「ハーレムルートを目指しましょう、先生」 作:アキラゼミ
「きぇへへへへへへへ……」
「お疲れ様です先輩!」
「お疲れ様でした、ツルギ。新しい総力戦とやらはどうでしたか?」
「…………」
「……ツルギ?」
「……すごく、楽しかった」
目を細め、舌を出して満面の笑みを作るツルギ。とてもではないが、到底「正義」側の人間の顔には見えない、見る人によっては、心の奥底に刻まれるトラウマになりかねないおぞましい笑顔である。
マシロとハスミは既にそんなツルギの百面相にも見慣れているからこそ、平然と対応できているが、それは決して「当たり前」の事ではない。
「た、楽しかったんですね……」
「楽しめたなら良かったです」
「──今回は、知らない顔も居た。新しい生徒だと思う」
「……大丈夫ですかね、その人」
「不慣れな人には、刺激が強いかもしれませんね。先生の采配に疑問を抱くワケではありませんが少々心配と言いますか……」
「仲良くできた。……楽しかった」
げぇへへへへへへっ、と悪役キャラらしく笑う。再三になるが、剣先ツルギはあくまで「正義」側。正義実現委員会の委員長である。
ブラックマーケットで「総力戦・賽鬼ユウナ」を終えて帰還したツルギは、ただ帰還したのではなく正義実現委員会宛てに1つの報せをも手土産として持って帰ってきていた────。
◆
「たっだいま〜!モルモちゃん帰還したよ〜♡」
「お疲れ様。……一先ず報告をお願い」
ツルギが「手土産」を正義実現委員会の構成員に聞かせている頃、ゲヘナ学園の風紀委員会本部では同じように、とある手土産を持参したモルモが風紀委員会の皆の前でそれを発表しようとしていた。
「どうだった?賽鬼ナンタラっていうヤツ、中々の手練らしいけど」
「SRTの特殊部隊を複数投入して逮捕したという経歴があるようですが、そんな強者でも『先生』の指揮の前には為す術なくやられるようですね」
「んー、中々強かった。けど、ティーパーティーの聖園ミカちゃんの攻撃でフツーに倒せたねぇ。あと正義実現委員会の委員長?らしい、ツルギちゃんのバーサーカーぶりに圧倒されてたな〜」
「あぁ……」
「あれは不気味なんてもんじゃないしな……」
「あ、それとねぇヒナちゃん!ツルギちゃんと少し話してきたんだけどさー?」
「?」
「──正義実現委員会と風紀委員会で、合同演習、ヤッちゃおっか♡」
「は?」
「「?????」」
副委員長に就任したと世間的に公表した直後に、賽鬼ユウナの総力戦に出向いて──出向いた先で、正義実現委員会の委員長と「合同演習」の約束まで取り付けてしまう。
モルモの行動は周りを振り回すとんでもないものだったが、当のバーサーカー・ツルギとはバッチリ意気投合してしまっている為、覆しようもない。
──というのもあるにはあるが、ヒナは……。
「何を勝手な事してくれてるんです?トリニティと合同演習だなんて……!」
「流石にそれは勝手すぎだろ!?」
「何勝手な事をしてくれてるの、と文句を言いたい気持ちはあるけど。それ、相手は承知の上なの?」
「そーだよー。お互いに、治安維持活動の役に立つだろうってツルギちゃんと合意しちゃった☆」
「オイオイ嘘だろ……」
「ミレニアムの
「トリニティとのいざこざとかさー、まぁ歴史的な背景もあるだろーし、簡単に溝が埋まらないのも、分かるっちゃ分かるけどさ?『秩序側』である私達風紀委員会がトリニティを忌避してちゃ、それこそ意味無いんじゃなーい?」
「「ぐっ……」」
──自分達は「秩序側」。そう言われてしまえばイオリもアコも口を噤むしかなくなる。対外的には万魔殿が上なのは間違いないし実際そうであるが、実質的にゲヘナ学園、いや自治区をも含めて秩序に貢献しているのは風紀委員会である。
しかしそれを言っているモルモはヒナや他の風紀委員会メンバーより年上であり、ゲヘナ学園に在籍している期間も数年長い。何故、そんな彼女が溝を無視するような発言ができるのか。
