日向が椎名、音無が野田、俺がNPCの鈴木という人物を連れて来て、メンバーはなんとか六人となる。そして元々のメンバーである村田もなんとか説き伏せて、メンバーとして継続。そしてガルデモが連れて来たのが、陽動班の下っ端ことゆいであった。だが、日向は初対面だったようで「こいつ使い物になるのか……?」と、いきなり失礼なことを口走る。
「ゆいっていいます。よろしくお願いしまっす!」
どういう仕組みか、悪魔の尻尾が犬のようにぶんぶん揺れている。
日向が納得したように、ぽん、と手を叩いた。
「当たり屋か! デッドボールを頭で受けて、血まみれになって死ねば、危険球退場を狙える! なんて素晴らしい作戦だ!」
「んなわけあるかあああああああ! あたしはエースで四番じゃああああい!」
「ぐは!」
日向がゆいのハイキックで吹っ飛ぶ。
「お前……俺、先輩だからな……」
「ええー?」
「ええー、じゃねえよ! 慕えよ、敬えよ!」
「おっと、これは失礼しました。先輩のお脳みそ、おとろけになったんじゃねーのか?」
「おをつければいいもんじゃねえええええええええ! あと終わりに至っては素に戻っているじゃねえかあああああああああああ!」
「ぎゃああああああああああ!」
今度は日向がゆいを蹴り飛ばす。
なに初対面でじゃれ合っているの、こいつら。相性良いのか?
「――桜木。決着をつける時が来たようだな」
野田がハルバート切っ先を向ける。音無が慌てて間に入る。
「待て待て⁉ 野田、野球の成績で勝負しようぜ? 今回は。な?」
「ふん。貴様がそう言うのなら、そうしよう」
野田がハルバートを下げる。
ええ、誰だこいつ。あの野田がゆり以外の言葉を聞くなんて……驚いたな。本当に仲が良いのか。
「……浅はかなり」
先ほどから竹ぼうきを指一本で支える椎名が、ぼそっと呟く。
「なにしているんだ?」
「訓練だ」
「なんだって?」
「ギルド降下作戦。そこにいる小僧と、桜木に遅れをとった。何故なのか。ずっと、ずっと考えていた……」
ああ、そういや悔しそうにしていたな。
ちなみに、小僧とは音無のことのようだ。音無は「ギルド降下作戦は運が良かっただけだぜ?」と謙遜する。
「いいや。わたしは、お前達にある一点だけ劣っていることに気がついた」
「お、おう……?」
「それが集中力! わたしはあの日から、この竹帚を指一本で支えている!」
降りる沈黙。何故かドヤ顔の椎名。
ゆいが「つまり、アホですね。とりゃあ!」と竹帚を蹴り飛ばそうと、キックを放つ。
「おっと」
椎名がそれをひらりと交わす。竹帚は少しも揺れない。すげえ。
「これでもか!」
「ふん」
「うりゃあ!」
「ふっ」
襲い掛かるゆい。回避する椎名。
そして日向がゆいに関節技を決めた。
「なに仲間割れしてんだてめえは! 椎名はたしかにアホだが立派な戦力だ!」
「いだだだだだだだ⁉ ちょ、先輩、いだい、いだいですぅ!」
まるでカオスな状況。NPCはドン引きしている。
……ダメかもしれんな、このチーム。
何故かキャプテンは俺になり、オーダーを組んだ。ポジション含めかなり適当だが、仕方ない。1番ピッチャー音無、2番セカンド日向、3番ショート椎名、4番NPCサード村田、5番ファースト野田、6番キャッチャー俺こと桜木、7番ライトNPC鈴木に、8番はレフトのゆい。一人足りないが日向の案で外野をセンターよりに守らせれば、形にはなるとのこと。正直、優勝は厳しいが、まあなんとかするしかないだろう。
「悪い。じゃあ、あとは頼んだぜ、みんな」
ひさ子がガルデモメンバーを連れて去っていく。運動神経の良いひさ子が抜けるのは痛手だが、まあ日向が言うように彼女達は陽動班だしな。球技祭にそんな力を入れる必要はないのだろう。
「軍曹殿!」
「あ?」
関根がなにかペットボトルを投げる。スポーツドリンクだ。
「ファイトですぞ! 応援しているぜ!」
