「ハーレムルートを目指しましょう、先生」 作:アキラゼミ
──夢を見た。
──それはもう、吐き気を催すような残酷な夢。
──できる事なら、忘れてしまいたいね。
──皆が血まみれで……。
──どこもかしこも血なまぐさくて。
──悲鳴と慟哭と嗚咽と悲しい歌声が混ざり。
──全てが1つに、赤黒い闇に溶け合っていく。
──滅茶苦茶としか表現の仕様のない「混沌」。
──嗚呼、どうか忘れられないだろうか。
──でも、忘れられないんだね。
──この運命を回避するには「選択」が重要だ。
──そう、私の。
──そして、先生のね。
──君には、心から申し訳ないと思っているよ。
──エデン条約の事件を経て、和解したのにね。
──でもね。
──羨ましくて仕方ないんだ。
──ほら……私は病弱だからね。
──心は元気でも、君のようには振る舞えない。
──どう足掻いても、変わらない現実。
──どう足掻いても、変えられない現実。
──そんな現実には、もう、飽きてしまったよ。
──先生は、私の視た残酷な未来を捻じ曲げた。
──そんな事、不可能だと思っていたのに。
──あの時はもう死ぬ事すら受け入れていたよ。
──絶対に避けられないと思っていたからね。
──それがいとも容易く捻じ曲げられた、衝撃。
──彼に特別な感情を抱くのには、十分だった。
──未来を読めない君には分からないだろう。
──「不可能」が「可能」に裏返る事の衝撃が。
──尤も、分かってもらえるとも思っていない。
──私の話の一割も理解する事は難しいだろう。
──でも。
──そんな君にも、分かってもらえるだろう。
──私の気持ちが。
──私の嫉妬心が。
──私の羨望が。
──そして、私の恋心が。
──信じられるかい?
──確かに、私は
──私と彼……先生が、熱烈に愛し合う
──想いは実るさ。どんな道を経てもね。
──私はこの夢を、現実のものとしよう。
──それとも愛する先生は、先生の「選択」は、私のこの夢を、捻じ曲げてしまうのだろうか?
──それはきっと、私にも分からない。
──そして、先生本人ですら分からないだろう。
──でもそれは、仕方のないことなのだ。
──だって、未来なんて読めやしないんだから。
──全ての事象は「因果」で繋がっているんだ。
──だから、私は、幸せな夢を
──すまない、ミカ。
──すまない、先生。
──少しだけ……少しだけでいいんだ。
──どうか、私の
◆
朝起きた私は、何故か汗びっしょりだった。特別暑かったワケではないのに。シーツまでしっとりと冷たかった。カヤが起きたら、洗濯しないとだな。
「ふぁ〜ぁ……ねむ……」
そういえば今日はミカとのデートの予定だった。仕事は休みだし、まったりできるね。
「……」
何故だろう、心の中で渦巻くようにして何か黒いモヤモヤが居座っている。蛇の様にとぐろを巻き、底の見えない口を開けては、私に牙を剥いている。
「嫌な夢でも……見たのかな」
たまーにあるんだ。ほんのたまに。エデン条約の事件が終わってからかな。悪夢ではないが、まるで悪夢を見たかのように、極めて寝覚めが悪い事が。
「ん……先生……?」
「っ!ごめんカヤ、起こしちゃった?」
「……いえ。というか、先生、泣いてます?」
「え」
本当だ。涙が頬を伝いカタツムリが這ったような跡を頬に、目の横に残している。悲しい夢を見た、なんて覚えちゃいないけど。──大人になって夢で泣くなんて、全く……疲れてるのかな。
「しょうがないですねぇ……」
「……なに乗っかってるの」
「お疲れのようですから、搾り取ってあげますよ。超人のこの名器で♡ さぁさぁ、前でも後ろでも、お好きな方をお選びください♡」
「じゃあ、あと2時間寝かせて……」
「なっ!?こっ、この私から誘ってるのですよ!?据え膳食わぬは男の恥ではないのですか!?」
「この後はミカとデートだってば……。精液無駄撃ちできないよ……おやすみ……」
「無駄撃ちですって!?こ、こンのぉ〜!もうっ、知りませんからねっ!」
「イテッ」
ポカッと私の腹を殴ると、カヤは私に背を向けて不貞寝してしまった。私は、そんなカヤを抱き枕にしながら、束の間の二度寝を楽しむことにした。
◆
「や。おはようミカ」
「おはよー先生っ!急に予定変更してごめんね?」
「ううん、いいよ。お部屋デートも悪くないよね」
「えへへ、そーだね!」
デート予定を変更したというのは、他でもない。同じティーパーティーの百合園セイアから、今回の私とのデートについて、少々危険なお告げのようなものを聞いたそうだ。
だから、本当ならまた街に出ようとしていたのをミカのお部屋デートに変更した。まぁ、私としてはどっちもいいんだけどね。
◆
「っ……ぅんっ……♡」
「あったかい……ミカ……♡」
「せんせっ、もうダメ、イクッ……イクぅっ♡」
「ん、私もイクよミカ……っ!」
