「ハーレムルートを目指しましょう、先生」 作:アキラゼミ
どうぞよしなに。
「はぁ……。ソラちゃんから連絡があったと思って、来てみれば……」
「クックック……おはようございます、先生」
ゲマトリアの構成員の1人「黒服」は、朝も早いうちから、シャーレの建物に入っているコンビニに遊びに来たようだ。全く次は何をしに来たんだか。ビナーなら、つい先日倒したばっかりだし。まさかもう次の総力戦?
「おはようソラちゃん。ごめんねー、あいつがまたビビらせちゃって……」
「いっ、いいいいえっ、だっ、大丈夫です!私は、特になんともありませんから!」
「ソラちゃん、あの黒い人と知り合いだったの?」
「はは、はいっ!以前、店長が不在の時に、先生と一緒にお会計を……!」
「そうだったのか。────先生のお知り合いの方でしたか、それは失礼致しました。ソラちゃんが止めてくれなければ、ヴァルキューレに通報する所でしたよ」
「いえいえ、お気になさらず……」
店長と呼ばれたロボが苦笑い顔を表示。そりゃ、顔面がヒビ割れた真っ黒坊主なんて見ただけですぐヴァルキューレに通報してもいいくらいだろうに。よく幼いソラちゃんに判断を任せたものだ。お陰でソラちゃんから私に連絡が来て、黒服と朝から顔を合わせる事になってしまった。
「では可愛らしい店員さん、今日も栄養ドリンクを4本、お願いしますね。レジ袋アリで」
「は、はいっ!せ、先生は、どうされますかっ?」
「今日は……お会計は別でお願い」
「わかりましたっ!」
「おやおや。今日は前回のお礼に私が奢りますよ?クックック……まぁ先生は嫌がるでしょうが」
「そいつは重畳、じゃあ次があれば次ね」
「っ!……ククッ、承知致しました」
相変わらずのニヤケ顔のまま、私と黒服は会計を終えてエンジェル24を退店する。店の前で早速栄養ドリンクを1本グッとイッキして、そのゴミだけを外のゴミ箱に捨てて、私と黒服は並んで歩く。
「……で?今度は何の用?」
前回は、ゲマトリア再結成のお知らせと、総力戦ビナーの予告の為にわざわざシャーレにまで来た。そして「ゲマトリアは先生に敵対しない」という、黒服からの宣誓を受けて、私はゲマトリアと仲良くというより──悪い関係のままで居るのは辞めようという話をした所だった。
黒服は良くも悪くも律儀なんだ。私だって無闇に敵対したいと思っているワケではない。「色彩」がキヴォトスを侵略しに来たときも、なんだかんだで助けてくれたし、応援もしてくれたし……。
「────実は、色々と『整理』がつきましてね。今回はそのお知らせと言いますか。ああ、あくまでこれは『黒服』個人としての話です。今回に限り、ゲマトリアの『黒服』としてあなたに会いに来た訳ではありません。一先ずそこはご理解ください」
「……長話になる?」
「……なりますね。ええ、間違いなく……」
「んじゃ……上がっていきなよ、シャーレ」
「おや。今日は、当番の生徒さんは?」
「居るよ、1人。でも婚約者だから……」
私の婚約者とは、かの有名なトリニティの生徒会ティーパーティーの1人、聖園ミカ。色々と問題を起こしやすい生徒で、外患誘致など「問題」などで済ませられない問題も起こしたりもしたが、私や、同じティーパーティーのメンバーの尽力もあって、権限は剥奪されたものの肩書きは一応元のままだ。今は少し息苦しさを感じつつも寮生活をしている。
そして「色彩」の襲来などもあったが、それから暫くして私はミカと恋仲になり、3年生という事もあって私からプロポーズしてみたりなどして現在に至る。来年にはシャーレで同棲予定だ。
なので、私とミカの左手薬指には、つい先日からお揃いの指輪が光っている。普通、婚約指輪は普段使いしないと、店員さんから言われはしたけれど。
