それから数日が経過した。結局、日常は取り戻されてしまった。戦線は立華と戦い、立華はこれまで通りの思想を貫く。
だけど、なにも変化がなかったわけではない。
いや、むしろそこには大きな変化があった、と言わざるを得ない。
夜。一人部屋である俺の部屋にゆりを呼んだ。ベッドの上。二人で並んで座っていると、ゆりはため息をついた。
「音無くんのことだけれど。ここ最近、松下くんとよく接触するようになったわ。天使はなにやら、花壇で作業をしていたけれど」
「……どうするんだ?」
「もはやあたしの仮説は限りなく正解に近い。普通に考えれば、彼を除名すれば済む話ね。だけど……」
ゆりは俺の肩にこてん、と頭を預けた。
「あの様子じゃ、創設メンバーの日向くんも賛同しているようだから……難しいわね。幹部クラスに亀裂が走るのは得策じゃない。今のところは、見て見ぬふりをするしかないかしら」
「そうか」
「……長く戦い過ぎたのかもしれないわ。正直ね、音無くんの思想はあたしにとって、耳に痛いのよ。もう、潮時なのかもしれない。戦線が変わる時なのか」
ため息をつくゆり。
「どうしてかしらね。いつか、こんな日が来るとは思っていたわ。戦線が、戦いが大きく変わることが。そのきっかけが……彼だったっていう、それだけのことなのかしらね。相手は新米なのに、困ったものだわ」
……ゆりにも思うところがあるのか、あるいは。
音無が現れてから、色々なことが変わった。
俺の目的としては、かなり前進しているように見える。
争いを止めるため、ゆりを本当の意味で救うため。俺は中立という立場を守り続け、この世界のバランスを保ってきた。
本当の意味でゆりを救うために。戦線のみんな幸せになれるように。
そしてそれらの願いを叶える答えへ、段々と近づいていっている。そんな気がした。
俺はゆりを抱き寄せる。強く、強く抱き寄せる。華奢で柔らかな体を、離さない。
「ゆり。俺は、お前の側にいる。最後まで、必ずだ」
そう言うと、ゆりは俺の胸に頬ずりして微笑んだ。
「……ええ。頼りにしているわ。でも、皮肉な話ね」
「ん?」
「一番信頼して、頼りにしている人間が、戦線のメンバーじゃないだなんて」
その言葉に、思わず俺も少しだけ笑ってしまった。
まあたしかに、それは皮肉な話だ。
戦いはさらに混沌を極める。
ゆりが言うように、舞台は潮時なのか。変わる時なのかもしれない。
ある日。昼休みの時だった。校舎から男子生徒の悲鳴が聞こえて、俺は慌てて外へ出た。
「さ、桜木くん! 助けて! なにか、なにかが僕の中に入ろうとするんだ!」
大山が支離滅裂なことを言う。
だけど――実際、状況はわからなかった。大山の体に覆いかぶさるのは、大きな影であった。そう。「影」としか形容しようがない見た目だ。目のような光が二つに、太く長い球体。真っ黒な影。それが大山に覆いかぶさり、「中」へ入ろうとしている。
「なんだよ、これ……⁉」
どうすればいいかわからない。まず、これは生き物なのか。
拳銃を取り出し、撃つ。影は弾で穿つことが出来た。そして苦し気な声を上げている。それは金属音のような、不快な音であった。
とりあえず、効いているように見える。俺は拳銃を撃ち続ける。すると、やがて影は霧散し、消えていった。
「た、助かったよ、桜木くん……」
大山が息を切らせながら、礼を口にする。
「今、俺はなにを撃ったんだ……?」
俺の疑問に答える者は、誰もいなかった。
見たまんまだが、戦線メンバーは新たな敵を「影」と呼んだ。アトランダムに現れる、生命体かもわからない「それ」は、まさに正体不明のバグ。圧倒的なイレギュラーにして、敵であった。
ゆりは立華へ色々と探りを入れるため、放送をかけて立華と俺を呼んだ。そしてそこまでして大々的に呼んだため、当然、音無の思想に賛同している音無、日向、直井の三人も同行していた。
