というifルートを描いた作品となります。
※某所にて連載していたものを加筆・修正したものとなります
「好き」という寂し気な言葉が部屋中に響き渡る。今この部屋には2人の少年少女がいた。山岸高成と茜谷優里である。優里は下着姿で高成を押し倒し迫っている最中である。
そして高成は優里の告白と先ほど自身へ電話をかけてきた飯田里帆との間で思い悩んでいた。好きと告げた優里と一緒に知らない場所へ行こうと迫った里帆。どちらを取るべきか。
その間にも優里は身体を震わせながら高成の下着からそれを取り出し、舐めつつ避妊具をつけようとする。
「あ」
優里が震えが止まらぬ手から避妊具を落とした。気づいた彼女は申し訳なさそうに謝る。
この時高成の心は里帆へ傾こうとしていた、どっからどう見ても無理をしているのが簡単に分かる優里の姿が痛々しくて見ていられなかったからだ。
「ごめんね」
か細い優里の声。その時高成は優里と目が合う。高成に対して必死に尽くそうとしている優里の目。その目を見た瞬間、ぐっと優里の方へ高成の心が傾く。そこで高成は里帆はそのような目をした事が無かったのを思い出す。
(もう、飯田に振り回されるのは確かに嫌だ。なら…飯田、ごめん。おれは茜谷さんを選ぶ。おれに対してこんな目をしてくれる茜谷さんを大事にしたい)
高成は避妊具を拾い、自分で装着する。
「しよっか」
「…うん」
「痛かったら、言って」
「分かった…」
こうして2人は結ばれた。
「はあっ…はあっ…」
一度踏ん切りがつけばもう後は変わらない。目の前の相手を全力で愛するだけだ。
「こうせい、くん」
「茜谷さん…好きだ」
先ほどは胸の中でつっかえていた言葉が、自然とあふれ出す。
「ありがとう、私も好き…!」
電話が鳴っている。里帆からの着信だ。しかし高成が出る事は無い。
「はあっ…」
「あっ…もう…」
正常位で絡み合う。相手をひしっと抱きしめるその姿は初々しく、愛情にあふれている。こうして2人の初めての絡みは幕を閉じた。
帰り際。優里は高成に傘を貸した。
「高成くん。これ、良かったらどうぞ」
「ありがとう。助かる」
「いえいえ。また今度返してくれたら」
優里は笑顔で見送ろうとしているが、身体はまだ震えている。
「茜谷さん大丈夫?」
「え、あ…うん」
「そのさ、怖くなかった?だって下ネタ苦手だって言ってたし…」
高成の問いかけに優里は一度は強がろうとしたが、正直に打ち明ける事に決めた。
(嘘は、良くないよね…)
「…実は、怖かった、かも…」
「…ごめん」
「いやいいの!高成くんは悪くないから!高成くんとはしたかったからさ、それは嬉しい」
そう言われた高成は自然と笑顔が浮かんだ。
「へへっ…」
「…よし、じゃあこれからは彼氏彼女って事で、いいよね」
「うん!」
高成が優里の暮らすマンションから立ち去った後、夕空には虹が浮かび上がる。新たなカップルがこうして誕生したのだった。
その夜。高成の自宅に担任教師から電話がかかる。
「高成、先生から電話!」
「はーい」
皿洗いをしていた高成は慌てて母親から受話器を受け取る。
「山岸、飯田は見たか?どうも家からいなくなってしまったみたいで」
「先生、もしかして家出ですか?」
「わからん。お前何か知ってるか?」
心当たりは当然ある。だが高成は無意識に咄嗟に嘘をついた
「いえ、何も…」
「そうか。ありがとう。また何かあったら教えてくれ」
その後。ラインには吉野貴史ら男友達複数と里帆の数少ない友人である新山智乃から連絡が来ていた。しかし高成は知らないと嘘をつく。
勿論里帆から連絡も来ていた。
『山岸くん。どこ?』
『もしかして、優里ちゃんとこ?』
その文面を見てぞっとする高成はスマホを切った。
次の日。当然ながら里帆の姿はいない。
「飯田どしたんだろ」
「文化祭で親にどつかれてたじゃん、あれじゃね」
「あーなんか毒親ぽかったよねえ、飯田さんの親」
