ただ不定期更新なので、ハーレム編と音無ルートは完結までいかないかもです。それでも良ければ、よろしくお願いいたします。
「全く。会長には困ったものです……」
生徒会室。書記である直井が、腕を組みながらため息をついた。
彼曰く、立華の姿がずっと見当たらないらしい。
今日は重要な会議があるから、確かに困ったものなのだが……妙だな。あいつは生真面目な性格だし、滅多なことで欠席なんてしない。ましてや無断で。
「なにも聞いてないのか?」
「はい。せめて、時間までに戻ってくればいいのですが……」
「仕方ねえ。探しに行くとするか」
俺が席を立ちあがる。直井が首を傾げた。
「心当たりがあるんですか?」
「……まあな」
正直なところ、嫌な予感がしているのだ。
今日はギルド降下作戦の決行日。
そんな日に、立華がいないということは……これは、由々しき事態なのではないだろうか。
「副会長も、時間までに戻ってきてください」
「わかっている」
頭の固いNPCである直井が、口酸っぱくそう言った。
全く、これだから「組織」ってのは嫌なんだよな。縛られるのは好きじゃない。
生徒会副会長、という立場を利用することで、俺は戦線のサポートをしている。没収品の横流しをしたり、ギルドの地下施設の製造にも協力した。体育館に隠し通路を用意出来るよう手引きもしたし、今日が決行日なのも、体育館を使われる予定がないのを確認したからだ。
そんな諸々のサポートをしつつ、立華の動きの報告もしている。今回のことも言う必要があるだろう。それに……こうなってくると、やらなければならないことが出てくる。俺はハンドガンとナイフを携帯し、地下へ降りる。その数十分後、戦線メンバーが降りて来た。
「貴様。何故、ここにいる」
野田がハルバートの切っ先を向けてくる。
「相変わらずの剣呑さだな」
俺が呆れながら、ため息をつく。音無が首を傾げた。
「どうして桜木がいるんだ?」
質問には、ゆりが答える。
「彼は中立だけど、戦線に協力しているのよ。ギルドの創立にも、副会長という立場を利用してサポートしている。故に、ギルドの所在も把握しているのよ」
「へえ……場所を天使にバラされたりしないのか?」
「リスクを覚悟の上で、協力関係になっているのよ。現に、生徒会という公式な組織からサポートを得られるのは、大きいもの」
「そういうものなのか……」
「彼の目的はこの世界のバランスを保つことよ。今は天使が優勢だから、戦力的には戦線のサポートをしていることが多いわね」
ピンと来ていない音無は、どこか淡泊とした相槌をうった。
野田はハルバートを振り回しながら、俺に近づいた。
「ふん。桜木 春斗、今ここで決着をつけ――」
よう、という言葉は続かなかった。
大きなハンマーが、横殴りに野田を吹っ飛ばしたからだ。凄まじい勢いで壁に押し付けられ、野田の体はぺちゃんこになる。
「総員、臨戦態勢!」
ゆりの号令により、各々が武器を構える。音無だけがピンと来てなくて棒立ちしていたが、日向が首を掴んで腰を低くさせた。
「な、何事だ……?」
「見ての通りだ。野田が対天使用のトラップにやられた」
「トラップは解除したんじゃないのか? この間、ゆりが連絡していたじゃないか」
音無の問いかけに、俺が答える。
「それなんだがな。悪い知らせがある。立華はここへ辿り着いている可能性がある。放課後から、生徒会メンバーが立華を誰も見かけていないんだ」
「「「っ⁉」」」
戦線メンバーが息を飲む。まあ、それもそうだろう。ギルドへの侵入を許すのは、戦線にとってはかなりの痛手になる。
「悪い勘は当たるもんだな。おそらく、ギルドはお前らの犠牲も覚悟で、トラップを稼働させているんだろ。どうせ俺らは死なないわけだしな」
「天使の侵入、か。ま、この状況はそうでしょうね。あなたがここにいるのも納得だわ」
ゆりが飄々と同意すると、椎名は「不覚……」と悔しそうに声を上げた。にしても、なんでこの場所をあいつは知ることが出来たのだろうか……。
「そんな……俺達がいるのに、ギルドはこんな真似をするのか⁉」
音無の言葉には、高松がクールに答える。
「あなたは桜木さんの話を聞いていなかったのですか。我々は死ぬことはありません」
「いや、そうだけどよ……」
大山が苦笑いを浮かべ、音無の言いたいことを代弁した。
「死ぬ痛みは味わうけどね」
「だから、それが嫌なんだが」