日差しが差し込む窓側の席に座るのはゆり。対面で座るのは立華。俺は二人の間に座るように、ホワイトボード前の席に腰かけた。
そして立華の後ろに、例の三人がついて来ていた、という寸法だ。
「あんた達は呼んでないんですけどー。なにぞろぞろとやってきているのよ」
ゆりがジト目で音無達を見る。だけど音無は表情を変えずに答えた。
「同席させてくれないか?」
「あなた、なにかと天使の肩を持つわね。その子はもう、あたし達が知っている「あの子」じゃないのよ。あなたと「約束」を交わしたあの子でもない。わかっているの?」
「わかっている。けど……それでも、かなでは放っておけないんだ。例え分身でも、それはかなでの一部だ。それに、まだあの人格に戻る可能性だって、ゼロじゃない気がする。俺は諦めない」
もっともらしいセリフ。まあ、用意していたんだろう。
「あなたは戦線メンバーなんだけれどね。まあ、いいわ。今はそれどころじゃないし」
ゆりは立華をじっと見据える。戦線リーダーとしての、鋭い表情であった。
「単刀直入に言うわ。「影」の正体、知らないかしら」
「わからないわ。あんなもの、見たこともない」
「あなたが作ったものではないの?」
「違うわ」
「ソフトウェアのバグかしらね……最近、プログラミングしたのは?」
「おととい」
「タイミング的にはドンピシャ、か。部屋を調べてもいいかしら。戦線には凄腕のハッカーがいてね」
「どうぞ」
「悪いわね――竹山くん。頼んだわよ」
無線でゆりが指示を出す。「はい。あと、僕のことはクライ――」ブツ、と無線が切られる。せめて最後まで言わせてやれよ。
まさに探り合いとも言うべき会話。音無は黙っている。直井、日向も特に会話に入ってこなかった。
「なにをプログラミングしていたの?」
「羽」
「羽? ああ、飛べるようにしたの?」
「うんうん。ただのエフェクトよ」
「飾りってこと? なんでよ? 随分と非生産的なことをするじゃない」
「その方が天使らしいからって」
「??? 誰よ、そんな間抜けな助言を出したの。春斗くん?」
「ちげえよ。天使イコール羽なんて、アニメじゃねえんだから。まあでも、似合いそうではあるな」
いきなり話を振るかと思いきや、そんなヘンテコな話題で振るな。
つーかこれ、立華もう白状しそうじゃないか?
「で……誰なの?」
ゆりが鋭く問いかける。
「それは僕です」
直井が声を上げた。
「生徒会長として、箔がつくと思いまして」
ゆりがジト目を直井に向けた。
「……生徒会長に羽が生えたら、箔がつくの?」
「はい。生徒会長に羽、相応しいかと」
「意味わからないんですけどー」
「ふん。貴様のような下民には、わからない感性だろう」
たしかにわけがわからないが……まあ、あれじゃないだろうか。音無の助言なんじゃないか。でも、音無と立華が頻繁に会っていることの証明になるから、咄嗟に直井が言った、ということにしたのだろう。
直井なら生徒会メンバーだし、立華とそういう会話を交わしても、不自然じゃない。
ゆりが俺へ目くばせをする。俺はこくりと頷いた。
「立華 かなでさん。あなた、随分と従順ね。直井くんの助言に従うし、あたしの要求にもきちんと従う。音無くんとも、以前とあまり関係が変わっていないように見えるわ。あの時見せた冷酷さはどこへいったのかしら?」
ゆりが鋭く目を細め、立華を見据える。
「以前と変わらないように見えるわよ、あなた」
決定的な一言を叩きつける。
音無がなにか言うかと思ったが、口を開いたのはまたも直井であった。
「いえ、冷酷です。生徒会メンバーである僕は、毎日刺されています。今朝も腸がはみ出したままでした」
「あら、グロテスクね。なんでそうなったのよ?」
「さあ? 機嫌が悪いから、ではないでしょうか。それに僕は最近、生徒会業務にあまり参加せず、音無さんのところへ行っていますからね。罰として刺しているのでしょう」
「……」
