「ハーレムルートを目指しましょう、先生」 作:アキラゼミ
シロコ、ノノミ、アヤネと、マフユ率いるレッドウィンター部隊の戦闘が始まった。
レッドウィンター部隊の方はアビドスに来てからあまり間も無いので、地の利はシロコ達にある……と思いたかったがそもそも戦場がブラックマーケットという事もあり、シロコ達にとっても地の利なんてものは存在しなかった。
寧ろ、数日間とはいえ先にブラックマーケットに来ていた分だけマフユ達に地の利があると言える。
それに加えて、ここは、市街地ではなく屋外判定らしい。シロコの屋外戦適正はB、ノノミはA──マフユは、よりによってS。適正で言うなら相性はあまり良くなく、マフユが有利だ。
しかし────。
「ん……『
「わッ……お、おっと……ひぎゃッ!?」
シロコのEXスキルは、コストが低い。短時間のクールタイムを経て、弾さえ装填できれば、すぐに再度発動する事ができる。
シロコは「爆発/軽装備」という組み合わせで、マフユは「振動/軽装備」。つまりシロコの攻撃はマフユによく効くのだ。
シロコのEXはターゲットを1人に絞れるから、私が割と近くにいても平気で使えるらしい。爆風と破片は割と凄いけど。
(なぁるほど、あのケモ耳さんは『爆発』ですか、そりゃ私と相性が悪いワケです。私は『振動』で、彼女の『軽装備』には大したダメージは入れられずこのままではジリ貧──私達の負けは9割は確定。しかしあの巨乳さん──まさか『貫通/軽装備』?となると、三者共に『軽装備』……ならば……!)
◆
しばらくは撃ち合っていたものの、唐突に銃での応戦をやめたマフユは、ポケットの中から大きめの手榴弾を取り出す。それを見た2人は顔を強ばらせ警戒態勢に入る。
「お2人はぁ、サーモバリック手榴弾……ってご存知ですかァ?」
「ッ!?……まさか……」
「サーモバリック手榴弾────合法違法を問わず銃火器の横行するキヴォトスでも、特に飛び抜けて危険視されている、あの……!?」
「ええ、そのサーモバリックですね。閉所なら更に威力を増すこの爆弾ですが、まぁ、ここは屋外ではありますが、イけるでしょ」
ピンに指を掛けるマフユ。ノノミはヒクッと顔を引き攣らせ、1歩、また1歩と後ずさる。しかし、そんなノノミを後目に、シロコは1歩を踏み出す。
「おやおや、命知らずですねぇ。先生は人質同然、そんな近付いて大丈夫なのです?」
「……先生だけじゃない。あなたの仲間も、大勢いるこの状況で……そんなに危険な武器を使えるの?」
「っ!」
「……ふふっ。『仲間を巻き込むんだからそんなものどうせ使えない。そのサーモバリックが本物でも、そんなのただの脅しでしょ』──とでも言いたげに聞こえますがねェ?」
「ん。そう言ってる」
「ふひ、ふひひひっ!!いいでしょう、自爆覚悟で使ってやりますよ!さぁ、喰らいなさい……!!」
ピンを抜く。それをシロコ目掛けて投擲────手榴弾が彼女の手中から離れた瞬間、ブォンと空を切って、黒い何かが視界を横切る。その黒い何かはサーモバリック手榴弾を弾き飛ばし──手榴弾は、遙か空中で炸裂した。
「ッッ……な、何が起きて……」
「私の後輩に何してるのかなぁ?」
「!?」
暗く低く、ドスの効いた声が聞こえる。どこか、私の耳に聞き馴染みのあるようで無いこの声──。爆発の瞬間に目を閉じていた私は、目を開け……。
「……ホシノ?」
「ギリギリセーフ……って感じかな?それにしても、危ないなぁ。おじさん来なかったら、シロコちゃん大怪我してたよ?無闇に前に出るのはやめようね」
「……ん。ごめん……本当に投げると思わなかった」
「ごめん、ホシノ……。私があの手榴弾を奪ったり、払い除けられれば良かっ……」
「先生は絶対そんな事しないで。死にたいの?」
「ヒュッ」
ガチトーンなホシノ、怖い……。
