「ハーレムルートを目指しましょう、先生」 作:アキラゼミ
「────いやぁ〜、ゲヘナ行きかぁ。なんだか、大変な事になっちゃったねぇ」
「……す、すみません……」
「まぁ途中で降りればなんとでもなるさ」
「そ、そうっすね!あはは……」
ゲヘナ行きの特急内で、正義実現委員会の生徒の仲正イチカと共に苦笑いし合う。
ある日私は、ナギサに頼まれトリニティの校宝の発掘に立ち会った。ティーパーティーにとっては、それこそお宝で、自分達こそがトリニティのトップなのだと示すのに必要な遺物らしい。
そしてその発掘に「シャーレの先生」が立ち会うことで、真贋判定も特に必要無く、既に、お墨付きみたいなものらしい。多分、こういうのを「ネームバリュー」って言うんだろうな。
スーパーの野菜コーナーで「私が作りました」の顔写真シールが貼ってある野菜を見た事がある人は多いと思う。今回はまさに「シャーレの先生が発掘現場に立ち会いました」といった証拠が残るので、改めての真贋判定は不要なのだそうだ。
この遺物を18:10の電車で持ち帰る予定だったが、イチカのおっちょこちょいで、15:10の電車に載せてしまったらしい。
発車直前に気付けたので、駆け込み乗車。遺物を載せてしまった方の特急に、どうにか乗り込めた。
そして現在に至る────。
「ふぅん、あの制服はハイランダー鉄道学園の制服なんだね」
「そうっす。キヴォトスでもかなり広範囲の路線を担当してるんで、先生もこれまでにも目にした事はあるかもしれないっすね」
「かもしれないねぇ」
はぇ〜、普通に可愛いな。あの銀髪の子──いや乗務員の子の制服、可愛いな。コスプレ衣装として販売してないのかな。ミカとか……似合うかなぁ?
案外セイアも……いやセイアには似合わないかも。シロコ……いや、ノアだな。ノアなら似合うかも。
「それにしても先生、なんか前に会った時*1より、少し、若くなってません??」
「おっ、分かる?山海経のとある生徒のお薬でね。高校生くらいに若返ってるんだ」
「ハハッ、どんな薬っすか?意味わかんないっす。向こうで先生と合流した時そっくりさんだと思ってスルーしかけましたもん」
「だよね!?やっぱそうだよね!?目ェ合ったのにフイッと逸らしたよね!?」
「あはは、やっぱ気付かれてたんすね……」
「私の専属秘書も糸目でねぇ。お陰で糸目の子でも視線が何となく分かるようになったんだよ」
「ヘェ、専属秘書……そんなの居たんすね」
「うん。教えれば真面目に頑張れる、良い子だよ。たまに、努力の方向性が間違ってる時もあるけど、根は良い子さ」
「……」
そんな話をしていると乗務員の子がやってきた。乗車券の確認をしている──らしい。
いや、待て。私とイチカ、乗車券はあるけれど、これはあくまで18:10発の別の電車の乗車券であってこの特急の乗車券じゃない。
「……やっべ」
「無賃乗車……っすよね?これ……」
「や、一応乗車券自体は持ってるから、乗るヤツを間違えたで通せる。というか車内販売もしてるから大丈夫、事情を説明して買わせてもらおうか」
「そっすね!その手があったっす!」
「こんにちはー、乗車券の確認させてくださーい」
とうとう私達の元に乗務員の生徒がやってくる。私とイチカは示し合わせたように、というか実際に示し合わせたのだが、同時に乗車券を見せた。
「…………違う時間、違う車両の乗車券じゃないか」
「実は、乗る列車を間違えたっぽくて……」
「車内販売の券を買わせて頂けないかと思ってて。あ、もちろん割増分もちゃんと払うっすから……」
「そっちの大人は?」
「ども、シャーレの先生です。──私も同じで……」
「2人共持ってないって、ふざけてるのか……?」
「あ、いやその、これにはワケがあって……」
「ワケって何だ、もしかしてアレか?どうせゲヘナ行きの列車なんだから、まともなものじゃないだろうって?」
「……えっ。いや────」
