ここからハーレム編の世界観を紹介します。
天上学園。
そこは神が用意した死後の世界であり、苛烈な青春を送った魂が導かれる場所だ。
そんな摩訶不思議な場所で俺、桜木 春斗は学園生活を謳歌している。
SSSのリーダー、仲村 ゆりの鍛錬に付き合ったり、生徒会副会長として立華と一緒に活動をしたり、授業を受けて適当に時間を消化したり……。
そんな感じの日常だ。
ちなみに、俺の生前は特殊部隊の軍人である。特殊部隊ってなんだよ、と思われるだろうが……例えるなら、TVアニメの「リコリス・リコイル」とか、映画「ミッション・インポッシブル」に出てくる、アレである。
それでもわからないという方のために説明すると……忍者の現代バージョン、といえば伝わるだろうか。
こういった生前であるのと、とある「イレギュラー」により、この世界での俺の立ち位置はかなり特殊なものとなっている。
順を追って説明しよう。
まず、この世界にはとある「異分子」が存在する。
クラスSSS――死んだ世界戦線、と名乗る組織だ。
苛烈な生前を強いた神への反逆を掲げる、過激派な連中である。彼らは卒業――つまり、来世への転生を目的としたこの世界で消えることなく、この世界で長く、とても長く留まり続けている。
そんな組織のリーダーは美人な女の子、仲村 ゆりだ。
しかし可愛いのは見た目だけ。その中身は悪魔のように過激な思考の持ち主だ。頭脳明晰、戦闘センスも高く、また人心掌握にも長けており、神をも恐れないその横暴さと狡猾さは、まさにクラスSSSのリーダーに相応しい人物であった。
故に、彼女は「力」を欲する。
神の首を狙うが故だ。
俺が目をつけられるのは必然ともいえ、度々戦線への加入を求められる。が、返事は保留のまま。ゆりやその仲間と会って鍛錬に付き合うことはあるが、それ以上の関係になろうとはしなかった。
別に俺は、神を恨んでいないしな……。
さて、そんなクラスSSSと対立するのは、神の遣い――生徒会長、立華 かなでこと「天使」だ。
カードスキル、パッシブスキルといったアニメ・ゲームじみた「異能」を操り、この学園における圧倒的な「抑止力」として存在している。
彼女の目的はこの学園の秩序を守ること。
故に、秩序を乱しまくっているクラスSSSとは対立関係にある。
俺は天上学園の生徒会副会長だが……立華の味方なのかというと、それも違う。
ゆり達率いる死んだ世界戦線は、過激な思考を持ちながらも、悪い奴らではない。
だから、いくら秩序のためとはいえ、異能を振りかざして彼女達を止めようとする立華の考え、行動に賛同は出来ないのだ。
それに神へ反逆する気持ちも、まあわからないでもない。
……そんな感じで、俺、桜木 春斗という男は中立、悪く言えば中途半端な立ち位置でこの世界を満喫している。
授業を受けても消えないという謎のイレギュラーと共に、ここに……縛られているのだ。だけど、それにはきっと、意味があるはず。
俺は、この世界できっとなすべきことがあるのだ。
それがなにかはまだわからないが、少なくとも、俺はこう思う。
死んだ世界戦線、立華かなでも……仲村ゆりのことも、放っておけないってな。
「――さて。というわけで、俺は今日も早朝からゆりとの鍛錬に付き合うのであった!」
「誰に語りかけているのよ、アンタ?」
学園の外れ、森の奥でいつも通り落ち合ったゆりが、ジト目で俺を睨んでくる。
「お前のことが好きだって話だ」
「は、はああ⁉ いきなりなにを言い出すのよ!」
顔を赤くしたゆりが声を上げる。
「ルックス良し、スタイル良し、運動神経良し、頭脳明晰、リーダー性あり。その他諸々の凶悪さと横暴。理想的な美少女だな、お姫様?」
「こんの……絶対、バカにしているだろおおおおお!」
ゆりが模擬戦用のナイフを振り上げる。俺はそれを軽くいなし、喉元にナイフ突き付けた。
「うっ……」
「大振りなったな。その一分も待てないようなかっかする性格、どうにかしないとな」
「うっさい!」
あろうことか、ゆりは足を振り上げ俺の腹に攻撃しようとする。
完全なる不意打ち。フェア精神なんてゼロだ。
全く、往生際が悪い。
ゆりの足を掴み、上半身を肩で強く押す。「ぐっ⁉」という苦悶の声と共に、強かに地面へ背中から崩れ落ちた。
「いっっった……! ちょっとアンタ、こっちは女の子なのよ!」
「都合の良い時だけ女の子を振りかざすなっての。不意打ちで腹蹴りしようとしたのは、お前だっての」
「くっっっそ……! なんで、アンタに勝てないのよ……!」
痛みのせいか、ゆりは少し涙目になっていた。
「大丈夫か?」
手を伸ばしてやるが、ゆりは「ふん」と言ってそっぽを向き、自力で立ち上がる。やれやれ。相変わらずの負けん気だ。
