「ハーレムルートを目指しましょう、先生」 作:アキラゼミ
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…………とは言ったものの。
ガッツリとセイアと室内デートするつもりだった私の脳内は、そう簡単には切り替わってくれない。ガッツリ時間を確保しているし、久しぶりにヒマになってしまった。
椅子を傾けて天井を眺めて、頭も心も何もかもを空っぽにして、ただただ天井を見つめる。やがて、カヤがコーヒーをカップに注ぐ音が、意識を現実に連れ戻してくれた。
「……カヤ、ちょっと買い物に行ってくるね。留守番よろしく。何か欲しいものはある?近場で買える物限定でお願いね」
「それならコーヒードリッパーのフィルターの調達お願いできます?いつものヤツです」
「はいはい」
買い物をして道具を揃えた私は、次の日、当初の予定通りにトリニティへと向かった────。
◆
シュリッ……シュリッ……
「……?」
音がする。優しく、何かを擦るような。少し硬い何かを力で押し潰し、または磨り潰すかのような、ジュクジュクという音も聞こえてくる。
「う……」
「ん。おはよう、セイア。起こしちゃったかな」
「え……先せ……ゲホッゲホッ……」
目を覚ますと、枕元には先生が居た。夢か幻かと布団の下で太ももを抓る。……痛い、フツーに痛い。どうやら夢ではないらしい。予知夢、でもないか。もしこれが久しぶりに
「あぁ喋らないで。喉にダメージあるみたいだから無理は良くない。……急に来てごめん。どうしても、居ても立っても居られなくて」
「……」
「ティーパーティーの子に聞いたけど、食欲、殆ど無いんだってね。無理してでも食べなさい──って言いたくもあるんだけど、素で病弱なセイアには、それは禁句かな、と思ってね。とりあえず栄養補給ゼリーと……あと、コレ」
(これは────)
ちょっぴりバツが悪そうに先生が差し出してきた小鉢には……すりおろされたリンゴが入っていた。
喉風邪、喉にダメージ、すりおろしリンゴ──。成程、先生が考えそうな事だ。しかも、先生が用意してくれた栄養補給ゼリーは種類があまりに豊富で思わずクスリと笑ってしまいそうになる。モモ味、イチゴ味、グレープ味、レモン味、マスカット味、オレンジ味、ラムネ味。しまいにはミントチョコ味なんてのもあるではないか。
メーカーは何故それをゼリーにしようと思った。そして先生は何故それを買おうと思ったのか。全く本当にふざけている……。
(……でも……)
看病されるのは、申し訳なく思う。風邪を引いているんだ、セックスどころかキスも難しいだろう。ダイレクトに菌を移してしまう。そう、キスすらも満足にできないのに、彼にそんな弱い状態の自分を見せて、しかも世話させてしまうのが申し訳ない。
本当なら今すぐ追い返したいくらいだ。「頼む、私の部屋を出て行ってくれ」……と。
しかし、先生は心配性だ。私にそう思われる事も承知の上で、今ここに居るんだろう。そしてきっと私から風邪を移される事すらも、彼は織り込み済みなんだろう。
だからこそ、酷く申し訳なく思う。それなのに、それと同じくらいに────嬉しいのだ。
本当は会えなくなるハズだった彼が、今こうして私の目の前に居る。起きたら、目の前に居るのだ。これが嬉しくないワケがない。
会える予定が覆り、会えなくなった。それなのにそこから更に予定が覆りこうして顔を合わせる事が叶った。
「いただきます」
ハグもキスもセックスも何も要らない。会えないハズの人に会えた、ただそれだけで私のこの小さな胸は熱く燃え上がり──冷めない熱を帯びるのだ。冷たいすりおろしリンゴさえ温まる程の熱を。
(セイアからモモトーク……。そうか、私だけが口で返すより文字のやりとりの方がセイアとしても気が楽かも)
──とでも考えたんだろう。業務連絡かと思えば目の前に居るハズの
ポチポチとメッセージを打ち込んでいると、彼の大きな手がフワリと頭に乗せられる。いつもの如く頭を撫でてきた。
これくらいのスキンシップだったら、彼に風邪をうつす事もないだろうから──と、スマホを置き、目を閉じ、耳を倒して彼の手を受け入れる。
「ッ……」
「……?」
(う……耳倒すセイアが可愛すぎる件について……。可愛すぎる、目を閉じて耳を倒してるだけなのに。何でこんなにも可愛いのやら意味が分からん……)
狐耳をふわふわと触り頬を撫で回す。相変わらず彼はケモ耳フェチで、ほっぺフェチだ。スキンケアなんて殆どしていないが、彼は、そんなにこの肌が好きなのか。
無言で顎を差し出せば、顎下に手を置いてコショコショと手を動かし顎を撫でてくすぐってくれる。猫じゃあるまいし喉なんか鳴らないのに────。
キュー、キュー……♡
「「え?」」
くきゅー……くぅー……きゅー、きゅ〜……♡♡
「「………………」」
私……喉、鳴ってる……???
「……可愛すぎ……」
「ちがっ……ケホッ、コホコホッ、ゲホッ……違う、喉が鳴ったワケじゃっ……!」
「あぁぁぁっ、喋らないでっ!喉の炎症が……」
「……ケホッ。全く、君は……甘えさせるの、上手なんだよ……」
「セイアが甘え上手なんだよ」
「……。そんな、事は……無いさ。………ケホッ」
「そう?でも私にしか見せてくれないよね、そんな姿はさ。……そういうの、私からすれば嬉しいとしか言いようがないくらい嬉しいから……ありがとうね」
「……私こそ、ね。甘えさせてくれて、ありがとう。これでも、ティーパーティー……だから、ね。あまり表立っては……甘えたりとか、気を抜いたりだとか、できない……から……」
「……うん」
「先生と居ると……楽になれる。ずっと、私のそばに居てほしいと……そんな、浅ましく図々しい願いが、私の中に渦巻いている。情けないと、笑ってくれ」
「情けなくなんかない。生徒会がなんだ。上級生がなんだ。まだまだ子供なんだよ。楽してもいいし、甘えていい。そばに居てほしいのなら、居るから。もっと私を頼って。もっと私に甘えて。……ね?」
────「もっと甘えて」と、そんな恥ずかしいセリフを真面目に言えてしまうんだ。だからこそ、私は、彼を好きになってしまったのかもしれない。
どうして好きになったのか、自分もその辺の事はよく分からない。でもきっと「好き」に理由なんか無い。恋愛とはそういうものだ──なんて達観したようなセリフは吐けない。そんな悟ったような事は言えやしない。ミカに対しても、自分に対しても。
「……先生」
「うん?」
「……二度寝、してもいいかな……?」
「っ!もちろん。ゆっくり寝るといいよ」
さっきまで頭を撫でていた、彼の腕に抱きつく。顔を埋めるようにして、キュッと抱え込む。何かを察したのか、包み込むように、抱き締めてくれた。
「……おやすみ、セイア」
だけど……だけどきっと、彼に対しこの甘酸っぱい気持ちを抱いた事には、きっと、高尚な理由なんか何も無いのだろう。
好きなものは好き、ただ甘えたいから甘えたい。ただただ楽になりたいから、楽になろうとする。
私が先生に「甘える」理由なんてものは、たったそれだけでいいのだ。
彼の腕の中で眠りに落ちながら──ふと、そんな事を考えていた。