※この作品はR-18です。

Angel Beats! ゆりルート   作:音有五角

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 音無ルートも復帰。なんだかんだオリジナル展開とオリ主なので、多分大丈夫。
 ただ不定期更新なので、ハーレム編と音無ルートは完結までいかないかもです。それでも良ければ、よろしくお願いいたします。



音無ルート 第二話「Guild 前編」

「全く。会長には困ったものです……」

 生徒会室。書記である直井が、腕を組みながらため息をついた。

 彼曰く、立華の姿がずっと見当たらないらしい。

 今日は重要な会議があるから、確かに困ったものなのだが……妙だな。あいつは生真面目な性格だし、滅多なことで欠席なんてしない。ましてや無断で。

「なにも聞いてないのか?」

「はい。せめて、時間までに戻ってくればいいのですが……」

「仕方ねえ。探しに行くとするか」

 俺が席を立ちあがる。直井が首を傾げた。

「心当たりがあるんですか?」

「……まあな」

 正直なところ、嫌な予感がしているのだ。

 今日はギルド降下作戦の決行日。

 そんな日に、立華がいないということは……これは、由々しき事態なのではないだろうか。

「副会長も、時間までに戻ってきてください」

「わかっている」

 頭の固いNPCである直井が、口酸っぱくそう言った。

 全く、これだから「組織」ってのは嫌なんだよな。縛られるのは好きじゃない。

 

 

 生徒会副会長、という立場を利用することで、俺は戦線のサポートをしている。没収品の横流しをしたり、ギルドの地下施設の製造にも協力した。体育館に隠し通路を用意出来るよう手引きもしたし、今日が決行日なのも、体育館を使われる予定がないのを確認したからだ。

 そんな諸々のサポートをしつつ、立華の動きの報告もしている。今回のことも言う必要があるだろう。それに……こうなってくると、やらなければならないことが出てくる。俺はハンドガンとナイフを携帯し、地下へ降りる。その数十分後、戦線メンバーが降りて来た。

