに問いかけてやった。

「お前達は、秩序を守りたいはずだよな。これがその結果かよ?」

 俺は謎の少年へ向けて言ったつもりだが、答えたのは音無に似た男子生徒であった。

「ああ。俺は、この世界の役割を変える。そう決めたんだ」

「……なに?」

 ゆりは眉を顰める。

「これだけの力を使って。神にでもなるつもり?」

「そう解釈してくれてもかまわない」

「……そもそも、あんた達は何者なのよ?」

「桜木 春斗から聞いただろう? ANGEL PLAYERの創始者。気が狂って自分をNPCに変えた、哀れな魂だよ」

「なっ……」

 ゆりが息を飲む。

 荒唐無稽な話だと思っていただろうが……まあ、これだけの施設だ。不可能ではない。

 だけど、色々とおかしいな。

「お前、正気に戻ったのか」

 俺が問うと、男子生徒は頷く。

「ああ。長い月日が流れたからな。いつまでも狂っていられない」

「これだけのことをして。自分が正常だと思っているのか?」

「いいや。だけど、やるべきことはわかった」

 男子生徒の言葉と共に、モニターから影が現れる。

 立華がハンドソニックを発動させた。

「ひどいことをしないで。それにここへ長くいることは、あまり良いことではないわ」

「……お前はあの人に似ているから、どうにも調子が狂う」

「?」

「悪い、こっちの話だ。立華 かなで。ならば問おう、この世界の役割は本当に卒業することなのか? 次の生を踏み出すための学園だと?」

「それ以外になにがあるというの」

「それを今から、お前達に見せる」

 言葉と共に、謎の少年の方が立華へ飛び掛かる。驚くべきことに、その手からは――ハンドソニックが飛び出していた。

「っ⁉」

「あなたの相手は私がしましょう」

 ゆりがライフルを構えるも、影に囲まれる。

「くっ……」

 俺はカウンターの力を使い、ハンドソニックのナイフを取り出した。

「かなで!」

「お前の相手は俺だ、桜木 春斗。紛い物を相手にする役割なのだから」

「邪魔するな!」

 立ち塞がる男子生徒を切りつける一閃。だが、俺のナイフは見えない壁に弾かれた。

「なんだ……⁉」

「ANGEL PLAYERを作ったのは俺だ。一番よく使いこなせる。そもそも、その力は俺が組んだプログラムだぜ?」

「っ」

「お前達は勝てないんだよ」

「黙れ!」

 ナイフを二本取り出し、再び突き刺す。

 だが、その刃が届くことはなかった。

 代わりに――俺の胸に、虚空から現れたハンドソニックと同じ刃が、突き刺さった。

「が、はっ!」

「春斗!」

 かなでが声を上げる。

 だが、もうその声は遠かった。心臓を貫かれた俺は大量の血を吐き、抜かれた刃から血を噴射する。

 男子生徒は優し気な――けれど、どこか狂喜を孕んだ笑みを浮かべ、告げた。

「目覚める頃には、理想の世界が出来ている。それまで眠っているんだ、カウンター」

 

 

 こうして、全ては書き換えられた。

 この世のマテリアルを生成するANGEL PLAYERによって。

 この世界の魂をも塗り替える、影の存在によって。

 死後の世界は、新たなる舞台へと変貌する。

 

 

 どくん、と大きく心臓が高鳴った気がした。

「……ここは?」

 視界に映るのは、きれいな青空であった。

 体を起こすと、見慣れた――見慣れない――そう、見慣れない校舎が辺りに広がっている。どこだ、ここは。

「授業が始まるわよ」

「え? は? 授業?」

 いきなり現れた銀髪の女子生徒にそう言われ、思わず目を丸くする。だが、女子生徒は有無をいわさず俺の腕を掴み、引っ張った。

「こっちよ」

 わけがわからないまま、俺はその子について行った。

 

 

 目覚めたこの世界は、死後の世界ならしい。

 そしてここは学園であり、たくさんの迷える若き魂が集まっている。

 そんな世界では死後の世界戦線という妙なレジスタンスが存在し――生徒会長である立華 かなでは、天使という存在であるらしい。

 両者の対立はどこか悲しく、俺はどちらにつくこともなかった。

 自由気ままに、思うがままに。

 俺はこの世界で、好き勝手に生きることにした。

 その結果……すごく、幸せになった。

 

 

 恋をした。

 なんていうと、綺麗すぎるかもしれない。

 一夫多妻になった。

 死後の世界でゆりやかなで、色々な女の子と付き合ったのだ。たくさん愛し合って、愛し合って――みんな、妊娠した。

 ボテ腹ハーレムってやつだ。抜きゲーとかでよくあるアレな。

 そう。そんな感じで、俺は死後の世界で幸福を得た。

 永遠とも思える、そんな幸福を。

 

 

 幸せはいつまでも続いた。

 嘘みたいに満ち足りた日々だ。

 エッチなことなんて、もう毎日のようにしている。

 ハーレムセックスなんて日常茶飯事。

 欲望のまま、ありのまま。

 もう非の打ち所がないくらいに、最高な毎日である。

 ……だけど、時々。どうしてか、ひどい不安に駆られることがあった。

 そんな不安は髄所に現れる。例えば、この間。妙な写真を部屋の中で見つけた。

 俺とゆり、みんなが卒業証書を持っている集合写真。

 球技祭で優勝した写真。

 どちらも記憶にない。

 いや、待て。そもそも、さ。

 この世界のみんなは、なんで俺のことを好きになったんだ?

 俺も、なんでみんなを好きになったんだ?

 この「俺」は。

 一体、どこにいるっていうんだ?

 

 

 夜の校舎。俺は屋上へと出て行った。

「ん? なんだ、桜木か。驚いたぜ、こんなところで偶然会うなんて」

 キーコーヒーを飲む音無と邂逅する。

 だけど……こいつは、違う。音無じゃない。似ているけど、別人だ。

「偶然じゃねえよ。俺は、自分の意志でここへ来た」

「記憶が戻っちまったのか。さすがだな。そんな奴、この世界でお前だけだよ。まあ、懸念していたことだが」

「なに?」

「お前は紛い物だが、世界を正すカウンターだ。いずれ元の世界の記憶を取り戻すと思っていたさ。だから俺は、ここをこういう世界にした。桜木 春斗の心が、この世界へ捉われるように。お前にとって永遠の楽園となるように」

「余計なお世話だ、この野郎」

 俺はハンドソニックのナイフを取り出し――それを、男子生徒へ向けた。

 ANGEL PLAYERの創始者。

 ここで、決着をつけなくちゃいけない。

「ハーレム世界は、お前が作った紛い物の楽園だ。元の世界を返してもらう」

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