夜通しで営業する居酒屋。
通された座敷に腰を下ろし、自分らはグラスを打ち鳴らして乾杯を行った。
軽食程度のおつまみをテーブルに用意して、自分とラミア、メーは酒を流し込んでいく。
尤も、自分とラミアはチューハイだったのに対して、メーは大ジョッキのビールという豪快な飲みっぷりを披露してみせたものだが……。
「ぷはぁ~~~ッ! ッかァ~~!! やっぱ徹夜のゲーセンをキメた後のビールってマジで最&高~ッ!! 美味しいベリィ感謝感謝~っフゥ~!」
既に顔を赤くして酔いしれていたメー。彼女の隣には、チョコンと座るラミアが鬱陶しそうな表情を見せていた。
彼女の傍には、景品を入れるための袋が置かれている。
その中から少しだけはみ出した、まん丸に太ったデフォルメな猫のクッションがなんとも愛らしい。
最終的にそれなりの額を注ぎ込んでしまった成果物。
苦労の結晶がラミアに寄り掛かっている光景を眺めながら、自分は達成感と共にチューハイを啜った。
その最中にも、メーはラミアの肩に腕を掛けながらくっ付くなり、テーブルを挟んだ向こう側にいるこちらへと喋り出してきた。酔いどれの蕩けた赤面を伴いながら。
「ウヘヘ、うぃ~……この際だから率直に訊くけどさぁ~……? ぶっちゃけ、アレだよね~。カンキ君ってもう、ラミアと何回か“ヤってる”っしょ~?」
ブフォッ!!
思わず噴き出したこちらに対し、ラミアは平然としたサマでナスのおひたしを食べている。
動揺しているのは自分だけだ。
酒でむせながらも顔を上げ、今もこちらに微笑む小悪魔なメーと向かい合いながら答えていった。
「ま、まぁ……否定はできないっていうか……」
「ほほぉ、潔いですなぁ~? それで、どうだったん? 私の自慢の幼馴染ラミアちゃんのお体のお具合は?? 合法ロリをハメハメした感想は如何なもので?」
「えっと……。よ、良かったよ。すごく良くって……もう、何回ぐらいシたかな……?」
「うはっ! そんなにヤってんの!? ヤバ~、カンキ君バリバリのヤリ〇ンじゃ~ん! さてはラミアの専用ディ〇ドか~? ハァ~、もう二人ともお盛んで実に羨まけしからんですなぁ~」
下品な言葉を躊躇なく繰り出してくるメーのノリに、聞いているこちらが恥ずかしくなってきて視線を逸らしてしまう。
……それにしても、今でも信じられないくらいだ。
あの田中さんと、何度も“行為”を交わしている。あれほど憧れて、あれほど恋焦がれていたあの田中さんと、俺は既に何度も何度も繋がり合っているんだ。
チラッと投げ掛けたこの視線は、ラミアの眼差しと合っていく。
いたいけで、可憐な存在感。肩に腕を掛けられて、メーに寄り掛かられながらダル絡みされていく彼女は、特に動じる様子も見せることなくメーを適当にあしらっていたものだ。
直にも、ダル絡みの対象はラミアからこちらに向いていく。
「うぃ~……カンキ君も意外とヤり手だよねぇ。最初は大人しいM気質の草食系男子かな~? って印象だったけど、元同級生をち〇こで魅了するとか、君も罪な男よのぉ~?」
「いや、さすがにその言い方はちょっと……」
「あはっ、ラミアがひいきするカンキ君のこと、なんか私も興味出てきちゃったなぁ~? う~ん、どうしよっかなぁ。何ならアレだよね。私も一回、カンキ君に“買って”もらおっかなぁ??」
「え? め、メーを買う……!?」
ごくりっ。
ギャルで煌びやかな彼女の体に意識が向いてしまうと同時にして、自分は内心で「正直、機会があるならメーともヤってみたい……」という肉欲に駆られていく。
この心境が相手方にも伝わっていたらしく、メーは確信的な勝気の表情で勝ち誇ってみせた。
……雰囲気からして、メーも行為にノリ気であることがうかがえる。
ラミア一筋な自分ではあるものの、メーという強大な魅力を前にして我慢を貫き通せる未来が全く見えてこない。
俺は多分、メーに誘われてしまったら応じてしまうだろう。
今も、煌びやかに微笑みかけてくる彼女の視線。酔いどれのそれは、「いつでもオッケー」と訴え掛けるサインに読み取れてしまえて仕方が無かったものだ……。
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既に陽が昇り始めた外の様子。
ランニングをする通行人の姿を横目に、酔い潰れたメーを肩で担いだラミアが喋り出してきた。
「急なお誘いだったにも関わらず、夜通しでお付き合い頂きありがとーございました」
「いや、こちらこそ……」
まさか、十年越しにマドンナの二人と飲み明かすだなんて思いもしなかった。
これを十年前の自分に教えたとしても、絶対に信用してもらえないだろう。
とか考えながら、自分はラミアへと問い掛けていく。
「ラミアとメーは、これから電車に乗って帰るの?」
「そーですねー。ウチらの住まいは、ココから電車で二十分ほどのトコにありますので」