「貴様。何故、ここにいる」

 野田がハルバートの切っ先を向けてくる。

「相変わらずの剣呑さだな」

 俺が呆れながら、ため息をつく。音無が首を傾げた。

「どうして桜木がいるんだ?」

 質問には、ゆりが答える。

「彼は中立だけど、戦線に協力しているのよ。ギルドの創立にも、副会長という立場を利用してサポートしている。故に、ギルドの所在も把握しているのよ」

「へえ……場所を天使にバラされたりしないのか?」

「リスクを覚悟の上で、協力関係になっているのよ。現に、生徒会という公式な組織からサポートを得られるのは、大きいもの」

「そういうものなのか……」

「彼の目的はこの世界のバランスを保つことよ。今は天使が優勢だから、戦力的には戦線のサポートをしていることが多いわね」

 ピンと来ていない音無は、どこか淡泊とした相槌をうった。

 野田はハルバートを振り回しながら、俺に近づいた。

「ふん。桜木 春斗、今ここで決着をつけ――」

 よう、という言葉は続かなかった。

 大きなハンマーが、横殴りに野田を吹っ飛ばしたからだ。凄まじい勢いで壁に押し付けられ、野田の体はぺちゃんこになる。

「総員、臨戦態勢!」

 ゆりの号令により、各々が武器を構える。音無だけがピンと来てなくて棒立ちしていたが、日向が首を掴んで腰を低くさせた。

「な、何事だ……?」

「見ての通りだ。野田が対天使用のトラップにやられた」

「トラップは解除したんじゃないのか? この間、ゆりが連絡していたじゃないか」

 音無の問いかけに、俺が答える。

「それなんだがな。悪い知らせがある。立華はここへ辿り着いている可能性がある。放課後から、生徒会メンバーが立華を誰も見かけていないんだ」

「「「っ⁉」」」

 戦線メンバーが息を飲む。まあ、それもそうだろう。ギルドへの侵入を許すのは、戦線にとってはかなりの痛手になる。

「悪い勘は当たるもんだな。おそらく、ギルドはお前らの犠牲も覚悟で、トラップを稼働させているんだろ。どうせ俺らは死なないわけだしな」

「天使の侵入、か。ま、この状況はそうでしょうね。あなたがここにいるのも納得だわ」

 ゆりが飄々と同意すると、椎名は「不覚……」と悔しそうに声を上げた。にしても、なんでこの場所をあいつは知ることが出来たのだろうか……。

「そんな……俺達がいるのに、ギルドはこんな真似をするのか⁉」

 音無の言葉には、高松がクールに答える。

「あなたは桜木さんの話を聞いていなかったのですか。我々は死ぬことはありません」

「いや、そうだけどよ……」

 大山が苦笑いを浮かべ、音無の言いたいことを代弁した。

「死ぬ痛みは味わうけどね」

「だから、それが嫌なんだが」

 音無が伸びている野田を見て言う。まあ、誰だって痛いのは嫌だよな。

 藤巻が俺を横目で見て、皮肉な声を出す。

「桜木がリークしたんじゃね―のか」

「今更そんなことするかよ。大体、ギルドが落ちれば、武器の補充が出来なくなるお前らは負ける。だから、わざわざここへ来たんだよ」

「味方するってのか?」

「ああ。今回は、な。どうせ天使を追うんだろ、ゆり?」

 この勝負、立華が勝てば戦線は詰みだ。それだけは避けたい。

「どうする、ゆりっぺ?」

 松下五段が問う。

「当然、進軍よ。トラップは一時的な足止めに過ぎない。天使を止めなければ、ギルドを失うことになる。そうなればあたし達は敗北よ。春斗くんの同行も許可する。これほどの緊急事態、戦力が多いに越したことはないわ」

「どうも」

 俺は手を上げる。日向が「久しぶりに一緒に戦えるな」と笑みを浮かべた。

「あたしが先頭に立つ。ついてきなさい!」

 ゆりが勇敢に言い放ち、音無が小声で「ちゃんと率先して行くんだな……」と感心していた。

 まだ、信頼関係は出来ていないようだ。

 

 

「厄介なことに巻き込まれたな……これからどうなるんだ」

 音無が銃を構えながら、げんなりと呟く。日向が辺りを警戒しながら、励ますように肩を軽く叩いた。

「怖いか?」

「まあな……さっきみたいなトラップが、まだあるわけだろ?」

「ああ。いろんなのがあるぜ、楽しみにしてな」

「全く楽しくないんだが……痛いのは嫌だぜ」

「まあまあ、安心しろ。俺が守ってやるからよ」

「ああ。頼んだよ……」

 会って間もないはずだが、日向は音無を気に入っているのだろう。こまめに声をかけている傾向が見受けられた。

「日向、相変わらずの面倒見のよさだな」

 俺がゆりに声をかけると「そうね」とゆりは淡泊とした返事を返した。その表情には緊張感が宿っている。まあ、今は緊急事態か。あんまり世間話は振らない方がいいかもな。

「んー。なにか忘れているような……」

 大山が謎にフラグを立てるようなことを言う。

 瞬間、がこん、という派手な音がした。

 総員が背後を振り返る。天井から突如として現れた、巨大な鉄球が落ちた音であった。その鉄球はそのまま、なにかに強く押されたかのように、凄まじい勢いでこちらへ向かって転がってくる。