「……で?まさかとは思うけど、まさかこの子が?」
「あうぅ……」
ホシノに胸ぐらを掴まれたマフユは、首根っこを掴まれた子猫のように脱力して、目を回している。ヘイローも薄くなったり濃くなったりを繰り返し、または点滅して、今にも消えそうだ。ホシノの覇気というか、威圧に負けたらしい。
まぁ、そうなるのも分かる気はする。あの組織のネームドのメンツより、今のホシノの方が怖いし。
「ん。その子が寒崎マフユ」
「そっか、なら任務完了って感じかな?先生の事を人質にするとか、怖いもの知らずだねぇ……」
「「…………」」
「……?どしたの、
マフユは確かに私を人質にした。それ自体は疑うべくもない事実でしかない。しかし、少し違う。
マフユは「初めから私と行動していた」のであり
「シロコたちと同行していた私」を人質にしたワケではない。
「……その……人質にしたのは、そうなんですが……」
「……2人は、元から一緒に居た。私達と会う前から2人でここに居た……」
「え!?ブラックマーケットの中で会ったから同行してもらう事にしたとか、中に入るときに先生から心配されて一緒に来た、とかじゃなくて!?」
「ん。普通に買い物でもするみたいに一緒に居た。多分だけど……私達の知らない事情が、まだ何か……あるんだと思う」
「うへ〜……参ったなぁ、威圧しすぎたかも……」
完全にヘイローが消失し、目を回して気を失ったマフユを見て、ホシノは顔を引き攣らせた……。
◆
「……はぁ〜、テロ組織『
ノノミのその言葉を聞きアヤネと私以外の面々はラーメンをすすりながら神妙な顔で頷く。
気絶したマフユを見たレッドウィンター部隊は、逆上して襲いかかってきたものの──私が指揮するシロコ、ノノミ、ホシノ(とアヤネ)の敵ではなくすごすごと退散していった。
その後、マフユを抱えブラックマーケットを出てその足で柴関ラーメンへとやってきた。程なくして目を覚ましたマフユの分もラーメンを注文し、今に至る……。
セリカは途中から合流したものの、大将1人でもフツーに店を切り盛りできているから本当に凄い。
「当たり前です。普段は『正体不明の組織』として活動してますし、明確に名前を出して行動したのもつい最近の話ですし。トリニティを攻めようとしたあの時の……宣戦布告で初めて世間一般に出たはずと記憶しています」
「それって、モモッターに投稿された、あの?」
「ええ、それです」
「アヤネちゃん、そんなの見てたんですか?」
「えぇと……。見てたというか、マフユさんについて調べていた時に掘り出した、みたいな……」
聞くところによると、アヤネはシロコ達の補佐をしながら、自分で情報集めもしていたらしかった。相変わらず、色んな意味で器用な子だ。
「んぐっ……けふっ。……すみません、ご馳走様でした。先生、残り食べてください」
「あ、うん」
「ん……お残しは許さない」
「だぁから、私だって残したくないから、こうして先生に押し付けてるんですよぉ……。小盛りを頼んだハズなのに普通盛りより大きく見えるんですが?」
「いやぁー、ちょっと分量を間違えちまってなぁ!あぁ、代金は小盛り分で大丈夫だからな!」
大将はいつも通りだ。
さて、私はマフユの食べかけでもチュルチュルと食べさせてもらうか。こんな堂々と食べられるのは間違いなく幸せだな。
「ともかく。私を学園に突き出すつもりでしたら、それはそれで構いません。が、言わなくとも承知の上だとは思いますけれど────それ相応の報復を覚悟しておいてください」
「「「「ッッ……!!」」」」
「少なくとも、アビドス高校は廃校になりますね。これは別に、比喩的な意味とか……体裁的な意味ではありません。物理的な意味で……です」
「させない」
「そうよ!させるワケない!止めてみせるわ!!」