ゆりが両手に顎を乗せて、怪訝そうな視線を向ける。しかし直井は構わず続ける。
「今は機嫌が良いようです」
「なら、音無くんのところへ通わなければいいじゃない。また腸がはみ出るわよ」
「それは出来ません。何故なら、僕は音無さんのパートナーですから! ねえ、音無さん?」
黙る音無。猫なで声の直井。まあ、いつものやり取りだ。
一応、言い訳としては矛盾もしていない。副会長の俺が刺されたところを見たことがないのは、ややおかしいものの、直井と立華とはいつも一緒にいるわけじゃない。知らないところでそういうことが起きても、なにもおかしくはないだろう。
と、ここで無線から竹山の報告が上がる。
「――ゆりっぺさん、バグは見当たりません。そもそも今回のプログラミングはとても簡易的なものであり、バグなんてものは発生しようがありません。意志を持って人を襲う……ましてや、あれほど大規模な存在を生み出す、致命的なバグが起きるのはありえないです」
「……」
ゆりが眉を顰める。
竹山はさらに報告を続ける。
「そもそも。天使エリアにあるパソコンは1台。たった一台で、あれほどの存在を大量に作ることが果たして可能なのでしょうか。僕には疑わしいです。以前の戦いを覚えているでしょうか。ハーモニクスが理論上大量生産可能でも、実際に出現したのは十数体程度。これはパソコンの処理の限界があるから、そうなったのではないかと、僕は考えています。表示制限、というのをご存じでしょうか。オンラインゲームなどで使われるものです。全て表示してしまったらPCに大きな負担がかかってしまうため、文字通り表示を制限する処理のことです。ハーモニクスに制限があったのは、これと同じ現象が起きたからではないでしょうか。ここまで、僕の言っていること、わかるでしょうか。話、長くなりますよ」
「構わないわ。続けて」
「実際、このソフトウェアはPCの負担がとてつもなく大きい。そしてそれは、開発する「スキル」が大規模であればあるほど、さらに大きくなります。まあ、この辺りはプログラマーの腕の見せ所、というのもありますが。「影」という現世に存在しない、まさに神が一から物を創造するような、そんな複雑かつクリエイティブなマテリアルを生成し、なおかつこの世界に複数体とどめておくのは、決して容易なことではない。どうしたって処理に負担のかかる、大きなデータになる。「影」は複数台で処理し管理する必要があるのではないでしょうか。なによりも、途方もなく長い開発期間か人数が必要です。ガードスキルとはあまりにも規模が違いすぎます。よって、天使がこの天使エリアから「影」を生成しなおかつ二日という短期間で開発をする、ましてやバグが発生する、などというのはまずありえないでしょうね」
竹山の解説にゆりがため息をつく。
今回の一件、立華は白。だけど正直、それはわかっていたことだ。念のため確かめたにすぎない。
それにしても、今の竹山の話……。
「ゆり。竹山の予想が当たっていているのだとしたら……」
「ええ。そうね」
俺とゆりが頷き合っていた時であった。日向が首を傾げる。
「銃声しなかったか……?」
ゆりが窓の方を見る。俺もそれにつられて外を見る。
「影……!」
驚愕の声を、ゆりが上げる。グラウンドでは、戦線メンバーが影と戦っていた。全く、油断も隙もない。
「行くわよ、春斗くん!」
ゆりが銃を持って、パルクールの要領で飛び降りていく。ここ、四階なんだがな。
「了解、大将」
俺が軽薄な口調でそう答え、ゆりに続く。浮遊感は恐ろしかったが、受け身をとりながらなんとか降りて、跡をついて行った。
ばさり、と白い翼をなびかせて立華が舞い降りてきた。その光景はとても幻想的で、まさに天使そのものであった。
「似合っているぞ」
俺が言うと、立華は首を傾げた。手にはハンドソニックが顕現されている。紫色の、禍々しいハンドソニックであった。何故、形状を変えたのだろうか?
