「オペレーション・デーモンピクニックは失敗に終わったわ」
ゆりがいつもの上座で大仰に告げる。
悪魔の大暴走により、デーモンピクニックは誰も生き残らない、惨劇なる結末を迎えたらしい。ちなみに俺にはその時の記憶がない。
「今日集まってもらったのは、次なる作戦についてよ」
「まだやるってのか……たりーぜ」
藤巻がげんなりした様子で言うも、ゆりは構わず続けた。
「題して! オペレーション・エンジェルスクールライフ!!!」
「「「???」」」
未知なるオペレーションなのか、幹部はノーリアクションであった。大山が小首を傾げる。
「エン……なに?」
「今までは天使に攻撃をしかけてばかりだった。それを一転、天使に優しく接触し、取り入って信用させるのよ。幸い、我が戦線には生徒会メンバーの春斗くんがいることだし、懐柔させるのは不可能ではないはず」
俺、戦線メンバーじゃないんだけどな。
あと記憶がない時、なにが起きたか説明してほしいんだが……トラウマなのか、誰に聞いても教えてくれない。
「信用させて、それからどうするのですか」
高松の質問に、ゆりがすぐ解答する。
「神のことを聞き出すのよ。あるいは、この世界の核心に迫るようなことを」
日向が目を丸くした。
「あの悪魔のようなゆりっぺにしては、随分と平和的で大人しいオペレーションだな。なにか悪い物でも――ぐはああああ⁉」
「あたしはいつでも優しいリーダーでしょうが⁉」
「たった今辞書を顔面に投げた奴が言うセリフかよ⁉」
日向の鼻からは血が出ていた。慌ててティッシュで止めだす。
音無が顎に手を当てた。
「しかし、なるほど……惨劇は起こらなそうだし、いいんじゃないか? なにより、戦わなくていい」
「甘いぞ、音無」
すかさず野田が声を上げる。
「天使は凶暴で残酷だ。油断して近づいたら、何をされるかわからん」
「イケパイ……まあ、そうかもしれないな……」
「わかればいい。そして、これはおっぱいではない!」
音無が胸の辺りを抑える。過去に心臓をぶっ刺されたことを思い出したのかもしれない。
「ふむ。やれるだけはやってみようじゃないか。戦わずして勝利することが、一番の勝利だ」
松下五段が頼もしいことを言う。
「ええー……でも、あの天使とそんな穏やかに話し合えるかな。僕は自信ないや」
対して、大山は自信なさげであった。
「とにかく! オペレーション、スタートよ!」
ゆりは勢いよく、そう叫ぶ。
ことごとく失敗したから、自棄になっている節がある。
嫌な予感しかしないな……。
戦線メンバーの何人かが、授業に出席していた。そしてこの教室には俺と立華がいる。どうやらスクールライフへ参加するところから、始めるようだ。
しかし消える可能性があるあいつらにとって、それはリスクがある行動のはず。俺は心配になり、隣に座る大山を見やった。
大山は視線に気がつき、ノートを見せてきた。
そこには竜のイラストが描かれている。上手だ。絵本とかに出てきそうな竜である。
(まあ、大丈夫か)
反対側の席へ視線をやる。
ガルデモのベーシストこと、関根が座っている。
関根は視線に気がつき、ノートを見せてきた。そこにはこんなことが書かれていた。
「みゆきちは貧乳」
やめろ。
ここ数日間のゆりや戦線メンバーの行動力は凄まじかった。一緒にごはんを食べたり、一緒に帰ったりしている。
「かなでちゃーん、あーん♡」
「ん」(もぐもぐ)
「もっと食べる?」
「うん」
ゆりと立華が仲睦ましい姉妹のようになっている。
まあ、オペレーションだから紛い物だけど。本物の光景だったら良かったな。
再び授業を受ける。立華と一緒に授業受けることで、戦線の印象が変わればいいが。
俺には心配になり、隣に座る日向を見やった。
日向は視線に気がつき、ノートを見せてきた。
そこにはデフォルトの怒ったゆりの顔が描かれている。上手だ。多分、本人に見られたらボコボコに殴られる。
(まあ、大丈夫か)
反対側の席へ視線をやる。
そこには陽動班のサポートメンバーこと、ユイが座っている。
ユイは視線に気がつき、ノートを見せてきた。こんなことが書かれていた。
「入江先輩は貧乳」
お前よりはあるから。二人共見たことねえけど。
「ここ最近、SSSの人達が良い人達だわ。どうしたのかしら」
生徒会室にて、立華がそんなことを言った。
「普段は悪い奴らなのにな」
「そうね」
「即答なんだな……」
「桜木くん。あたしもなにかお返しをした方がいいかしら」
「ん? ああ。あいつらが欲しがっているものでも、あげたらどうだ」
「欲しがっているもの……そうだわ。最近……」
ブツブツ言いながら、立華が生徒会室を去る。
……いや、まさかな。
「かなでちゃーん! 今日はみんなでお弁当食べましょ!」
ゆりが戦線メンバーを率いてそんな誘いをする。するとかなではサクランボの可愛らしい包みをしたお弁当を取り出した。
「今日はあたしがお弁当を作ってきたわ。あなた達がとても欲しているものよ」
「っ⁉」
一同が息を飲む。
まさか、神への糸口なんじゃ――そう思った瞬間である。
独特の臭いをかぎとった瞬間、希望が絶たれた。
「最近、あなた達がよくこれを食べているっていうから用意したの。生レバー。味付けは麻婆風にしてみたわ」
「いやいや、いらないってば⁉ なにか勘違いが――」
「遠慮しないで」
「ぎゃあああああああああ⁉」
二度、戦線は生レバーによって壊滅したのであった。