「婚約おめでとうございます、先生。そのお祝いの為もあり、今日は自ら来たのです」
「ほんとに?ついでじゃない?というかゲマトリア再結成の連絡も自分の足で来たじゃない」
「ええ。しかしだからこそ先生と和解できたようなものですから。ああ、あの後、先生に奢って頂いた栄養ドリンク、きちんと皆で分けて飲みましたよ。ご馳走様でした」
「それは良かった」
そんな話をしながらエレベーターへ向かい、私の執務室のある階へ。執務室では既にミカが待機中で私が任せた仕事を少しずつこなしてもらっている。
「それにしても、今日の担当は本当にその生徒さんだけなのですか?」
「そうだよ。最近は、仕事が多い時は2人以上呼ぶこともあるんだけど……まぁ……彼女は特別だよ」
「クックック……先生も隅に置けないですね」
「うっさいなー」
「いやしかし、本当に好都合でした。私としても、今日の話は先生からその生徒さんに話してほしいと伝えるつもりだったものですから……」
「ふーん……?」
何やら複雑そうな話らしい。黒服のいつも通りのニヤケ顔も、どこか暗いように見えてしまう。もうこの場で色々問い詰めたいところだったが、そんな話をしている間に私達は執務室前に到着していた。
「あっ!おかえり〜先生っ!」
「ただいまミカ」
猫が飼い主に飛び付くかのような凄まじい勢いで私に駆け寄ってくる婚約者、ミカ。隣に立つ黒服の存在に気付いているのか、いつものようなスリスリなんかはしてこない。
「……で?隣のカビた黒い豆は誰?」
(まさか私のことですか?)
「あー、こいつは……」
「初めまして、聖園ミカさん。私、先生の
「ふーん?先生に友達なんて居たんだ!」
「うぐっ……!?」
「ええ、おりますとも。私の他にも3人は居ます。デカルコマニー、ゴルコンダ、マエストロ。まぁ、フランシスはノーカウントでよろしいでしょうか」
待て。具体的に人数言うのやめてくれないかな。ガチで友達居ない人みたいじゃないかそれ。いや、仕事と女の子に囲まれた生活だから、明確に友達と言える存在とか居ないけどさ。居ないけどさ!!
ゲマトリアの男連中しか友達が居ないって、これ何か人生の選択とか盛大に間違えてないかな……?
「よく分かんないけど変わった名前だね?でもね、黒服さん?ここ、今日は私と先生の部屋だからさ?早めに帰ってね☆」
「え……ええ、もちろん。お話が終わったら、すぐに退散させて頂きます」
「ならいっか〜。……カヤちゃーん、お客様だよー!お茶請けの用意、ヨロシクね☆」
「……うるさいですね……ホンットに、あの腕っぷし女は……」
「何か言ったー?」
「何も言ってませんよ!」
執務室に居る、もう1人の生徒。元連邦生徒会長代行、不知火カヤである。
弾劾裁判の後で、連邦生徒会を追放され矯正局に送られる所だったが、私の口利きで、私が庇う形でシャーレに迎え入れた。まぁ──下心ありきだが。
レッドウィンターの工務部をはじめとするデモ隊だったり、カヤの批判派に知られると面倒なので、錠前サオリを通じてヘルメット団に依頼し、カヤを護送中と称した護送車を襲って破壊してもらって、対外的には行方不明という事にしてもらうといった芝居を打ってもらった。
今では無事、カヤも私とシャーレで働いている。少し前までは別室で仕事してもらっていたが今では普通に表に出てきている。外出は、まだだけど。
カヤが行方不明になどなっておらず、シャーレに居るのを知ってるのは、連邦生徒会長代行のリン、RABBIT小隊の4人、あの日以降に当番があった生徒数十人程度だけだったはずだ。
「先生。執務室には生徒は1人……なのでは?」
