熱戦となった球技祭も終わり、日常が戻る。俺は密かにNPCに聞き込みを行っていた。例の黒いお守りについてだ。誰に受け取ったのかを聞いていくと、やがてとある人物に行きあたった。それは意外にも生徒会書記の彼女――夕顔であったのだ。
「……やっぱり、天界の使徒なのか。彼女は」
色々と合点は一致する。あの大規模な夏祭りも、彼女が裏を引いていたのだとすれば、納得がいく。生徒とのコネクションは、大方夕顔によるものなのだ。
黒いお守りがなにを意味するのかはわからないが……今のところ無難なのは、宣伝か。夕顔が天使に近づいていることといい、なんとなくこの学園全体を取り入れようとしている動きに見えなくもない。
この世界のルールに抗いながらも、学園を味方につける。そんなことをしようとしているのか。
「結局、名が知れ渡るのは避けられないか」
「――定例会議の時間です」
「っ⁉」
またも背後をとられたと思い、一気に振り返る。幽霊の如く現れたのは、やはり遊佐であった。
……普通に登場してくれないだろうか、本当に。あとどういう原理で背後とっているのか、気になってしょうがない。
「あ、ああ。もうこんな時間か。わかった、すぐに行く。いつも伝言、ありがとな」
遊佐がメンバーの招集をかけるのは、よくあることだ。ゆりからの伝言をしたり、彼女はメンバーの「通信士」としての役割を果たしている。
「調べていたのですか?」
「ん? ああ」
声かけて来るの珍しいなと思いつつ、俺は答えることにした。
「俺も調べてみるって、言っただろ?」
「なにかわかりましたか」
「多分、裏は生徒会だ。夏祭りの件もな。書記の夕顔が怪しい。遊佐は?」
「同じ人物に当たりましたね」
「じゃあ、あいつは黒だな」
「ゆりっぺさんは消えない理由が気になる、と言っていました」
「だな。ようするに、消えないから生徒会に入れさせたってことなんだろ」
「役割が多そうですね」
「実際、生徒会に入りこめているのはでかいだろ。たく、小賢しい奴らだ」
言いながら、肩をぐるぐると回す。この間の球技大会でピッチャーをやったせいか、肩が痛んでいる。人間の体はボールを投げるように出来ていない、という説を実感する。
「怪我ですか?」
「球技大会でな。ピッチャーだったし、しょうがねえだろ」
「弟さんに負けたそうですね」
「それを言うな」
無表情のくせに、気にしているのわかっていて煽っているだろ……。
まあ、でも……戦線の力を借りて勝てたと考えれば、良いんだけどな。
ゆりに、そう教わったのだから。
「ですが、上機嫌ですね。こだわりがあったそうですが」
「ああ。たしかに俺一人では負けたけど……大将が、力を貸してくれたからな。意外とすっきりした気分だよ、今は」
「――よう、兄さん。よく来たな」
「お前、なんで戦線の制服着ているんだよ……」
俺と見分けをつけるためか、随分としゃれっ気をつけている。前髪をオールバックにし、ピアス、ネックレス、指輪と派手なシルバーアクセサリーをつけている。なんかチャラついたホストみたいな容姿である。
「どうしてもってごねるから、あげたのよ」
「正気か、ゆり。こいつを仲間にするのか?」
たしかに賭けには勝ったが。なにも仲間にしなくても……。
「ま、一応は敵意がないようだから、いいんじゃない?」
空はふ、とすかした感じでソファに座りながら、ゆりの隣へ佇む遊佐へ声をかける。
「ほう。そこのあなたも、悪い女じゃないな。どうだ? 俺と一緒に、熱い夜でも――」
「結構です」
「ふっ、つれない女も嫌いじゃない。固い股を開かせるのも、楽しみというものだ」
「……」
変わらず無表情だが、心なしか少し黒いオーラを放つ遊佐。
その隣では、ぶるぶる! とゆりが悪寒に震える。
「相変わらず寒気のする奴ね……」
「桜木さん、不愉快です」
「待て、遊佐。その言い方だと、とばっちりで俺まで言われている気分になる」
日向が呆れたように横目を流す。
