※この作品はR-18です。

Angel Beats! ゆりルート   作:音有五角

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 音無ルートに「Goodbye Days」に該当するエピソード追加です。
 原作と違う結末になるので、音無ルートの目次を修正。「In Your Memory」に該当する時系列のシーンは「In Your Memory」。また「Change the World」最終話「Last Operation」の一部シーンを変更します。

 修正作業は1/20日13:00頃に終了予定。


音無ルート 第十話「Shine Days」※修正シーンのお知らせあり

「よう、桜木。あいつらのこと、気になるのか?」

「え? ああ……日向か」

 日も暮れ始めた、夕方。出来れば音無にバレたくないため、木陰に隠れていた。そのため、日向に声をかけられるのはやや都合が悪いのだが……まあ、いいか。

 グラウンドでは音無がピッチャーをして、ユイがバッティングをしている。気持ちの良い金属音が、辺りに響き渡っていた。

 球技祭の時とは比べ物にならない。ユイのバッティング技術はかなりのものになっていた。外野の辺りにまで鋭い打球が飛んでいる。

「あの二人、最近よくこうしているからさ。なんだろうなって」

 俺がそう言うと、日向が腕を頭の後ろで組んで「まー、予想外だよなあ」と言った。

「予想外?」

「物好きが本当に現れるだなんて、思いもしなかったぜ」

「……?」

「でも、桜木も結構な物好きだな。こんな意味もないことを見学しているなんてよ。お前は、色々と忙しいだろ?」

 音無の監視のため、とは当然言えないので、俺は適当に誤魔化すことにした。

「純粋に気になったんだ。珍しい組み合わせだからな」

「たしかにな。ユイの奴、あれでフェンス越えのホームラン打とうとしているんだぜ? どう考えても不可能なのに、バカだよなあ」

「ホームラン、か……」

 脳裏には、あの時のユイの言葉がよぎった。

 ――桜木先輩。あたしの幸せはさ……神様に、全部奪われたんだ。

 

 

 音無 結弦。そして立華 かなで。二人の行動をゆり、遊佐、俺の三人が監視したところ、やがてゆりは一つの仮説を立てた。

「音無くんは、天使と協力関係にある」

 いつもの屋上で、コーヒーを片手にゆりはどこか複雑そうな面持ちでそう言った。

「おそらく。彼の目的は天使の願いを成就させること。戦線メンバーを卒業させるため、彼女と協力関係になることを選んだのよ。天使を敵対させたのは、あたしの目をくらませるため。ユイと一緒にいるのは、彼女をここから卒業させるためのもの」

「どうするんだ?」

「普通に考えれば、彼を除名すれば済む話ね。だけど……」

 ゆりはふう、と息を吐いた。

 まだ確固たる証拠があるわけでも、状況証拠があるわけでもない。

 それに。立華の正体を知る、音無の思想が意味するものは――。

「もう少し様子を見たいわ。今はまだ、動く時ではない。これはまだ仮説、確信がほしいわ」

 

 

