「お前は、待っている人がいるんだろう? この世界にこだわっているわけじゃない。なんで岡田 緑みたいな思想になっちまうんだよ」
「待ち続ければ、会いたい人に会えるというのか?」
「……」
「何年も、何十年も、何百年も待ったさ。でも、奇跡は起きなかった。なら、起こすしかないじゃないか。奇跡ってやつを」
「だから、この世界を書き換えたのか」
「ああ。きっと、不可能ではない。例えば、ここが本物の死後の世界になったらどうなる? 未練のある若き魂以外にも、ここへやって来るかもしれない。満ち足りた魂も来るかもしれない。そうすれば、俺はあの人に会える可能性が上がる。それに――」
「もう、いいだろう」
俺が遮ると、男子生徒は眉を顰めた。
「なに?」
「そんなことをしてまで、会ってどうするんだ。そんな歪んだ奇跡を起こしてまで、成さなきゃいけないことなのか?」
「お前になにがわかるっていうんだ。世界の理不尽で引き裂かれる気持ちが、お前にはわかるのか」
「たしかに、お前と同じような境遇になったら、俺も正気じゃいられなくなるのかもしれにない。だけど、お前は言ったよな。アナザーエピローグだって。そもそもお前は、あの謎の少年を、影を作り出したのは世界の秩序を守るためだった。ここを永遠の楽園にしてはならないという、理性をもってして生まれた願いだ」
「……」
「お前にも、音無達と同じ気持ちも宿っているはずなんだ。違うのかよ?」
「違わないさ。だが、月日が流れ過ぎたんだ。俺はいつまで経っても、あの人を忘れられない。引き裂かれた傷が癒えない。もう一度だけ会いたいという、願いを変えられない。この世界の役割を、正しく認知していたとしても」
男子生徒はハンドソニックを取り出した。長く美しい剣であった。
「桜木 春斗。お前が、この死後の世界を正しくする調律師なのだとしたら。それをここで証明するんだ」
「なに?」
「俺を倒せば、この世界はあの地下での時間に巻き戻るようプログラムしてある」
「……何故、わざわざそんなことを」
「桜木の言う通りさ。どんな手段を使ってでもあの人に会いたいという心と、世界を歪めてはいけないという、二つの心があるんだよ。ジレンマだな」
「お前はもう、本当に狂っているんだな」
「ああ、そうさ。だが、桜木。ANGEL PLAYERを使いこなせているのは俺だ。勝つための策は用意しているのか?」
その言葉に俺はこくりと頷き――ナイフを構えた。
「俺は、記憶なんて取り戻していない」
「……なに?」
「今の俺は、ここにいる俺は、立華 かなでに恋をしたあの「俺」じゃない」
「どういうことだ?」
「たくさんの世界が。因果が。協力してくれているんだ」
俺の中にはたくさんの記憶が、別の世界の力が宿っていた。
ゆりを物語の始まりへ導いた世界があった。
遊佐、椎名、関根、入江、岩沢、ひさ子、ユイ、赤目天使と恋をする世界もあった。
音無達の卒業を見届ける世界があった。
そして……かなでと恋をする世界もあった。
「これはANGEL PLAYERの意志だけじゃない。この世界の、みんなの意志を俺は引き継いでいる。だから、俺はここへ導かれた。ここに立っているんだ。たくさんの力が、因果が守ってくれているんだよ」
「バカな。そんなこと、あってたまるかよ!」
男子生徒が振り上げた剣を、俺はナイフで受け止める。ジリジリ、と凄まじい音立てながら両者の刃はせめぎ合う。
「驚いたな、桜木。まさか、本当に拮抗しているだなんて」
「創始者。俺は、お前を倒す。この世界を取り戻す。そしてお前も、次の生へ踏み出すんだ」
「綺麗事を!」
バチン、と刃が弾かれる。俺達は凄まじい速さで何度も剣を交え、切りつけあった。体に幾度も切れ後が残る。鮮血が屋上を染める。それでも、俺達は手を止めなかった。
「ぐっ……⁉」
肩に深くハンドソニックが刺さり、俺は後ろへ跳躍して距離をとろうとする。
「小細工をしたところで、この力を作り出した人間には勝てない」
だが、その瞬間――男子生徒が目にも止まらぬ一閃を放った。
距離をとることに成功はするものの――焼けつくような、身を引き裂かれるかのような痛みが襲い掛かる。
「ぐっ、がああああああ⁉」
痛むのは当たり前だった。左腕が宙を舞い、どすり、という鈍い音と共に硬い地面へ落下する。良い一撃を貰ってしまったようだ。切られた断面から、血が勢いよく噴射する。
「……終わりか。呆気ないものだな」
男子生徒がつまらなそうに言う。
敵の動きは圧倒的に早かった。俺の胸に、深く剣が突き刺さる。
俺は、死んだ。
たくさんの記憶が、別の世界の桜木 春斗が守ってきた映像が脳裏に蘇る。
――返事は「はい。よろしくお願いします」よ。だから、アンタがつけなさいよ。
エンゲージリングをはめて喜ぶ、ゆりの姿が。
――あたしはあなたを好きだってこと。花嫁だってこと。そういうことを伝えたかったの。
ウェディング・ドレスを着た、愛らしいかなでの姿が。
――私がこうしたいから、こうしたのですが。ご迷惑でしたか?