「まずい、走れ!」

 椎名の号令と共に、総員が走り出す。

「なんだよ、あれ⁉」

 音無が悲鳴交じりに声を上げる。大山がトラップの解説をする。

「ここは走り抜けないといけないトラップなんだ。あの鉄球に轢かれたらぺしゃんこだよ、すっかり忘れていた!」

「そんな重要なことを忘れるなよ⁉」

「音無くん、冷静なツッコミだね! 生前はお笑い芸人だったのかな?」

「んなこと言っている場合かあああああああ!」

 鉄球の転がる速度は俺達の走る速度より早かった。暴走したトラックが追いかけて来るようなプレッシャー。壁にくっついても潰されるくらい、幅にも余裕がない。

「このままじゃ追いつかれて、みんなで仲良くサンドイッチだぞ! 回避方法は用意してないのか⁉」

 俺が叫ぶと、藤巻が答えた。

「いや、ある! 壁に窪みがあったはずだ! それを探すしかねえ!」

 日向が「どこだったか、もう覚えてねーぜ!」と叫ぶ。窪みか……一体、どこにそんなものが。

「――っ! あった⁉ あれか! ゆり、手を伸ばせ!」

 二人ぐらいがギリギリ入れる窪みを見つけ、隣を走るゆりへ向かって叫ぶ。

「春斗くん!」

 信頼して手を伸ばしたゆりを抱き寄せる。俺達は勢いよく窪みへと入り込んだ。柔らかな感触と、ゆりの良い香りが鼻を刺激した。鉄球は隣をものすごいスピードで通過していく。圧力は尋常じゃなかった。

「無事か?」

「ええ……ありがとう」

 ゆりは顔を赤くしながら、俺の腕の中で礼を口にする。

「ちょ、ちょっと強く抱きしめすぎよ……」

「嫌か?」

「……別に、そういうわけじゃないわ。好きにしなさいよ。ちょっと気になっただけ」

「なら、好きにさせてもらう」

「もう。しょうがないんだから……」

 ゆりが口ではそう言いながらも、こちらの腰に腕を伸ばしてぎゅっと抱きつき、大人しく俺の胸に顔をうずくめていた。

 この辺りが回避スポットなのだろう。各々のメンバーが声を上げる。最後に日向が「音無、こっちだ!」と声を上がる。次に上がったのは高松の「うあああああああああああああ⁉」という断末魔だったので、助からなかったのだろう。

 

 

 窪みから戦線メンバーが出てくる。高松の姿はやはり、見当たらない。

「高松くん以外は無事ね」

 ゆりがメンバーを見て、第一に声を上げる。音無は鉄球が止まった辺りをじっと見据えた。

「グロテスクなことになっていそうだな……」

「先を急ぎましょう」

「助けないのか?」

 さっさと先行するゆりに、音無は首を傾げた。

 日向が音無の方を叩き「死ぬわけじゃない。大丈夫だ」とフォローした。

「……そうかもしれないけど。見捨てるのか。薄情だな、お前ら」

 音無が棘のある言い方をする。

 まだ、この世界での割り切り方に慣れていないのだろう。無理もない。

 

 

 突如として、近未来的な通路が現れる。厳重な金属の扉が現れ、藤巻が電子ロックの解除を試みる。

「ちっ、面倒なセキュリティだぜ……」

 藤巻が舌打ちをする。表示されている配電盤はまるでパズルのようで、複雑なものであった。ボタンを押すとガチャガチャと回路が変わるため、解除は可能なのだろうが、そのボタンも複数にあるため、組み合わせも必然的に多いことになる。脳死で押しまくっても正解に辿り着くことはないだろう。