「モルモ。あなたがアビドス自治区出身というのは置いといて、トリニティとの溝とか、そういうのは気にしないの?」
「気にしないっていうか、どうでもいいかな。元々私は私以外どうでもいいってスタンスだったしね。観察はすれど面白いから見てるだけ、それ以上でもそれ以下でもないってスタンスだし」
「そりゃ、モルモはそうかもしれないけれど」
「ていうか、過去に縛られるのって馬鹿じゃない?そういう負の遺産的なの私らが受け継ぐ必要ある?そういうの捨て去って、仲良くやろーよ?そりゃあ今すぐ仲良くはできないだろうけど、コッチが少し大人になって、手を差し出してやるよ──くらいの余裕もった気持ちで居りゃあ、
モルモは先生と出会うまで、興味のない者達との会話をトコトン拒否していた。それくらい、他人に興味が無いのが彼女の本質、本音である。
だから相手がゲヘナの生徒だろうとトリニティの生徒だろうとも「どうでもいい」と言えてしまう。これはヒナにすらない心の持ち方であった。
「エデン条約とかの難しい事は分かんないけどさ、とりま、正義実現委員会って秩序側なワケじゃん?表向きだろうと仲良くしといても損は無いよ?って思うけどォ、ヒナちゃんはその辺、どーよ?」
「私は────……」
それから各学園内、組織内で意見の擦り合わせが行われ、かなり時間は掛かったものの、遂に、合同演習が行われる事に正式決定した。
その会場は、ゲヘナ学園の運動場──トリニティではなく、ゲヘナ学園の中で行われる事になった。しかし事前に風紀委員会側には知らされず、当日になって、変更されたと知らされたのである。
「────では、変更の旨は伝えましたよ」
万魔殿からの使いである棗イロハは、本を片手にそう告げ、風紀委員会本部を後にした。
数時間後には演習が開始するという頃になって、やっと、変更することをこちら教えてきた。有無を言わさない為だけに。
「正気か!?壊れるの前提で考えて場所を選定したのに、これじゃあメチャクチャじゃないかっ!」
「まぁまぁ。今回の合同演習は両学園の生徒会まで絡んでる公的なものだから、損害が出たら各学園の生徒会に押し付けられるよ?」
「両学園の、ていうか万魔殿がOKを出したのか?トリニティとの合同演習の為にゲヘナ学園の敷地を貸し出すことをかッ!?」
「マコトちゃんってば、演習自体には、二つ返事でOK出してくれたんだよねー」
「嘘だろ……?」
本来は両委員会だけの演習であり、生徒会が絡むような話ではなかった。しかしそこにわざとらしく首を突っ込んできたのが、万魔殿だ。
演習の際は予定を立て見積もりを作成し提出する必要がある。それにより詳細を把握したマコトは、裏でトリニティ側に手を回しつつ、風紀委員会には最悪のタイミングで介入してきたのだった。勿論、トリニティ側には気取られないように……。
「二つ返事でOKだなんて、モルモは、どんな手を使ったんだ?」
「私は別に何も?アコちゃんの企画書を提出した、それだけだよん。でも読まずにOK出されたから、変だとは思ってたけど。──まさか、後からこんなコスい手を使ってくるとは思わなかったけどね」
「てことは万魔殿の策略かもしれないのか」
「かも、ね。あとで、どさくさに紛れてアイツらの拠点にカチコミかけてやってもいいわ。そうなればどう転んでも面白そう☆」
そう言ってはいるがモルモの目は笑っていない。流石に今回ばかりは、モルモにとって笑ってスルーできるだけの範囲を超えていた。
不気味がられている自覚があるからこそ、それに気圧されてOKしてくれたのだろうと思っていたが実際はそうではない。この機会を利用して、ヒナやモルモに嫌がらせをしてやろうと画策されていた。それだけである。
「遠征の準備、とっくに終わってるんだけどな……。後輩達になんて言えば良いんだ……?」
「それより万魔殿は何を考えて……」
「────大方、正義実現委員会をゲヘナ学園内で暴れさせ、ヒナ委員長への嫌がらせに利用してやる腹積もりだと思いますよ。なにせ正義実現委員会を率いるのはトリニティの戦略兵器──ただの演習で終わるハズがないのは、明白ですから」