少しだけ表情が柔らかくなった遊佐の姿が。
――お前は、もうわたしの物だ。お前の孤独を癒し、お前の力を使う。
毅然と、共に強くあろうとする椎名の姿が。
――余計なこと、言ったな。忘れてくれ。
心を開いて、弱いところを見せてくれたひさ子の姿が。
――いや。ただ……桜木に可愛いと言われるのは、嬉しいなと感じたんだ。
作詞に苦戦する岩沢の姿が。
――ひっひっひっ。誰につけられたかは、秘密でお願いします。匂わせって奴ですよ、桜木のアニキ♪
相変わらずの悪戯好きで、元気よくはしゃぐ関根の姿が。
――こんなあたしを、受け入れてもらえるんですか……?
いつも優しい心を持っていてくれる、入江の姿が。
――先輩はこの子のお父さんですし、あたしはこの子のお母さんです。
夢を叶えて幸せそうな、ユイの姿が。
――こんな時間に校内にいるなんて、いけない子。
本体とは対照的に、どこか小悪魔的に振り回してくる赤目天使の姿が。
全てが他の世界の出来事であったとしても。
それらのすべてが、今の俺にはとても大切に思えたから。
だから、ダメだ。絶対に、ダメなんだ
この世界を荒らすなんて、あってはならない。
「――っ、が」
強い雨の中。
俺はなんとか息を吹き返し立ち上がる。
「がはっ⁉」
だが、いくら死後の世界といえど、切り刻まれた体から完全復活するのには時間がかかる。血反吐を吐きながら、ぜーぜーと息を吐きながら、歩き出す。
足元はおぼつかない。
割れるように頭が痛い。
雨で体が氷のように冷え切っている。
それなのに、傷口が燃えるように熱い。
……はっ、死ぬほど痛くて苦しいが。こちとら、死後の世界でずっと戦ってきたんだ。
死ぬことには慣れている。
俺は――この世界の奴らは、そうやって戦ってきた。
「そもそも。こっちはとっくに死んでいるんだ」
対して、向こうは一回死ねば終わりという舐めプをしている。
この戦い。圧倒的に、こちらが有利だ。
長い、長い戦いが始まる。
何度も、何度も戦いを挑んだ。
何回でも死ねる世界だから。
何回でも蘇ることが出来るから。
「お前、やっぱり正気じゃねえな」
何度も俺のことを殺しながら、男子生徒は言う。ANGEL PLAYERの創設者には、どうやっても勝てないことは明らかであった。
それでも、諦めない。
何回でもリトライをする。
時間だけは、無限にあるのだから。
「苦痛で心を折らせるのは、さすがに良心が痛むが。仕方ない、やってやるよ」
ガードスキルはなんでもありで、俺にあらゆる死をもたらした。
電撃による感電死もあった。
圧死なんてものもあった。
突如生成された落とし穴に落とされ、溺死させられたこともあった。
そうやって、何度も殺された。それでも――俺の心は、折れない。
夜のグラウンド。もう何度目かわからない戦いを、俺は挑んでいた。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
叫びと共に、ナイフを振り上げる。
「もう、見飽きた。しかもこっちは、以前より力をさらに強化するようプログラムをアップデートしているんだ。勝率がどんどん減っていることを、理解出来ないのか?」
剣が俺の体を切り刻んでいく。体中の傷から、血が溢れる。今度は右目もえぐられ、失われた眼球から血の涙が滝のように流れる。あまりの痛みに、自分の体がどうなっているかもわからない。それでも、止まらない。俺はナイフを振るう手を止めない。
「があああああああああああぁぁぁぁぁ!」
諦めない。絶対に、諦めない。
――桜木。良い一枚にしよう!
