【ふたなり】両性具有の少年少女の青春を描く実験小説 作:喋家月餅太
小学6年生の葵は部屋に閉じこもって窓の外を見ていた。
折角の日曜だというのに母親と喧嘩してこうして不貞腐れて2時間はたっただろう。
葵が悩んでいるのはここ最近の間におこった体の変化についてだ。
それはまだ触らなければわからないくらいだが乳房が膨らみ始めたことだ。
それで乳首が敏感になりTシャツに擦れて痛いと感じるようになった。その事を母親に相談したときにブラジャーを勧められたことがきっかけで喧嘩になり、というよりも一方的に葵が怒り出し部屋に閉じこもった形だ。
今くらいの年齢になれば胸も膨らみ始める。もともと覚悟していたし、むしろ少々遅いくらいだ。
だけど、いざその時が来てみれば受け入れるのは思った以上に難しかった。
それは葵の事情によるところが大きい。
葵は女子ではない。学校では男子として通っている両性具有で性自認も男だ。
両性具有は生まれると、一旦、保健所や行政機関から派遣されるソーシャルワーカーとの相談の元で男女どちらの性別として育てられるかが決められる。
その後、義務教育の期間を通じてカウンセリングなどを通じてどちらの性自認かを見極め必要ならばそれまで過ごしてきたのと違う性で生活するための性別の変更のための手続きが行われる仕組みだ。
葵は両親の判断から男児として育てられ、現段階まで一貫して男性としての性自認を示している。
一般的に二次性徴までの間は男児として育てるほうが障害は少ないと言われる。
葵も例外ではなく、これまでは他の男子児童と同じように育つことができた。
男女両方の機能を持つ両性具有だが外側から見ることができるのは男性器のみだ。女性がそうなのと同じ様に女性器は隠れた場所にあるし、特に子供の頃は意識しないかその存在にまったく気づかずに生活する人も多い。
体つきの違いのほとんどない二次性徴以前までの男女の違いは「ちんちんがあるかないか」であり、葵は「ちんちんがある」人のため男としての生活や周囲からの扱われ方には何も困ることがなかった。
ただし、それは「つい最近までは」の話である。
両性具有は男性としての機能もあるが体の全体を見れば女性としての機能による影響の方が多い。丸みを帯びた体つき、発達した骨盤、乳房……「妊娠できる体」であるため二次性徴によって起こる変化はほとんどが「女性化」だ。
その女性化が葵の体にも起こったのである。
10日ほど前だろうか乳首が衣類に擦れる痛みを感じるようになり、入浴時に自身の胸部に触れたときに柔らかくすこしだけ膨らんでいるのが確認できた。
気がついてからは男としてその体の変化を受け入れられずずっと隠し続けていた。
乳首の痛みに関しては耐えられなかったため、絆創膏を貼って対応した。
午前中、友だちと遊んで帰ってきてから汗でふやけた絆創膏を張り替えようと上半身裸になっていたとき、母親が部屋に入ってきてしまった。
その時に母親に膨らみ始めた乳房を見られてしまった。
葵の自己認識よりも事態は進んでいてもうすでにはっきり見た目に現れるほどに成長していたのだろう。
母親は服を着るように言い、Tシャツを慌てて着直した葵は体の成長についての話を始めた。
そして、母親は下着屋にブラジャーを買いに連れ出すことにした。
葵はそれに対して自分の女性化が受け入れられない事と体の変化を親と話すことの気まずさから母親を部屋から追い出して床ワイパーのロッドをドアノブに引っ掛けて外から開かないようにして籠城を始めた。
それが今から2時間前だ。
葵はこの2時間なんどか自分の胸に手を触れた。
クラスにはもうすでに十分乳房の育った女子も珍しくない。自分もそうなっていくのは親や自分を担当しているソーシャルワーカーから何度も聞かされていた。
胸だけじゃない、これから生理も始まる。たしかに射精という男性としての変化もあるが、それはなんだかピンとこない。
男として生きていけるのかが不安になってきた。
ブラジャーを付けるというのは特に不安だ。一度、興味があって10代女子向けの下着のカタログを見たことがある。
当たり前だが「女物」としか言いようのない女の子の好むかわいいデザインのものばかりだったからだ。
それを身につけるなんてもう自分は男でいられない。
葵は絶望感に打ちのめされ涙を流していた。
結局、籠城は母親に夕飯で呼ばれることで終わった。