「でしょうね。あのタヌキが考えそうな事よ。でも今回は合同演習だから、あまり過剰に暴れそうならこちらも力で正義実現委員会を鎮圧できる」
「ヒナちゃんステイ、それじゃマコトちゃんの思惑通りじゃん。ヒナちゃんを消耗させるコトだって、思惑の内の1つでしょ」
アコはうんうんと頷いて同意を示した。そもそも今回の演習は、どちらの学内、自地区内で行う予定でもなく、適当な土地を借りてシャーレの管轄下で行おう、という話で進めてきていた。
それなのにゲヘナ学園の生徒会である万魔殿が、ゲヘナ学園の敷地を、とティーパーティーに進言。明らかに怪しいものの、条約もあるしあからさまに戦争を吹っ掛けるような事はしないだろうから、とマコトの進言を快諾、そして正義実現委員会もまたその申し出を受け入れた。そして風紀委員会には、安定の事後報告なのであった。
合同演習の言い出しっぺのモルモ、ゲヘナ側ではモルモと共に話を進めてきたヒナとアコにとっても寝耳に水で、あまりにも突然であった。
トリニティ側から余計な批判が出にくいように、こちらには場所の変更について数日前に告げていたのが何とも嫌らしいものである。
「……じゃあ、どうするの?学園がトリニティの奴に破壊されるのをみすみす見逃すワケにはいかない」
「ツルギちゃんの暴れ方とかは、この前の総力戦で目の前で見て覚えた。私が止めるから大丈夫だよ。問題はゲヘナアンチで有名なハスミって子。この子ばかりはどうにもならないかもね。ゲヘナ学園内に来るのも拒否りそうなもんだけど、もし来るんなら過剰なまでの破壊行為も軽く警戒しないと」
「ナンバー1は強さ、ナンバー2は思想が強すぎる組織とか、トリニティはどうなってるんだ……?」
イオリはそう言うが、それは案外この風紀委員も大差無いのではないか────と、モルモは密かに疑問に思う。
トップのヒナの強さが飛び抜けているというのは周知の事実で、そして実質的ナンバー2は行政官のアコ────案外、正義実現委員会と大差無い構成なんじゃないか?
今にも口をついて出てきそうだったがその言葉をどうにか堪えたモルモは、自分の事を軽く褒めたい気分になった。
「モルモちゃんが集めた情報によると〜、ゲヘナとトリニティは既に一部生徒同士はシャーレ関係なく仲良くしてるんだけどさ。それこそ、紅茶の茶葉を送り合うくらいの交流はしてるんだって。んでも、ナンバー2っぽいハスミって子はその茶葉を燃やすような事もしてるってさ。だからトリニティ内でもたまに避けられてるみたいだね」
「うーわ最悪……あの巨乳そこまでするのか」
「やっぱりトリニティはどこまでもトリニティ……」
「こーら、アコちゃん。一部生徒同士は既に仲良くしてるっつってるでしょ?思想が強めの子が、少し悪目立ちしてるだけだよ。ツルギちゃんは案外話が分かる子だし、割とどうにでもなるよ」
「「話が分かる子…………あの戦略兵器が??」」
「ま……先生を逃がす時には退路を守ってくれたし、話が分かる方だってのは分かる気がするわ。でもねモルモ、非常時ならそのハスミも大丈夫だと思う。問題があるとするなら、合同演習は非常時じゃなく平常時に行われるってことだけかしら」
「そーそー。非常時はマトモでも、平常時にはその思想の強さが垣間見えるかもしれない。そうなると争いが起きるかもしれないよねぇ」
そう言ってケタケタと笑う。トリニティとの争いそのものをも楽しめるかのような口振りだが、実際彼女程度の力量があれば楽しめてしまうのだろう。
しかし、それを楽しめるのはモルモとヒナだけ。そしてヒナには争いを楽しめるような性格、感性は備わってはいないのだ。
「おいどーするんだよ言い出しっぺ」
「下手に力を見せ付けて黙らせようとしても、逆に反抗されかねませんよね?」
「ここは、様式美に則ってみるっつーのはどう?」
「「様式美……?」」
「そうっ!