――お前がゆりっぺの隣だぜ?
みんなと共に卒業式を迎えられた世界で、親友になってくれた音無と日向。
ああ、やってやるさ。こんなのを見せられたら――負けられるわけがない。
蛮勇とも思える姿に、男子生徒は顔を青くした。
「何故、そこまでこだわる。いいじゃないか。お前が大切に思っているやつらは、この世界でだって幸せになれる! それこそ、永遠に!」
「嫌だ! 絶対に、嫌なんだ!」
「なに……⁉」
「たくさんの桜木 春斗が、教えてくれた。色んな世界のみんなを見せてくれた。あいつらは、こんなところに縛りつけちゃいけない!」
「そうか。なら、いいぜ。相手しやるよ」
ぶしゃああああああああああ、と鮮血が舞う。
俺の胸元が、剣で切り裂かれていた。
「幸福な世界でお前を抑えられないのなら。お前の心が折れるまで、何度だって殺してやる」
絶対に折れないのは、ANGEL PLAYERの創設者も同じであった。
……本当に、そうなのだろうか。
だって、矛盾している。そもそも、なんで影なんて作ったんだよ。自分だけをNPCに変えればよかったじゃないか。それが、なんで世界に対して起動するようにしたんだ? あの謎の少年を、残していったんだ? ANGEL PLAYERを、天上学園へ残していったんだ?
答えはきっとシンプルだ。きっとこいつは、心のどこかで止めてほしくて――次の生を踏み出したくて。それでも、その一歩がどうしても踏み出せなくて。
ただ、それだけの話のような。そんな気がするのに。
俺は、なにも出来ないのか……。
紛い物で、招かれざる役者だから。
「――桜木! 大丈夫か!」
倒れる瞬間、何者かがそんな声と共に、受け止めてくれた。
「……音無?」
「ああ。俺だ! 待たせたな、みんな来てくれたんだよ!」
すぐ隣に、ライフルを持って駆けつけた日向がやってくる。
「よ、桜木。たく、相変わらず無茶しやがって。相談しろよな。お前のためならなんだってやってやるんだからよ」
貧血で遠のく意識の中。バタバタバタ、と複数の足音が聞こえて来る。
……そんな、バカな。
この世界線で。こんなこと、ありえるのか? ただ色男やっていただけの、桜木 春斗なんだぞ?
