※この作品はR-18です。

Angel Beats! ゆりルート   作:音有五角

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音無ルート 第二話「Guild 後編」

 波乱のギルド降下作戦は過酷を極めた。「次はてめえの番だぜ」(遺言)となった溺死の藤巻、溺れている小犬を助けようと水流に呑まれた椎名、と無事に最深部へ辿り着いたものの、メンバーは俺、音無、ゆりの三人のみとなってしまう。

 薄暗い通路。どこかかび臭く、じめっとしていた。少し不快感のある空間だ。俺達はその中を黙々と歩く。心なしか空気感重い。

「ちょっと休んでいかないか? さすがに疲れたぜ」

 音無が空気を和らげようとしたのか、そんなことを言う。

「そうね。服も乾かしたいわ」

 俺達は通路の脇道に並び、座り込む。ゆりは重いため息をついた。

「生き残ったメンバーは音無くんだけ。本当の軍隊なら全滅。ひどいリーダーね、あたしは……」

 ゆりらしくない、弱音を吐いた。

「珍しいじゃねえか。お前が落ち込むなんて。明日は大雪か?」

 俺が冷やかすように言うも、ゆりはなにも言い返さなかった。いつもなら「なによ、失礼な奴ね」と怒りそうなものなんだがな。

 今回の結果に思うところがあるのだろう。こいつにはこいつなりの、リーダーとしての自覚とこだわりがある。上手くいっていなくて、悔しいのだろう。

「服、絞ってくるわ。あんた達はここにいて」

 ゆりがその場から離れる。

 まあ、今は一人にさせた方がいいだろうな。反省なりなんなり、色々と考えることがあるだろうからな。

「……ゆり、大丈夫だろうか」

 音無が不安げに問いかけてくる。俺は頷いた。

「ああ、心配するな。あいつはすぐに、立ち直る」

「信頼しているんだな」

「もう長年一緒にいるからな。ゆりの強さは知っている」

「……なあ。やっぱり、好きなのか? ゆりのこと」

 音無の問いに、思わず少し笑ってしまった。

「そうだな。ただ……」

「ただ?」

「俺はな、あいつを救ってやれないんだ。そういう力が……ないんだ」

「どういうことだ?」

「音無。いずれわかるだろうが……ゆりの復讐心はとんでもなくデカい。それも、俺達が想像出来ないくらいに。あいつは本気で、神への復讐を誓っている。その最前線に、立ち続けている。何十年も、ずっと、ずっとだ」

 その背中を見て来た。

 ただ、見続けることしか出来なかった。

「俺が戦線に入らない理由は、神への復讐が本当にゆりを救うことになるのか、わからないからだ。ゆりだけじゃない。戦線のみんなそうだ。忌まわしい記憶抱えてさ。復讐することが、本当にスッキリすることなのかって。それがわからねえんだ。納得いかないんだ」

「……桜木」

「それに、立華……天使、いるだろ。人間じゃない奴に同情するのも変だけどよ、あいつもさ、悪い奴じゃねえんだ。むしろ、ものすごい心の優しい持ち主でさ……だから、悲しくなったんだ。この抗争が。戦線も、立華も、ゆりも……誰も悪くねえのに。どうしてこいつらは、こんな苦しみながら、戦わなきゃいけねえんだろうって」

 俺は空っぽで、紛い物だ。

 だから信念がない。

 ずっと答えが出せないで、迷ったままなんだ。

「俺は、この世界に迷い込んだ魂が幸せになれるように、祈っている。それだけの小さな存在なんだ」

 沈黙が降りる。

 やがて、音無が口を開いた。

「お前、良い奴なんだな」

「そうか?」

「ああ。そんなに苦悩するほど、この世界で戦っているみんなや、そしてゆりを……大切に思っている。良い奴だろ」

「そう言ってもらえたら、ちょっとは嬉しいな」

 でも、良い奴なだけじゃ、誰も救えない。

 この世界の奴らは、忌まわしい生前の記憶に捉われている。

 彼らを救うのは、そう容易なことじゃないのだ。

「――さて。二人とも、行きましょう」

 と、ここで戻ってきたゆりが声を上げた。

 頭をリセット出来たのか、少しだけ声音が明るくなっている。

「行くか、音無」

「ああ。行こう」

 俺達は我らが大将、ゆりの後をついて行った。

 

