「ハーレムルートを目指しましょう、先生」 作:アキラゼミ
「ホシノさん。ホシノさん、起きてください」
「むにゃ〜……」
ホシノさんは、不思議です。こうして見ていると分かりますが、ヘイローが出ているのにも関わらず普通に寝ているんですよね。他の皆さんは睡眠中はヘイローも消えるのに。つまりホシノさんは意識があるのに……眠っている?
恐らく、眠りが浅い──そういう事でしょうね。だからいつも彼女は睡眠を欲しているのでしょう。浅い眠りでは、疲れなど癒せませんから。
対策委員会の皆がそばに居る時なら、ヘイローも消えてますし、まぁ、安心できるのでしょう。私もいつの日か、ホシノさんにとってそんな安心できる存在に成れればいいのですが。
「ホシノさーん、そろそろ起きてくださいよ。既にシロコさんもライドから戻ってきてしまいました」
「んぁ〜…………あと5じかんん……」
「浅い眠りを続けても意味は薄いです。さ、ほら、起きましょう」
「眠い〜……動いてないのに眠いよ〜……」
「『動いてないのに暑いよ〜』のアレンジですか。確かに可愛いと言いましたが、そんなバージョンを考えている暇があるならあなたも来てくださいね」
「うーへー……」
梃子でも動きそうにないですね。全く、つい先日イイ感じで戻ってきたばかりだからでしょうかね、皆に会うのが嬉しくも少し恥ずかしいようで……。
「全く……どうしたら来てくれるんです?」
「うへへ、抱っこしてくれたら行ってあげるよ〜。先生が初めてアビドスに来た時は、シロコちゃんに抱っこされてたんでしょ〜?」
「そうですか、では」
「……はひゃっ!?」
「え?」
「先生……指を置く位置は考えなよ〜?」
「?猫を抱っこするようなイメージでしたが?」
「薄っぺらいから気付かないのかなぁ?そこ、一応私の胸なんだけどな〜?」
「えっ!?ご、ごめんなさい!すみません!そうと気が付かず触ってしまうなんて……」
「いいよ、許してあげる。私と先生の仲でしょ?」
「そんな、まるで特別な仲みたいに言って……」
言ってから、ハッとしてしまった。そうだった。つい先日、私はホシノさんから────。
「……うへ。『大人になったら』……でしょ?」
「ッ!!」
「ちゃあんと覚えてるよ、大丈夫大丈夫〜。だけどまさか、『付き合う』のすらも先送りにされるとは思わなかったけどね〜?」
「確かに私もあなたを好いていますが、これでも、私は『先生』ですから。まだ学生であるあなたと、お付き合いするワケにはいかないのです。心苦しいですが、まぁ、1年未満の辛抱ですから。一緒に、頑張って乗り越えましょうね」
「……そーだね。私も早く大人にならないと。この前出会ったプレナパテスに従う
「……」
ホシノ*テラー、またはクロノのように称すべき、あの彼女は、何処に居るのでしょう。恐らく、まだこのキヴォトスの何処かに居るのでしょうが……。
確かにクロノさんは中々起伏ある身体でしたが、私は、このままのホシノさんも良いと思うのです。ある種の造形美といいますか、なんと言うか。
「ククッ……そんなに焦る必要はありません。年齢や身体だけは、誰しもいつかは大人になりますから。ホシノさんはそれより、皆に合わせるなど精神面をまず『大人』に近付けましょうね?」
「身体だってー。先生ってばエッチだな〜♪」
「えっ。いや、誤魔化さないでくださいっ!」
「ふふっ。……ま、そうだよねー。んじゃ行こっか。そろそろ、皆が
「クックックッ……そうですね。行きましょうか」
一人称が「私」から「おじさん」に戻りました。やっと、「私のホシノさん」から「ホシノ先輩」に戻ったようです。
対策委員会の皆の元に行かせるだけで疲れます。本当にこんなのほほんとした娘が「暁のホルス」と呼ばれるような少女だったのでしょうかね……?