「いつかあんたを負かしてやるわ。覚悟なさい」
「そのセリフ、昨日も聞いたぞ?」
「――っ⁉ う、うっさい! 今日はここまでよ。午後も付き合いなさいよね!」
「ゆり、ツンデレキャラみたいになっているなあ。でも、可愛いから似合っているぞ?」
「あたしを変なキャラにするなあああああああああああああああ!」
唾を飛ばして来る。
相変わらずツッコミの声がでけえな。おしとやかな立華とは正反対である。
「またな、ゆり。楽しみにしている」
「あのね、遊びじゃないんだからね! 全くもう、アンタってやつは……!」
不機嫌そうに腕を振り、ズンズンとした足取りでゆりは去っていく。
さて、そんな感じで俺の一日はスタートする。
割り振られたクラス、教室へ入り授業を受ける。どれも退屈なカリキュラムだ。そして一般生徒――NPCと呼ばれる「作り物」はどれも没個性、モブキャラ的な奴らばかり。それも相まって、この天上学園の青春、というものはどこか物足りないものであった。
まあ、中には可愛いNPCもいるが……仲村 ゆりとか、立華を見てしまうと、どうしても劣ってしまうものだ。まあ、あいつらはれっきとした「人」だからな。仕方ない。
だけど、NPCと本気で恋をして、消えた奴もいた。
また、NPCと無かった青春を謳歌して、満足して去った奴も。
みんな、悪い奴らじゃなかった。
故に苛烈な生前を送り、忌まわしい記憶を背負わせた神に、思うところがないわけではない……。
でも、だからと言ってな。よし、じゃあ神をぶん殴ろう、とは中々ならない。
ましてや、この世界にいる天使は立華 かなで。
あんな愛らしい少女を攻撃するのは、中々思い切った覚悟が必要である。人としての倫理性もあるしな。
「桜木ー。お前、放課後なにするのー?」
NPCが俺のことを大して知らないはずなのに、親し気に声をかけて来る。
「別に。気の向くまま、俺はいつだって自由なんだ」
俺はそう言って、教室を去っていった。
生前は中々、好き勝手出来なかった。
だから、この世界では自由に、何者にも縛られずにやっていく。
そう決めたのだ。
死んだ世界戦線の幹部連中が、よく現れる場所も知っているので、あいつらに会いにでもいこうかと思い廊下へ出た瞬間、立華がすっと現れた。
「生徒会室へ行くわよ」
「……ちっ。捕まったか」
トンズラしようとしたのを、読まれたようだ。
クソ。最近、こんな感じで待ち伏せされるんだよな。勢いで直井に勝利して生徒会副会長なんてものになってしまったが、なんでこんなことを始めてしまったのだろう。そりゃこんな立場になれば、生徒会に嫌でも縛られるってのに。
まあ、勢いというか……立華の推薦なんだがな。
何故か知らないが、彼女、俺を生徒会役員にしたがったのだ。
「と、見せかけて逃げる!」
バッ! と、目を盗んだ隙に駆け出す。
が、立華は目にもとならぬ速さで俺の首根っこを掴んだ。女の子、否、人間とは思えないくらい、なにか機械に巻き込まれたんじゃないかと思うくらい、凄まじい力で引っ張られる。
「ぐえええええええええ⁉ ちょ、首、首締まるって、立華!」
「逃がさないわ。あなたは副会長よ。生徒の手本になるの」
「いや、だってそれは立華が勝手に立候補させた――」
温厚な立華には珍しく、さらに制服を掴む手の力を強めた。
「わかった、わかったから! 行きます、行きますから!」
「ええ。一緒にいきましょう」
優しい笑みを浮かべて、立華は歩き出す。俺の服の袖はしっかりと握られていた。見た目はちょこん、といった感じでつままれているが、実際のパワーは重機のアタッチメント並みである。制服伸びるっての。
最初、この世界へ迷ったばかりの時は、退屈でしょうがなかった。
紛い物のNPC.
どこか歪な世界。
そんな世界で、学園生活を漫然と過ごしていた。
本来であれば、授業を受けて、学園生活を満喫すれば、消えることが出来る。来世へ踏み出すことが出来る。
それなのに……俺は、それが出来ない。
そんな俺を気にかけたのが、立華であった。
「大丈夫よ。あたしが、あなたを卒業させてみせる」
そう言って、優しく微笑んでくれたのを、今でもはっきりと覚えている。
思えば、それ以降だった。立華が俺を気にかけてくれたのは。
というか、俺に限らない。
立華という少女は、とても心優しい。だから、いろんな「人」を気にかけ、卒業へのサポートをする。
まあ、天使だからそういう「役割」なのだろうが……。
そんな思想であるが故に、クラスSSSとはわかり合えない。
立華はそれでも、ゆり達を卒業へ導こうとしている。
まあ、結果はいつまでも平行線のまま、何年と交戦が続いているようだがな。