様々な噂が戦場の銃弾の如く飛び交う。智乃も貴史も皆心配そうな顔をしていた。高成の心の内など知る由もなく。
(いっそこのまま飯田の事は忘れよう)
高成はそう自身に言い聞かせるように決意した。
しばらくして。飯田里帆の行方不明事件は全国中を駆け回っていた。
「○○市に住む女子高生、飯田里帆さんが行方不明となっています」
「警察は事件事故両方から操作を続けています」
テレビ画面では里帆の母親が懸命に取材に答える姿が映る。
「あの子は大事な娘なんです。どうか帰ってきてほしいと思っています」
その裏で。SNSでは文化祭で里帆の母親が里帆にした仕打ちが映されている動画が拡散、炎上していた。
『うわー毒親すぎる』
『これ家出でしょ。あんなヒス親の元に帰りたいとか思う?』
そんな中、高成らはいつも通りの日常を送っていた。
まるで飯田里帆という人物なぞ最初からいなかったかのように。
「高成くん、お待たせ」
「うん」
ここは老舗の喫茶店。高成と優里の2人は勉強会をしている。
「ラテ美味しいね」
「マジ?」
「ちょっと飲んでみる?」
「…美味しい」
たわいのないやり取りとペンを動かす音が続く。しかし2人の間から里帆の話題が出る事は無かった。
忘れよう。あんな子なんていなかった。あんな子に構うとこっちが疲れる。幻想。疲れてるだけ。まさに臭い物に蓋をする。といった具合である。
「あ、もうこんな時間じゃん」
「帰ろっか」
「だね」
高成と優里は割り勘でお代を払い退店する。家へ向かって歩いている途中、智乃と遭遇した。
「新山」
「山岸と、茜谷さん…」
智乃はにこっと会釈をしてそのまま歩いていった。おそらく気を遣ったのだろう。
「じゃ、また会おうね」
「うん」
高成と優里もそれぞれ家路へと向かっていった。その夜。高成へ智乃からラインが届く。
『山岸、今茜谷さんとはどういう関係?』
高成は隠す事なく付き合っていると返す。
『そっか。付き合ってるんだ』
そっけないものだが、それ以上聞く事も無いと言った雰囲気に高成は少し安心した。
『頑張れ』
『ありがと』
それからも、優里との交際は順調に続いた。
そして代わりに飯田里帆と言う少女の形も影ももう、どこにもいなくなっている。
高成と優里は何度も絡み合った。何もかもが満たされ、順調な日々が続いていた。
「じゃあね」
「じゃあ」
高成と優里は互いに別れて家路へと向かっていた。すると高成は自身を後ろからつけている人物の存在に気づく
「誰かいる?」
「…ばれたか」
そこにいたのは優里の友人である女子高生、塚原日向だった。彼女はいつも通りへらへらとした笑みを浮かべている。
「山岸くんちょっと付き合ってよ。暇だから」
「塚原さん…いや、もう時間が」
「いいから!」
日向は高成の腕をぐっと掴み、近くの公園のトイレへと連れ込む。
「塚原さん!ま、まって!」
「待たない」
トイレの中で日向はごそごそと高成のズボンを強引に降ろし、それを咥えたり手でしごいたりする。
「いやっ、おれ、茜谷さんが」
「あかねちんと付き合ってるんでしょ。知ってる」
「じゃあなんで」
「それくらい分かるでしょ。私からすれば「山岸くんはあかねちんと付き合ってくれた方が都合がいいの」」
日向のテクは優里の数倍上だ。高成はやめてくれと何度も言いながら抵抗するも、彼女のテクに屈しようとしていた時。扉がどんどんと音が鳴る。
「塚ちゃん!開けて!開けて!!高成くん嫌がってるでしょ!!」
「あかねちん来ちゃったか」
「塚原さん、やめよう。マジで。茜谷さんが…」
「…ばーか。やめるわけないじゃん」
日向の言葉に一瞬静寂が流れる。その隙を縫うように日向はそのまま強引に高成を洋式便器の上へ座らせ、高成のそれを自身の中へ入れる。
「あーっいいわあ…あかねちん山岸くんの気持ちいいよー?」
日向は構わずドンドンと腰を振り続ける。またスマホを取り出しハメ撮りまで始めた。
「…いい表情じゃん、あっいい…」