「かっちょいい?」
「え? ああ……感想は、音無に聞いておけ」
「そうするわ」
グラウンドへ向けて駆ける。銃で影を打ち抜きながら、戦線メンバーに加勢する。
「生徒会も来たか。手ごわいぞ」
椎名がこちらを見るなり、そんなことを言った、俺はこくりと頷く。
「桜木。お前はゆりを守れ」
「わかっている」
ゆりが戦っている近くへ行き、拳銃を影めがけて撃つ。倒すのに弾を何発も使うから、効率が悪い。
「待たせたな!」
日向の快活とした声が響く。音無、直井も続く。
「ふん、加勢などいらん!」
野田がハルバートを振り回し、影を一掃。ついでに日向もその軌道上にいた。日向は「うおおおわっ⁉」と悲鳴を上げ、間一髪のところで避ける。
「あぶねえだろ!」
「計算の内だ」
「どうせ計算なんてしてねえだろ、お前は!」
コントを始める二人に、ゆりが声を上げる。
「バカやってないで、援護しあって! 連携よ、連携! じゃないとやられるわよ!」
影の集団が目の前に現れ、じわじわと迫りくる。俺は下がりながら、銃をリロードした。こつん、とゆりの背中が当たる。
「そっち頼んだわよ」
「ああ」
銃を撃ちまくり、影を撃退していく。背中を預けているゆりから声が上がった。
「春斗くん!」
ゆりはリロード中であった。俺は振り返り、代わりにゆりの方面へいる影を撃つ。その間にゆりはリロードを終え、俺と入れ替わる形で反対側の敵を撃ちだした。毎日稽古しているから動きがわかるし、考えていることも伝わりやすい。俺とゆりは二人一組でフォローし合い、戦っていた。
「いや、あれ連携ってレベルじゃねーだろ……出来るわけねーって」
日向がげんなりとした声を上げる。刹那、再びハルバートの一閃が軌道上にきた。日向はマトリックスかと思うくらいのファインプレーでそれを避ける。
「っぶねえええええ⁉」
「ふん。計算の内だ」
「だから計算なんてしてねえだろ⁉ つーか、今のは八つ当たりだろ、そうだろ! そうだと言ってくれ! つーか、影よりお前のがあぶねえよ!」
そんなコントを横目に、立華がハンドソニックを二つ発生させ、影を一掃していく。一人だけ圧倒的に殲滅数が多かった。もうこいつ一人でいいんじゃね? と思うくらい、彼女だけ頭が一つも二つも抜けている。
「かなでにばかり頼るわけには、いかねえよな……!」
音無がそんな声を上げながら、良い動きをして影を殲滅していく。短期間だというのに、銃の扱いにはすっかり慣れている様子であった。
野田が最後の一閃をし、影を撃退する。長い戦いであった。戦線メンバーは全員息が上がり、最初からいた野田は尻もちをついた。
「こんな奴ら、この世界にはいなかったぞ……!」
悲痛な声を上げる。
たしかに、これはあまりにもイレギュラーな現象だ。
「まるでゲームね。永久プレイを阻止する無敵のモンスター……」
ゆりの言葉に、音無は頬を引きつらせた。
「笑えない冗談だな……」
「にしても。まるで味方じゃない」
「え?」
「天使。あれのどこが冷酷なのよ」
「そ、それは……」
呼ばれた立華は「?」と小首を傾げている。
「緊急事態です」
遊佐が現れたので、みんなが一斉にそちらの方へ視線を向ける。
「どうしたの?」
ゆりの問いに、遊佐が答える。その知らせは、緊急事態という言葉でも釣り合わないくらい、最悪なものであった。
「高松さんが影に飲み込まれました」
影に飲み込まれれば、NPCとなる。高松はNPCとなり、生前や戦線での記憶を失ったまま、永久にこの世界で授業を受けることとなった。