「うるさい乗客ばかりだからって私ら乗務員の目を誤魔化せるとか……!!無賃乗車くらい許されるとか思ったんだろ……?」
「そうじゃなくて、一旦こっちの話を────」
「言い訳なんてもう分かってんだよ!!」
「いや、あの──」
なんか凄くヤバい雰囲気だ。イチカの宥めも全く効いていない。
勝手にボルテージ上がってくこの感じ、グルグルヘアーのキレキャラ思い出すなぁ。キヴォトスにもあの超能力可視化漫画普及してるの?ってくらいのそっくり加減はもはや笑うしかない。
「どうせ無法地帯だろうなんて考えで……白昼堂々、無賃乗車をしようってんだろ!!」
「だから私達は、乗車券を買わせてほ……」
「もう限界だ!!!トリニティまで馬鹿にしてくるなんて!!!」
首から下げていた笛を手に取った。成程、アレを鳴らして仲間を呼ぶ、といった魂胆だろう。仲間を呼んだら無賃乗車用のマニュアルで私達に対応して拘束なり何なりするはず。となれば────。
「──ごめんね。一旦、聞いてほしいんだけどさ」
「ッッ!?……はや……」
笛を口元に運ぶその手を掴んで、笛を吹かせないように押さえ込む。やはりキヴォトス人のパワーはとんでもない、体力の全盛とも言える今の私ですら押さえ切れない。しかし残念ながら指でひっそりと関節部の腱にあたる部分をキメているので、あまり力は入らないはずだ。
非力な私にも非力なりの戦い方ってモノがある。その為のサオリとの訓練だからね。銃火器の扱いを学ぶだけが訓練じゃあない。リンゴをも握り潰せる今の私なら、これくらいは……。
「うるさい、その手を退けろ!言い訳なんか……」
「実は、
「!」
「勿論、車内販売の乗車券は割増料金っていうのは承知の上だよ。だから、この特急の乗車券を2人分買わせてくれないかな?」
「そ……それならそうと、さっさと言えっ!!言い訳みたいにグチグチ言ってるから……」
「そうだね、それは申し訳ない。じゃっ、お幾らか教えてくれるかな?」
こうして無事2人分の乗車券を購入できた。次の駅で降りて、トリニティ行きに乗り換えればそれで帰れるだろう。
「ありがとうございました、先生……。どうにか無賃乗車の汚名は返上できたっすかね……」
「そうだね、ギリギリ首の皮一枚で繋がったね」
「にしてもさっきの乗務員、どうして、先生の話はすんなり聞いてくれたんすかね?」
「フフ、あんな交渉にもコツがあるんだよ」
あの手の手合いは、買った事をアピールできれば怒りの矛先を逸らす事ができる。彼女の怒りは無賃乗車に向いていた。だから私は乗る電車を間違えたではなく買う券を間違えたと、そう伝えた。
限りなく黒に近いグレーだけれど。
「何にせよ助かったっす……はぁ……」
「ちょっと疲れてる子なのかもね。落ち着いたら、ちゃんと話もできる様子だったし」
「そっすね、無賃乗車に辟易してるって感じでしたもんね。ストレスの溜まる仕事なんすね……」
「そだね。んじゃ、ちょっとお手洗いに……」
「はーい、いってらっしゃいっす」
面倒事も済んだので、色々スッキリした。そして席に戻り、発掘作業中のアレやコレや何気ない話をしていると、突如、妙な電子音が聞こえ始めた。
ピッ……ピッ……ピッ……という断続的な音が鳴り、乗務員達が車内の捜索を始めるが、その音は止まるどころか逆にピッピッピッとピッチを上げてくる。
「ここじゃないな……後ろの車両か?」
「後ろ?後ろって確か……『護送車両』じゃ?」
「…………ッ!!!ちょっ、待っ────」
護送車両?流石キヴォトス、とんでもないモノをくっつけてらっしゃる──そう苦笑いしていると、後ろ辺りが突如大爆発を起こした。
幸いにして私の背もたれ側だったから、ギリギリ爆発の被害は無かったけれど。それでも、かなりの爆風と爆音に襲われた。
「ゲホゲホッ、ゴホッ……い、いきなり爆発!?一体どうなってるんすかこの列車は!──先生、先生は大丈夫ですか!?怪我はありませんか!?」
