クラスSSSに所属するため、俺は今後授業にも出ないし、テストも受けない。生徒会も突如として辞任した。無責任だと糾弾された俺は、極秘裏に作られた「第一反省室」へと放り込まれ、机も椅子もない空き教室のようなところで一日反省を促された。
学園は混乱を極めた。天上学園の品性に関わる由々しき事態だ、と教員達が騒いだ。生徒会長立華はテストでふざけて0点を獲得、副会長の俺は突如として辞任。
代わりに、生徒会長代理として直井文人が生徒会のトップに躍り出た。
なにもすることがない、退屈な反省室の中で横になっていると、扉が開かれた。入ってきたのは、騒がしい戦線メンバーであった。
「あれ? 桜木じゃねーか。なんでこんなところに?」
日向が目を丸くする。大山も「あ、本当だ」と声を上げる。
まあ、そりゃ驚くだろう。まだこいつらは、俺が生徒会メンバーだと思っている。
「俺、生徒会を辞めることになった」
突如とした告白。戦線メンバーが息を飲んだ。
「ううむ……どおりで、彼が生徒会長代理を名乗っていたわけか」
松下五段が腕を組んで呟く。
「春斗くん?」
ゆりがきょとんとした顔で俺を見つめる。
「ゆり。俺を戦線メンバーにしてくれ」
「はあ⁉ アンタが? なんでよ」
「お前の側にいて、お前のことを守りたいんだ」
「なっ――⁉」
ゆりが顔を赤くする。TKが囃し立てて、口笛を吹く。藤巻が「他所でやれっつーの……」と肩をすくめ、大山が顔を赤くして「わあ。あ、愛の告白だね!」と冷やかした。
「ちょっとアンタね、そんな浮ついた動機で入隊させるわけないでしょ! いい? 戦線は神へ復讐する組織なのよ⁉」
「ああ、わかっている。お前の復讐に、どこまでもついていくつもりだ。地獄の底までな」
「っ⁉ 春斗くん……なんか、変よ? あなた、そんな人だった……?」
音無が険しい表情でこちらを睨んでくる。
「桜木。本気で言っているのか?」
「なんだよ、怖い顔して」
「ギルド降下作戦で話してくれたこと。俺は、覚えている。お前はゆりのことだけじゃなくて、この世界のみんなを、とても大切に思っている。お前はそういう奴だろ」
「気が変わったんだよ。中途半端な立場じゃ、なにも救えない。だからせめて、ゆりの側にいて――」
「たしかにお前には、そういう選択肢もある。だけどあの時、言っていたいよな? それが本当に、ゆりを救うことになるのか、疑問だって。ちゃんとその答えを見つけた上で、納得して、出した答えなのか?」
「お前になにがわかる、音無。俺と会ったばかりの、それも記憶喪失の奴が」
「そうかもしれない。それでも俺は、あの時にお前を良い奴だと思った。だけど、今のお前は違う。ゆりの側にいたいと願う、ただのエゴイストだ」
対立する俺と音無。その様子を見た日向が慌てて、間に入った。
「待て待て、なんだ、ケンカか⁉ なんだかよくわからねーが、落ち着けよ。な?」
瞬間、激しい耳鳴りが鳴った。視界が歪み、たまらなくなって立っていられなくなり、其の場で崩れ落ちる。
「うっ……」
「春斗くん⁉」
ゆりが真っ先に駆け寄って、受け止める。音無も駆けつけた。
「待て、ゆり。揺らすな。桜木、俺の声は聞こえるか? 手足の痺れや感覚は?」
「あ、ああ。大丈夫だ。ちょっとめまいが強いだけだ……」
「軽い脳震盪だな。本当は頭を冷やすといいんだが……ここじゃ用意出来ないな」
「平気だ。どうせ、こんな世界だしな」
ただ、妙な感覚であった。いきなり頭を後ろから殴られたような、そんな感覚だ。
「とりあえず、あなたは落ち着きなさい。身の振り方はゆっくり考えること。いいわね?」
ゆりの言葉に、俺はこくりと頷いた。するとゆりが驚くほど優しげな笑顔を向けてくれたので、ドキリと心臓が高鳴った。
「――出ろ」
NPCが短く告げ、扉が開けられる。
暗い部屋に突如として太陽の光が差し込み、戦線メンバーは各々意識を覚醒させていく。硬い床にこれだけの人数を寝かされたため、お世辞にも気持ち良い朝とは呼べない。
「立てるか?」
音無が俺のところへ来て、手を伸ばす。俺はその手をとって、立ち上がった。
「ありがとう。悪かったな、昨日は」
「いや。俺もちょっと言い過ぎたよ」
「にしても……妙だな。なんで俺は、あんなことを言い出したのか」
「え?」
「俺、生徒会を辞めるつもりも、戦線に入るつもりもなかったんだが……気がついたら、ああなってんだよな」
「大丈夫か? 言っていること、滅茶苦茶だぜ?」
「大丈夫じゃねえな。なにがなんだか……まあ、とりあえず出るか」