「つーか、桜木に恋愛がだらしないとか言いつつ、お前のがよっぽど女にだらしねーじゃねんか」
「全く。お前は、なにもわかっていない」
「なにが?」
「ようするに、これは役割分担なんだ。兄さんは女の扱いがてんでダメなんだ。だから、オレが女を担当しているってことだ。わかったか?」
「いや、色々と意味わかんねえよ! つーかお前、それで女の扱いが上手いと思ってんのかよ⁉ ただの下ネタっつーか、セクハラだよ!」
大山が興味津々そうに、俺に問いかけた。
「桜木くん兄弟は映画みたいな話で、ワクワクするね」
「まあ、俺はそういうのダメだったけどな。それだけは、あいつには勝てない。女の相手は任せていた」
「……あれ。でも、二人って未成年だよね?」
「そうじゃない時もあったな」
「偽装している⁉ なんてアクロバティック! ねえねえ、嫌じゃなかったら、今度どんな任務こなしていたか教えてよ!」
「別にいいけど。多分、映画ほど面白くねえぞ」
「リアリティのあるアクション映画……これは大作の予感がするよ! 全米が震えるね!」
「おう。聞いてねえな、こいつ……」
目をキラキラさせる大山に、俺は若干引いた。その様子を、空がぼんやりと眺めている。大方、慣れ合って腑抜けだと思われているのかもしれない。
ゆりはメンツが揃った後、話を切り出した。
「――さて。定例会議の時間よ。見ての通り、春斗くんの弟である桜木くんが戦線に協力してくれることになったわ」
「慣れ合うつもりはないけど、よろしく」
壁に寄りかかり、不愛想に告げる空。
案の定、戦線メンバーは疑念の目を向けた。
「敵を味方につけるのは、ゆりっぺらしいけど……大丈夫なのか?」
日向の疑問に、ゆりは頷いた。
「ええ。問題ないわ」
「……随分と、自信があるんだな?」
「あるわ。理由はここで言えないけれど、彼には戦線へ協力する動機があるの。でも、天界の使徒へはない。それだけよ」
「よくわかんねーけど、ゆりっぺが言うなら大丈夫……なのか?」
しかし前回の件があるせいか、メンバーの空気は微妙なものとなった。その空気を察し、空がやれやれと肩をすくめた。
「姫君は気を使って伏せたが、別に隠す話じゃない。俺がこの世界でやりたいことは二つ。兄さんと勝負をすることと、もう一度一緒に任務をこなすこと。それだけだ」
その言葉に、一同が俺の方へ視線を向けた。
……まあ、球技祭の時の会話から、薄々そんな気はしていた。
お前は、俺が目的なんだ。
そしてこの世界へ呼んだのも、縛りつけたのも。
「勝負に関しては、もう満足だ。それに今の兄さんじゃ、殺し合いでの勝敗は決まっている。なら、あとはもう一つの願い。共になにかを成したいんだ」
「なーんか、信用できねえな。行動が支離滅裂だぜ、弟野郎」
藤巻が睨みつける。
「支離滅裂? お前は局面を理解出来ているのか?」
「んだと?」
「どこにも矛盾なんてないだろう、と言っているのだ。兄さんと戦いたいから、天界の使徒へ入った。ちょうど兄さんは敵対勢力に加入し、そして勝負を果たした。それが終わったから、戦線へ協力した。頭を使え、木刀野郎」
「けっ、気に入らねえヤローだ。とっとと満足して消えやがれ」
藤巻が悪態をつく。
「ところで。情報の方は提供していただけたのでしょうか? そういう賭けだったと思いますが」
高松の問いかけに、ゆりはこくりと頷いた。
「ええ。敵の人数十人以上。本拠地は外れにある地下施設のダンジョン……オールドギルドのような場所ね。奥へはもちろん入ってはいないけれど、存在は確認されたわ。誤情報ではない。また、学園にも数人潜り込んでおり、その内に二人が浅野、そして桜木くん。ただし、桜木くんは正規のメンバーではなかったようね」
「と、いいますと?」
「協力関係。今のあたし達と同じね。ああ、それと殺しはやはり通過儀礼だったそうよ。万が一天使に捕まってもいいように、彼に任せていたそうよ。本拠地でやらず公にしたのは、学園や戦線に存在を知らしめるため。ま、おおよそはあたしの推理通りってとこね」