「よう。お前ら、なにやっているの?」

 日も落ち始めた頃、音無達が片付けを始めると、日向がグラウンドへ入った。金属バットを持ち、ブン、ブン! と何度かスイングする。

「日向……に、桜木」

「なんでちょっと嫌そうな顔するんだよ?」

「え⁉ いやいや、そんなことはねえって!」

 音無がやや慌てたように言う。

 この動揺。ゆりの仮説は当たっている、ということなのだろうか。もしそうなのだとしたら、この場面をゆりと近しい人間に見られて動揺した、というところで辻褄が合う。

「日向も打っていくか? ユイと同じ、本気の野球でさ」

 音無がそう言うと、日向はバッターボックスに立った。

「フルスイングか。最近、してねーや。たまには、そういうのも良いかもな」

「だろ?」

 音無が投球フォームに入る。

「行くぞ!」

「ああ!」

 音無が真ん中へ向けて投げたボールを、日向が引っ張って打ち返す。レフト方向へ飛んだボールは、フェンスを越えていった。

 ホームランだ。

「すごいな」

 俺が素直にそんな感想をこぼす。

「さすが元野球部って感じだな。そうだ、桜木も打っておくか?」

 音無がそんなことを言うが、首を横に振る。

「俺は野田や日向と違って、ホームランは打てねえよ」

 打球を見届けたユイが、気合を入れるように胸の前で両手をよし! と握った。

「ひなっち先輩が打てるんですから、あたしにも打てるはず」

「どーいう意味だ、コラ」

 ジト目を向ける日向。ユイは腰に手を当てた。

「ふふん。また手伝ってくれる人が現れてくれたので。今度こそ、ホームラン打ってやりますからね!」

「おう。ま、無理だろうけどな」

「んなあ⁉ なんでまたそういうこと言うんですか!」

「だって、フェンス越えどころかフェンス手前にすら飛んでないんだぜ? 技術もそうだが、根本的にフィジカルが足りてないっての」

「ひなっち先輩に言われた筋トレ、まだ続けていますからね。ふふん、見てください、この腕を!」

 むん、とユイが右腕を畳んでこぶを作ろうとする。

 が、典型的な女の子らしい、細く可愛らしい腕であった。筋肉は弱弱しい。

「その細腕でなにを誇っているんだが」

「んだとこらあ! 腕立て伏せは、十回までスムーズに出来るようになったんだぞ、どうだコノヤロー!」

「むしろ、まだ十回しか出来ないことに驚きだよ……」

 ユイの身体能力は、どう見積もっても女の子らしいものであった。

「にしても。一つ質問していいか」

「はい? なんですか?」

 俺の声に、ユイが首を傾げる。

「ユイ、随分と野球上手くなったよな。音無とそんなに長く練習していたのか?」

「ああ、いえ。先輩は最近ですよ」

「その割にはフォームが本格的というか、なんというか」

「球技祭の後、ひなっち先輩に教わっていたんですよ」

 ……ああ、なるほど。それで。というか、筋トレ云々の会話もそういうことか。

「なるほど。相変わらずお似合いの二人だな」

 すかさず日向が声を上げる。

「桜木。お前、いらん誤解をするな」

 ユイははん、と鼻で笑った。

「桜木先輩、前にもそれ、ちゃーんと否定しましたからね?」

 二人は息ピッタリに、照れ隠しをしていた。

 相変わらずである。

 

 

「あ、そうだ。せっかくですし、勝負しませんか?」

「?」

 ユイが金属バットを俺に向ける。

「桜木さん、良いボールを投げるんですよね? 勝負したいです!」

 音無がああ、と思い出したように頷く。

「お前、アンダーで130キロ投げるんだっけか。そういや、結局見れてねーや」

「まあ、そのくらいならお安い御用だ」

 俺が頷くと、日向が音無からグローブを借りて、左手にはめた。

「面白そうだな。おし。じゃあ、俺がボール受けてやんよ」

「ああ、頼んだぞ」

 思わぬ形で、ユイと野球勝負をすることになった。まあ日が暮れてきたし、一打席勝負くらいが限界だろうか。

「プレイボール!」

 音無の宣言と共に、俺が一球目を投球。下投げのストレートはまっすぐに外角高めへ入っていった。日向がぱし! と快音を立ててボールを受け止める。

「ストライク!」

 音無が判定する。ユイがうわ、と声を上げる。

「はやっ……でも、せめて当ててやる」

 日向がボールを投げ返しながら、ユイにアドバイスした。

「とりあえず、スイングしろ。じゃねえと話は始まらねーよ」

「おいっす! フルスイングあるのみ。桜木先輩! 手抜かなくていいですからね! 130キロ、打ってやるんですから!」

 威勢の良い声。こっちも気分が乗るというものだ。俺はもう一度投球フォームへ入り、ストレートを投げる。真ん中の外。ユイはスイングしてミートするものの、打球はボテボテなゴロでファールとなった。

「ぐぐ……2ストライク」

 ユイが悔し気な表情を浮かべる。日向がボールを投げ返した後、声を上げた。

「相変わらずのストレート一本勝負だな、桜木!」

「ああ、まあな」

 そういや、ゆりと参加した球技祭では、これで後半は打たれたんだっけか。

 そんな思い出に浸りつつ、俺は最後の球を投げる。

 真ん中高めのストレート。ユイはそれを、フルスイングで当てた。

「なっ⁉」

 芯でとらえた打球音だ。俺は思わず、打球を見るため振り返る。

 ――刹那、強い風が吹いた。

 するとボールは風に乗り、フェンスの向こうへと運ばれた。

 ……フェンス越えの、ホームランだ。

 

 