「カヤ、今はどこの学園にも属していないからさ。生徒……ではないよ。
「成程、そういう事でしたか。成程、成程……」
「……屁理屈かな?」
「いえいえ。小鳥遊ホシノさんの契約書の件以来の先生の契約理論を聞けて嬉しいですよ。確かに所属している学校組織が無いのなら無所属です。たとえシャーレに所属していたとしても、シャーレは学校組織ではありませんから、生徒ではありませんし」
「黒服って、そういう形式とか大事にするよね」
「大事な事ですから」
そしてテーブルを挟んで、黒服の前に私とミカが並んで座る。カヤがお茶請けや紅茶などを用意し、私達3人の前に出して、これまた私が任せた仕事に戻る。
「それで?わざわざ私も含めるなんてどういう事?難しい話は嫌いなんだけど?」
「ふむ。そうですか。お望みとあらば手短に話すと致しましょう。────ミカさん。世界を守る為、先生が生徒達でハーレムを作るのを、どうか許して頂けませんか?」
「「……は?」」
私とミカは、同時にそんな声を漏らした。きっと同じ部屋でこの話を聞いているカヤも声を漏らしただろう。なんなら私のように口をあんぐり開けてるかもしれない。
「あはははっ、無理無理〜!意味分かんない!話の流れがまるで分かんないよ?この世にセイアちゃんより話が難しい人が存在するんだね?あはははっ、おっかし〜☆」
「黒服……流石に意味が分からない。幾らなんでも、それは端折りすぎだよ」
「そうでしょうね。では順序立てて話しましょう。ミカさんも聞いてくださいね」
「うん、今のでほんの少しだけ興味出たよ?」
それから黒服は順序立てて話し出した。まずは、何がどうなってそんな結論に至ったのか。しかし、それを聞くには、黒服の過去を聞く必要があった。
「────実はですね、先生。私も──かつては、
『先生』だったのですよ」
「……え?」
「前々から不思議に思っていませんでしたか?何故私が、先生の持つその『大人のカード』の危険性を知っているのか。何故私が、先生に『使い過ぎると私達のようになる』と忠告しているのか……」
「まぁ疑問には思ってたけど……まさか……なの?」
「お察しの通りです。実は私も別世界のあなた自身なのですよ」
「……………………!!」
「『大人のカード』の危険性を知っている理由も、お分かりでしょう。
少し前に戦った、色彩の嚮導者────別世界、別時間軸の私自身「プレナパテス」を思い出した。彼はまさに別時間軸の私自身。「神秘」が反転したというシロコを連れ、シッテムの箱にはアロナ似の少女が常駐していて────。
黒いシロコは、今はこのキヴォトスのどこかに。そしてアロナ似の少女──プラナは、私の所有するシッテムの箱に移動してきている。
「それで、です。今更、別世界だの別時間軸の自分なんて言われても、先生ならプレナパテスの一件がありますから、その辺の説明は不要でしょう?」
「いやまぁそうだけども」
「先生、確かあの時、あちらのシロコさんからこう言われましたよね。『世界を終焉に導く「崇高」は1つの世界に1つしか存在できない』……と」
「……ホントよく見てるね。ホントに『ゲマトリアはいつでも先生を見てますよ』じゃない……」
「ええ、まぁ。────というより私もその説明を過去に聞きましてね」
「え?」
「私、いえ、我々ゲマトリアが『色彩』から銃撃を受けたのは先生もご存知ですよね。その際に、何の因果か、私が『先生』だった頃の──、昔の記憶が戻ったのですよ。そして、私が『先生』だった頃もその『色彩』に私のキヴォトスが襲われましてね。その時に同じ説明を聞いたな、と思い出しまして」
「うーむ……」
黒服が私……プレナパテスも私……私は黒服?私はプレナパテス?……私は私?……私は誰なんだ?