「ああ。お疲れさん」
とりあえず、形だけ保てた俺達はなんとか次の試合も乗り切った。野田はホームランを量産するし、残りのメンバーも悪くない。ゆいは大口叩いたわりには二三振ではあったが、まあ、あの体系だ。そんなものだろう。
「――桜木くん。ゲリラ参加は良くないわ」
「ん? ああ、立華か」
立華がいかつい男ども連れて、グラウンドに現れる。戦線メンバーの間に緊張感が走る。
「更生活動だ。報告、行っているだろ」
ゲリラ参加の根回しとして、俺が建前で通した案だ。学園に馴染めていない生徒達、欠席の少ない生徒を云々――そんな感じのことを書いて、強引にゲリラ参加を認めさせているのだ。
だけど、この様子。どうも、話はそう上手く運ばなかったようだな。
書記の直井文人が一歩踏み出る。
「副会長。直井です」
「……よう」
「今回、我々は生徒会チームを結成しました。あなた達が関わるチームを、フェアに排除するためです」
日向が眉を顰めた。
「おいおい、そっちはメンバー全員野球部だってのか⁉」
立華がこくりと頷く。「んなの、勝てるわけねーだろ」と、日向が萎えたように肩を落とした。
「万が一にも負けたら、赤っ恥だな?」
俺があえて挑発する。
直井がギロリと睨み返して来る。
このNPC、なんか気に入らないんだよな。
理由は……よくわからないが。ゆりの言葉を借りるなら、勘。勘が、こいつを気に入らない、あるいは――警戒すべきだって、そう告げるんだよな。
意外にも、俺達のチームは準決勝まで勝ち進んだ。そうして順当に生徒会チームと当たり、俺達は試合前の整列を果たす。
「野球帽。似合っているな」
野球帽にジャージを羽織った姿の立華を、冷やかしてやった。実際、野暮ったい恰好でも彼女がするととてもキュートなものになる。
「そう?」
「ああ。ただ監督っていうよりは、女子マネージャーだな」
「むう」
「お気に召さないか」
「どうすれば監督っぽくなるのかしら」
「腕でも組めばいいんじゃないか?」
「そうするわ」
むん、と素直に腕を組む立華。最初の挨拶を済まし、ベンチに戻っても腕を組んで、むん、と偉そうにしたままであった。心なしか胸も張って、表情を引き締まっている。しかしどういうわけか、それすらも可愛らしく見えてしまう。本人は偉ぶっているつもりなんだろうけどな。
「お前、よく天使とナチュラルに会話出来るよな。ゆりっぺを落としたことといい、とことんレジェンドな男だ……」
日向が苦笑を浮かべる。まあ、戦線メンバーからすれば考えられないことだろう。
ちなみに、先行はこちらである。バッターボックスへ、ゆいが金属バットを持ち、意気揚々と向かっていく。
「っ、しゃあああ! 野球部だろうがなんだろうが、あたしが打ってやるからなー! まずはサヨナラホームランじゃああああああ!」
すかさず、日向が関節技を決めにいく。
「お前はいつから1番バッターになったあああああああああ!」
「ぎゃあああああああああ⁉」
「ホームランどころか、バットにボールを当てたことすらないだろうがあああ!!!」
「ギブギブギブ! ひなっち先輩、苦しいですうううううう⁉」
「それとサヨナラホームランの意味間違っているからな! 1回の表だっつーの! この場面でのホームランは先頭打者ホームランだ!」
本来の1番バッターである音無が、バットを持ってげんなりとした声を上げる。
「いちゃいちゃしてねーで、早く下がれよ」
「そんなことしていませんから⁉」
日向が丁寧語で突っ込む。ひなっち先輩かあ。可愛い呼ばれ方しているな。で、本当に今日会ったばかりなんだよな、この二人は?(※ちなみに原作のTVアニメ版も出会って一日目で関節技決めたり、蹴り合ったりしている。冷静に考えるとすごい)
「……ちっ、あの時みてーな空だな。思い出しちまうぜ」
日向がネクストバッターサークルで、そんなことを呟いていた。なんだ?