「もう、やめ…」
「やめない。私は山岸くんとしたかったんだから」
優里は扉の向こう側でその声を聴いた。
「塚ちゃん…高成くんの事好きだったの?」
「んー?まあ、セフレにしたいかなって」
「そんな事で…だから塚ちゃんはあんな事、言った訳…?」
優里の拳がわなわなと震える。そんな姿の見えない優里の様子に構う事無く日向は喋る。
「そりゃあ、知らない女の元へ持ってかれるより…っ…あかねちんとくっつく方が断然いいからね」
「塚ちゃん…」
外は気づけば雨が降って来た。まるで優里の流す涙のようだ。
「あ、もう…あっ…」
「中に出していいよ。薬飲んでるから」
「あっはっ…」
高成は耐え切れず、日向の中へと吐き出してしまった。
「はあ…」
こうして、すべてが終わった。重かったようやく扉が開く。
「高成くん…!」
「茜谷さん、ごめん…ごめん…」
「うっ…ううっ…」
優里は大粒の涙を流す。そんな彼女を横目に日向は無言で立ち去って行った。
翌日。
「あかねちん、一緒に帰ろー」
いつも通りに誘ってきた日向の手を優里は払いのける。
「塚ちゃん…絶交しよ」
「なんで?」
「もう、高成くんに手を出さないで。やりたいなら他の人として。もう私達に関わらないで」
日向は黙って見ている。優里は更にスマホを取り出し、ある画像を見せた。
「謝らないならこれ、先生に見せるから」
それは昨日日向が高成との情事を撮影した画像だった。昨日の夜、無言で優里の元へと送られてきたものだった。
「…言えば?」
「塚ちゃんが退学になっても私知らないよ」
「私は上手い男とやれればそれでいいから」
日向はそのまま踵を返す。その様子を他のクラスメイト達はひそひそと噂しながら見ていた。
「ほんと塚原ってビッチだよなあ」
「まーたアイツ人の男寝取ろうとしたのかよ。絶対彼氏紹介せんとこ」
「マジでクズじゃん。茜谷さんかわいそ」
放課後、優里はその画像を教師に見せた。
「塚原は前からああいう噂たってたなあ。まあすぐには処分でないと思うが停学にはなるだろうな。茜谷も無理すんなよ」
「ありがとうございます」
優里の心は空虚だ。
しばらくして。また優里と高成が会う日が来た。久方ぶりのデートである。2人は水族館やショッピングモールを訪れ、最後に優里の家へと寄る事になった。
そして。
「ねえ、高成くん」
「茜谷さん?」
「して。中に出して…」
「う、ん…」
罪悪感。焦燥感。独占欲。痛い。悲しい。辛い。寂しい。傍にいて。何もかもが混ざったどろどろの感情が、2人を良くのままに動かしていく。
「ああっ!はあっ…」
「はあっ…ぜえっ…」
「もっと、もっと…!」
気づけば2人は裸のまま部屋に横たわるほど、激しく絡み合った。
それから高成は順調な日々を過ごしていた。
「山岸最近表情良いよね」
昼休み。いきなり智乃にそう指摘され、え、と声が出た。
「だって山岸ほんと元気そうだもん」
「なんか、ありがと…」
「私もケリつけないといけないかなー」
智乃は藤野先輩という男子生徒に好意を抱いている。それは高成も知ってはいるが最近彼の智乃への扱いが良くは無いのだという。
「もう一回先輩へ告白しようかなー、でもなーどうせ…」
「したらいいんじゃないかな。新山」
「…だよね」
「駄目だったら諦めたらいいんじゃない」
「山岸…ありがと」
智乃はそう言って笑顔で廊下へと向かっていった。
そして放課後。高成のスマホが鳴る。優里からだ。
「今から会える?」
高成は頷き、急いで優里に指定された公園へと赴く。先に訪れていた優里の顔は大きく沈んでいる。
「茜谷さん…!」
「高成くん、私…妊娠した…」
空虚な言葉が高成の胸を大地ごと切り裂くように吐き出された。
「あ、…」
高成は言葉に詰まる。しかしそんな高成へ構わず優里は口を開く。
「このことは誰にも言わないで!絶対に!」
「わ、分かった…けど…」
(病院行くとか、家族に言うとか…どうするんだ…?)