そんな、頭がグルグルするような感覚に襲われていると、パキャッと、ティーカップを指先で割ったミカが、イラつきを露わにして凄む。
「ホントにワケわかんない話だね?これ以上は不毛だと思うんだけど、まだあなたはお話するの?」
「ええ、今しばらくお待ち頂ければ」
「……あっそ。話半分で聞いとくね」
「ありがとうございます。────では話を戻すと致しましょう。──かつて、私が居たキヴォトスに来た『色彩の嚮導者』は同じくプレナパテスです。しかしです。私と戦った彼が連れていた生徒さんはシロコさんではありませんでした」
「え……シロコじゃ、ない……?」
「キヴォトス最高の神秘────小鳥遊ホシノさんだったのです」
「!!」
「実は私、人間の頃は、誰よりホシノさんと仲良くさせて頂いておりましてね。『神秘』が『恐怖』に反転したホシノさんを見るのは、とても辛いものがありました」
「……」
「先生は、シロコさんを連れていかれたでしょう。私も同じようにホシノさんを連れていかれました。そして、ウトナピシュティムの本船を使って、遥か上空で──ナラム・シンの玉座にてプレナパテスと戦い……」
「……負けた?」
「いえいえ、勝ちましたとも。私のホシノさんも、その他の皆さんも、とても優秀でしたから」
「え」
「私が人としての肉体を失って、こうなったのは、二度目の『色彩』の襲来で『大人のカード』を行使したのが直接的な原因ですから。しかし今はそこが問題ではないのですよ。『世界毎にプレナパテスに従う生徒が違う』、ということです」
「二度目!?────もう、ウトナピシュティムの本船は……!!」
「まぁまぁ。それは『運』ですよ。もう来ないとは思いますよ。『色彩』をキヴォトスに呼ぶ愚か者は追放済みですので。しかし、存在が知られたので、絶対に次は無いとは言えませんがね」
頭がこんがらがってきた。「色彩」とは、誰かが呼べるようなものなのか?そもそも「色彩」とは?二度目の襲来とは一体?追放とは誰を?まさかの、ベアトリーチェ?すっかり分からない事だらけだ。
「疑問を持つのはよい事ですが、話が逸れるので、今はとりあえず聞きに徹して頂けますと……」
「うん、ごめん……」
「いえいえ。それ程、話を聞いて頂けるのは嬉しいですよ。────そもそもプレナパテスは、無名の司祭の傀儡のはずなのです。そして、色彩にとって我々『普通の人間』は無価値なのに、何故か色彩は死にかけの『先生』に接触するのですよ。その結果プレナパテスが生徒の代わりに色彩の嚮導者として変化を遂げ死んだまま活動するようになるのです」
「……傀儡、なんだ……」
「ええ。そもそも、ですよ。『色彩の嚮導者』は、無名の司祭の意思を代弁するだけの存在。意思など持てるはずがないのです」
「意思を……持てない?……酷いな、それは……」
「はい。それなのに彼は最後、死に際に、私にこう告げました。────恐らく先生も、
「……!」
「傀儡は自我を持てない。それなのに、彼は、己の意思で先生にその言葉を伝えた。無名の司祭達が、最後に慈悲をやろう────などと、高尚なことを考えるはずもありません。そう、彼は間違いなく、己の意思を持って行動していました。シロコさんを守り、先生に委ねる為。ただそれだけの為だけに。先生────何故だか、分かりますか?」
わかるわけがない。そもそも黒服の話も、半分も理解できていないのが本音だ。ミカなんて私の腕に頭を預けて寝落ちしているし。
「大人としての、先生としての責任や意地もあると思います。そして、生徒達との絆ですよ、先生」
「……え」
黒服から出たとは思えない言葉だった。黒服とはそんな言葉を言うキャラだったのだろうか?いや、少なくとも私の知る黒服とは違う。彼の言う通り、本当に「記憶が戻ったから」なのだろうか。
「どうして『世界を終焉に導く「崇高」は、1つの世界に1つしか存在できない』のか?そして、彼、プレナパテスが連れている生徒の違いは何なのか。私はこの問題について『絆』がキーだと考え、ある仮説を立てました」
「……ほう」
「『色彩』とはつまり、破滅エンドが好きなカプ厨なのです」
「…………………………んんっ!?」
話が飛んだ?というか「カプ厨」って、黒服お前そんな言葉も使うのか。キャラ崩壊が著しいけど、本当に黒服なの?