音無が伸びている野田を見て言う。まあ、誰だって痛いのは嫌だよな。
藤巻が俺を横目で見て、皮肉な声を出す。
「桜木がリークしたんじゃね―のか」
「今更そんなことするかよ。大体、ギルドが落ちれば、武器の補充が出来なくなるお前らは負ける。だから、わざわざここへ来たんだよ」
「味方するってのか?」
「ああ。今回は、な。どうせ天使を追うんだろ、ゆり?」
この勝負、立華が勝てば戦線は詰みだ。それだけは避けたい。
「どうする、ゆりっぺ?」
松下五段が問う。
「当然、進軍よ。トラップは一時的な足止めに過ぎない。天使を止めなければ、ギルドを失うことになる。そうなればあたし達は敗北よ。春斗くんの同行も許可する。これほどの緊急事態、戦力が多いに越したことはないわ」
「どうも」
俺は手を上げる。日向が「久しぶりに一緒に戦えるな」と笑みを浮かべた。
「あたしが先頭に立つ。ついてきなさい!」
ゆりが勇敢に言い放ち、音無が小声で「ちゃんと率先して行くんだな……」と感心していた。
まだ、信頼関係は出来ていないようだ。
「厄介なことに巻き込まれたな……これからどうなるんだ」
音無が銃を構えながら、げんなりと呟く。日向が辺りを警戒しながら、励ますように肩を軽く叩いた。
「怖いか?」
「まあな……さっきみたいなトラップが、まだあるわけだろ?」
「ああ。いろんなのがあるぜ、楽しみにしてな」
「全く楽しくないんだが……痛いのは嫌だぜ」
「まあまあ、安心しろ。俺が守ってやるからよ」
「ああ。頼んだよ……」
会って間もないはずだが、日向は音無を気に入っているのだろう。こまめに声をかけている傾向が見受けられた。
「日向、相変わらずの面倒見のよさだな」
俺がゆりに声をかけると「そうね」とゆりは淡泊とした返事を返した。その表情には緊張感が宿っている。まあ、今は緊急事態か。あんまり世間話は振らない方がいいかもな。
「んー。なにか忘れているような……」
大山が謎にフラグを立てるようなことを言う。
瞬間、がこん、という派手な音がした。
総員が背後を振り返る。天井から突如として現れた、巨大な鉄球が落ちた音であった。その鉄球はそのまま、なにかに強く押されたかのように、凄まじい勢いでこちらへ向かって転がってくる。
「まずい、走れ!」
椎名の号令と共に、総員が走り出す。
「なんだよ、あれ⁉」
音無が悲鳴交じりに声を上げる。大山がトラップの解説をする。
「ここは走り抜けないといけないトラップなんだ。あの鉄球に轢かれたらぺしゃんこだよ、すっかり忘れていた!」
「そんな重要なことを忘れるなよ⁉」
「音無くん、冷静なツッコミだね! 生前はお笑い芸人だったのかな?」
「んなこと言っている場合かあああああああ!」
鉄球の転がる速度は俺達の走る速度より早かった。暴走したトラックが追いかけて来るようなプレッシャー。壁にくっついても潰されるくらい、幅にも余裕がない。
「このままじゃ追いつかれて、みんなで仲良くサンドイッチだぞ! 回避方法は用意してないのか⁉」
俺が叫ぶと、藤巻が答えた。
「いや、ある! 壁に窪みがあったはずだ! それを探すしかねえ!」
日向が「どこだったか、もう覚えてねーぜ!」と叫ぶ。窪みか……一体、どこにそんなものが。
「――っ! あった⁉ あれか! ゆり、手を伸ばせ!」
二人ぐらいがギリギリ入れる窪みを見つけ、隣を走るゆりへ向かって叫ぶ。
「春斗くん!」
信頼して手を伸ばしたゆりを抱き寄せる。俺達は勢いよく窪みへと入り込んだ。柔らかな感触と、ゆりの良い香りが鼻を刺激した。鉄球は隣をものすごいスピードで通過していく。圧力は尋常じゃなかった。
「無事か?」
「ええ……ありがとう」
ゆりは顔を赤くしながら、俺の腕の中で礼を口にする。
「ちょ、ちょっと強く抱きしめすぎよ……」
「嫌か?」
「……別に、そういうわけじゃないわ。好きにしなさいよ。ちょっと気になっただけ」
「なら、好きにさせてもらう」
「もう。しょうがないんだから……」
ゆりが口ではそう言いながらも、こちらの腰に腕を伸ばしてぎゅっと抱きつき、大人しく俺の胸に顔をうずくめていた。
この辺りが回避スポットなのだろう。各々のメンバーが声を上げる。最後に日向が「音無、こっちだ!」と声を上がる。次に上がったのは高松の「うあああああああああああああ⁉」という断末魔だったので、助からなかったのだろう。