「これまでだって、どうにかなったんです。先生の指揮さえあれば……っ」
「先生の指揮があっても無駄ですよ。飂熾冘巫髏の本隊、別学区の部隊で1,000人として、傘下の組織も含めたら、総員は3,000人は下らない。しかも我々は更に兵隊を増やす技術もあるので……まぁ、持久戦や物量戦に持ち込めば、勝ち確と言えます」
「さ、3,000……って……」
「いや!流石にそんなのハッタリでしょ!?ねぇッ先生!?その飂熾冘巫髏って組織のこと、少しは知ってるんでしょ?ルビーちゃん、組織のこと殆ど教えてくれなかったんだけど……ねぇ、先生!」
「……」
半分ハッタリで、半分ハッタリではない──か。
確か、小・中学生から暴れてたレイコには、部下としてチンピラ軍団が居たはず。そして、チンピラだけで既に1,000人以上もの規模……。
だからそれを含めればハッタリではないものの、そのレイコは飂熾冘巫髏を脱退しているとなれば、ハッタリであるとも言えるだろう。ちょっと判断に困る問題だ。
「……ハッタリじゃないよ。飂熾冘巫髏は……確かに下部組織も全部含めたら──正確な数字はあんまり分からないけれど、少なくとも2,000人は確実だ」
「す、少なくとも……2,000……ッ!?」
「以前、学校に攻めてきたカタカタヘルメット団の累計よりも多いです……。少なくとも、先生を抜いた私達だけでの戦闘では……勝ち目は……万に一つも、億に一つも……ありません……」
「先生が居ても、物量戦になるから、私達の不利は動かないよ。前後左右どころか、全方位を囲まれて銃弾も爆弾もブチ込まれる。学校も何も守れない。そもそも本隊だけで1,000人規模だって?それじゃ〜勝ち目なんか無いよねぇ、物理的に考えてフツーに補給が足りなくなるもの」
「そういう事です。自分で言うのは少し自惚れにも聞こえるでしょうが──私、幹部では最上位クラスですので。恐らく私が頼まなくとも、求めずとも、助けが来るでしょうね。施設を破壊し、中の囚人を助け出すだけの力が……私達の組織にはあるので」
レイコの後釜で組織に入ったユウナか。1人でも総力戦クラスの強さだというのに、それで、一旦はヴァルキューレに出頭したルーシィ*1を、施設から助け出したんだった。
「ですので、私をチェリノ会長に突き出し、報奨金1,500万円を受け取るのもいいでしょう。学校再建の為に、更にどこからか借金しそうですけれど?」
「……実質、学校との引き換えに1,500万円……」
「くだらない。たった1,500万円の為に……」
「……ん。そうだね。私達にとって、先生が来た頃の2ヶ月分の利子より少ないくらいだし」
こうして、マフユは解放される事になった。先程撤退していった部下に彼女から連絡してもらって、迎えに来てもらうことに。
「────あれ?思ったんだけどさ……1,500万円と引き換えに、飂熾冘巫髏と交渉してみたらどう?」
「「「「「…………」」」」」
「セリカちゃんって時折、凄いこと言うよね……」
「え、そう?」
「冷静に考えて、セリカちゃん。報復で学校を壊すような連中だよ?マフユちゃんを人質に取っても、同じ事だよ。身代金なんか、渡してくれるワケないでしょ。物理的に学校を破壊しに来るよ」
「ッ……!」
「小鳥遊ホシノさん──でしたっけ。あなたは話が分かる人ですね。素直に助かります」
「そりゃどーも。……ったく、なんだって君みたいな子が、そんな物騒な組織に居るのさ?」
「さぁ……何故、でしょうね。特別、深い意味があるワケではありません。ただ……まァ……楽しいから、でしょうかね。尤もらしい理由付けをするとしたらそれに近くなると思います」
「ふぅん。……ま、平和にいこーよ、平和にさ〜」
「そうですね。叶うなら、それが一番でしょう」
ロリ同士の会話……眼福眼福。写真に残したい。
「ん、先生……もう