久遠の牢獄。
死後の世界は今、地獄に近い場所と化していた。
そうした危機の中、ゆりは戦線メンバーの総集を行った。幹部だけではない。陽動部隊、ギルド、そしてそのいずれでもないメンバーまで、総勢60名を超える人員を体育館に集め、現状を報告。
そしてその場で、現状における危機回避の一つとして、音無の思想を発表してもらう。
……それが、今回の緊急招集になるようだ。
「サンキュー。よくわかったよ」
誰もいない校長室。遊佐のわかりやすい報告を聞いた俺は礼を口にした。
「遊佐はどうするんだ?」
「……」
「まあ、まだ決められないよな。音無の言葉、よく聞いておけ」
俺は校長室の扉に手をかける。
「行ってくる」
「はい。お気をつけて」
「ああ。遊佐、これが最後かもな。世話になった」
「こちらこそ」
「優秀な通信士だったよ、あなたは」
そう言って、校長室を出る。
やることは決まっている。むしろようやく決まって、スッキリしたくらいだ。
クラスSSSの制服を着て、俺も体育館へと向かった。
音無の演説は途中からだが、聞くことが出来た。見事なものだった。当初は新米の彼が新たな思想を、それも仲村 ゆりと真逆の、天敵である天使と同じ内容であったことに、激しい反発の声が上がっていた。
それでも、音無はこの短期間で集めた情報を的確に指摘し、この世界の真相を改めて共有した。
この世界が人のためにあること。
天使の……立華の、異能の正体。
戦線はずっと、人と戦ってきたこと。
忌まわしい記憶を抱え、ここに留まることはよくないことだと。
ここは、もう一度生きてみようと思えるためにある場所なのだと。
卒業すべき場所なのだと。
そもそも……みんなのやりたいことは。晴らしたい無念は、神への復讐なんてしなくても、出来ることなのではないのかと?
この世界を去った者がいた。その者達は、満足して消えたのだ。
死んだ世界戦線は所詮、ゆりのために作られた組織に過ぎない。戦線メンバーは、彼女の口車に乗せられたに過ぎないのだ。
クラスSSSがなくても……この世界を満足して去れた者が、たくさんいるのだから。
それを、立華は見送ってきたのだから。
焼却炉前に集まっているのは立華、音無、日向、直井の四人であった。俺は四人と合流する。
「おう、桜木……って、その恰好⁉」
日向が声を上げる。俺は親指を上げた。
「新米だ。よろしくな」
「いや、今更っつーか、なんつーか……どうしたんだ? 戦線の制服だろ、それ」
「もうこんな状態だからな。中立もなにもないだろう。生徒会なんてやっている場合じゃない。俺は戦線に入るよ」
この短期間で勢力図は大幅に崩れた。立華はもはや、戦線の敵ではない。敵は正体不明の「影」。それだけだ。
「ゆりが……一人で戦おうとしている。どうするんだ?」
音無が心配そうに尋ねてくる。
「もちろん、駆けつける。もう話はしてある。ここに来たのはただ、その前にみんなと会いたかっただけだ。きっと、これで最後になる」
「桜木……」
「音無。お前のおかげで、戦線は変わった。みんなはきっと、救われる。まあ、肝心のゆりはまだわかんねえけど……それでも、十分すぎるほどすごい奴だよ。俺の夢は、もうほとんど叶った。ありがとう」
「……俺達のリーダーを。ゆりを、守ってくれるか?」
「ああ、任せろ。だから、音無。お前は立華と共に、みんなを見送ってくれ」
「わかった。頼んだぞ」
俺と音無は拳を合わせた。と、ここで日向も拳を合わせてくる。
「おいおい、俺も混ぜろよ」