「ここまで話せば先生も『私』なのですから、もうお分かりでしょう。そう、『色彩』とはつまりは、厄介カプ厨であり、『先生』と最も仲の良い生徒を反転させ、それ以外の生徒を皆殺しにし、最終的に先生をも殺して生徒が1人ぼっちになるよう生徒の運命を悪い方に操作するような存在……です」
「めっちゃくちゃ害悪じゃないそれ!」
「ええ全くです!私の時も、ホシノさんが反転したホシノさんと戦う羽目になったのですから!しかもプレナパテスにベッタリでしたからね、私が戦ったときのホシノさん*
「────って待って?じゃあ私が死にかけたら、その厄介カプ厨の色彩さんは私に接触して、今度は私がプレナパテスになって、
あの黒いシロコが語った、彼女の過去は、到底、並のメンタルで耐えられるものではない。シロコのヘイローがヒビ割れているのもそれの表れだろう。
ミカがあんな目に遭うとするなら、それはきっと真の意味で世界が終焉を迎えるとき────。
「そこなのです、先生。色彩は厄介カプ厨、それもかなりの純愛派。だからこそ、『世界を終焉に導く崇高は1人しか存在できない』。
色彩、厄介純愛過激派カプ厨説を熱弁する黒服。いつになくふざけてるな、とは思うが、それなら、1人しか存在しないのも分かる気がしなくもない。
「ならば『色彩』は、どうやって『1人の生徒』を選んでいると思いますか?」
「────どうやって、か……絆、1対1……対策がハーレムとなると…………あっ!?」
「そうです先生、まさにそうです」
黒服=私という黒服の話に、本当かもしれないと確信を持ちつつある。何故あんなゴチャゴチャした黒服の話が「絆」というキーワードだけで脳内でまとめられつつあるのだろう。
「まさか────『色彩』は、『先生』と
「より正確に述べるなら『先生』に判断を誤らせ、先生と最も絆の深い生徒が『反転』するよう運命を操作している────でしょうね。選択を誤るからプレナパテスになるのです。とすれば色彩は、目を付けた先生が自らバッドエンドに向かうよう運命を操作し──最も絆の深い生徒を痛い目に遭わせて、神秘を恐怖に反転させプレナパテスと同行させる。その上で、彼らの手によって世界を滅ぼさせる」
「……『色彩』、ふざけたヤツだね……」
「恐らく『色彩』は我々から見て上位存在。簡単に手出しができる相手ではありません。ゲマトリアの本来の敵は色彩、そして『先生』の本来の敵もあの
『色彩』なのですよ。────先程話した対策は、我々ゲマトリアには実現不可能な対策。だからこそこれは、先生、あなたにお願いするのです」
「……色彩からキヴォトスを、生徒を守る為か……」
「少しだけ違います。『色彩』の
だから黒服の提案は「ハーレムを作って(多くの生徒と絆を深めて)ほしい」というものになった、ということか。「色彩」が純愛派厄介カプ厨なら、ハーレムを作ってる
「理由が理由なだけに協力はしたい。だけど、私は断るよ」
「は……はい?な、なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?」
「世界を守る為とはいえ、生徒を利用するようで、少し気持ちが悪いからね」
「…………………………………………………」
「でもね、黒服」
「!」
「こんな可愛い顔でスヤスヤ寝てるミカだけどさ。実はエグいこと言ってるんだ。『気持ちさえ私から離れなければ浮気してもいいよ』────ってさ」
「!?」
「だから、つい最近、ヒナとも付き合い始める直前までに至ったよ」
「……なんと…………まさか先生……あなたは!」
「キヴォトスを守る為とか、そんな大義名分なんか私は要らない。────何故なら元からハーレムを作り始めてるから」
「おぉ……おおおお……先生……あなたという人は……。容易く私の理解を、予想を超えてくれますね……」
2番目の彼女にヒナを選ぼうとしたのは、ゲヘナ嫌いなミカに、たとえ荒療治になろうとも、それを克服してもらいたいと思ったからだ。しかし、まだ少し早いのかもと思い、一歩を踏み出せていない。
アリウスとトリニティの間を自ら取り持ち、和解させようと考えていた優しいミカなら、いつかは、私を架け橋にして、ゲヘナ嫌いも克服してくれる。私はそう信じている。
「どうやらこの世界の『先生』は凄まじい行動力の持ち主のようですね。私も、今のようになる前に、そうでありたかったものです」
「黒服は元から行動力は凄いと思うよ……」