松下五段がそこで疑問を口にした。
「何故、天界の使徒に手を貸したのだ? 桜木が戦線に入った時とは、時系列が逆になるのではないか?」
それには空が自ら答えた。
「天界の使徒のリーダーに、岡田ってやつがいるだろ。お前らも一回だけ会った。あいつは神か、神に準ずるものだ。そして俺は、その力がどうしても必要だった」
大山が首を傾げた。
「天使みたいな存在……ってこと?」
「まあ、そうだな。だが、あれ以上かもしれん」
「ええ⁉ て、天使よりすごいって……そんなのが、この世界に……?」
もうそれは、戦線の手に負えない存在になってしまう。ただでさえ、天使だけでも戦線はギリギリだというのに。
「少なくとも、奴はこの世界の根源にアクセス出来る。それは間違いない。お前ら、疑問に思わなかったか? 何故、俺と兄さんが同時にこの世界へ来るなんていう、バカみたいな奇跡が起きたのか、と」
「偶然ではないと?」
高松の言葉に、空は頷いた。
「ああ。岡田が兄さんをこの世界へ召喚したんだ」
「召喚って……どうやって?」
日向の言葉に、空は答えた。
「わからん。だが、奴は俺の願いを叶えた。それは事実だ」
ANGEL PLAYERの名前が出てくるのではないかと思い、冷や冷やした。ゆりは俺が消えた後の世界で、その名前にたどり着かなくてはならない。因果律が曲がってしまうと思ったが、空はどうもANGEL PLAYERを知らないようであった。まあ、「神か神に準ずるものだ」と断言した時点で、ANGEL PLAYERの名は出さないと思っていたがな。
……今の俺は、この世界の真理に、ある程度辿り着いてしまっている。
残酷なことに、戦線の戦いが勘違いによる茶番なのもわかっていた。天使は、天使じゃない。ANGEL PLAYERを使ったただの人間だ。
だが、その真実も俺が消えた後の世界で辿り着くもの。
今は関与するわけにはいかない。少なくとも「あの少年」がこの世界に来るまでは。
「天使みたいな敵が、もう一人増えたってのかよ……」
藤巻が落胆したように呟く。
野田がギロリと空を睨んだ。
「ゆりっぺ。こいつをどう使う気だ?」
「本拠地の場所は本当だったし、行動にも矛盾は感じられない。あたしはある程度は信用するわよ。扱いは、遊撃兵みたいなものね。そしてその行動原理は、春斗くんに依存している。この世界にいる理由もね。だからどう使うかはあなたに任せるわ、春斗くん」
まあ、そうなるよな。
「わかった。だが、空。これだけはこの場で約束しろ」
「なんだ、兄さん」
「戦線メンバーを傷つけるな。それと、邪魔もするなよ」
「大人しくしているさ。言っただろ、もう彼らに敵対する理由はない」
「なにかしたら、ただじゃおかねえぞ」
「はいはい。全く、すっかり人らしくなったねえ、兄さんは。気味が悪い。出来れば、顔を見たくないな」
「それはこっちのセリフだ」
剣呑なやり取りに、日向が頭を掻いた。
「お前らって、複雑な関係だよな……兄弟なのによ」
ゆりは椅子の上でいつも通り手を組みつつ、口を開いた。
「今後の方針は基本的に変わらないわ。戦線は引き続き、神の炙り出しを行う。天界の使徒も重要な手がかりの一つ。故に天使と同じくらい、動向を深く注意する。重要な手がかりを掴むために、近いうちに大規模な作戦を立てるわ。その時は、オペレーションとして各員に通達するわね。さて。あたしからは以上だけど、みんなはなにかあるかしら?」
沈黙。俺も報告することは特になかった。お守りのことは、ゆりに直接報告している。情報がまとまってから共有すべきだろう。
決戦の時は近い……か。
だとするなら、俺はそろそろ動かなくてはいけない。
そしてそれが……俺の、最後だ。
「それじゃあ、解散よ!」
ゆりの言葉と共に、定例会議は終了となった。
「なんか、すげーことになったよな。天使以外にも、神に準ずる者が現れるとは……この世界はどうなるのやら」