「っ!」
「ヒナちゃんを消耗させるのがメインなのか、消耗させた上で何か企んでいて、そっちがメインなのかよく分かんないのが現状だからね。だからその辺はチナツちゃん、調査頼める〜?」
「えっ!?」
「幸いな事にヒナちゃん以外の面子は『弱い』って舐められてるワケじゃん?なら、ソイツをトコトン利用してやろうよ。ほら、確か今回の合同演習ってティーパーティーと万魔殿も視察に来るんでしょ?探りを入れるには良い機会だと思わない?」
「けど、舐められてる事とどう関係が……?」
「つまり、合同演習の際、負傷で戦線離脱するよう見せ掛けて──って事ですね」
「そーそー!アコちゃん、わかってるゥ♡」
「最近になってモルモさんの考え方が分かるようになってきましたよ。悔しいですけど」
「アハッ、何それ〜♡──まぁ、そんなとこよね。万魔殿が何かを企んでるなら、それはそれでよし。場合によっちゃ正義実現委員会と手を組んで潰してあげるのも悪くないワ。ツルギちゃんとは、仲良くできるの確認済みだし。で、何も企んでないんならそれもそれで悪くない。両生徒会が見ている前で、これ見よがしに仲良くしてやるのよ」
万魔殿のマコトは漁夫の利を狙っているのではとモルモは考えている。
そもそも、ただの委員会同士の交流の予定なのにそこに万魔殿が介入してくるのはおかしい。更に、片方の学園の生徒会のみ介入するのは極めて不公平なので、トリニティの生徒会、ティーパーティーも引っ張り出された形になっている。
ヒナとティーパーティーが、恐らくは久しぶりに一堂に会する事になる。マコトにとっての邪魔者が集まる──警戒しない方が不自然なくらいだ。
恐らく邪魔者を消す手段があるんだろう。だからこうして生徒会という立場を利用して首を突っ込みわざとらしくここまでコトを大きくした。
「また巡航ミサイルとか降ってくるのかしら。次はアリウスじゃなく、万魔殿が発射したりとか」
「やめてください委員長、縁起でもない……」
「「「「…………」」」」
委員長以下、幹部格は全員黙り込んでしまった。折角何日もかけて場所を選定して計画を立てたのに万魔殿の余計な介入で台無しになった挙句、それを知らされたのは直前、相手方はこちらに向かってるという事は相手にはもっと早く伝えられていたのが明確なのであり────。
「あれ、待って?この演習って『先生』の管轄下で行われるんじゃなかったの?すっかり忘れてたけどシャーレの先生はどうなってんのよ?」
「そ、そうだ、先生は?生徒達が主体になって話を進めてはいるが、先生にも話は行ってるはずだ!」
それぞれスマホを取り出し先生に連絡を取ろうとするものの、モルモやイオリから連絡が行く前に、チナツがおずおずと申し出る。
「──私もそう思って、変更を知った時点で先生にモモトークで聞きました。そしたら先生は、場所が変更された事自体、知らなかったみたいで……」
「「「「!?」」」」
「先生は現在、元の集合場所からここゲヘナ学園に向かっているそうです」
「てことは、演習の開始時間、大幅に遅れるよな。ったく、万魔殿のヤツはいつも面倒ばかり……!」
「私達もそろそろ運動場で設営しましょう。もしも正義実現委員会の到着の方が早かったらそれだけで目も当てられな────」
その時、風紀委員の1年が会議室にやってきた。機材の運搬などの準備を任せていたはずだが何やら酷く狼狽している。
しかしヒナ達としては、場所が変更になった事をついでに末端の1年達に伝えられるから、伝令役にするのに丁度いいとも考えた。
「ほ、報告します!つい先程、正義実現委員会が、何故かゲヘナ学園に到着しました!!」
「私達は遠征の準備を整えてたのにっ……!何故か、場所がゲヘナ学園の運動場に変更になった、とか、風紀委員会は報連相がろくに行われていないとか、デカイ女にメチャクチャに言われて、現在正門前で交戦中です!!」
「「「「「〜〜〜〜〜〜ッッ……」」」」」
全員が頭を抱えた。頭を抱えるしかなかった。
当日になって告げられたのだから、間に合わない可能性だって多分にあっただろうに、何故こうして話し合っていて間に合うと思っていたのだろうかと認識の甘さに歯ぎしりしたくなっていた。