 

 遠くでトラップの音がした。天使が近くにいる。そう思った俺達は足早に、さらに地下深くへと降りていく。

「この辺りは構造も複雑。そう簡単にはギルドへ辿り着けないはずよ」

 ゆりはそう言いながら、俺達を先導していく。

 やがて辿り着いたのは、重々しい金属の扉であった。音無が「マジで秘密のアジトって感じだよな……」と感想をこぼす。俺もここまで来るのは初めてだ。

 梯子を降りると、驚くべき光景が広がった。工場地帯とも言うべき、大仰な機械の施設が広がっていたからだ。まるで大企業が展開する、生産ラインである。

「ここがギルドか……すげえな」

 梯子を降りながら俺が思わずそう感想をこぼすと、ゆりが首を傾げる。

「あら。あなた、初めてだったかしら」

「まあな。これだけの設備があれば、武器は余るぐらい作れるな」

「ええ。長い年月をかけて、作ったんだもの。しかも現在、ギルドのメンバーは総勢十五名。質・生産スピードは共に高レベルにして最高水準よ」

「まるで本物の軍隊だな……」

 さすがだが、末恐ろしい。音無も言葉を失っていた。

 辿り着いた金属の階段を降りていく。すると作業着姿の若者たちが、あっという間にゆりの元へと集まっていく。

「マジか! よく辿り着いたな!」

「さすがだ!」

「すげえ! やっぱり、ゆりっぺは最高のリーダーだぜ!」

 口早にゆりを褒めたたえる。ちなみに俺と音無は完全にスルーされている。まあ、新人と部外者だしな。なんだこいつらって感じだろう。というか実際、ちょっと怪しんでいる視線を感じている。まあ絵面的にも、美少女について来ている野暮ったい野郎だしな。仕方ないだろう。

「気まずいな」

 俺が音無に耳打ちすると、「ああ……せめて日向とかが、いてくれたらな」と居心地の悪さを共有した。

 そして再び、上から大きな物音がする。トラップの音。立華はどんどん近づいていた。あいつ、かかっても大してダメージ受けてねえな。まあ、だろうなと思ったけど、あいつを本気で止めるなら、大型ミサイルでも用意しないと不可能だ。

「ここは破棄するわよ」

 ゆりの発表に、ギルドメンバーがざわついた。

 俺と音無も顔を見合わせる。

 破棄って。じゃあ俺達、なんのためにここまで来たんだよ?

「武器を作るのは記憶よ。この世界においてはね。故に、この施設は破棄する。いいわね?」

 この世界にはとある「隙」がある。

 それは生前に記憶している「物」を作れる、ということだ。強い願い・思い・記憶、知識や経験などがあれば、土塊からだって「物」を作れる。

 つまり、ゆり達が使っている銃も元をたどればこの世界の「土」だ。錬金術みたいなもので、なんでも出来るわけではないが、強い心があればある程度、なんでも作れるというのがこの世界の「隙」なのである。