「うん、私は大丈夫。怪我も無いよ」
「ふぅ……良かったっす。というか『護送車両』って言ってたのに、何で爆発が起こるんすかね……?」
見る限りでは、後ろの車両は連結が外れた上に、横転してしまっている。爆発1つで、とんでもない損害だ。一体全体、何がどうしてこうなったんだ。
念の為に、シッテムの箱を起動させておいた方がいいのかもしれない。下手するとココで死にそうな予感がする。
──すると、煙の向こうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ふむ、おかしいぞ。いや、こんなものか……?護送車両の連結が綺麗に外れる目算だったが何故だ?」
「……人の声がするっすね?」
「爆薬が足りなかったか?いやそんなハズは無い。さてはコイツら、装甲を強化したな!ハハッ!何だ思ったより頭を使うじゃないか!気に入ったぞ!!ハーハッハッハッハ!」
この笑い方、聞き覚えがある。「自由と混沌」を体現するゲヘナ学園の中でも指折りのテロリスト、温泉開発部の────。
「ん?おやおや……?もしやと思ったが、本当に先生じゃあないか!これはこれは、まさかこんな場所で会うなんてな!今日は素晴らしい1日だな!あぁ、とても気に入った!ハーハッハッハ!……となれば、自己紹介は不要だな」
「カスミ……どうしたの、こんな所で……」
護送車両……カスミ……成程ね。護送車両とやらで護送されていたのは、カスミだったワケか。成程、そりゃ護送されるワケだよ。
「あれ?知り合いっすか?」
「まぁね。……ったく、カスミは無茶するなぁ」
「なぁに、この程度、無茶でもなんでもないさ」
「かすみ……かすみ…………それって、まさか────鬼怒川カスミ?ゲヘナの指名手配犯じゃないすか」
「ほう!まさかそっちのトリニティのお嬢ちゃんも知ってるとはなぁ!それならばやはり、自己紹介は不要だな!」
「……」
この前の風紀委員会との交流会でゲヘナに対する偏見みたいなものは無くなった──と思いたいが、流石に指名手配中のテロリスト相手となると彼女の顔色も悪くなってしまうというものだ。
しかも最悪な事に、カスミは絡んでくるタイプ。それはもう、ダル絡みという程に。まぁ私は幼女、いや少女が性癖にブッ刺さりなのでカスミみたいな少女に絡まれるのは寧ろウェルカムなのだが。
私は良くてもイチカがなぁ。ある意味で、最悪な状況と言っても良いくらいに最悪な状況だ。
「まぁそれはそれとして。先生は何用で、わざわざこんな僻地に来たんだ?それも、こんな可愛らしいトリニティのお嬢ちゃんと?」
「可愛らしいお嬢ちゃん、っすか……」
「カスミ、初対面の人にそれはちょっと……」
「あ、先生。私なら大丈夫っす。こう見えても正義実現委員のメンバーなんで。……これくらいなら別に何ともないっすよ。……いやホントに大丈夫っす」
結構ギリギリに見えるなぁ。実際問題、この2人かなり相性悪いでしょ。絡んでくるカスミ、それを強くは拒めないイチカ……最悪な組み合わせだな。
「ほぉ……?気に入った!ハーハッハッハ!そうだ、細かい事は気にするな!我々にはもっと大事な事があるだろう!?こうなったからには穏便に、平和にいかないとな!状況的に我々は仲間も同然!」
「「え?」」
「少なくとも列車を降りるまでは──な」
「……私達が、仲間?列車を降りるまで?」
いやいやいや。カスミはゲヘナの中でも指折りのテロリストでしょうよ。仲間だなんてとんでもない事を言ってくれるよなぁ。流石の私でも、テロには加担はできないよ。銀行強盗はしても。
「んん?どうした?その反応は。爆発のショックが大きすぎたか?それとも何か違ったかね……?」
ならば要点をまとめて──とカスミはそう考えた根拠を並べ立てる。
曰く、私達はカバンを見付けて降りるのが目的、カスミ自身はここから逃げなければならない、と。だから「列車を止めて降りる」という結果を見れば仲間同然だろう、というもの。