高成はその疑問点を優里にぶつける。
「大丈夫。高成くんは心配しなくていいから。何もしなくていいから…」
「でもっ…!」
「絶対言わないでね!」
優里は後ずさりしながらそのまま走っていった。
「茜谷さん…」
高成は彼女の後姿を見つめる事しかできなかった。
優里は悩んでいた。妊娠した事に対する恐怖心と今後どうするのかという気持ちとは裏腹に、好きな人の子供を授かれて嬉しく思う気持ちもあったからだ。
子供がいれば一生高成くんは私のもの…そうふと思った優里は己に罪悪感と恐怖心を感じる。という繰り返し。
(どうしよう)
そのまま誰にも言いだせずに、時が流れる。
ある日。この日は高成は1人で家路へと向かっていた。そんな中、彼の目線を誰かの手がふさぐ。
「見つけた。山岸くん」
「塚原さん!」
「しようよ…ね?」
「嫌っ…だから無理だって!」
私服姿の日向だ。顔は以前と違い目の焦点が合わない程にうつろになっている。そのまま有無を言わさず彼の腕を引っ張ろうとする日向に、後ろからある人物が声をかけた。
「そいつ嫌がってるからやめときなよ。無理やりはダメだって」
智乃だった。高成は驚きながら振り返る。
「誰?」
「山岸の同級生ですけど。もしかして他校の子?山岸の知り合い?てか文化祭で藤野先輩とした人ですか?」
「うん、まあ…」
智乃の表情が変わる。それは誰が見ても分かる険しいものだ。
「山岸の事はさっさと諦めな。でもってテキトーに男探しとけ」
「何それ。てかあんたには関係ないじゃん」
緊張感がマックスになった瞬間。優里がその場にやって来た。
「塚ちゃん、また…!言ったよね?!なんで…!もうやめて!高成くんに近づかないで!」
優里は今にも泣きだしそうだ。日向はあー…とばつの悪そうな顔をする。
「もしかして寝取り?逆レイプ?」
智乃の言葉を日向は否定しない。
「マジでやめときな。悪い事は言わないから。警察沙汰になったら責任とれるの?」
「…」
それでも日向は諦めていないのか、その場を離れようとしなかった。そんな日向へ優里はある事を言った。
「私、高成くんの子供妊娠してるから」
「「「…え」」」
「だから高成くんは私のものだから。寝取ろうとしたって無駄だから」
「はあ…?」
日向はゆっくりと優里の元へ歩み寄ろうとした。そこにはナイフのような雰囲気が立ち込める
(やばいっ!)
日向の拳が空を切り裂きながら伸びた。それは優里をかばった高成と智乃の顔にそれぞれ直撃する。
「は…」
「塚原さん。おれはいい。けど茜谷さんを傷つけるのは良くないよ…」
「山岸、もういい。こいつ話しても無駄かも…警察。呼ぶから抑えといて」
高成は一瞬ためらったが、智乃の指示通り日向を後ろから羽交い絞めにして取り押さえる。不思議にも日向は抵抗しなかった。
「…」
(塚原さん…)
その後。警察が来て色々あった。しかし優里の妊娠は家族には言えないままでいた。高成も、話を全て聞いた智乃も何も出来ないまま日が続く。
冬。この日優里は着替えていた。
「ねえ、優里さあなんか太った?」
着替え中に姉が優里の自室へ入って来たのだ。優里は慌てて否定する。
「なんか妊婦みたいだけど」
(あ…)
優里の目から堰を切ったかのように涙が流れる。
「相手をまずは連れて来ない事にはねえ」
優里の両親は決して怒って「は」いなかった。しかしどこか敬遠するような、臭い物には蓋をしたいと言ったような表情をする。
「分かった。勿論連れてくる。絶対」
「優里、本当に?」
「うん。逃げるような子じゃないから」
こうして。高成は優里の両親と対面した。挨拶を交わすも、雰囲気は硬い。
「へえ、優里はこの人と?」
「私が悪いの。元を言えば私が言い出しっぺだから。高成くんは悪くない、私の自業自得だから」
「でも、なあ…」
「優里、育てられると思うの?」
優里と高成は黙ってしまう。
「ビジョンが見えてないのは、ね…」
「2人とも今なら諦められるんじゃないかな?」