「その……メーも連れた状態で大丈夫……?」
こちらの問い掛けに、泥酔したメーが右手でキツネを作りながら「うぃ~……」と答えてきた。
それをジト目で見遣ったラミアが、すぐにもこちらへ向き直って返答し始める。
「まー、こーいう状況は慣れてますので。厳しくなったら、メーさんをそこら辺で吐かせてから歩かせますし、ヘーキです」
「すごい力業だな……」
それも含めた上での慣れた様子のラミアが、とてもたくましい。
なんてことを思いながらも、自分は続けて訊ね掛けていく。
「もし、二人が良ければなんだけど……俺が住んでるアパート、ここから歩いて十五分くらいの場所にあるから、そこで休んでいくのも手だと思うんだけど……」
恐る恐ると訊いてみた、お泊まりの是非。
傍から見れば、酔った二人の女の子をお持ち帰りする構図に見えてしまうことだろう。
今回は下心が無い、純粋な心配による問い掛けだった。しかし、それに対してラミアは首を横に振ってみせる。
「イイですよー、お気遣いなく。ウチらはこーいう生活サイクルに慣れているモンですけど、カンキさんのお体には多分、相当な負荷や疲労が溜まっているかと思いますので。ウチらに構わず、本日は一人でお休みください」
「俺の心配をしてくれるの……?」
「当たり前じゃないですか。カンキさんは、ウチの“お得意様”ナンですから」
「あ、うん……。ありがとう……」
ラミアからすれば、俺はまだまだそういう存在ってことなんだろうな……。
複雑な心境により、言葉を詰まらせてしまう。
その間にも踵を返したラミアは、メーを連れた状態で背を向けて歩き出しながらも、淡々とした調子でその言葉を告げたものだった。
「またナニかありましたら、ウチからご連絡させて頂きます。カンキさんからの“交渉”もお待ちしてますので、これからもごひいきにどーぞ。では、ウチらはコレで失礼しまーす」
早朝の街を歩く二人の女性は、酔いどれの赤面を浮かべながら道なりに進んでいく。
その道中、ラミアに肩を貸してもらっていたメーが喋り出してきた。
「で? ぶっちゃけどうなの~? カンキ君、最後すごく寂しそうな顔してたけど。ラミアは本当に、カンキ君のこと何も思ってないワケ?」
先までの陽気な調子とは裏腹に、冷静な声音で訊ね掛けたその言葉。
メーの問いに対して、ラミアは淡々と返答していく。
「恋愛に現を抜かしているヨユーなんて、ウチにはありませんから」
「ラミアはリアリストだよね~。残酷なくらいに」
「両親の借金を押し付けられたイマの現実の方が、よっぽど残酷ですけどねー」
「それな。私が彼氏にフラれた現実も本当に残酷」
冷徹は大気に宿り、清々しい朝日のそよ風は凍えるように冷たい。
そんな空間の中、ラミアとメーはこのような会話を交わしていった。
「メーさんは、ウチに構わず恋愛に集中してもらってもイイですよ」
「それってつまり、私がカンキ君を横取りしちゃっても大丈夫……ってことだよね?」
「カンキさんは“ビジネスパートナー”ですけど、ウチもそこまでオニじゃありませんから、メーさんの幸せも尊重したいと考えてます。なので、せっかくのお得意様ではありましたけど、カレでよろしければメーさんにお譲りしますよ」
「はい言った。じゃ、私カンキ君を全力で狙いにいくから、そこんとこ恨みっこ無しでよろ~」
「別に構いませんよ。メーさんの幸せは、ウチの幸せでもありますから」
「むふふ。やっぱり、持つべきものは信頼できる友ですな~」
あくどい笑みを浮かべるメーと、冷めた具合に真顔なラミア。
自身を運んでくれるラミアへと頭を寄せたメーは、頬も触れ合うような距離感で密着しつつ、次にも声量を抑えながら喋り始めた。
「……今月もギリギリなの?」
「そーですねー。本来でしたら、同窓会に参加する時間すら惜しいモンですけど」
「今日のお出掛けも、ただの現実逃避だよねぇ。ラミアも苦労してるよね、いつもお疲れ様。……私もさ、ラミアの力になれないもんかな?」
「コレは、ウチの家庭の問題ですから。無関係のメーさんを巻き込むワケにはいきません」
「ずっと、その一点張りだよね。そういうところもリアリスト。ラミアって本当に融通が利かないっていうか、馬鹿が付くくらいに真面目なんだからさぁ……」
「じゃー強いて言いますけど、今月分の家賃を工面してもらえますと助かります」
「また足りない感じ?」
「返済分を考慮すると、さすがに少しキツいですね」
駅前の噴水まで訪れた二人だが、そこでメーは足を止めていく。
これに、ラミアは不思議に思いながら振り返る。すると、そこで視線が合ったメーの口から“その提案”が飛び出したものであった。
「私、家賃を浮かせるナイスアイデアを閃いちゃった」
「?? ソレって、ナンですか??」
「ラミアさ、今のアパートから出て“カンキ君の部屋に住んじゃいなよ”」