いつまでも部屋にこもっていられないし、成長期の体が空腹に悲鳴を上げていた。
部屋を出た葵に対して母親は無理に今は考えなくていいと言いつつも、絆創膏一箱と薄手のタンクトップのアンダーシャツを数枚渡した。どうやら出かけていた父親に買ってきてもらったものらしい。
葵は両親からの説教が待っているかと思ったが、今の気持ちを受け入れてくれた事に罪悪感を覚えもした。
翌日からの週は多少暑く感じるがアンダーシャツをTシャツの下に着て学校にでかけるようになった。
それでも絆創膏は必要だったが、あるとないとでは乳首に感じる痛みが違う。
そのことから葵はブラジャーをしたら楽になるんだろうなと考えるようになった。
次の土曜日の事。午前中に6歳年上の従姉が葵の家に遊びに来た。
従姉は叔母である葵の母親に挨拶をすると、葵の部屋に行きたいと言い、葵は多少の違和感を感じながら部屋に案内した。
「葵の部屋久しぶりに来るなぁ。前に来てからあまり変わってないね
「そんなにコロコロ変わるもんじゃないと思うけど」
「男の子の部屋ってそうだよね」
「で、俺の部屋に来たのはなんか用事があるんでしょ?」
「鋭いね」
従姉はドアを閉めると葵の胸元を色々な角度から見た。
「結構、目立つようになったね。中にタンクトップ着てるの?」
「今は着てない」
「それでこのくらいかぁ」
「何?」
葵は従姉の意図を理解した。おそらく先週、自分が部屋にいる間に母親から連絡があったんだろう。
「そろそろブラが必要だね」
「言うと思った」
「叔母さんから連絡があってね。葵にそろそろ必要なんだけど、本人が嫌がって聞かないって。それで、わたしから提案があってね。話だけでも聞いてみない?」
葵はこれから以前興味本位で見たカタログのようなかわいい下着を勧められることを予感した。正直言ってそれは嫌だ。
従姉の事は、葵は一人っ子なので姉弟という感覚がそれで合っているか分からないが、姉のように慕っている。その大好きな従姉の言う事なら無碍にもできない。
「わたしさ、今もなんだけど女の子らしい格好って苦手なんだよね」
従姉はカバンを開けて何かを取り出しながらそう言った。
葵の従姉はボーイッシュなタイプだ。髪の毛はショートでジーンズやパーカーなどのさっぱりした服装をしている。今は胸が大きいほうだが、中学頃の胸が小さかった頃はよく葵の兄だと思われていた。
「男の子の葵とは一緒だとは言わないけど、葵くらいの頃にブラを嫌がってお母さんを同じ様に困らせたんだよね」
葵は驚いた。女子はみんなブラジャーを着けるようになることを喜んでいると思っていた。だが、目の前にいる正真正銘の女性が過去のそれを嫌がっていたという。
「と言ってもわたしは女子だから。葵の悩みと一緒だとは言わないよ。でも、選択肢くらいは知っておいてもいいかなって思うの」
従姉が持っていたのは下着メーカーのカタログだった。いくつかのページには付箋が貼っている。そのページをパラパラと開いた。
「多分、かわいいデザインのもののイメージがあって抵抗あるのかなと思って。葵みたいな人を除けばあくまで女の子のためのものだから男らしいデザインってのはないけど、ボーイッシュな子向けのものは色々あってね」
葵は従姉の示したページを見た。
そこに載っていたのはスポーツタイプのブラジャーやシンプルなデザインのブラトップだった。
見た目としてはスポーツタイプのブラジャーは胸周りまでしかないタンクトップ、ブラトップも先週母親から渡されたようなインナー用タンプトップのようなデザインのものもある。
「こういうのなら葵にも似合うし、男の子向けのパンツにも合わせられると思うんだ。実際、元々男の人の下着のボクサーパンツとかトランクスでもレディースがあってね。それにこういうのを合わせる人多いんだよ」
従姉は性自認が男性であり、下半身は男性向けのものを身につけるだろう事を考えて色々と下着の組み合わせを考えてきてくれたようだ。
葵は従姉が自分の事を考えて来てくれたことがうれしく感じたことと、従姉の説明で女性に見た目が近くなっていく自身の体と男である自身の性自認のバランスを取れそうだと理解ができ、当初合った抵抗は薄れていた。
「どうかな?」
「うん。これなら俺でも変じゃないし、嫌じゃないかと言われれば嫌だけど、でも慣れるために頑張れる」
「最初はそれでいいんだよ。女子だってだいたい大人になることに戸惑って嫌がるんだから」