「柴関ラーメン、美味しいからね」
「またまたぁ〜。私の食べかけだからでしょう〜?相変わらずエッチですねぇ♡*2」
マフユがいつものニヤつきを見せつつそんな事を言ったその時──ピンと店内の空気が張り詰めた。ああ、地雷発言だ。アビドスの子の目の前で、さも私がマフユと「致した」かのような。
いや、もう何回も「致して」いるのだけども。
「ま、マフユ……あまり余計な事は」
「ん。先生。詳しく……説明して。今、私は冷静さを欠こうとしている。その子ともエッチしたの?」
「し、シテはいるけど、その──」
「もちろんいっぱいシテますよぉ〜。ラブホテル、廃墟、路地裏、公園、シャーレ……んふふっ♡♡」
「ん……先生、私とも外でエッチするべき」
「し、シロコちゃん!ストップ、ストップ!」
「まぁ『シャーレ』は嘘ですけれどね。それから、私と先生はセフレです。別に、カレカノではないと認識してますので……そこは安心してくださいな」
「ならいい」
((((いいんだ……))))
いいのか……。シロコの基準がよく分からない。
しかしどうやら許されたようなのでマフユの方も一息ついた様子。
それからもしばらく、柴関で談笑していると──戦車の駆動音が聞こえてきた。外を見ると何台もの戦車が連なって柴関の前にて隊列を作っているのが目に入る。
「どこの戦車でしょう……?」
「校章も何も無いですね……」
「大方、マフユちゃんとこの組織のお迎えでしょ。彼女の言う通りに『正体不明』をコンセプトとする組織なら、学校内の戦車を奪ったならまず校章とか所属組織を示す目印を外す。そうしないと、戦闘で使えないものね。所属──少なくとも戦車の出処がバレたら、足がつく。バレバレになっちゃうもの」
「な、なるほど……」
「そういうもんなのね……」
「……そういう事です。それじゃアビドスの皆さん、お世話になりました。私を捕まえない方針──との最終結論で良かったでしょうか?」
「まぁ、そうしなきゃ学校が壊されるしね〜」
「そうですね。学校を守りたいのであれば、それが最適解だと思いますよ。──じゃ、あと2日くらいブラックマーケットにて滞在させてもらいますね。そうしたら、またどこか行きます」
「はいはーい、よいアビドスライフを〜」
「あ、先生。……その、私の財布、基地に置き忘れてきてしまってるので……」
「大丈夫、マフユの分も払っとくよ」
「すみません、お願いします。お返しは私の身体でお支払いします。……では、また連絡します」
こうしてマフユは戦車隊の戦車に乗り込み、再びあのブラックマーケットへと戻って行った。そして柴関で戦車の音が聞こえなくなった頃……。
「……あれ?ちょっと待って……?」
「どしたの〜、セリカちゃぁん?」
「あの子、サラッと『次会う時エッチしよう』って先生のこと誘ってなかった!?!?」
「「「「…………あっ」」」」
「せ〜ん〜せ〜い〜?」
「流石におじさんよりちっちゃい子に手を出すのはまずいよー、死刑だよぉ。死刑囚だよ死刑囚〜」
「に、2年だから!シロコやノノミと同い年だからセーフ!セーフですっ!!マフユとのエッチがダメだったら、シロコやノノミもダメだし!ましてや、それより年下のセリカもダメになっちゃうッ!」
「そッ、そー言われちゃったらッ……み、認めるしかなくなっちゃうでしょ!?卑怯よっ!」
「うーん、年齢の問題なのかなぁ……身体の大きさの問題だと思うけど……まぁでも、それ言っちゃったらおじさんにも刺さるからね、これ以上は余計なこと言わないようにしとこうかな〜……」
「そうですね、それが一番平和です♤」
────こうしてアビドスにいつも通りの日常が戻ってきた。
今回はターゲットを逃がすしかなかった、しかし今回は相手が悪過ぎたと言える。それ故に、余計に次こそはと燃える対策委員会であった……。