二十四時間営業の大きなゲームセンター。そこに訪れた自分らは、深夜という時間を忘れてゲームに没頭していく。
その内容は主に、メーに付き合わされたものばかりだった。
太鼓のポピュラーな音楽ゲームから、ゾンビのシューティングゲーム。DJ機材を模したマニア向けの音楽ゲームから、路上で戦う格闘ゲームまで、プレイしたジャンルは実に様々。
ゲーマーを名乗るメーに店内を連れ回され、そんな自分らの様子をラミアが後ろで見守っていく。尤も、見守ると言ってもラミアは後ろでスマートフォンを弄っていただけだったが。
それはそれとして、次は何のゲームで遊ぼうか。
こちらの腕を引っ張るメーが、煌びやかに微笑しながら先頭を歩いていく。その最中にもラミアがクレーンゲームの前で足を止めていくと、これに気が付いたメーは引き返しながら言葉を掛けていった。
「なになに? ラミアがクレーンゲームと睨めっこしてんの、チョー珍しくてウケるんだけど」
「別に大したコトじゃないです。少し気になったモノが視界に入ったので、ナンとなく眺めていただけですから」
「ほ~ん? どれどれ~……」
メーが景品を覗いていく動作につられ、腕に引っ付かれたままの自分もしれっと覗き込んでいく。
するとそこには、まん丸に太ったデフォルメな猫のクッションが置いてあった。
「あは、なにこれチョーカワイイんですけど!!! うは~、このまん丸なわがままボディがまた最高に堪りませんなぁ~」
「まー、別にイイですけど。わざわざクレーンゲームで取るなんて効率ワルいですし」
「ラミア~、ここゲーセンだよ? 効率と引き換えに夢とロマンを詰め込んだアミューズメント施設なんだから、そんな元も子もないこと言わないの~」
「ウチはゲームに興味ありませんから」
「あーん、塩対応~」
素っ気ない調子で答えるラミアの様子に、メーは残念そうな表情を見せていく。
……でも、言葉とは裏腹にラミアはあのクッションが欲しそうだ。
「俺、取ろっか?」
と、内心で思った時には無意識に口にしてしまったその言葉。
心理としては、好きな人の前でただカッコつけたかっただけなのかもしれない。
だが、こちらの問い掛けで振り向いてきたラミアの真っ直ぐな眼差しを見てしまっては、ここはもう男気を見せる他ならないだろう。
「カンキさん、クレーンゲームやるんですか??」
「え、うーん……実を言うと、あまりやったことはないけれど……」
「なら、ムリしてプレイして頂かなくてもケッコーです。ウチのせいでカンキさんに無駄遣いさせたくないので」
「で、でも……!」
話を聞いていたメーは、口を尖らせながらこちらをまじまじと見つめてくる。
……かと思えば、彼女は何かを察したようにニタァッとやらしく笑み始めると、彼女は次にもこちらの背に手をあてがいながらラミアへと言葉を掛け始めた。
「いいじゃんいいじゃん! ここはカンキ君に男気見せてもらうっきゃないっしょ!」
「メーさんまでナニ言ってるんですか。ウチのコトは別にイイですから」
「まぁまぁ! ほらほらカンキ君! いいからレッツゴーレッツゴー!」
急に背中をグイグイ押してきたメーに言われるまま、自分は無理やりクレーンゲームの前に移動させられる。
だが、この強引なアプローチによって、ラミアに良い所を見せるチャンスが訪れた。
脇には、ニヤニヤした笑みを浮かべるメーがこちらを見遣っている。その意図が汲み取れない自分は疑問に思いながらも、百円玉を筐体に投入してプレイし始めた。
クレーンゲームのガラスには、光で反射したラミアの姿が映っている。
呆れたような顔をしながらも、見守るような力強い視線が彼女の期待をうかがわせたものだ。
ラミアを喜ばせたい。田中さんにめっちゃ褒められたい……!
期待を背負い、神経を張り巡らせた繊細なプレイングで臨んでいく。その距離感の把握に全力を注ぎ込み、緊張を伴った運命のアームは今、クッションへと下り始める……!!!!
開かれた二本の腕。それはクッションをピッタリ挟み込んだ。
持ち上がる猫。一瞬ばかりとガラスによぎった、期待で光らせたラミアの瞳。
張り詰めた空気の中、ジリジリとアームが上がり始める。
注がれた視線は景品に集中し、ほぼ完璧と言ってもいいほどの中央をがっしり掴んだ猫が浮かび上がった。
クレーンゲームの結果は……………………。
パカッと開かれた両腕から、ヌルッ、と抜けたまん丸な猫。同時にして目撃した、持ち上げる気が無いアームの貧弱さを目の当たりにして、自分は一気に絶望感で満たされた。
これ、一定の金額を投入しないと取れないやつやん……。
ガラスに映ったラミアの姿。少しばかり前のめりになった彼女の姿勢は、ため息と共に真っ直ぐ伸びていく。
やばい、泣きそう。
まだまだ一回目とはいえ、アームのやる気の無さに続行は無謀だったことだろう。
……だからだろうか。お通夜ムードだった空気の中、メーはラミアへとすり寄るなり、手で前進を促しつつその言葉を掛け始める。
「ヘイヘイ! ラミアちゃんカモンカモン!」
「ちょ、ナンですか!?」
「カンキ君のサポートお願い! ラミアは横から見る係!」
「ウチは別にイイですから!! と言いますか、ウチじゃなくてメーさんがやればいいじゃないですか!!」
「私じゃダメなの! 今のカンキ君にはラミアが必要なの! ほら早くいいから来て来て!」
無理やり連れられたラミアが、こちらの隣にやってくる。
それでいて、自分らは半ば強引にくっ付けられると、メーは隣り合わせとなった自分とラミアを手で固定しながら喋り出してきた。
「はいカンキ君! 百円入れて!」
「え? え?」
「いいからいいから! ラミアが横でサポートしてくれるから、今度こそ取れるって!」
「あ、あぁ……!」
そそのかされるまま、百円を入れていく。
起動したアームが開き、自分は動揺した面持ちのままそれを奥へと動かし始めた。
ここかな……。という直感でアームを止めていく。
しかし、次にもラミアが淡々と言葉を口にしてきた。
「カンキさん、少し奥に行きすぎです」
「え? 本当?」
「ハイ。なので、本体ではなくタグにアームを引っ掛けるよーに動かしてみるのはどーでしょーか??」
「なるほど、タグに引っ掛けて持ち上げる作戦か……!」
「まー、動画で観ただけの見よう見まねの知識なので、適切かどーかは知りませんけど」
「そんなことないよ! ありがとうラミア、ちょっとやってみる……!」
ラミアのアドバイスを聞き、自分は意識を集中させながら目前のゲームに臨んでいく。
その様子を間近で眺めるラミアは、どこか見守るような温かい視線を投げ掛けていたようにもうかがえた。
二人の男女を近付けて、クレーンゲームに集中させていく。
その背後でメーは、気配を殺しながらゆっくりと離れ始めた。
続けて両手を手前に出し、親指と人差し指でカメラのような枠を作っていく。
それを覗き込んだ彼女は、とても満足そうな微笑と共にセリフを呟いたものだった。
「う~む、実にいいですなぁ~。甘酸っぱい男女の構図、まだまだ片思いっぽいけど憧れるなぁ~」