「そうなの?」
「うん。わたしみたいに男の子みたいな服装を好んでる子なんかは特にね」
「そうなんだ」
「あと、レースが付いたのとか、かわいい柄のとかを勧められると思ってたでしょ?」
「うん。そう思ってた」
「そうじゃない選択肢もあるってわかったでしょ? それにそういうのは絶対に勧めないから」
「よかった」
「まぁ、そうなると上と下でセットで買わないといけないんだけど、葵の下の方を履かせるのがね……」
「それって」
「女の子のパンツ穿いたらちんちんがはみ出しちゃうでしょ」
「それだけは嫌だ」
「よし、じゃあ決まりだね」
従姉はカタログを閉じると立ち上がった。
「これから買いに行こうか」
「え、今?」
「痛いんでしょ? それなら早いほうがいいよ」
「でも」
「お金は叔母さんから預かってるから」
葵はその発言で従姉のこの行動が母親の差金だと完全に理解した。
「どこに?」
「ちょっと遠いけど隣の市のショッピングモール」
「あそこまで行くの?」
「思春期の男の子にブラジャーを買うなんて状況だからね。知ってる人に見られたくないでしょ?」
「あ、そっか。それなら俺も助かる」
「その後、フードコートでなんか食べよう」
「わかった」
「じゃあ、行こうか」
「よ、よろしくお願いします!」
「お任せください」
葵が礼儀正しくお辞儀をすると従姉は冗談めかして返した。その様子がおかしくて二人は笑った。
葵は従姉の運転する車に乗って家から車で一時間ほどあるショッピングモールへと向かった。
葵と従姉はショッピングモールの下着売り場に到着した。
従姉は手慣れた様子で目的の商品のところに葵を案内していたが、葵は顔を赤くしながら緊張していた。
葵の性自認は男性である。また、初恋はまだであるものの発育のいい女子の胸元やプールでの水着姿には魅力を感じていることは自覚している。つまり性的指向の対象は女性だ。
乳房が発達して子宮のある身体であったとしても、内面は100%男性と言ってもいい。自分の周囲にあるマネキンが身につけている女性ものの下着や、下着姿のモデルの写真はあまりに刺激が強すぎた。
「葵、ブラは試着できるからね。初めてだからきちんとサイズ測ってもらってからね」
「うん……」
葵はどこか上の空の様子だった。従姉は男の子には入りづらい空間であることは理解しているつもりだ。だけども、葵はこれから先、なれなければならない場所でもあるため多少の無理はさせないといけないと考えてはいた。
葵は従姉のところを離れてローティーン向けの下着のコーナーから隣りにある靴下のコーナーへ移動してこちらに背を向けた。困った顔をしながら気まずそうにしている。
「葵?」
従姉は葵の様子がおかしいことに気がついて駆け寄った。葵は顔を赤くして困り果てた表情をしている。
その様子を見て従姉は葵の前に回り込んだ。
「ねぇ、男の子の反応しちゃってる?」
従姉は葵の足の付根を見るとそう耳打ちした。葵は小さく頷いた。
「そっか……。ちょっと来てくれる?」
従姉は葵の手を引いて下着売り場を出た。
ショッピングモールの廊下を歩き、葵を多目的トイレに連れて行った。
「ここなら大丈夫かな?」
「え、どうしてここに?」
「さすがにその状態で女性向けの下着売り場にいるのはまずいから」
従姉は葵の足の付根に目を向けた。葵は勃起して穿いていたカーゴパンツの股間部分が小さくだが盛り上がっていた。
葵の体には乳房の発達の前に一つ男性としての変化があった。それは勃起をするようになったことだ。
今回は性的な興奮が原因だが、眠くなったときや朝目が覚めた時などペニスが充血し大きくなり固くなる。そこは他の男子と同じだ。
「でも、ここで収まるのを待っても戻ったら……」
葵は女性である従姉に勃起の事を指摘された事が恥ずかしくて目を合わせられずにそう言った。
「そうね。じゃあ、これに履き替えようか」
従姉は持っていたトートバッグから膝丈より少し長いくらいのスカートを取り出し葵に渡した。
「え……? これを俺が?」
「ズボンより隠せると思うの。ていうか葵のソーシャルワーカーの人に今日のこと相談したら両性具有の場合に女性向け下着を買いに行く時によくあるリスクだし、スカートは股間の形が分かりづらいからごまかせるって教えてもらったの」
「俺、男なんだけど」