夜。学食にて日向が待っていてくれたため、共に食事をしていた。日向はトンカツ定食で、俺は塩ラーメンであった。
俺はルームメイトを空にすると提案をしたが、空は一人が良いと言って断られた。監視の意味だったのだが、本人に断られてはしょうがない。
空は慣れ合うつもりはとことんないようだ。あんな動機ではあるが、俺ともそうなのだろう。まあ元々、俺達の関係は普通の兄弟とは違う。宿敵なのだ。仲良く一緒に暮らすのは、苦痛なのだ。俺も同じだ。嫌悪とは違うが、今となっては出来れば一緒にいたくない。それに日向と一緒にいるのに慣れてしまっているのも、正直なところである。
「……色々と、気になることが多いな。やらなければいけないことがある」
脳裏にはお守りの一件がよぎる。なんだかあれは、ものすごく嫌な予感がする。
「なに深刻な顔してんだよ。なるようになるだろ。それに時間はたっぷりあるんだ。焦る必要はない。じきに全部わかるだろ」
この世界に慣れているからか、日向がそんなことを言う。長い時間を過ごした彼にとっては、そうなのだろう。だけど、俺は違う。紛い物、招かれざる存在であると知った俺は、残された時間が少ないことを自負している。
……それにもう、実はやるべきことを決めていた。
ピースが揃ってしまったのだから。
「ああ。そうだな」
気のない返事をすると、それを察したのか日向が眉を顰めた。
「なんつーかお前も、放っておけねえタイプだよな」
「俺が?」
「ああ。昔のゆりっぺにすげー似ている。それも会ったばかりの方の、ゆりっぺだな。放っておくと一人で全部抱えて、どこまでも一人で突っ走っちまいそうな、そんな雰囲気だ。だから、放っておけない」
「お人よしだな。ルームメイトになったのも、そんな理由か?」
「おうよ。それに、新人の世話をするのは、俺の重要な仕事の一つだ」
朝食も夕食も一緒にいてくれるし、日向は良い人なのだろう。人一倍仲間思いだ。それに端々から、ゆりへの強い思いが感じられる。それはきっと長い年月によって培われたものなのだろう。
なんとなく恋愛関係とは違う関係性なのだとはわかっているが、その深い関係性に時折軽く嫉妬を感じてしまうこともあった。
だからこそ、俺は思う。
彼はきっと、最後までゆりの味方でいるんじゃないかと。
「なあ、日向」
「なんだ?」
「変な話になるけど。頼みがある」
「頼み? なんだよ、改まって。なんでも聞いてやんよ」
「もしもいつか、戦線の戦いを終わらせてくれる、そんなすごい奴が来たらさ。日向は、そいつの親友になってやってくれないか」
親友、という言葉がすっと出てきたのかはわからない。
けど、なんとなくその言葉が相応しいと思ったのだ。
日向はこんな突拍子もない話を笑いもせず、あしらうこともしなかった。
「よくわかんねーけど。なら、そいつと俺とお前の、三人で親友だ」
「え?」
「そうする方が、面白いだろ? 賑やかで。どうだ?」
人懐っこい笑顔を浮かべる日向に、俺は頷いた。
「そうだな。そうしよう」
だけど、そんな日は来ない。この身は退場する身だ。紛い物なのだ。
日向の親友には、選ばれないのである。
その役目はきっと、別の誰かなのだから。
その方が、しっくり来る。
最後に、いつも通りの一日を過ごした。
朝起きて、ルームメイトの日向と朝食をとって、自主トレをして、昼には戦線のメンバーと共に鍛錬をして、午後の空いた時間にゆりと会って、戦線の活動に参加して、定例会議に出て。そうして夕食をとった後、眠りにつく。
そんな一日だ。戦線に入ってからは、大体そういった流れになる。
俺としては、良い毎日だった。目的を共にした仲間がいるなんて、考えられなかった。ルームメイトが出来て、時間を共に出来るとは思えなかった。そしてなによりも――誰かを好きになれるなんて、思いもしなかった。
だけど、もう終わりだ。
そんな日々と、別れを告げる。
もうけじめはつけていた。これ以上いれば、いつANGEL PLAYERのリセットがやって来るかわからない。