私には、にわかには信じ難いお話でしたが。
「先生さぁ〜。その『クックックッ』って笑い方、ほんとやめた方がいいよー?悪役みたいだしさ?」
「残念ながら、昔から私には『アッハッハ』などと笑えるような明るい性格は備わっていませんので。それに私は『もしもの時』が来れば、喜んで悪役になりますよ」
「『もしもの時』……って何さ?」
「ほら、先日もお話したでしょう。あの『カバラの白服』が忠告をしてくれた、と」
「あ〜、はいはい。『色彩』の再襲来、だっけ?」
「ええ。そしてこのまま『大人のカード』の行使を続ければ、私は人間ではないモノに身を堕として、恐らく彼──白服のような異形になるのでしょう。傍目から見れば、異形は『悪役』に他なりません」
「どんな姿になっても、先生は先生だよ。大丈夫、たとえ皆が石を投げても、私は先生の味方。悪役になんて、させないからさ」
「……ッ……ありがとう、ございます」
無理に口角を上げ、目尻を落とす。そうしないと涙が出そうになるから……。
生徒の前で泣くなど、あまり「大人」のする事と思えませんからね。ましてや相手は女子生徒。全くいつから私はこんなに泣き虫になったのやら……。
「んじゃあ、私が先生を守って『白服』みたいにはならないようにしなくっちゃね♪」
「お願いしますね。ですが、有事の際には──私がホシノさんを守りますから」
「ふふっ、期待しちゃおっかな♡」
「大船に乗った気持ちで期待していてくださいよ。言わばあなたは、私にとってお姫様なのですから。クックックッ……」
「だからもー、それじゃ悪役だってばー!」
「痛い痛い!ポカポカ叩かないでください!」
「……ま……『お姫様』呼びは嬉しいけどさ♪」
「セリカさん、ミカさん、アツコさんにも、過去にそう呼んだ事があると言ったら────ちょっぴり怒られてしまいそうですね」
「ふぅ〜ん、セリカちゃんも、ね。へ〜?まぁね?セリカちゃんもね?可愛いもんね?ねぇ??」
「あ。……もしかして、声に出ていました?」
「ガッツリと」
「……すみません」
「うむ、宜しいっ♪」
◆◆◆
「────。人間だった頃の記憶を取り戻してからというもの、悪夢の連続ですね。やれやれですね、ええ、やれやれ……」
『おはようございます黒服。今日もお疲れ様です』
「おはようございます、マロン。相変わらず貴女は安定して可愛らしいですね」
『……♪ 黒服もヒビ割れが今日も綺麗です!』
「あ……ありがとう、ございます……?」
『えへへっ♪』
親愛なる小鳥遊ホシノさん。
──あなたと過ごした日々の思い出は、今の私にとっては、まさに悪夢でしかありませんよ。大事にすべき思い出だと言うのに、全く情けない事です。
ですが、悪夢に感じてしまうのは、目覚めてから僅か数秒の事。以降は額に入れて飾るべき、美しき思い出にすり変わる。
不思議なものです。どちらも思考するのは頭脳の主である「私」だというのに、ですよ。同じモノを同じ視点から見ている。少なくとも、私はそう認識しているのに。なのに、同じ夢が悪夢にも
「──『付き合ってこそいませんでしたが』、ね。結局、私が愛したあなたが『大人』になることは、ついぞありませんでしたね…………ホシノさん」
二度と会えない
滅びた世界の住人であったあなたにも来世があるなら、どうか次こそは幸せになってほしいと。
この世界の「小鳥遊ホシノ」が幸せになる為に、先生達をサポートをする事を、許してほしいと。
そして────あなたとの約束を守れなかった、愚かな私を……どうか、どうか赦してほしい、と。
次回────「ネカフェはホテルじゃないよ」
白服:黒服の世界での黒服的な存在。「元」先生。当然のように、先生、黒服、プレナパテス、黒服の世界のプレナパテスとは全くの同一人物。
カバラ:黒服の世界のゲマトリア的存在。こちらの世界で研究していた機関は「ゲマトリア」の名前を使っていたが、黒服の世界では「カバラ」の名前を使っていたので、白服達もこの名を使っている。
メタ的な設定としては今のゲマトリア(黒服達)とゲマトリア(研究機関)とゴチャゴチャになるから別の名前を使ってみただけ。中身は殆ど同じ。
ゲマトリア数秘術に対し、カバラ数秘術が元ネタ。