「そこは尊重してあげたいけど、さすがにちんちんを大きくしてブラジャーを買うわけにはいかないの。今日だけは女装して頑張ってほしいの」
葵は脱力した。スカートを穿いてブラジャーを買いに行くなんて完全に女じゃないか。でも、正直乳首の痛みも耐えられないし、さっき言われたように自分では触らないとわからないと思ってた乳房はすでにTシャツの上からわかる大きさになっている。それもこれからもっと大きくなる。自分が女だと突きつけられた気持ちだ。
「葵……」
従姉は腰を落としてまっすぐ葵の目を見た。
「今だけだから。あと、お店の店員さんもみんな今日は葵のことを女の子だと思うかもしれない。でも、わたしは君が男の子だって分かってるから。小さい頃、家でも一緒にお風呂に入ったし、温泉もプールも一緒に行ったでしょ。葵のちんちんはわたしは何度も見てるんだよ。今も女の人の下着姿を見てちんちんを大きくしてるのを知ってる。君はちゃんと男の子。でも、体には別の準備が必要なの。だから、今日だけはがんばって。いい?」
葵は「男だから泣かない」と思いながらもその気持に反して目から涙を流していた。そのくらい自分が男である事が揺らいでいたと同時に、それをしっかりと受け止めてくれる従姉の存在がうれしかった。
「わかった。俺、頑張ってみる」
「よかった。じゃあ、着替えようか」
「うん」
葵はスカートを広げて穿き方を確認しようとした。従姉はそこに説明を加える。
「姉ちゃん、その前におしっこしてもいい?」
「いいよ」
「男子トイレ行ってくる」
「ここもトイレだよ。どっちの便器もあるから好きな方でしたら? わたしは後ろ向いてるからついでにスカートもはいちゃって」
「わかった」
葵は小便器で用を足し、その後、スカートに履き替えた。スカートの股下に空間がある感じがなんだか慣れない。
「変じゃない?」
「大丈夫。似合ってるよ」
従姉は笑顔で言った。
「小の方でしたんだね。君はちゃんと男の子だよ、大丈夫」
「うん」
「わたし、だけじゃなく女の子はみんな小の方は使えないからね。それが使えるのは男の子だって証拠だよ。こういうのを積み上げて男の子だって自信を積み上げていこう」
「ありがとう。正直、俺、結構辛いんだけど、がんばる」
すぐに二人は多目的トイレを出た。
その後、下着売り場で店員にサイズを測ってもらって一週間の着替えで使える分のブラジャーとブラトップを購入した。そのうち一着はタグを外してもらって身につけて変えることになった。
帰りの車の中、慣れないブラジャーを服の上から引っ張ったりずらしたりしながら葵は落ち着かない様子だった。
「葵、落ち着かない?」
「なんか胸に布がくっついてるの変な感じ」
「そのうち慣れるからね。でも、それはやらないの。学校でブラ付けてるってバレちゃうよ」
「それは嫌だ」
「じゃあ慣れてね」
「頑張る」
「あと、紙袋の中見てみて」
葵は買ってきたブラジャーとブラトップの入っている紙袋の中身を確認した。
「あれ、なにこれ?」
従姉が会計したため中身を自分が選んだもの以外に把握してなかったが、それ以外にレギンスをショートパンツの長さにしたようなパンツが3着入っていた。
「トランクスじゃないし……」
「生理用のパンツだよ」
「え……?」
「叔母さんも買ってあると思うんだけどね。胸が育ってきたからいつ初潮がくるかわからないから」
「そっか」
「それは大人の体になった事の前祝いとあとはわたしからのエール」
「エールって?」
「君は赤ちゃんを産める体だからおっぱいも育つし生理も来るようになるけど、さっきこっそり立ちションしてるのみちゃったけど、ちゃんとちんちんがついてて男の子であることは変わらないから。きちんと男の子としての自分を守れるように、男の子で安心していられるようにあってほしいから」
「ていうか、見たんだ」
「立ちションなんて女の子はめったに見れないからね。見せてもらっちゃった」
「恥ずかしい」
「でも、わたしはあそこで君を男の子だって確信を持てたよ」
「なんか、変」
「なにかあったらわたしも助けるから、自身を持って男の子でいてね」
「うん、俺、男だから。今の体の変化に負けない」
「その意気だよ」
二人は家へと車を走らせた。
この時の会話で葵の揺らいでいた男としての自覚はブラジャーの着用を始めるという女性としてのイベントに反して守っていこうという勇気を持てる出来事になった。