「どう?」

 ゆりの問いかけに、藤巻が答える。

「時間はかかるぜ。わりぃ」

「回路が全部通ればクリアなのよね?」

「だな。どういう組み合わせだったか……」

「とりあえず、全部押してみましょう。各ボタンでどこの回路が動くのか、覚えるのよ」

 そんな無茶な。俺は辺りを見渡す。所々、気になるところがあった。なんというか、廊下の仕切りというか、緊急時に作動する扉のような……。

 壁を触る。かちゃり、と薄い扉が開いた。中にはさらに、藤巻がいじっているのと同じ電子ロックの配電盤が現れる。

「まだあるのか?」

 音無も興味を引かれ、こちらに来る。

「ああ。どういうことなんだ……?」

 刹那、俺の予感が当たった。

 ガシャン、ガシャン! という音と共に、さらに金属の扉が出現。俺は音無と共に、さらに狭い部屋へ閉じ込められた。

「なんだよ、いきなり⁉」

 音無が悲痛な声を上げる。

「閉じ込められた⁉ みんな無事?」

 ゆりが大きな声を上げる。多分、位置関係的には藤巻と閉じ込められているだろう。

 そして、嫌な音がもう一つする。ギイイイイイン、という音と共に赤いレーザーが現れたのだ。

「なんだあれ⁉」

 俺が叫ぶと、日向が大声を上げた。

「最高の切れ味で俺達を真っ二つにするトラップだ!」

 そして、日向と共に閉じ込められた大山が叫ぶ。

「忘れてたよ! ここは閉じ込められるトラップなんだ! 各部屋に電子ロックの解除が出来る配電盤があるはずだよ!」

 音無が舌打ちをしながら、俺と一緒に見ていた配電盤を見る。

「だから、そんな重要なこと忘れるなよ! 配電盤、これだよな?」

「ああ。あのレーザーを避けながら、このパズルを解けってことだろ」

「そんなの無茶だろ⁉」

「無茶だけど、やれなかったら俺達はミンチだ」

「さっきから食い物に例えるなよ⁉ 余計にこえーよ!」

 第一波のレーザーはまっすぐな一本線。俺と音無はそれをよけ、ボタンを押す。縦に十個。横に十個。

「どうする?」

 俺が音無に問いかける。

「桜木。ちょっと、貸してくれ」

 音無が真剣な表情でボタンを押す。ガチャガチャ、とボタンを押す。その間にも訪れるのは、第二のレーザー。さっきと違い、二本線。さらに通過するスピードが速いため、回避の難易度が上がる。

「音無! ジャンプだ!」

「ああ!」

 俺達は作戦通りにジャンプし、レーザーをやり過ごす。

 俺はレーザーを観察。音無がボタンを押す。そんな役割分担になった。第三のレーザーが来る。

「音無、次は三本線だ」

「どうしろってんだ⁉」

「頭を下げろ! ジャンプはやめとけ、足がロールケーキみたいになる」

「だから食い物に例えるなよ⁉」

 俺と音無は第三のレーザーをかいくぐる。

「待っていろ! 今、どのボタンでどの回路が動くかを覚えた!」

 音無が頼もしいことを言う。

「本当か⁉」

「ああ! 記憶ねえけど、暗記が得意みたいだ!」

「生前は頭良かったのかもしれねえな……って⁉」

 次のレーザーはX線であった。あんなもの、避けられねえぞ⁉

「音無! 時間がねえ! あれは避けられねえ!」

「任せろ! これとこれで……来た! 開いたぞ!」

 扉が開く。俺達は慌てて外へと出た。

「春斗くん、音無くん!」

 ゆりが声を上げる。藤巻が「よう」と手を上げた。二人は無事のようだ。

「ぜえ、ぜえ、さすがに死ぬかと思ったぜ……」

「音無くん達も抜けられたんだね!」

 日向と大山も続く。

 が、部屋の中から「ぐおおおおおおおおお⁉」「ohhhhhhhh!!!」という悲鳴が上がる。松下五段とTKは脱出出来なかったようだ。

「今頃部屋の中で、二人は仲良くミキサーか」

「だからやめてくれ、桜木……」

 俺の冗談に、音無は顔を青ざめた。なにはともあれ、俺は音無のおかげで助かったな。ゆりがいきなり幹部にしただけあって、有能な人材のようだ。

 

 