「いえ、私などまだまだ。行動力だけで言うなら、先生が戦ったプレナパテス、かつて私自身が戦ったプレナパテスにも劣るでしょう。そう、漫画などでネタにされがちな『四天王最弱』は私なのですよ。二度目の『色彩』襲来時など、『大人のカード』が効かず、みすみすキヴォトスを滅ぼされましたし。それで記憶を失い、人の肉体を失っていてはまるでお話になりませんがね」
「……あ!そうか!黒服、あんた……プレナパテスに生徒を、ホシノを託されたのにこの世界のホシノをあんな危険な目に遭わせたのか!」
「……申し訳ありません。こんな事では彼にも顔向けできません。しかし言い訳ではありませんが、私、前回の『色彩』の襲来までは、綺麗に記憶を失ってしまっていましたから……」
「……」
「私がこうなったのも、遠因ではありますが、一応
『色彩』のせいですからね。私は、生まれながらに神秘を探求する、ゲマトリアの黒服ではありませんでした。私のシッテムの箱の存在すら、『色彩』の襲来まで完全に失念していましたから……」
「…………!?まさか、まだ持ってるの?」
「残念ながら、『色彩』に触れた結果、元の機能は失われていますがね。……お見せ致しましょう」
懐から、画面全体がヒビ割れていて、一部欠け、焦げたタブレットを取り出す。
「────ッ!!」
フォン、と羽が浮き上がるような軽い音と共に、画面がヒビ割れている、黒服のタブレットが起動。よく見慣れた壊れた教室を背景に、1人の女の子が画面の中からこちらを見ている。
起動時のパスワードは、私ともプレナパテスとも違うらしい。まさか世界によって違うのだろうか。
『────黒服、今日もお疲れ様です』
「クックックッ……あなたこそお疲れ様です。今日もとても愛らしいですよ」
誰よりもよく聞き覚えのある「お疲れ様です」のヘンテコなイントネーション。
黒服は割れた画面を指でなぞり、その少女の頭を撫でている。画面内の少女は嬉しそうに目を細め、黒服の指が左右に振れる毎に頭を動かしている。
「く……黒、服?あの……えっ、と……この子は……」
「おっと……紹介が遅れ、申し訳ありません。先生の前であるにも関わらず、つい、自分の世界に浸ってしまいました」
「や……それは別にいいんだけど……」
アロナに似ているその子は、しかしアロナよりも表情変化は少なく、その辺は、プラナに似ている。その髪は、金髪をメインとしながら、少しだけ赤い髪の束も混じっている。
そう、例えるならフィーナのような髪だ。髪型はアロナのようなショートヘアーではあるが、金髪の中の赤髪は目立って仕方ない。
「この子は、私の『シッテムの箱』に常駐しているシステム管理者であり、メインOSでもある、人工知能────
「…………っっ!?」
「元の名は『A.R.O.N.A』でしたがね。既に元の要素はありません。今の彼女は私が再現しただけのただの会話が可能な人工知能……クックック……」
「会話可能な人工知能────」
この前、黒服がシャーレまで来た時のことをふと思い出した。確かあの時、帰り際に、黒服が誰かに向かって「帰りますよ」と話し掛けていた。まさかあの時に彼が話し掛けていたのが────……。
「私は『
「黒服……」
「あぁ、それから。度を越した『大人のカード』の使い方をすると私のようになると、こうして実例を見せてお伝えした訳ですが……」
ヒビ割れた目をちょっぴり見開くと、より口元を釣り上げ、いつもよりも強気な、確信めいた口調で告げる。
「先生。この際ハッキリ言ってしまいましょうか。今のままでは、あなたは、堕ちますよ。それはもう池に向かって転がるドングリのように勢い良くね。そうなれば、私とマエストロ、フランシスの中間のような、危険な存在になるかもしれませんね」
「!?」
「──以前、私は『ゲマトリアは、あなたのことをずっと見ていますよ』と言いましたね。この言葉は半分正解であり、半分は間違いです。ゲマトリアと言いながら、私はあなたをずっとは見ていません。しかしね、見なくとも分かるのですよ。あなたは、あなたが思っている以上に
参った。ゲマトリアに入らない、協力しないと、ずっと拒否し続けていたのに、その私が元から彼らゲマトリアに近い存在だなんて。
確かに、どちらもヘイローも無い、キヴォトスの外側からキヴォトスに来た存在だし、間違いなく、何かしらの似た要素はあると思っていいだろうが。
しかしそうではなく、私は、元の精神性からしてゲマトリアに似ているのか。