因果律を曲げないため、別れの言葉は誰にも言わない。
「空」
弟の名を呼ぶ。
早朝の橋の上。彼は気崩した戦線を制服を着ていた。
「俺の願い、もう叶えてくれるのか」
「ああ」
「お仲間との別れはいいのか?」
「大丈夫だ。一日、いつも通りの日々を過ごした。それで十分だ」
空は敵の本拠地を知っている。そこにはANGEL PLAYERがあるはず。それを壊せば、奴らは天界の使徒としての力を失うはずだ。その後どうなるかはわからないが、少なくとも俺というイレギュラーが縛られる鎖が無くなる。この世界の因果を捻じ曲げた元凶は無くなるのだ。
「行くぞ」
「懐かしい。生きていた頃みたいだ」
「これが望みだったんだろ?」
「まあな」
「最後の戦いになる。お前にとっても……俺にとっても」
さあ、始めるとしよう。
招かれざる、まがい者同士の戦いを。
敵の本拠地は外れの森の奥にあった。掘られた地面の奥に、仰々しい金属の扉がある。
「……本格的だな」
「ま、秘密基地みたいなものさ。食料は自給自足。みすぼらしいね」
「ゆり達みたいに、学園に拠点を作ればいいのにな」
「ああ。それは無理だ」
「なんでだ?」
「仲村ゆりと同じ思想だよ。ただ、アプローチが違う」
「?」
「戦線はトルネード。こいつらは自給自足。それだけの違いだ」
「待てよ。どうして神を崇拝している奴らが、神の反逆者と同じアプローチになるんだ?」
「神を崇拝? 違う。こいつらが崇拝しているのは、リーダーの岡田だ。神は、あいつなんだ」
「なに?」
「あいつはこの世界で神になろうとしている。実際、どういう手品か異能も扱う。兄さんもこの世界へ呼んだしね」
「……」
俺は無言になる。
それに関しては、ネタが割れている。ANGEL PLAYERだ。そいつは神なんかじゃない。天使――会長と同じなだけだ。
空が金属の扉を開ける。中は金属の廊下が広がっていた。見渡しがいい。だが――少し進んだだけで、妙な気配を感じた。
「――来たか。カウンター」
奥から現れたのは、士郎と呼ばれていた大柄な男であった。
その右手には、緑色の刃が生えている。
ハンドソニック――ANGEL PLAYERの力か。
「ほら、見た。兄さん、岡田を崇めるともれなくあの力が手に入るんだ。あいつも天使か、それ以上の存在なのかねえ。ああ、ちなみにオレはあんな化け物になるのは御免だから、断ったさ」
「……空。先に言っておく。岡田は人間だ」
「……へえ?」
「そうだろ?」
だが、士郎という男は首を横に振った。
「彼は神です」
「気が狂っているな。バカを洗脳して、神を気取っているのかよ」
「バカはどちらですか。何故、神に逆らうのですか」
「なら、見せてやるよ。その神と同じ力を」
軽い頭痛。ANGEL PLAYERへアクセス。あの男が「いつでもどうぞ」と宣言する。ANGEL PLAYERの力を使うのは付け焼刃だが――まあ、なんとかなるだろ。戦闘はプロなんだ。
「――カードスキル。名前はなんでもいい、ナイフを寄越せ!」
機械的な音共に、俺の手には青いナイフが現れる。同時に、身体能力が飛躍するのを感じる。パッシブスキル「オーバードライブ」。ANGEL PLAYERの恩恵だ。今の俺なら、あの天使とも互角に渡り合えるだろう。ただまあ、あっちは年期があるから、真っ向勝負じゃ負けるだろうがな。
「あなたはカウンターです。立華かなでと同じ、神の候補の一人だと教えてられています」
「そういう風に誤魔化しているのか。色々矛盾点があるけどな」
士郎がその言葉には答えず、襲い掛かる。俺も前へと踏み出した。カードスキルのナイフを握る。
「空! 援護を頼む」
「無茶言うよ……! 化け物同士の戦闘に参加しろと?」
「なんとかするんだよ!」
ものすごいスピードとパワーで、俺と士郎の得物が交じり合う。
空は後ろへ下がり、銃を構えた。
起きてすぐに、異変に気づいた。
ルームメイトがいない。どこにも、いない。
どうして――何故?