音無、日向、椎名と出塁。ノーアウト満塁のチャンスに、NPCの村田。ヒットを放ち1点、さらに野田はホームランを打って合計五点をいきなり追加した。
「さすがだぜ、野田! ナイスバッティング!」
音無が野田にハイタッチを促す。
「ふん。当然だ」
野田が照れた様子でそれを返す。
……マジで仲良いな。野田、キャラ崩壊してないか? そんなシャイボーイみたいな一面があったとはな。意外だ。あと音無がすごい。
このまま勝てるかと思ったが、残念ながら話はそううまくいかない。野球部の打線を音無が抑えるのは困難であった。球種もストレートのチェンジアップ。そしてキャッチャーも山倉ではなく、俺になっている。リードの質も落ちている。
くわえて、強打者だと野田が警戒されはじめたため、こちらの点が入りづらくなる。打撃戦になった試合は六対五で、最終回の裏を迎えた。ここを守り切れば、生徒会チームに勝ったことになる。
ベンチ前で、メンバー全員が集まる。
記憶喪失でピッチャーになった音無。元野球部の日向。竹帚という縛りのある椎名。俺を睨みつける野田。特に戦力になっていないゆい。そしてNPCの二人。
よくもまあ、こんなメンバーでここまで戦えたものだ。相手は野球部なのに。
「ここを抑えれば実質優勝だ。頼んだぞ、音無!」
日向が音無に声をかける。
「ああ。やってやろう」
「音無、桜木の黄金バッテリー、期待しているぜ!」
気合十分に、メンバーは守備へつく。だが、音無は立ち止まり、日向の背中をじっと見つめていた。俺は音無に声をかける。
「どうした?」
「いや……日向の雰囲気がさ、似ているんだ」
「誰に?」
「消えていった山倉と……あの時の、岩沢に」
「っ⁉」
俺は息を飲んで、音無の顔を見る。
「あいつ、生前の大事な試合で、セカンドフライを捕れなかったらしいんだ。だから……」
「この試合に勝ったら、消えるってことか?」
「……いや。気のせいかもな。悪い、こんな時に。勝とうな、桜木」
「……」
なんとも言えない空気になりながらも、試合は開始される。
音無の体力はかなり削られていた。コントロール、球速共に落ちている。椎名とNPCのファインプレーで2アウトはとれたが、ランナーは満塁。
「タイム」
立華が動き、大柄な男がバッターボックスに立った。おいおい、代打の切り札まで用意しているのか。プロ野球じゃねえんだから。
俺達もタイムをかけ、メンバーを集める。
「あんなでかい男、抑えられる気しないぞ。なあ、ピッチャー変えてくれねえか?」
音無の問いかけに俺が答えようとするも、先ほどの話もあり、日向が心あらずなのが気になった。音無もそれに気づいたのか、日向に目を向ける。
「お前……やっぱり、消えるのか?」
「え?」
日向が目を丸くする。
「この試合に勝ったら。消えるのか?」
「俺が……? 消える? あいつらを、置いて?」
「山倉と、岩沢と。似ているぞ、今のお前」
「ははは、なに言ってんだよ、音無! 消えねえよ。何年、この世界にいると思ってんだ……」
「……そうか。なら、いい」
音無の表情が引き締まる。その顔が俺へ向けられた。
「桜木。やっぱり、俺が投げるよ」
「いいのか?」
「ああ。相手は右バッター。内角にボールを集めよう。引っ張って、ショートかサードに転がせられれば勝てて、なおかつ日向の方へ打球も飛ばない」
「……わかった。お前の作戦とコントロールに賭けよう」
メンバーが解散し、守備位置へ戻る。
音無が初球を投げる。作戦通り、内角低めの良いストレートが飛んでくる。上手い。さすがだ。しかし……。
キィン!
甲高い、金属音、
打球は――ほぼ定位置の、セカンドフライであった。
「なっ……クソ! 日向あああああああ!」
音無が叫ぶ。決死の形相で、駆け出していく。
「俺は、お前に消えてほしくない!」
岩沢の時と同じように。
彼は、全力で駆けていく。だけど――間に合わない。今回は、無理だ。
そう思った瞬間である。
「とりゃああああああああああ!」
「ぐはあ⁉」
ゆいの叫び声と共に、日向が吹っ飛んでいった。日向の首を逆に曲げて、関節技を決める。
「さっきはよくも関節技を決めてくれたな、このヘタレ先輩がああああああ!」
「ぐがががが⁉ 大事な場面で、てめえ、この生意気ど貧乳があああああ!」
今度は日向が関節技を決める。
「ぐごごごごごごごご⁉ タップ、タップ!」
「今度こそは許さねえええええええ⁉」
「ぎゃあああああ!」
すぐにイチャイチャしだす二人。その間にもサヨナラのランナーがホームイン。
まあでも……いいか。
「日向。消えずに済んだな」
俺が音無の肩をぽん、と叩く。
「ああ。良かったよ」
「にしてもお前、あいつのこと好きだな。消えてほしくないって、岩沢の時よりも必死だったぞ?」
「からかうなよ。ルームメイトなんだ……本心を叫んだまでだ」
そう言って、俺と音無は笑い合う。
――その瞬間であった。
「良い雰囲気なところ失礼します」
「「っ⁉」」
色々と突っ込みどころがあるが、唐突に現れた遊佐に背筋が凍った。
このタイミングで現れたということは……。
「――ぐずぐずな球技大会の罰として、負けたお前らには、うさぎとびでグラウンド10周よ!」
またも遊佐っぺが降臨して、非情な罰ゲームが下される。
「「「えええええええっ⁉」」」
戦線メンバーの悲痛な声が、グラウンドに響き渡った。