「ウトナピシュティムの本船もありませんし、次は前回のようにはいきません。しかしそこで、諦めず大人のカードを使ったなら────あなたはそこでキヴォトスと共にその命を終える事になりますよ」
「キヴォトスと共に……か……」
「ええ。大人のカードでも、どうにもなりません。なにせ
「────ッ」
「私が居たキヴォトスではベアトリーチェにあたる存在はゲマトリア内で追放されてなかったようで。そのせいで再度、『色彩』の襲来がありました」
「追放……って、やっぱりベアトリーチェが?」
「先生にとっては預かり知らぬ事とは思いますが、実は『色彩』を招いたのはベアトリーチェだったのですよ。そのせいでキヴォトスは滅亡寸前にまで。本来なら『色彩』は先生のキヴォトスを発見できるはずなど無かったのですが……」
「ベアトリーチェが呼んだの!?」
あの紅白おばさん、そこまで害悪プレイをしてたなんて。アリウスの皆を苦しめたのもそうだけれどどこまで腐っていたんだ。
「ご安心ください、とうの昔にどこかの世界に追放済みですから。生きているかも分かりませんしね」
「……っ!?」
「────と、一先ず話を戻します。私の世界ではベアトリーチェにあたる存在は追放されておらず、変わらず活動していました。そして、彼女はある日同じように『色彩』に干渉し、また、呼びました。当然プレナパテス戦でウトナピシュティムの本船を失っていた私の世界に、『色彩』への対抗手段などありませんでしたから……」
「ッ……」
「その二度目の色彩の襲来の際、対抗手段が無く、キヴォトスは今にも終焉を迎えそうになりました。どうにもならないと直感した私は、迷いなく大人のカードを使いましたが────まるで力が及ばず、私は人としての肉体を失って、生徒達の絶望の中でキヴォトスを失い、そんな光景を見ながら、私までゲマトリアとなり、今に至るのです。まぁ、だいぶ過程を端折りましたし大雑把な部分もありますし、脚色もしましたがね。大まかな流れとしましては、こんなものですかね?」
「………………」
「先生。あなたは、いざと言う時、迷いなく大人のカードを使うでしょう?それがいけないんですよ」
「っ!」
「私がそうでしたから。だから私はいつも『大人のカードを使う選択肢を選ぶのかどうか』をあなたに試しているのです」
「試、す…………いつも……?」
「小鳥遊ホシノさんの件といい、色彩の時といい、先生は、大人のカードに頼り過ぎるきらいがある。つい先日、コンビニでお話した時もそうでしたね。確実にビナーの出現を抑えられるワケでもない、と私は言っているのに……それでも先生は『使う選択肢しか私にはない』と言ってのけた」
「!!」
「先生は強情です。私が止めても、大人のカードを使うでしょう。私はそれを止めたいから、いつも、何だかんだ言って無償で情報などを提供しているんですから……」
「そう、だったんだ……」
「ですが実際問題、戦う術を持たない先生が何かに抗う事などできっこありません。それこそ、大人のカードを使わなければ。しかし、使い過ぎると身を滅ぼす。────もう、お分かりですよね、先生。あなたはいつか訪れる終焉の日にキヴォトスと共に心中して、ゲマトリアに成るしかないのです」
「……嫌、だ……ッ」
「何もせずキヴォトスを見殺しにする選択肢など、先生には無いでしょう?何もしなければ人のままで死ねますけれど。そう知っているとしてもあなたは大人のカードを使いますよ、絶対に」
「ッ!!」
「先生がキヴォトスを見捨てる事などありません。何があっても、有り得ません。私はそれを、誰よりよく知っています。恐らくはあなたの生徒よりも。そう────私は、あなた自身なのですから」
「……だから、『大人のカード』を使わずに『私』が対抗手段を得るには……『色彩』の興味を逸らす為、ハーレムを作る必要がある……か」
「そういう事です。長話になりましたが、全ては、そこに繋がります。──既にハーレム構築中だった先生には、要らない情報だったでしょうかね。愛の営みが義務に変わってしまっては無意味ですから」
「そう、だね。……『色彩』が全て悪いんだね」
「ええ。ゲマトリアの、そして『先生』の本来の敵なのです。我々は元から敵対すべきではなかった。まぁ、ゲマトリアの中でも先生を敵視していたのはベアトリーチェだけだったのですが」