ゆりが体を伸ばし、欠伸をしながら出る。
それの後に音無、俺が続いた。NPCは門番のように、無言で佇んでいるだけ。不気味な奴らだ。
「あー、首いてえ。固い床で寝かされたからなー!」
藤巻がNPC達を抗議するように、わざと大声でそんなことを言う。TKはその後に、ステップを踏みながら元気よく続く。
「ちっ、不愉快な奴らだ……」
野田がハルバートを抱えながら、苛立った様子を見せる。松下五段、椎名、と続き欠伸をしたゆい、肩をぐるぐる回した日向が出てくる。
「ひなっち先輩、あたしを襲ってないですよね?」
「誰が襲うか。興味ねーっての」
「やっぱホモか」
「やっぱってなんだよ⁉ 俺はノーマルだ! お前みたいな貧乳女に興味ねーだけだ!」
「んだと、おらあ⁉ 揉んだことねーくせに! この絶妙な柔らかさの胸を!」
なんか面白い会話を後ろから聞こえたので、強引に俺が冷やかしを入れた。
「揉んでやったらどうだ、日向」
「するかよ⁉」
大山、高松が出てきて、最後にガルデモメンバーが続く。ひさ子が「あーあ、シャワー浴びてぇ」とぼやき、入江が「首痛いよう……」と肩を落とす。関根が「汗が似合うお二人はノープログレムですね!」と余計なことを言い、岩沢は「いや、ライブでかく汗と寝汗は別物だ、さすがに不快感がすごいぜ……」と愚痴をこぼした。
そんな元気のない状態で、橋の上を戦線メンバーがぞろぞろと渡っていく。改めて見ると、本当メンバー多いよな。
「桜木さんが生徒会長になり、この世界は我々の楽園になるのではなかったのですか。これでは、話がまるで違います」
高松が上半身半裸でそんなことを言う。セリフがシリアスでも、見た目がネタだから、こっちの頭が混乱する。大山が冷静に「服着ないの……?」と突っ込みを入れた。
「妙なことを言うようだが、別に俺、生徒会辞めるつもりなかったんだよな」
「追い出されたのですか?」
「……なんか、それとも違うんだよな。昨日の俺は、何故か本気で生徒会を辞めて、戦線に入ろうとしていた」
「どういうことですか?」
「自分でもよくわからないんだよな」
「あなたらしくないですね。しっかりしてください。」
記憶も混濁としている。直井 文人。あいつは何者だ。
そして昨晩のことを思い出し、思わずゆりをちらりと見てしまう。ばっちり目が合い、お互いに顔を赤くして目を逸らした。
昨日の俺は、なんて恥ずかしいことを公衆の面前で言ったんだ……。
時間を置いてから、幹部をもう一度集めるという段取りになり、それまではシャワーを浴びるなり、朝食をとる自由時間となった。
俺とゆりはいつもの鍛錬はせず、代わりにいつもの森の奥地で、二人きりで話をすることにした。昨日あったことも整理しなければならない。
「NPCと共に、銃を使って襲われた、ね」
ゆりが腕を組んで考える。
「あの銃、没収品だったぞ」
「いまだかつて、NPCがあたし達に銃を向けることはなかった。その法則が今、破られている……」
「あいつ、自分を神とか言っていたけど……それに準ずる者か、なにかがあるのかもしれないな。少なくとも、あのNPCを操って、一日だけとはいえ、俺の意思を操ったんだ。立華に代わる、イレギュラーなのかもしれない」
「……」
ゆりが険しい表情で黙り込む。
「なにか引っ掛かるか?」
「ええ。もう少し情報を集めた方がいいわ」
「まあ、それには同意だな。判断材料が少なすぎる。直井の行動をもうちょっと洗わないとな」
「近くにいて、なにか気づかなかった?」
「悪い、全く。曲者だろうとは思っていたが……」
「らしくないわね」
「……くそ、そう言われると悔しいな」
「昨日といい、あなたは直井 文人が関わると途端にらしくなくなる――それが、ヒントなのかもしれないわ」
「???」
「とにかく、動いてみましょう。あなたも、なにかわかったら、教えて」
「ああ。それと、ゆり」
「なに?」
俺はゆりを抱きしめた。良い香りがする、細くて柔らかい体。ゆりもそれに答え、腰に腕を回す。
「俺はゆりの味方だ」
「なによ、改まって」
「……昨日、変なこと言っちまったからな」
「別に、いいわよ。あなたはあなたの信じる道を行きなさい。あたしも、好き勝手するだけ。なにも変わらないわ。そうでしょ?」
「そうだな」
肩を掴んで、少しだけ離す。ゆりの端正な顔立ちと、形の良い唇。瞳は潤み、頬は赤く染まっていた。ゆりの唇に自分の唇を重ねる。ゆりも自分から顔を近づけ、キスを交わした。