 数多のトラップを抜け、ギルドの奥深くへ進んでいく。新米の音無はさすがに弱音を吐き始めた。

「おい。いつになったら、ギルドに辿り着くんだ。もう限界だ……」

 ゆりが励ますように、声を上げる。

「あと少しよ。頑張りなさい」

「クソ。本当に天使なんて来ているのかよ……」

 瞬間、バゴン! という音と共に、足元の廊下が消えた。

「「「は?」」」

 メンバーが一斉に目を丸くする。あったはずの金属の床は無く、その先は闇の底になっていた。

「忘れていたよ! ここは、床が抜けるトラップだ!」

「だからそんな重要なことを忘れるなああああ!」

「鋭くて冷静なツッコミだね! 生前はバラエティ番組のMCだったのかな?」

「それも今はどうでもいいだろおおおおおおおおお!」

 大山のボケに、音無が全力で突っ込む。お前、余裕あるのかないのかどっちなんだよ。

 浮遊感。椎名が即座になにか細工をし、一本の金属の柱からロープを投げる。いや、どっから出したそれ。

「掴め! 桜木!」

「ああ! 恩に着る――って、あだああああああああ⁉」

 凄まじい重量感。まるで鉛をいくつも下にぶら下げているような感覚であった。

「なんだ、なにがどうなっている⁉」

 俺の叫びに、椎名が答える。

「お前の下には三人ぶら下がっている」

「三人⁉ 多すぎだろ、ふざけんな! 腕ちぎれるっての!」

 下にいるゆりが大声を上げる。

「春斗くん! 男の子でしょ、持ちこたえなさい!」

「無茶言うな⁉」

「あたしだって男二人抱えているのよ……⁉ 重すぎる!」

 が、椎名も冷静に告げてくる。

「上にはわたしと藤巻の二人しかいない。ここでゆり達を失うのは、得策ではない」

「っっ⁉ くそ、わかったよ! わかりましたよ! だったら、早く上がってこい、一番下は誰だ!」

 音無が大声を上げる。

「俺だ!」

 が、ここで日向が声を上げる。

「俺と音無は落ちるか? 最悪、エース格の桜木とゆりっぺは残せる!」

「待て待て、勝手に決めるな!」

 日向の非情な提案に、音無が叫ぶ。が、これにはゆりが怒声を上げた。

「いいから早く上がりなさい! もう限界よ!」

 鍛えているとはいえ、ゆりも女の子だ。そう長くはもたないだろう。

「音無! 早く! お前にはさっき助けられた。俺はなんとか持ちこたえる! 助けられるなら、お前のことは助けたい!」

 俺が声を上げる。音無は「わかった!」と言ってよじ登っていく。揺れでゆりが悲鳴を上げる。そして音無は途中で止まった。

「うううっ! ちょっと、早くしなさいよ!」

 ゆりが悲鳴を上げながら、催促する。

「どこ掴めばいいんだよ⁉ つーか、その制服もうちょっと長く作れよ⁉ 不謹慎だろ!」

「どこ掴んでもいいわよ、あと変なとこ見てんじゃないわよ!」

「好きで見てねえよ、見えるんだ! クソ! ごめん、桜木!」

「何故俺に謝る⁉」

 どうでもいいが、押し問答している間にこっちは大分筋肉が痛んできているんだが……⁉

 音無が手際よく登っていく。ようやく一人分の重量が解放され、日向が登る。するとゆりが「きゃああ⁉ どこ触ってんのよ!」と言い放ち、日向を蹴り飛ばした。「うわああああああああ⁉」と日向が落下していく。なにしてんだよ、こいつら。

「……登るわよ」

 疲弊した様子のゆりに俺が頷く。顔と顔が並ぶ。ゆりの端正な顔が目の前に近づき、形の良い唇がくっつきそうなところにあった。

「ありがとう、春斗くん」

「借り一つだぞ、お姫様」

「……ん♡」

「っ⁉」

 ゆりが目を細めて、唇にキスをした。そして何事もなかったかのように、よじ登っていく。いやいや、今ので借りを返したつもりかよ。

「たく……」

 俺は呆れながら、ロープを登る。

「大変だったな」

 椎名に声をかけられ、俺が手を上げる。彼女の咄嗟の判断が、俺達を救ってくれたのだ。さすがの一言である。

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