確かにそうだ。黒服は元より、他のゲマトリアのメンツも、明確に、私に敵意を向けてこなかった。黒服なんて、記憶を取り戻す前から何度も私を勧誘してきたくらいだから、ハナから敵意とは真逆だ。
「……ミカ、起きて」
「ん〜……なぁに?話、終わった?ねむ……」
「うん。……ハーレム作っていいかどうかだけ、一応確認したい」
「え〜?別にいいんじゃない?先生にとって、私が特別ならそれでいいしさ☆」
黒服をちらりと見る。コクンと頷く黒服。小さく溜め息をつき私も決意を新たにする。「ハーレムを作ろう」という決意では、決してない。
「先生。あなたこそが、真に、ゲマトリアの資格を持つ者です。ゲマトリアは、探求者であり求道者。狂気こそ我々の打破すべき宿敵。そして、あなたは既に、その果てに辿り着いている!欲をも支配し、理性を従えつつ複数の異性を纏めあげたハーレムを作ろうとなどと決意するとは……もはや狂気を超え、一周まわって正気すらも失われているのでは?」
「はいはいどうもー。ゲマトリアには入んないよ。黒服こそ一周まわってテンション狂ってるよ、あのクールキャラはどこ行ったの?」
「そこを何とか、あなたも我々ゲマトリアに入って頂けませんかね……」
「訪問販売みたいに食い下がるね……」
これ以上は無駄だと判断したか、クイッと紅茶を一口飲み、大きく息をついた黒服。栄養ドリンクのときから思ってるけど、黒服はどうやって飲み物を飲んでるんだろう。ドボドボ零れないのかな。
「──最後に、聖園ミカさん。1つお聞きしたいのですが、よろしいですか?」
「話が終わったら早く帰ってほしいんだけどなぁ。先生と過ごしたいし。……で、なに?」
「ハーレムを容認する理由は、それだけですか?」
「……何が言いたいワケ?まさか、真意があるとか、そんなとこかな?」
「ええ。どうも、先程仰った理由だけとは思えないものでして」
「へぇ……鋭いじゃん」
ミカが「あの目」になる。ちょっぴり暗い時の、ハイライトオフの──そして、誰かへの「敵意」を見せるときの、あの目だ。
私はミカのこの「目」がちょっぴり苦手であり、それなのにどこかゾクゾクしてしまう。
「先生ってさ、今の時点でかなりモテモテでしょ?もし、今以上に先生が皆から愛を向けられることになったとしたら────そんな先生を真っ先に愛し真っ先に愛された私って、先生にとって、どれだけ大きくて、どれだけ特別な存在なんだろうな〜って思えるから☆」
「「……ヒェッ」」
「話は終わった?それじゃあ、帰ってくれるかな!先生との時間が減っちゃうもん☆」
「……お邪魔しました。それではまた会いましょう、先生。その時はよろしくお願いしますね」
「う、うん……ゲマトリアの皆によろしくね……」
「ええ、もちろんですとも」
ミカに気圧された黒服は、足早に、マロンに声を掛けながら執務室を出て行く。それと同時にミカは私に寄り掛かり、甘い匂いを漂わせながら、ふっと耳に息を吹き掛けてくる。
「何より、皆で幸せになれたらサイコーじゃんね?モテモテの先生が、その中心になってさ♪」
「ミカ……?」
「……せ〜んせっ。ハーレム作り、頑張ってね☆」
私もミカから「あの目」を向けられた。ドキリと胸が跳ねると同時に、ゾクリと背筋に冷たいものが走る。ミカは、私を独占したいんじゃなく────私にとっての「特別中の特別」で居たいらしい。
私は紅茶をクッと飲み干し、大きく息をついた。
────もっと自分の心に素直になろう、という決意を固めた。黒服に見せてやろうじゃないか。ハーレムとは、狙って作るものなどではない。己に素直になった結果、いつの間にかできるものだと。
次回、殆ど全先生のメモロビ童貞・処女を奪った、正妻系太ももキャラ。(投稿済み→)
黒服って自分の考えた説をさも正解かのように言うところありますよね。そんなとこも好き。
ゲマトリア元先生説を推してる方って多そうで案外少なそうに見えます。私は一応、支持派です。
少なくとも黒服はそう思えなくもないかなぁ、と。でもベアトリーチェはじめ他のメンバーは元先生と思いにくいな、とも。
旧約聖書に示されている「アロンの杖」がアロナ、契約の箱がシッテムの箱という考察があるようで、マロンちゃんについてもそんな感じです。
アロン→ARON→ARON
アロン→ARON→
4.5th PVに登場した、謎の連邦生徒会長?がロリ化したような姿がマロンちゃんだと思って頂ければ。
金髪っぽいから「マロン」が合ってそうだな、と。
黒服との共闘路線も……?