窪みから戦線メンバーが出てくる。高松の姿はやはり、見当たらない。
「高松くん以外は無事ね」
ゆりがメンバーを見て、第一に声を上げる。音無は鉄球が止まった辺りをじっと見据えた。
「グロテスクなことになっていそうだな……」
「先を急ぎましょう」
「助けないのか?」
さっさと先行するゆりに、音無は首を傾げた。
日向が音無の方を叩き「死ぬわけじゃない。大丈夫だ」とフォローした。
「……そうかもしれないけど。見捨てるのか。薄情だな、お前ら」
音無が棘のある言い方をする。
まだ、この世界での割り切り方に慣れていないのだろう。無理もない。
突如として、近未来的な通路が現れる。厳重な金属の扉が現れ、藤巻が電子ロックの解除を試みる。
「ちっ、面倒なセキュリティだぜ……」
藤巻が舌打ちをする。表示されている配電盤はまるでパズルのようで、複雑なものであった。ボタンを押すとガチャガチャと回路が変わるため、解除は可能なのだろうが、そのボタンも複数にあるため、組み合わせも必然的に多いことになる。脳死で押しまくっても正解に辿り着くことはないだろう。
「どう?」
ゆりの問いかけに、藤巻が答える。
「時間はかかるぜ。わりぃ」
「回路が全部通ればクリアなのよね?」
「だな。どういう組み合わせだったか……」
「とりあえず、全部押してみましょう。各ボタンでどこの回路が動くのか、覚えるのよ」
そんな無茶な。俺は辺りを見渡す。所々、気になるところがあった。なんというか、廊下の仕切りというか、緊急時に作動する扉のような……。
壁を触る。かちゃり、と薄い扉が開いた。中にはさらに、藤巻がいじっているのと同じ電子ロックの配電盤が現れる。
「まだあるのか?」
音無も興味を引かれ、こちらに来る。
「ああ。どういうことなんだ……?」
刹那、俺の予感が当たった。
ガシャン、ガシャン! という音と共に、さらに金属の扉が出現。俺は音無と共に、さらに狭い部屋へ閉じ込められた。
「なんだよ、いきなり⁉」
音無が悲痛な声を上げる。
「閉じ込められた⁉ みんな無事?」
ゆりが大きな声を上げる。多分、位置関係的には藤巻と閉じ込められているだろう。
そして、嫌な音がもう一つする。ギイイイイイン、という音と共に赤いレーザーが現れたのだ。
「なんだあれ⁉」
俺が叫ぶと、日向が大声を上げた。
「最高の切れ味で俺達を真っ二つにするトラップだ!」
そして、日向と共に閉じ込められた大山が叫ぶ。
「忘れてたよ! ここは閉じ込められるトラップなんだ! 各部屋に電子ロックの解除が出来る配電盤があるはずだよ!」
音無が舌打ちをしながら、俺と一緒に見ていた配電盤を見る。
「だから、そんな重要なこと忘れるなよ! 配電盤、これだよな?」
「ああ。あのレーザーを避けながら、このパズルを解けってことだろ」
「そんなの無茶だろ⁉」
「無茶だけど、やれなかったら俺達はミンチだ」
「さっきから食い物に例えるなよ⁉ 余計にこえーよ!」
第一波のレーザーはまっすぐな一本線。俺と音無はそれをよけ、ボタンを押す。縦に十個。横に十個。
「どうする?」
俺が音無に問いかける。
「桜木。ちょっと、貸してくれ」
音無が真剣な表情でボタンを押す。ガチャガチャ、とボタンを押す。その間にも訪れるのは、第二のレーザー。さっきと違い、二本線。さらに通過するスピードが速いため、回避の難易度が上がる。
「音無! ジャンプだ!」
「ああ!」
俺達は作戦通りにジャンプし、レーザーをやり過ごす。
俺はレーザーを観察。音無がボタンを押す。そんな役割分担になった。第三のレーザーが来る。
「音無、次は三本線だ」
「どうしろってんだ⁉」
「頭を下げろ! ジャンプはやめとけ、足がロールケーキみたいになる」
「だから食い物に例えるなよ⁉」
俺と音無は第三のレーザーをかいくぐる。
「待っていろ! 今、どのボタンでどの回路が動くかを覚えた!」
音無が頼もしいことを言う。
「本当か⁉」
「ああ! 記憶ねえけど、暗記が得意みたいだ!」
「生前は頭良かったのかもしれねえな……って⁉」
次のレーザーはX線であった。あんなもの、避けられねえぞ⁉
「音無! 時間がねえ! あれは避けられねえ!」
「任せろ! これとこれで……来た! 開いたぞ!」
扉が開く。俺達は慌てて外へと出た。
「春斗くん、音無くん!」
ゆりが声を上げる。藤巻が「よう」と手を上げた。二人は無事のようだ。