「え……?」

 ユイが茫然とする。

 そこへ音無が親指を立てた。

「やったじゃん。ホームランだよ」

「ほ、本当にあたしが……?」

「飛距離伸びたのは風の影響だけど、紛れもなくホームランだ。おめでとう、ユイ」

「そっか……あはは。なんだか、夢みたい。でも、よかった」

 ユイは安堵したような笑顔を浮かべた。

「大変だったけど、毎日部活みたいで楽しかったなあ……しかも130キロを、このあたしが打てたなんて。音無先輩。長い間、ありがとうございました」

「……ああ」

 音無は顎に手を当て、思案げな表情を浮かべた。

「なあ。お前、本当に全部言ったのか?」

「はい?」

「生前できなくて、したいこと」

「おろ? 言いましたよ?」

「いや。そんなはずはない。まだ、あるはずだ」

「えー? なんで、そんなことわかるんですか?」

「わかるんだよ」

「まー、あるっちゃありますけど。とんでもない夢ですよ?」

「なんだよ、言えよ。俺が全部叶えてやるって、言っただろ? 大体、今更だろ。ホームラン打てたんだぜ? どんな夢が出て来ようが、驚かねーよ」

 ユイはため息をついて、金属バットを担ぎ上げた。

「じゃあ言いますね。結婚」

「ああ、結婚な……って、結婚?」

「そ、結婚。女の子の一つのゴールってやつです」

「……」

 音無は言葉を失った。

「ね? だから言ったでしょ。あたしには無理。でもひどいことにさ、結婚が一番したいことなんだ」

「……ユイ」

「でも、あたしは……家事も洗濯もなにも出来ない、お荷物だから。誰ももらってなんてくれない」

「荷物だなんて、なにを言い出すんだ」

「神様はさ。あたしの幸せ、全部奪っていたんだ」

「そんなこと、ない」

 音無の声音がどんどん、弱くなっていく。

 そこへ畳みかけるように、ユイは言った。

「じゃあ先輩。あたしと結婚してくれますか?」

「それ、は」

「なにも出来ないお荷物を。貰ってくれますか? お母さんの代わりに、お世話もしてくれますか?」

 音無は目を逸らす。

 ……勝負の余韻はどこへやら。俺達の間に流れる空気は、あっという間に重々しいものとなった。

 ユイの問いかけに対する答えは明確。そんなこと、出来るはずがない。

 不可能だ。ユイの問いかけは、そもそもの問題が破綻している。

 だけど。

 その不可能な問いかけに、全力の想いでもって答える男が現れた。

「――ユイ。俺が結婚してやんよ」

 ぽん、と野球帽越しだったか、ユイの頭の上に手を置いた日向が、そう宣言した。

 

 

 俺と音無は思わず、息を飲んだ。

 いや、まあたしかに、お似合いの二人だとは思っていた。だけど、なんだろうか――まさかこんな時に、ストレートに思いを口にするものだとは、予想していなかったのだ。

「え……ひなっち、先輩が?」

「ああ。俺が結婚してやんよ」

「でも、先輩は、本当のあたしを知らない」

 ユイはあとずさり、視線を落とした。

「一人じゃ歩けないし、立てない。ゆりっぺ先輩と桜木先輩とは、違うよ」

「そうか? 俺はそうは思わねーけど。歩けなくても。立てなくても。例え……子供が生めないとしても。それでも俺は、ユイ。お前と結婚して、そばにいてやんよ」

「そんな……どうして」

 震える声を出すユイ。

 俺の脳裏には――ゆりの言葉が思い起こされる。

 ――音無くんは、天使と協力関係にある。

 本当は、それが正しいことだ。

 立華 かなでが数多の魂を見送ってきた。だけど、それがこの世界の本来あるべき姿。

 だから、二人のことは邪魔出来ない。

 だけど――同時に、ゆりとの日々が思い起こされた。

 彼女と共に過ごした日々。死後の世界で、紛い物かもしれないけれど、そこにある想いは全て本物でかけがえのないものだ。

 それなのに、もしもそれが引き裂かれてしまったら……。

 理屈じゃない。

 正しいことは、二人を見送ることだって、わかっている。

 それなのに――俺の体は、勝手に動いていた。

「っ⁉ あれは――」

 俺は適当に芝居を打って、なにもないところを突如として拳銃で撃ちぬいた。日向、ユイ、音無がぎょっとする。

「桜木⁉」

 音無が銃を構える。日向も戸惑いながら、銃を取り出した。

「天使の力を持ったNPCだ。今は逃げたが、まだ岡田 緑のハーモニクス体が残っているのかもしれない」

「マジかよ、こんな時に……! どうする、この場は離れるか?」

「それが妥当だろうな。今の内に逃げるぞ!」

 

 

 グラウンドから逃げた俺達は、連絡橋の近くまで来た。

「ここまで来れば、大丈夫だろ――」

 日向はそう言って、俺達をぐるりと見渡した。ユイと目が合った瞬間、両者の顔が赤く染まり、顔を逸らす。日向が頭を掻きむしった。

「ノオオオオオオ! なんか気まずい! なんでこうなっちまったあああ!」

「ななな、気まずいってなんですか⁉ ひなっち先輩が変なこと言うからいけないんじゃないですか!」

「変なことってなんだよ⁉ 俺はただ――」

「……ただ?」

「ぇ、えっと、だ、な……」

 その後の言葉は続かず、両者は再び顔を逸らした。気恥ずかしい雰囲気。ユイは耐えきれなくなって「あああ、あたし、もう部屋に戻りますから⁉ 先輩方、今日はありがとうございました! では!」と早口に言い立てて、猛ダッシュでその場を離れていった。

「わりぃ、俺も行くわ。なんか散々だぜ……」

 日向がトボトボと俺達から離れていく。

 一世一代の告白……というか、もはやプロポーズを台無しにしたのだ。今はそっとしておいた方がいいだろう。

 というか、台無しにした原因は俺なのだが。

「俺達も行くか」

「そうだな」

 音無に言われ、俺も部屋へ戻ることにした。音無はため息をつき――誰にも聞こえないような小さな声で、呟いた。

「この作戦は失敗か……」

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