結局、お部屋デートでヤる事と言ったら1つだ。そう、セックス。ゲーム部の部室ならゲーム一択になるけれど、ミカの部屋にはそういうのは無いし。スゴロクすら無い。ちょっとお高そうな家具とか、せいぜいその程度だ。私物の殆どは……アレだし。
そうなると自然とセックスだけになる。まぁ私もミカもお喋りが好きなので、この数回のセックスが終われば、お茶しながらのお喋りタイムになるが。
流石に、真っ昼間から深夜並みにヤリまくるってコトは無い。シロコじゃあるまいしね。
「ふぅ〜……ちょっと休憩しよっか」
「そうだね。それにしてもシャワー浴びないようにエッチするのも大変だね〜。中出ししちゃったら、拭いても拭いても垂れてくるもんね?」
「そうなんだよねぇ」
かといって、ぶっかけてしまったらそれはそれでカピカピしてしまうから、濡れティッシュで拭くか濡れタオルで拭くか。まぁ普通はシャワーだよね。そうなるとティッシュに射精するしかなくなるが、暴発防止の為にはやっぱりコンドーム装着するのが最終的な安全策なんだ。
「わーお……ゴム、たっぽたぽになってるよ♡」
「改めて見ると恥ずかしいな……」
「ねぇ先生、これ、飲んでもいーい?」
「やめときなよ、美味しくないよ?」
「お掃除で何回も舐めてるんだから大丈夫だよ☆ ──ぷぇっ、なんか苦ぁ……っ」
「そりゃそうなる。普段はミカの愛液も混ざってる味なんだから、純粋に精液だけだったらいつもより変な味に感じちゃうよ」
◆
それから夕方頃まで、私とミカは、お喋りしたりエッチしたり、お茶を嗜んだり、まったりのんびり過ごそうとした。昼ご飯は2人揃って学食に行き、腹休めにまたミカの部屋でウトウトしてみたり。
……その時。
ガシャアアッと背後でガラスが割れるような音が響く。反射的に背後を見ると、「ような」ではなくまさしく彼女の部屋の窓ガラスが割れていた。
────と同時に、黒いパイナップルのような、角張った物体が、ゴツ、ゴロゴロと転がってくる。
「え?」
「ん?」
背後に転がる手榴弾を見た瞬間、時間が停止したような気がした。そしてそれと同時に脳内に3つの選択肢が表示される。
────え、待て。何だよ、この選択肢。普通にミカを庇う選択肢は無いのか?まぁいい、選ぶか。
回避は普通にダメだよ、ミカが居るし危ないし。
お尻と床で挟むって、これ下手しなくても腰から下が吹き飛ぶって意味じゃんね?
じゃあ一択だろ。サッカーの要領で外に蹴るか。まぁこれしかないよね。ミカから遠ざけられて且つ私も助かるし。開き掛けの手榴弾だもの──多分、地面に落ちる前に空中で爆発してくれるよね。
手榴弾ってさ、思ったよりユルくてさ。起爆まで実に4〜5秒くらいのタイムラグがあるんだよな。これを短いと見るか長いと見るか。結局はソコさ。
この間、約0秒。手榴弾を見た私は瞬時に身体を動かしていた。ゴチャゴチャ考え出したのはまさに身体を動かし始めてからの事だった。
私の選んだ選択肢、そう、それは実にシンプル。
「先せ────」
「来るなッッ!!」
振り向きつつ立ち上がった私に飛びつこうとするミカを、右手を後ろに回して、バスケットボールのディフェンスのようにガードしながら、軸足となる左足を前に。
次いで、自然と後ろになった右足をそのまま強く振り抜き、手榴弾を窓へ向けて蹴る。
瞬間、再び世界は止まり──いや止まったように思えたが、スローモーションになった。
後ろになるよう私によってガードされたミカが、私の襟を引っ張り、強制的に私を引き戻し────右足を振り抜いて片足になっていた私はバランスを崩して、いとも容易く背中から転げ落ち、手榴弾に両足を向ける形になる。
そして次の瞬間、手榴弾は炸裂。両足に凄まじい熱さと痛みを感じ、私は顔を顰めながら、そのままミカに引っ張られたまま床に落ちる。
よりによって、手榴弾に「足を向けて」いたので足にダメージが集中するのは仕方ない展開だった。
「せ……先生っ……?先生っ、しっかりして!先生!誰かっ……誰か!救護騎士団っ!!」
「ハハッ……気にしないでよ……やること、終えるまで……死ねない……からね…………ゲホッ……ゲホ、ゴホッ……ゴプッ……」
「いやあああああああああぁぁっっ!!先生っ!!先生やめて死なないで!先生っ!先生ええぇっ!!お願いっ、目を開けて!!先生っっ!!」
目の前が霞む。太ももの方までダメージがあったようだ。出血性ショックなのかは、専門知識が無い私には分からないけれど。呼吸が浅くなってきたし視界も暗くなってきた。
もしずっと目を瞑っていたなら、そのままで──永眠──できてしまいそうなくらいに────。
次回────正妻、ちょっとは成長した?
次回が12000字弱あるので、今回は準備期間として少し短め。ご容赦ください。
YSちゃんリクエスト、次の次。
華々しい素敵なお題箱はコチラ。
https://odaibako.net/u/Akirazemi