嫌な予感がした。早起きして一人鍛錬している――なんて、そんな楽観的な考えにはならない。元々、俺はあいつが放っておけない奴だと思っていた。一人でなにか抱えているような。一人でなにか思い悩んでいるような。会ったばかりのゆりっぺを思い出させる、そんな雰囲気があった。だから俺は、時間をかけてあいつの心を開かせないと、って思った。
「桜木……! どこへ行ったんだ!」
そして予感は的中した。ゆりっぺも、戦線のみんなも桜木を見ていないのだ。定例会議にも現れなかった。
「ゆりっぺ! 本当に、あいつの行先を知らねえのかよ⁉」
みんなが集まった時、俺が思わず声を上げると、ゆりっぺが首を横に振った。
「わからないわ。あたしが聞きたいわよ」
天使に消された? 満足して消えた?
どちらもありえる。
けど、なんだか唐突過ぎて不自然だ。なによりもあいつが、ゆりっぺになにも言わずに置いていくなんて……おかしい。こんなの、おかしいだろ。
高松が眼鏡を上げる。
「ついでに、弟さんもいないですね」
「じゃあ、あいつが連れ去ったんじゃねえのか」
藤巻が口を挟む。
ゆりは手を組み、思考を巡らせた。
「一つ、考えられるとすれば……桜木くんを連れて、天界の使徒の本拠地へ潜り込んだ、ということかしら」
「……弟の願いを叶えるために、か?」
「ええ」
「――ゆりっぺを、置いて?」
俺が言うと、ゆりっぺはきっとこちらを見上げた。
「そうよ」
「信じられねえよ。あいつが、そんな勝手なこと……」
「……ええ。そうね」
なんだか、イラっと来た。
ゆりっぺに覇気がない。
……好きな男が、何も言わずに消えたのだ。混乱するのは仕方ないし、想像も出来ないくらいに辛いのだろう。
だけど……ゆりっぺらしくない。こんな時だからこそ、頭を回さなきゃいけないんじゃないのか。
クソ、なんなんだよ。
大体、桜木のやつは、どこへ行きやがった。
なんで……なにも言わねえんだ。俺達は……仲間じゃねーのかよ。
そんなに、俺達は頼りねえのかよ。
「――ゆりっぺさん、みなさん。お取込み中のところ申し訳ないですが、緊急事態です」
遊佐が現れ、唐突にそう告げた。
「なに?」
「黒いお守りを身につけたNPCが、天使となって暴れています」
「……は?」
ゆりは一瞬、フリーズした。
あまりにも、意味不明な内容だ。
「遊佐。なにかの冗談……じゃないのか?」
「いいえ。冗談ではありません。実際に見た方が早いかもしれません」
ゆりが顔をしかめるも、すぐに気持ちを切り替えて立ち上がった。
「こんな時に……! 総員! 出るわよ!」
「あ、ああ!」
各々武器を構え、校長室を出る。
ちくしょう。一体、なにが起きている……?