「日向」
「お前も、俺達の仲間だからな。ゆりっぺと一緒に帰ってくるの、待っているぜ」
「ああ。必ず」
俺達三人は拳を離した。
「また会おう、みんな」
手を上げて、背中を向ける。音無達の味方もしたいが、俺はゆりの側にいる。ここからは始まるのは――それぞれの、新しい戦いだ。
「神も仏も――」
「開いているわよ。さっさと入りなさい」
「最後まで言わせろって」
がこん、と校長室を開ける。そこには武器の整備をしているゆりがいた。大きなアサルトライフルと銃弾が机の上に散乱している。最終決戦用に、武器はありったけもっていくつもりなのだろう。
「あんたも好きな武器を持っていきなさい」
「ああ。そうだな」
「竹山くんの言う通り、あれほどの規模のマテリアルを生成するのに、一つのPCで賄うのはありえない」
「必然的に、場所はPCの多い場所ってことになるな」
「ええ。まずは校内でPCの多い場所を当たるわよ」
「そうだな。にしても、そもそもあのANGEL PLAYERってのは、なんだろうな。ゆりはどう思う?」
「さあ? そもそも、何故名前がANGEL PLAYERなのかしら」
「天使。競技者。直訳しても意味わからねえんだよな。ニュアンスだとは思うが。開発者は天使になろうとしたのか……」
お互いに武器の準備をしながら、そんな会話を交わす。
装備が整う。俺は一息ついた。ゆりが窓の外を見る。
「……この景色を見るのも、最後かもしれないわね」
「不吉なことを言うんだな」
「生きて帰れると思っているのかしら。相手はこれほどの規模の騒動を起こせる奴よ。勝ち目なんて……ない」
ゆりが暗い声で言う。
だけど、その表情は力強く、瞳は勝気そうであった。いつものゆり。いつもの、破天荒にして滅茶苦茶な我らがリーダー、仲村 ゆりである。
俺はそんな彼女を、後ろから抱きしめた。強く、強く抱きしめる。
「それでも、行くんだろ?」
「ええ。ねえ、春斗くん」
「ん?」
「これで最後かもしれない。だから、わかっているわよね?」
背後からゆりの胸を、制服越しに両手で揉んでやる。「あ、ん♡」とゆりが甘い声を上げる。耳と首に優しくキスをしながら、問いかける。
「なにがほしい?」
「変態か。そしてそれを言わされるあたしも変態じゃない……」
「言わない?」
「んー。どうしようかしら」
「よし。影撲滅し隊一号、行くぞ」
「なによそのヘンテコな名前⁉ てか、字面も悪いじゃない! これが小説だったら「あー、読みづらいなあ」ってなる奴じゃない!」
「ゆりが素直にチンチンって言ってくれないからな」
「なんであたし、こんなのに惚れたのかしら」
今更だろ。
「選択肢は二つだ。チンチンって言うか、影退治に行くかだ」
「どんな二択だああああ! もう、わかったわよ!」
ゆりがぎゅっと正面から抱きついて来た。ふわりとした良い香りと、柔らかな感触が押しつけられる。
「春斗くんのチンチン、あたしにちょうだい……♡」
ゆりが甘えた声を出して、ディープキスを交わす。んちゅんちゅ、と唾液を交換しながら舌を絡め合う。
校長室を汚したら色々と大変だからと、俺の一人部屋に移動した。
朝になった。俺がベッドの上で体を伸ばしていると、ゆりが一足早くベッドから降りる。
「さ、行きましょう。にしても、昨日はすごかったわね……」
裸のままゆりは顔を赤らめ、机の上に置いた紐を首から下げた。そこにはエンゲージリングが通されており、光放っている。俺はそれを見届けながら、同じようにベッドから降りたのであった。