やんわりとした言葉だが、中絶しろと言う意思表示であるのは高成と優里には明白だった。こうして対面が終わり、優里は高成をマンションの入り口まで見送る。
「高成くんごめん」
「茜谷さん…」
「私、やっぱりこの子育てたい。高成くんの子供だから」
「…」
「高成くん。あのさ、今日の21時にまたあの公園で待ってるから」
その言葉は駆け落ちを意味する。高成はつばを飲み込んだ。その中で優里は決意を秘めていた。
(私の家族が認めてくれないなら…家を出るしかない)
(おれは逃げたくない。けど…覚悟、決めろ。おれは茜谷さんを選んだんだ。ならやるしかない)
約束の時間。両者とも荷物をまとめて約束の場所に来た。スマホはそのまま置いてきている。
「いこう」
「うん」
あてもなくただ駆けていく旅が始まった。ただひたすら歩いていった。途中電車にも乗りつつどこかへと歩いていく。
「はあ…」
「茜谷さん大丈夫?休もうか?」
「平気。むしろ休まない方がいい」
声をかけ合いながら、あてもなく進んでいく。そうこうしていると夜明けを迎える。
「わあ…」
「綺麗…」
太陽を見ながら、歩いていく…。
2人はとある集落に流れ着いた。山の中にあるこの集落は木々の間にぽつぽつと木造の家が見える。人気は殆どない。
「ここは…」
辺りを見渡す。すると前方から若い女性が高成と優里に向かって近づいてきた。見た目は里帆とどことなく似ているが、里帆よりも背が高く、華奢な体型をしている。
「あなたたち、流れ着いてきたの?」
その女性に寄ればこの地は家出してきた若い男女が流れ着く地なのだそう。高成と優里は看護師でもあるその女性へ家出してきた事は話していないものの、女性はうっすら「察して」いるようだ。
「困っているんでしょう、うちに来なよ。衣食住は保証するから」
「いいんですか?」
「勿論。ここはそういう所だから」
こうして女性によって案内された家へと入ると、中からある人物が顔を出した。
「山岸くん…優里ちゃん…」
里帆だった。彼女もまたこの地へ流れ着いていたのだった。
「飯田?…飯田…!」
「里帆ちゃん…いたんだ…」
束の間の再会。ぎこちないが目線を合わせる。すると見守っていた女性も口を開く。
「私も家出してここへたどり着いたの」
しばらくして。高成と優里が行方不明になった事も里帆と同じようにニュースになったが、すぐに話題から消え去っていった。
「山岸と茜谷さんも…」
智乃は遠くを見つめながら、うつろに呟く。そこへ貴史がやって来た。
「新山。おれ、こーせーたちの事忘れねえから」
「吉野」
「あたりめーだろ。絶対いつかは会えるって思ってるから」
「吉野…あんた、たまには良い事言うじゃん」
智乃はうっすら微笑みながら、貴史の方を向いた。
「ねえ、吉野。あの夏の日から変わったね。色々と」
「うん。確かに言われてみれば変わったんじゃねーかな」
「私が誘わなかったらこうなってなかったかな。…誘わなきゃよかったかも」
智乃の声は寂しい。貴史は頭を掻きながら、智乃へそっと声をかける。
「それは誰にもわからないんじゃね」
「だよねえ…私もみんなの事絶対忘れないから。あんたも協力してよね」
「そりゃ、勿論」
ーーーーー
やがて、2人の間には可愛らしい女の子が誕生した。目は高成、鼻と口元は優里似と言った具合か。ゆなという名前がつけられた赤ん坊は両親に囲まれて集落ですくすくと育っている。
里帆はあれから優里の妊娠を知り、集落を出た。
「山岸くんは茜谷さんを選んだんだね」
「飯田…うん。おれは茜谷さんと幸せになりたい。飯田、ごめん」
「ううん、山岸くんと色々話せて嬉しかった。ありがとう」
里帆は笑顔で高成へ感謝の気持ちを述べた。それは彼女なりのけじめのつけ方だったのだろう。去り際里帆は2人の幸せを祈りながら、遠い遠い旅へ出た。
「さようなら。幸せに過ごせますように」
紅い紅い青春の果てに彼らは硬い愛を手に入れたのだった。