マコトは騙し騙されるバカだが悪知恵は働く方。今回はトコトン、いつも以上にガッツリとヒナ達の邪魔をしてきているようだ。
「────あ〜あ。これどーすんのよヒナちゃん、最悪のスタートじゃない?」
「とりあえず鎮圧ね。イオリ、モルモ、行くわよ」
「りょ、了解っ!」
「正実も風紀委員会もまとめてお片付けしなくちゃいけないのかぁ。かったるぅ。早くツルギちゃんと遊びたいだけなのになー」
ヒナは、モルモとイオリを率いて正門前に突撃。正義実現委員会と風紀委員会の末端の生徒達をその圧倒的な力量差で蹴散らしやっと正義実現委員会の幹部格との対面が叶った。
モルモが前面に出てきていると知るや、イチカやマシロを押し退けてツルギが出てきたので、反対に風紀委員会側はイオリが引っ込んでしまった。
「ギヒャハハハハハァッッ!!」
「久しぶりだね〜ツルギちゃーん!」
「ギヒヒヒ……久し、ぶりィ……!!」
「ほらほら舌出てる舌出てる。しまってしまって。ん、これでよし、と。今はまだバーサーカーモードじゃなくていいからね」
「……」
ぽんぽんと頭を撫でられ、素直に舌をしまった。まるで犬のような扱いだが、悪い気はしていない。
総力戦でバフを掛けてもらうだけの関係の筈が、モルモはその人を誑し込む天性の才能のお陰で割と誰とでも良好な関係を築けてしまうのであった。
「初めまして、盛宮モルモさん。うちのツルギが、総力戦ではお世話になったようで」
「初めまして〜。羽川ハスミちゃん、だよね。直接会うのは初めてだね。身長、おっきぃねぇ。まさかこんなに見上げる羽目になるとは思わなかったよ」
「……デカ女とでも呼びますか??」
「そう呼ばれたいんなら呼ぶけど。モルモちゃんもそんくらい身長欲しかったなって思っちゃった」
「!」
「高身長は良い事だよ。目立つし、威圧感凄いし、強者感は出しやすいし。だからハスミちゃんもさ、そんな睨まないで、仲良くしよ?」
「…………仲良くするかはあなた方の態度次第です」
握手の為に手を出すも、ハスミは、その手を一瞥しただけで顔を背けてしまった。イチカやマシロが小声でハスミを窘めようとするがモルモは大人しくその手を引っ込め、話の矛先をツルギに向けた。
「ごめんねーツルギちゃん!うちの生徒会がさァ、場所変更したって私らに伝えてきたのさっきなの!なもんで、まだ演習の用意とかできてなくてさー」
「……さっき?こちらに連絡が来たのは……」
「こちらには、3日前には来ていましたよ。本当はゲヘナ学園に足を踏み入れるのも嫌ですが、委員会同士の交流会だからと思って来てみれば────。それに、自校の委員会に伝えるのが遅いというのは流石におかしいのでは?準備が終わってないからと今度は言い訳ですか?」
「落ち着け。────しかし確かに、こちらには、数日前にゲヘナ学園からの連絡が来た。だからこそ滞り無く対処できたし早めにこちらに到着できた」
「うちの生徒会長さ、ヒナちゃんを嫌ってんのよ。だから敢えて邪魔して風紀委員の顔に泥を塗ろうと企んでるっぽくてさー。だからごめん!ちょっと、準備の時間ちょうだいっ!」
「そんな都合が罷り通るとでも──」
「だから落ち着けハスミ。──分かった、そちらの事情は詳しくは知らないが、今回の交流会、やたら生徒会が首を突っ込んできた印象があったし、妙な違和感があった。移動したら、武器の整備でもして待つ。それでいいだろう……?」
「うん、オッケー☆……ヒナちゃん、早く皆に伝えて移動しよっ!案内役は私がやるからさ!」
「その方が良さそうね。イオリ、皆に連絡を」
「わ、わかった!!」
イオリとヒナは風紀委員会本部、または部下達が準備をしている場所へ急ぎ、場所の変更と正義実現委員会の到着を知らせ、急ピッチで作業を進める。
対してモルモはそのまま正義実現委員会と合流しあーだこーだと雑談しながら、運動場へゆっくりと移動を開始した。
「で?ティーパーティーの誰ちゃんが来たの?」
「今回は、桐藤ナギサさんがいらっしゃっている。隊列の中心部でお守りしている」
「あー!この前の総力戦で一緒だった紅茶大好きのナギサちゃんね!」
「ああ」