「ぜえ、ぜえ、さすがに死ぬかと思ったぜ……」
「音無くん達も抜けられたんだね!」
日向と大山も続く。
が、部屋の中から「ぐおおおおおおおおお⁉」「ohhhhhhhh!!!」という悲鳴が上がる。松下五段とTKは脱出出来なかったようだ。
「今頃部屋の中で、二人は仲良くミキサーか」
「だからやめてくれ、桜木……」
俺の冗談に、音無は顔を青ざめた。なにはともあれ、俺は音無のおかげで助かったな。ゆりがいきなり幹部にしただけあって、有能な人材のようだ。
数多のトラップを抜け、ギルドの奥深くへ進んでいく。新米の音無はさすがに弱音を吐き始めた。
「おい。いつになったら、ギルドに辿り着くんだ。もう限界だ……」
ゆりが励ますように、声を上げる。
「あと少しよ。頑張りなさい」
「クソ。本当に天使なんて来ているのかよ……」
瞬間、バゴン! という音と共に、足元の廊下が消えた。
「「「は?」」」
メンバーが一斉に目を丸くする。あったはずの金属の床は無く、その先は闇の底になっていた。
「忘れていたよ! ここは、床が抜けるトラップだ!」
「だからそんな重要なことを忘れるなああああ!」
「鋭くて冷静なツッコミだね! 生前はバラエティ番組のMCだったのかな?」
「それも今はどうでもいいだろおおおおおおおおお!」
大山のボケに、音無が全力で突っ込む。お前、余裕あるのかないのかどっちなんだよ。
浮遊感。椎名が即座になにか細工をし、一本の金属の柱からロープを投げる。いや、どっから出したそれ。
「掴め! 桜木!」
「ああ! 恩に着る――って、あだああああああああ⁉」
凄まじい重量感。まるで鉛をいくつも下にぶら下げているような感覚であった。
「なんだ、なにがどうなっている⁉」
俺の叫びに、椎名が答える。
「お前の下には三人ぶら下がっている」
「三人⁉ 多すぎだろ、ふざけんな! 腕ちぎれるっての!」
下にいるゆりが大声を上げる。
「春斗くん! 男の子でしょ、持ちこたえなさい!」
「無茶言うな⁉」
「あたしだって男二人抱えているのよ……⁉ 重すぎる!」
が、椎名も冷静に告げてくる。
「上にはわたしと藤巻の二人しかいない。ここでゆり達を失うのは、得策ではない」
「っっ⁉ くそ、わかったよ! わかりましたよ! だったら、早く上がってこい、一番下は誰だ!」
音無が大声を上げる。
「俺だ!」
が、ここで日向が声を上げる。
「俺と音無は落ちるか? 最悪、エース格の桜木とゆりっぺは残せる!」
「待て待て、勝手に決めるな!」
日向の非情な提案に、音無が叫ぶ。が、これにはゆりが怒声を上げた。
「いいから早く上がりなさい! もう限界よ!」
鍛えているとはいえ、ゆりも女の子だ。そう長くはもたないだろう。
「音無! 早く! お前にはさっき助けられた。俺はなんとか持ちこたえる! 助けられるなら、お前のことは助けたい!」
俺が声を上げる。音無は「わかった!」と言ってよじ登っていく。揺れでゆりが悲鳴を上げる。そして音無は途中で止まった。
「うううっ! ちょっと、早くしなさいよ!」
ゆりが悲鳴を上げながら、催促する。
「どこ掴めばいいんだよ⁉ つーか、その制服もうちょっと長く作れよ⁉ 不謹慎だろ!」
「どこ掴んでもいいわよ、あと変なとこ見てんじゃないわよ!」
「好きで見てねえよ、見えるんだ! クソ! ごめん、桜木!」
「何故俺に謝る⁉」
どうでもいいが、押し問答している間にこっちは大分筋肉が痛んできているんだが……⁉
音無が手際よく登っていく。ようやく一人分の重量が解放され、日向が登る。するとゆりが「きゃああ⁉ どこ触ってんのよ!」と言い放ち、日向を蹴り飛ばした。「うわああああああああ⁉」と日向が落下していく。なにしてんだよ、こいつら。
「……登るわよ」
疲弊した様子のゆりに俺が頷く。顔と顔が並ぶ。ゆりの端正な顔が目の前に近づき、形の良い唇がくっつきそうなところにあった。
「ありがとう、春斗くん」
「借り一つだぞ、お姫様」
「……ん♡」
「っ⁉」
ゆりが目を細めて、唇にキスをした。そして何事もなかったかのように、よじ登っていく。いやいや、今ので借りを返したつもりかよ。
「たく……」
俺は呆れながら、ロープを登る。
「大変だったな」
椎名に声をかけられ、俺が手を上げる。彼女の咄嗟の判断が、俺達を救ってくれたのだ。さすがの一言である。