「……浅はかなり」
「HEY! Last Beat!」
「たく、だりーな。つーかあいつ、音無に似てねーか?」
「うーん。どことなく似ているよね。違う人みたいだけど」
椎名、TK、藤巻、大山に松下五段、高松、野田、直井が続く。
「奴はあの桜木をも凌ぐ。油断は大敵だ」
「そうですね。特にかませ犬ポジションの野田さんは気をつけてください」
「貴様、死ぬか?」
「僕以外で神を名乗るなどと。神は僕だけで充分だ」
そして後方から、ゆりが颯爽と現れる。ちらりとこちらを見やり、頼もしい姿を見せた。
「たく、また一人で抱え込んで。一人の力じゃなくて、仲間を頼れって教えたじゃない」
「ゆり……」
ゆりはライフルを構え、毅然と宣言した。
「総員、戦闘体勢! 行くわよ、かなでちゃん!」
「ええ。共闘出来て嬉しいわ」
かなではハンドソニックを発動させ、戦闘態勢に移る。
「いけない人。この世界だと相当激しかったそうね? 消えないという縛り以外、みんな催眠にかかっていたわけじゃないのに」
「う、うるせえ。つーか、赤目も来ていたのか……どうして」
悪戯っぽい表情を向け、減らず口を叩いたのは赤目天使であった。
「呼んだのはあなたよ」
「俺?」
「そう。今のあたし達は、そうね。鏡みたいなものよ。この世界を彼が生成したのと同じように。あなたも、あたし達を生成したのよ。あなたが他の世界で頑張ってきたことは、無駄じゃなかったわね」
男子生徒は眉を顰める。
「カウンター……まさか、ここまでやれるとは」
出血がひどく、視界が暗くなり始める。耳鳴りが始まり、意識が遠のく。
そんな中で、かなでの声が優し気に響いた。
「みんなのことも、あなたのことも守るわ。だから、あとは任せて」
「--一斉射撃!!!」
ゆりの号令と共に、戦線メンバーが銃弾を放つ。
男子生徒は眉を顰めた。
「バカなのか? ガードスキル、ディストーション」
しかしその瞬間、男子生徒ははっとした表情を浮かべる。
ガードスキルが発動しないのだ。
「バグ……いや、ハッキングか。小賢しい奴らだ」
男子生徒は銃弾をかわしつつ、剣で銃弾を弾く。
「お前らが数で攻めるなら、俺も数を揃えるまでだ。ガードスキル、ハーモニクス」
刹那、彼を中心に影とハンドソニックを宿したNPCが現れる。
「数ならあたしに任せて」
赤目の天使がそう言って、同じようにハーモニクスを発動。
かなでの分身が無数に現れ、影とNPCを食い止めた。
その光景を見た日向が、苦笑いを浮かべる。
「おいおい、とんだ乱戦だな……もう無茶苦茶だぞ」
ゆりはライフルを撃ちながら、仲間に指示を出す。
「分身なんて出来るだけ無視よ、無視。本体さえ倒せれば、それでいいんだから!」
男子生徒に銃弾が当たらない。上手いように回避されているのだ。
だが、彼の右足と左肩に激痛が走る。
足にはハルバートが突き刺さり、肩にはクナイが刺さっていた。
「浅はかなり」
「ゆりっぺ! 隙は作った!」
銃にばかり気をとられていたか。男子生徒は舌打ちをして、ハルバートとクナイを強引に抜く。
「かなでちゃん!」
動きが鈍ったところに――彼らのエースであろう、かなでが襲いかかる。ハンドソニックを振り上げ、男子生徒の胸元へ向けて突き上げた。
「バカ、な!」
防御しようと剣をかざすも、間に合わない。
彼の胸は、かなでのハンドソニックによって貫かれたのであった。
天気の良い休日の昼であった。
世界は騒がしくて、友達グループだの、家族連れだの、カップルだのが町中を楽し気に歩いている。
よくある日で、平凡でありふれた光景で。
そんな世界の中で、一つの声がひどく印象に残った。
小さな、小さな歌声。鼻歌であった。
綺麗で穏やかで。その少女がとても上機嫌であることが伺える。
待ち合わせなのか。携帯を手に持ち、閉じるとどこかへ向かって歩き出した。
そんな少女へ向けて、少年は駆ける。
その背中へ向けて、手を伸ばし――。
――ああ、なんてものを見せるんだ、と思った。
あのカウンターは、なんて残酷なんだ。
彼が導いた本物の役者達は、どこまでも眩しくて。
残酷な運命の元で引き裂かれても、死後の世界で再会を果たし、ハッピーエンドを掴みとったのだ。
全く、嫌になる。
こんなものを見せられてしまっては、変わってしまう。
あれほど強い願いだったのに。
何百年が経過しても揺らがない思いだったのに。
生まれ変わるのも悪いことではないと、そう思えてしまって。
ここで待つよりも、あの世界での可能性に賭けたいだなんて。
そう、思ってしまったの。
「春、か」
始まりの季節。
終わりの季節。
桜が咲く、華やかで温かい季節だ。
「俺はもう一度。あの人に会えるだろうか」
そう願って。それだけを願って。
彼は、眠りについた。
――どくん、と大きく心臓が高鳴った気がした。
眩暈がした。目の前にある世界が、正しく認識できない。
ここはどこだ?
今は、何月何日だ?