 なんでそんな風に神がこの世界を創造したのかは不明だが、とにかくここはそういう場所なのだ。

 故に、ゆりは「ギルド」を作った。

 そうしたモノづくりが得意な職人を集め、武器の生産ラインを確保したのだ。

「ゆりはこの施設じゃなくて、ギルドのメンバーと合流したかったんだな」

 音無の言葉に、俺は頷いた。

「みたいだな。とすると、ここからやることは一つだな」

「なんだ?」

「逃亡戦。立華に捕まったらアウトだ。ギルドが解体される」

「つまり、時間稼ぎか……出来るのか?」

「さあな。なにか作戦があるといいが……立華は気合で止められる相手じゃない」

 俺達がそんな会話をしていると、一人の大柄な男が現れた。

「持っていくものは「記憶」と職人として「プライド」だ。そうだろ、お前ら?」

 懐かしい顔だった。高校生とは思えない貫禄、髭面。チャーである。

 彼はギルドのリーダーだ。チャーの言葉には強いカリスマ性があり、メンバーは「はい!」「おっす!」「よし! やってやる!」と力強い返事をした。

 俺達が喋っている間に、ゆりとチャーとギルドメンバーの話はまとまったようである。チャーが俺に気がつき、手を振った。

「珍しいな。桜木夫婦か」

「夫婦⁉」

 音無が声を上げる。ゆりがため息をつく。

「余計なこと言わないでちょうだい」

「ははは。ゆりっぺも桜木も元気そうでなによりだ」

 そんな呑気な世間話をしている間にも、トラップの音が鳴る。ゆりは銃を構えた。

「チャー、トラップの解除と爆破の準備を」

「ああ。行くのか?」

「ええ。時間を稼ぎに行くわ。春斗くん! 来なさい!」

 否とは言わせない大声。俺は「ああ」と返事をして、ゆりの後をついて行った。

「音無はどうする?」

「行くよ。ここにいても、俺に出来ることはない」

「わかった。でも、無理はするなよ。ここから先の戦いは、壮絶なものになる」

「……二人だけで、あの天使と戦うのか?」

「ああ。よく見ておけよ。お前らの……戦線の敵が、どれだけ強大かってことが、わかる」

 俺の言葉に、音無はこくりと神妙に頷いた。

 

 

 大仰な通路の奥。最終防衛ラインを突破した立華が、光放つハンドソニックを手に歩いて来る。まあ、やっぱこいつだよな。

 ゆりが銃を構える。が、俺はそれを手で制する。

「ちょっと」

「いいから、待ってくれ。万が一にも、戦いが回避出来るに越したことはねえだろ」

「……はあ。じゃあ、やってみなさいよ」

「ああ」

 俺は頷き、立華へ向けて声を上げる。

「立華!」

「あら、桜木くん」

「生徒会メンバーが探していたぞ」

「……あたしを連れ戻しにきたの?」

「まあな」

「でも、ここは危険な仕掛けがいっぱい。放置するわけにはいかないわ」

 トラップの連続に、さすがの立華も無傷ではいなかった。体には傷があり、制服は汚れきっている。

「お引き取りは不可能か。見逃してくれよ。ここは、クラスSSSの拠点なんだ」

「それなら、尚更放置は出来ないわ」

 くそ。話は平行線。結局、こうなるのかよ。

「春斗くん。もういいわ」

「ああ。ゆり、俺が前に出る。お前は援護しろ」

「え⁉ ちょっと、あたしがリーダーよ! 命令するのはこっち――って、おい!」

 俺がナイフを取り出し、立華へ飛び掛かる。立華もそれに応対し、凄まじいスピードでハンドソニックを振り上げる。だが、俺もそれに応じてナイフを振る。異能の刃と金属の刃がぶつかり合う、耳を震わせる甲高い音が鳴り響く。

「すげえ。なんて身体能力だ。あの天使とやり合うなんて」

 音無が目を丸くする。

「たく、もう! 無茶して!」

 ゆりは銃を撃った。銃弾は立華の肩をかすめた。もう一発。今度は、太ももをかすめた。音無が青ざめて声を上げる。

「待て、ゆり! 桜木に当たるぞ!」

「平気よ。何年あいつと一緒に稽古したと思っているのよ。動きと考えていることは熟知している。万が一にも当てることなんてないわよ!」

「どんだけ阿吽の呼吸なんだよ⁉」

 音無のツッコミを聞きつつ、立華と白兵戦を繰り広げる。ナイフが当たったと思った刹那、立華が光の粒子となって消える。

 ガードスキル、ディレイ。

 残像を残し、こちらの攻撃のミスを誘うスキルだ。

 戦線が白兵戦を断念した理由だ。これがある限り、接近戦で攻撃を当てるのはほぼ不可能に近い。

「くそ! お前だけ異能バトルの世界観持ち出しやがって!」

「異能バトル……!」

「なにちょっと喜んでんだよ、この天然が!」

 が、ふざけている余裕はなかった。立華のハンドソニックが俺の右の太ももに突き刺さる。激痛が右の太ももに走る。

「ぐっ、がああ!」

 思わず、声が上がる。くそ、俺が出来る時間稼ぎもここまでか。ゆりの支援があったのに。さすがに、生前と比べると腕が鈍ってやがる。あの時くらいに動けたら、もうちょっと粘れたんだがな。