うむ、確かにそれだけ言えばそうなんだけれど。
「申し訳ないっすが、カスミさんとは状況が違うんですよね。そちらと違って、こちらは逃げる必要は無いし、今日中に帰れるならそれでいいんで、急ぐ理由も無いし……」
「こらこら、話は最後まで聞きたまえよ」
「ならどうして私達が同行しなくてはならないのか聞いてもいいですか?」
わ……わァ……イチカの額に青筋が浮かんでる……。既にキレそうになってるな。思ったよりまずいかもしれない。私が緩衝材にならないとダメだなコレ。
「……フッフッフ。それはだな────」
ドヤ顔でカスミが根拠を述べようとしたその時、チャイムのようなものが鳴り車内放送が始まった。
『……あー。ご乗車中の皆様、及び乗務員にお知らせ致します』
「車内放送……?」
『先程、輸送中の貨物の一部が爆発しました。現在乗務員が該当車両を確認する為に動いております。ご乗車中の皆様は安全の為に乗務員の指示に従って頂きますようお願い申し上げます。また、お客様の安全を第一に考え、この列車は危険物の処理が可能な場所に行き先を変更致します』
……行き先を、変更?いや待て、それは。
『大変ご迷惑をおかけしますが終点「ゲヘナ自治区32-1番街」以外には停車致しません。皆様のご理解ご協力のほどよろしくお願い申し上げます』
終点までノンストップか。出発したてと考えると終点までは遠すぎる。というか、放送の内容にも、隠しきれない違和感がある。首を傾げたくなるな。
「行き先が変更されたんすか……?」
「なんか内容が変じゃなかった?ちょっと違和感があるね」
『──また、これよりお座席や車両間の移動、及びお手洗いの使用を禁止とさせて頂きます。緊急事態の為、従って頂くようお願い申し上げます。座席を離れた場合は暴動と見なし警備員が駆けつけます。以上、本日の車掌がお送り致しました』
そう言い切って、アナウンスは終了した。全く、意味も何も分かったもんじゃない。ワケわからん。これが放送を聞いた感想だ。席を離れただけで暴動判定を喰らうなんてそんな────いや待て、あの放送、その次になんて言った?
「──お手洗いの使用禁止!?!?」
「ハーハッハッハッハ!そうなると思っていたぞ!あともう少しすれば奴らが押し寄せてくるだろう!こりゃあ大変だ!」
「今の放送は一体……」
「貨物の一部が爆発?そりゃあ、真っ赤な嘘だよ。
『ギャング団から賄賂をもらって指名手配犯を護送していましたが、脱出されたので皆で取り押さえに行きます』なんて、アナウンスできないよなぁ?」
「そんな事になってたのか……ギャング団て……」
道理でこの車両、やけにガラの悪い子ばかりだと思った。やっぱり、ゲヘナ行きだからとかじゃなくギャング団とかが関わっていたのか。なら、ゲヘナとかそういうのは関係ないんだね。良かった良かった。いや何も良くないな、何考えてんだ私のバカ。
「いいか先生、まず私が居た最後尾の車両は、私を捕らえたギャング団たちが作った『特殊護送車両』だったんだ。でっ、この列車の最後尾にその車両を繋げる事を許可した。あんないかにもな護送車両、どこからどう見てもおかしいだろう?」
「……確かに」
「という事は、だ。理解できたか?」
「この列車とギャング団が手を組んでるって事?」
「その通りだ!流石は先生だ、理解が早い!結局、この列車の乗務員らは、みーんなグルってことだ。だから護送車両が存在する。でも──そんなモノをタダで付けられるワケがないよな?いやぁ、相当な額が動いただろうな!だけど『護送車両』は爆発し捕らわれていた者は脱出したワケだ。これはもう!焦らざるを得ないだろう?列車側は是が非でも停車したくない筈だ、それ相応のモノを受け取っているワケだから……」
賄賂か。カヤとカイザーの繋がりを思い出すな。