わからない。自分が誰なのか、わからない。
走り出す。だけど、走っても走っても、暗闇の世界が広がるだけ。
俺は、俺は。
名前は桜木 春斗。紛い物で、カウンターで。
招かれざる役者によって荒らされた世界を何度も、何度も治した。
――のために。
あれ、そうだ。……誰のために?
俺は、誰にために戦ったんだ。ゆりのため? かなでのため? それとも、もっと違う人のためか。遊佐? 椎名? 入江? 関根? 岩沢? ひさ子? それとも、赤目天使のため?
わからない。どれなのか、わからない。
たくさんの因果を、記憶を取り込み過ぎた。
クソ。こんな形で、代償を払わせるなんて。
俺は自分がわからくなっていた。
元の世界に戻ったはずだ。それはわかる。
だけど、ここにおける「元の世界」の桜木 春斗はどれだった?
思い出せない。正しく、自分自身を思い出せない。
この俺は、どの俺なんだ。
誰のために、戦っていたんだ。
そんな風に。何度も、何度も、何度も考えて。
桜木 春斗は、粉々に壊れた。
「――おい、桜木! 桜木ってば!」
「え?」
「なにボーっとしているんだ。俺の話、聞いていたか?」
「いや全然」
「全然なのか! ひでえな!」
授業が終わり、ホームルームも終わった放課後。
前の席に座る男子生徒が、やたらとハイテンションで騒々しかった。
「隣のクラスの、〇〇ちゃん! お前と話がしたいって!」
「え? あ、ああ」
「んだよ、反応薄いな。早く行ってこいって!」
俺は席を立ちあがりながら、ふと問いかける。
「なあ」
「なんだ?」
「お前、誰だっけ」
問いかけると、男子生徒は目を丸くしたあと、大声を上げて笑った。
「なに寝ぼけているんだよ! 〇〇だ、お前の親友だろ!」
勉強をして、友達と部活をして。
そうして毎日を過ごして、〇〇年が経過した気がした。
何度も、何度も。
春を見て、夏を過ごし、秋を満喫して、冬を超えた。
いつか将来の夢を叶えるために。
……夢なんて、あったっけか。
そもそも俺は、何故ここで勉強しているんだ。
というか、何年が経過しているんだ。
違和感を覚えながら、俺はロボットのように毎日を過ごした。
そうして。俺はようやっと、自分の過ちに気がついた。
何度も春を迎え、たくさんの魂が卒業していくのを見届けて。
俺は、ここでの俺を思い出した。
この世界で一番大切な存在を――かなでのことを。
今日は卒業式。NPC達は校舎の外に出て、涙を流しながら写真を撮ったりしている。俺も誘われたが、そんなことはどうでもいい。こいつらと一緒にいても、ここを去ることなんて出来ない。
校舎を駆ける。広い、広い校舎を。そうして、走り回って――花壇の近くで、花に水をやる彼女の姿が目に映った。
「かなで!」
「……春斗?」
小首を傾げるかなでを、思いっきり抱きしめる。ジョウロが音を立てて、地面に転がった。
「ごめん。何年も待たせたな……」
かなでは目を丸くしながら、やがて事態を理解して笑みを浮かべ、俺の背中に腕を回した。
「いいのよ。あなたを見届けるって、そう決めていたから」
「本当に、本当にごめん」
「ただ……一つだけ、お願いがあるわ」
「お願い? なんだ?」
体を離す。かなでは顔を赤くし、じっとこちらを見上げた。
「……ずっと、お預けだったから。キスをしてほしいわ」
そんな可愛らしいお願いをされたから。
俺はそれに答え、優しいキスをした。
この世界は守られた。
あとは最後の一歩をかなでと共に、踏み出すだけだ。
ここまでとても長いのに、全てのルートを読んでいただいた方には感謝しかないです。
かなでルートを集大成にする、というのは決まっていたのですが、中々形に出来ず、ここまで時間がかかりました。
ハーレム編がバットエンドっぽいという感想をいただき、そこから本作の内容が出来上がったという経緯があったりします。
パート1の時といい、かなでルートはなにかと時間がかかりましたが、ようやく完走出来ました。
閲覧してくれた方。本当にありがとうございます。