「桜木!」

 音無が声を上げながら、立華にタックルする。立華は体勢を崩し、その場で倒れた。

「音無くん! 春斗くん!」

 ゆりが声を上げる。

 瞬間、ギルドメンバーの声が上がった。

「三人共、引くんだ! どでかいのいくぜえええええ!」

 振り返る。そこには大仰な大砲があった。

 立華を止めるには大型ミサイルが必要だとは言ったが……マジでそれ並みの武器じゃねえか⁉ つーか、あんなの本当に動くのか⁉

「やるじゃない、あんた達!」

 ゆりが素直に賞賛する。いやいや、待て。俺は顔を青ざめる。

「あれ本当に大丈夫なのか⁉ 誤動作して俺らもろとも爆破されたら元も子もねえぞ! 生前にあんなトンデモ機械なんてねえだろ! お前、さっき言っただろ! 作れるのは記憶にあるものだって」

「あれ……ってことは?」

 音無が首を傾げる。

 瞬間、大砲は見事なまでに爆発した。ギルドメンバーがコントのオチのように吹っ飛ぶ。

 一人のメンバーが「適当に作ったが、やっぱダメかあ……」と舌を出す。

 職人にして天才肌なギルドメンバーが故、トンデモ兵器を好奇心で作ったのだろう。

「「適当に作るなああああああ!」」

 音無とゆりが同時にツッコミを入れた。いよいよ新米の音無が戦線のツッコミ役として定着している。

「ゆりっぺ、音無、桜木! 爆破の準備が完了した。こっちだ!」

 チャーが俺達を呼ぶ。

 だが、俺は右足が動かない。立華が起き上がり始める。

 爆破か。残念だが、俺は立華と運命共同体ってところになりそうだな。

「お前らは行け。なに、死にはしない」

 俺が言うも、音無とゆりはすぐに駆けつけてくれた。

「なに言ってんだ、桜木! 俺はお前を助ける!」

「春斗くん、肩貸しなさい! 片足で走るのよ!」

 音無とゆりの肩を借り、チャーの元へ駆ける。コンクリートで固めた脱出口があり、俺達はそこへ避難。扉を閉め、チャーがゆりを見やった。

「本当に、これで最後になる。いいな?」

「ええ。よろしく」

 チャーの最終確認に、ゆりが頷く。

「――爆破!」

 チャーはスイッチを押し、ギルドが爆破。

 地面の奥から揺らす、凄まじい爆音と共に、戦いは幕を閉じた。

 

 

 オールドギルド、と呼ばれる、ギルドと比べると土しかない殺風景な地下に、俺達は移動した。トラップから復帰した戦線メンバーをピンピンした様子で合流してくる。音無も不慣れな様子で、武器の回収をしていた。俺は成り行きで来てしまったが、特にやることもない。隅で座って、足の怪我を癒した。

「……不覚。貴様が代わりにゆりを守ることになるなんて」

 椎名が武器を回収し終えた後、そんなことを俺に言ってきた。相変わらずの忠誠心である。

「ま、結果は見ての通りだがな」

「あの天使と戦えただけでも、十分な戦果だ……それに引き換え、わたしは途中でリタイヤだ」

 リタイヤっつーか、あのトラップは対椎名用なんじゃないのか。そうとしか思えねえくらいピンポイントなトラップだったぞ?

「悔しいのか?」

「ああ。さらに、あの新入りにまでも遅れをとるとは……何故だ。一体、なにが今のわたしには足りないんだ……」

 椎名がブツブツ呟きながら立ち去る。よほど悔しいようだ。また訓練に力が入ることだろう。頼もしい限りだ。まあ椎名の場合、もうこれ以上強くなっても、あまり意味はないような気がするが……。

「よし! じゃあ上がるわよ、お前ら!」

 回収作業を終えたゆりがみんなに声をかける。俺もなんとか立ち上がり、メンバーへついて行く。するとチャーが俺とゆりの頭をわっしゃと撫でた。

「じゃあな。二人共、仲良くな」

 周りの視線を集める。俺とゆりが顔を赤くした。

「注目されるんだが」

「ちょっと、チャー……」

 音無がその光景を不思議そうに見る。日向が小声で耳打ちをした。

「チャーが二人のエンゲージリングを作ったって、噂があるんだぜ?」

「……阿吽の呼吸ってか、おしどり夫婦じゃねーか」

 どこかげんなりとした声を、音無は出したのであった。

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