「あの子、また自分の椅子持ってきてんの?」
「くひっ……あぁ、お気に入りだそうだ」
「はぇ〜、拘りがすっごいねェ」
ナギサの椅子について突っ込まれ、思わず自然な笑いが漏れてしまったツルギ。そんな様子を見て、ハスミはどこか面白くないような気持ちになるも、新鮮なツルギが見られて少し嬉しいような気持ちも湧いてきていた。
「──モルモさん」
「んん?」
「先程の非礼を、お詫びさせてください。そちらの準備が整ってない事について『言い訳か』と勝手に断じてしまった事について、です」
「あーいいよいいよ。そりゃあ、普通に考えたら、トリニティに連絡が行ってんだから同じ学園内なら既に情報は共有してるだろって思うもんね」
「確かにそれはそうです、私が風紀委員会側を批判したのもそう思ったのが根拠です。しかしそちらの生徒会──万魔殿が出張ってきてからは、明らかに連絡の行き来にラグがあった。連絡にもラグがある以上は、このようなトラブルが起きるのも予め想定しておくべきだった、と思いまして」
「そーだね。でもそれはこっちも同じだから、まぁおあいこってことで忘れよ。万魔殿の方には、後でこっちからカチコミ掛けとくから」
「……やり過ぎにはご注意を」
「少しやり過ぎるくらいじゃないと、懲りないよ」
尤もやり過ぎても懲りるかどうかは不明である。恐らく懲りないのだろう。モルモは少なくともそう考えているし、それについてはヒナもイオリも他の風紀委員会メンバーも全くの同意見であった。
「モルモさんは誰に対してもそのような慣れな──フランクな態度なのですか?」
「そだよー?あ、ガチで興味無いヤツにはガン無視だけどね。けどツルギちゃんとはこの前の総力戦で意気投合したし、組んだら面白いから興味アリアリだけどさー」
「今回は敵同士ですよ。委員会の交流ですし」
「そーだね、だったらコッチはヒナちゃん、いや、イオリちゃんとのコンビを見せたげるだけだよん。そういえばシャーレの先生、まだ来ないのかな?」
「先生でしたら、途中で拾って、ナギサさんと共に護衛中ですよ」
「あ、そーなんだ?それなら良かったー。先生には連絡が行ってなかったっぽいから焦ってたんだよ。こっちの生徒会が絡むとロクな事にならないね」
「──次は、生徒会を通さず委員会同士でやり取りした方が良さそうですね」
「おぉっ。ハスミちゃんから『次』なんてワードが出るなんて思わなかったなー。少しは私らゲヘナのこと、見直してくれた?」
「……少なくとも、あなた方風紀委員会は、こちらと同じく『秩序維持の為の組織』ですので……」
「ふふ、そーだよね。よかったぁ〜、こっちも同じ意見だよ。ハスミちゃんもその考えなら、ゲヘナとトリニティが仲良くなれる日も遠くないかもね」
「私を指標にするのはやめてください……」
「アハッ、ごめんごめ〜ん!でも、それだけハスミちゃんのゲヘナ嫌いっぷりが有名って事なんだよ?それは分かってちょうだいね?」
「っ……分かりましたよ……私も気を付けます……」
「私はこんなんだけど、嫌味とか言ったりする子も居るから、イラッとクることはあると思う。もしもイラッときた事があったら私に愚痴りなね〜。私、こう見えてアビドス出身だから、根っからのゲヘナじゃないんだよ。ゲヘナとトリニティの橋渡し役にピッタリな立ち位置じゃない??」
「そうなのですか?道理で話しやすいと──」
「まぁゲヘナ歴の方が長くなると思うけど」
「……」
「モルモは……アビドス?」
「うん、昔はねー。人が多い方が面白そうだから、ゲヘナに通ってんだけどサ」
「確かにアビドスは廃校寸前ですしね。それなら、トリニティに来れば良かったのでは?」
「ゲヘナの方が、
「それ、は……なんと言えばいいのか……」
「ギヒャァ……」
「アハッ、そこに気ィ遣ってくれるだけ嬉しいや。アリガトね、ハスミちゃん♪」
「何を試したんですか、全く……」
「フフッ……今回の交流会、面白くなりそう♪」
「ギヒヒヒヒヒヒヒヒ……!!」
そうこうしている内に、会場の設営が完了。当の運動場では、不敵な笑みを湛えたマコトが観客席の中央にて堂々と陣取っていて、風紀委員達の批判の眼差しを一身に浴びていた。