「ハーレムルートを目指しましょう、先生」 作:アキラゼミ
ある日、日々の業務に疲れた私を見かねたらしいホシノが、自身が愛用している枕を貸してくれた。ベッドとセットになっているようなタイプの方の枕ではない。いつも教室などでのお昼寝に使っているアレだ。
包み込まれるようにフカフカで、ホシノの匂いが染み込んでいて、とても心地がいい。まるで彼女に抱かれて眠りに落ちるような感覚だ。
フカフカの枕にホシノの匂いといったバフを得た私の天敵「疲労感」と「睡魔」は私の理性を瞬時に打倒してしまい、枕に顔を埋めた直後、私の意識は暗い底なし沼の中へと転がり落ちてしまった……。
「……先生、もう寝た?」
ヘイローを持たない者の「睡眠」は、それこそ、専門的な医療機器などが無ければ、しっかりと確認しようがない。もしくは医学的な知識でもなければ高精度な寝たフリと真の睡眠を見分ける事は難しいだろう。
しかしホシノは、スゥスゥと静かな寝息を立てる私を見て寝ていると判断──誰に言うワケでもなくそっと本心を漏らした。
「私にとって、先生は……。ユメ先輩と同じくらい、大事な人になっちゃった。何があっても守るから……無理しちゃダメだよ。──って言っても先生は私に隠れて無理しちゃうんだもの」
寝癖などが残らないよう綺麗に整えられた髪を、作りたての豆腐、羽化直後の蝶でも扱うかのように優しい手つきで撫で回す。
生徒に会いに行く。その為には、だらしない格好なんてしていられない。「大人」としての、そんな声がホシノにも聞こえそうな程だった。
「……だからこうやって、たまには、無理矢理にでもゆっくり寝かせないとね」
起きると、既に夜になってしまっていた。しかもホシノも隣で一緒になって寝ていたようだ。一緒に夜まで昼寝……お昼寝デートなら結構な頻度でするが夕方ならまだしも、夜までというのは流石の私達も初めての事であった。
◆
「────って事があってね。ふふ、ホシノってば仕事ばっかりの私を気遣って……。宝物だっていう、その枕を貸してくれてね」
「そーなんだ……さっすがホシノちゃん、優しいのは変わらないな〜♪」
「ね」
ユメのお見舞いに来たある日──先日の出来事を話してみた。惚気っぽくなっているが、彼女は私とホシノの仲を素直に応援してくれているそうだ──というのはホシノの言である。
しかし今の話に何か思う所があったようで、話が終わりホシノをひたすら褒めると何やら考え込んでしまった。
「どうかした?」
「あ、うん。その枕、どんな枕だったのかなーって思って」
「……?えっと、クジラマークの白い枕だったかな。タグにクジラマークあるの。枕本体には水色の線が入ってて……」
「……ッ!」
「だけど、もう生産中止になっちゃってるみたい。あまりにも寝心地が良かったから私も自分で買って使いたかったんだけどさ。ざーんねん……」
「……うぅ〜……」
「……ユメ?」
「うぇぇぇん……。ホシノちゃんが……私の枕、まだ使ってくれてる〜!!」
「ゆ、ユメの枕?どういう……」
「あのね先生!その枕、多分、前に私がプレゼントしたお昼寝枕なの……!」
◆◆◆
「はい、ホシノちゃんっ!」
「……?なんです、コレ」
「枕だよ!夢の世界へあなたをご招待!どんな場所でも安らかに眠れる夢のチケット♪」
「はあ。また、下らないキャッチコピーに騙されて買っちゃったんですか?で……それが何です……?」
「ホシノちゃんにプレゼント!」
「はい?」
「だってホシノちゃんって、夜も街中をパトロールしてるでしょ?なのに朝は早いって事はさ、寝てる時間は当然、短くなるワケだし……」
「問題ありません。ショートスリーパーなので」
「だーめっ!若いうちからそんな感じだと、身体を壊しちゃうんだからね?」
「しかし今のアビドスは無法地帯に等しい状態だと前にも言いましたよね?私なら問題ありませんし、夜のパトロールも継続しますよ」
「──って、ホシノちゃんならそう言うだろうって思ったからこそ、コレなの!」
「???」
「アビドスの為にって、ホシノちゃんなりに考えてパトロールしてくれてるんだよね。だから、それは無理には止めないよ。だけど、ホシノちゃん自身の身体も大事にしてほしいの。──だからね、コレ、いつも頑張ってくれてるホシノちゃんにプレゼントさせてほしいな」
「ッ……」
「夜にあまり眠らない分、お昼寝して、足りてない睡眠時間を補っちゃおっ!」
何の変哲もない、どこにでも売っていそうな白い柔らかそうな枕。タグにはホシノの好きなクジラのマークが。
シンプルなデザインながらも、実用的で、尚且つホシノの好きなワンポイントまで備えている満点のプレゼント。
ユメに差し出されたそれに手を伸ばそうとする、しかしすぐにその手を引っ込める。
「……はぁ……私が昼寝するとして──その間、誰が先輩を守るって言うんですか。2人しか居ないのに私自ら寝てユメ先輩を無防備な状態に晒せません。却下です。買ってしまった以上は仕方ありません、その枕は自分で使ってください」
「で、でも〜……」
「まだ何か?」
「じ、自分用にもコレ、買ってるんだよね……」
「…………は?」
「流石に2つは要らないかな〜、なんて……」
「なッ……なんてところにお金を使ってるんですか、この先輩は……!?使い道が無駄そのものです!」
「ひぃん……。でもでも、お揃いの枕なんだよ……?シンプルなデザインだけど可愛いのに、フカフカで気持ち良くて……私、一瞬で寝ちゃったもん……」
「…………」
「せっかく、私達は2人きりなんだもん。お揃いの枕で、一緒にお昼寝とか……どう、かな……?」
「…………………………………………………………」
長い、とにかく長い沈黙。呆れるような視線を、容赦なく自分の先輩であるユメへと向けるホシノ。その冷たく鋭い視線に射抜かれユメは小さくなる。
そこから更なる沈黙を経て、大きな溜め息と共にやっと返答をした。
「はぁ……。分かりました。一緒に寝るのであれば、私なら有事の際はすぐ反応できるでしょうし──。少し納得はいきませんが、コレは貰っておきます」
「ホシノちゃん……!」
「ただし!私が昼寝をするのは……ユメ先輩も一緒に昼寝をする時だけ、ですからね!」
「はーい♪」
◆◆◆
ユメの話を聞き、彼女の言う「私だけの宝物」やそれに類する数々の発言の意味、更には「もう手に入らない」という言葉の重みがのしかかってきた。
当時はまだユメを救出していなかった。あの時はまだユメの意識が戻っておらず、ユメの生存は私や医者の先生しか知らない状態。ホシノにとっては、ユメは死んでいるという過去だった。
「あれだけ警戒心とかが強かったホシノちゃんが、先生にあの枕を貸すまでに心を許してるんだね……。まぁでも2人はお付き合いしてる?っていう話だし心を許してるのはそうだよね……」
「それもつい最近の話なんだ。……やっぱりユメから見ても、心を許してくれたように見える?」
「もちろんっ!それに、やっぱり……大好きな後輩の成長ってさ、やっぱり嬉しいものだよね!」
真夏の太陽のような眩しさの彼女の笑顔に、私はただただ黙って頷くことしかできなかった。
そしてそれと同時に、ユメの言う通り、ホシノがどれだけ私に心を許してくれているのかを痛感し……ホシノに深く、深く感謝した。
近いうちにメイドミドリ書きたいですね。
絆1話目から卑しすぎんだろ……!?