「──奴らの目標は、『護送中の温泉開発部部長をギャング団のゲヘナ支部に送り届けること』だな。その為には手段を選ばないだろう。行き先変更などまだ序の口でしかないはず。この列車がスピードを落とすことは決してない。流石の私も、この速度の列車から飛び降りる事は不可能だ」
もし飛び降りでもしたらその衝撃で半日は気絶、その間に拘束されて終わりだ、と言葉を続ける。
確かにキヴォトス人も、その辺は基本的に人間と大差無いんだったっけ。多少、耐性があるだけで。
「そんなピリピリした状況下で、ただ乗るだけでも白い目で見られるトリニティのお嬢ちゃんの扱いはどうなるだろうな?先生は、ついで程度で考えても良さそうなものだが」
「私、ついでなの!?」
「そりゃあそうさ、なんたって『シャーレの先生』だものな!真っ向から反抗したいヤツなんかそうは多くないだろう。ましてやハイランダー鉄道学園はキヴォトス随一の交通網を敷く学園。連邦生徒会と繋がりの濃い『先生』と敵対すれば──なぁ?」
「あ……」
そうか、ギャング団との繋がりは「この列車」を担当している生徒が勝手にやってる事なのか。
あくまで「この列車の担当者」の独断によるものであり「ハイランダー鉄道学園」としてのやりとりではないから、学校にバレたらマズイワケだな。
でもって連邦生徒会──
連邦生徒会との繋がりが、こんな所で活きるとは思わなかったな。
ま、さっき乗務員の子に「シャーレの先生」って名乗ったからだけど。あくまで偶然の産物だよね。
けど、その偶然に助けられそうになってるのも、これまた事実……か。
「つまり、だ。先生よ。先生は人脈やらコネやらをフル活用して、私達を逃がす事ができる!どうだ?せっかく使えるコネなんだ、使わなきゃ損だろ?」
「確かにね。……でも、あんまりそういう事はしたくないんだよね」
「……ほう?それは何故?」
「だって私なんて、連邦生徒会長に呼ばれただけのただの人間だ。偉いワケじゃない、ただの一般人。なのに、もしそんな事をしたら、無闇矢鱈に権力を振りかざしてる気がして気が引けるんだよ。権力に溺れるようになったら、人は終わりさ」
とか言いつつカヤを引き取るよう手引きしたり、あとはFOX小隊をシャーレ管理下の寮に住まわせるなんて条件を付けただけで、ほとんど、あの子達を無罪放免にしてもらってるんだけどね。
ダブスタって、こういう事を言うんだろうなー。説得力がまるで無い。あの5人を矯正局に入れない為に、シャーレの権力をフル活用してるっての。
────まぁ、その為のシャーレなんだけどね。あらゆる規約や法律、規制や罰則を免れる超法規的機関、それが連邦捜査部シャーレ。
だからぶっちゃけ、ここでカスミを助けるのも、シャーレの先生としての権力を使えば余裕だけど、どうも違うような気がするんだよなぁ……。
「……それは違うな。決して権力を振りかざすマネをするワケじゃあない。生徒を守る為の、仕方がない措置の一環さ。それは決して偉ぶるワケでも無闇に権力を振りかざすワケでもない。当然の措置さ」
「……うーん……」
分かるけど分からない。分からないけど分かる。上手く言いくるめられている気がしなくもない。
キヴォトスはあくまで学園都市。生徒の自主性に全てが委ねられ、主に生徒が運営して、主に生徒が生活している。そんな所に割り込んだ挙句、大人の私が、自分の権力をフルに使って荒らし回るのも、少し違うような気がする。
解決できはするけど、それはそれとして────みたいな、そんな感じかな。心境としては。
ぶっちゃけ今の話も、カスミがここから逃げたいだけの方便だろうし。指名手配犯なら大人しく一旦捕まっておきなさいな、どこに連れて行かれるのかよく知らないけどさ……。
ギャング団のゲヘナ支部だっけ。死にはしないんだろうし、大丈夫だと思うけれど。
「……」
とはいえ、生徒に任せた結果イチカの立場とかが悪くなる結末は望んでない。それだけは避けたい。
なにせ、今運んでいるのはトリニティの校宝だ。中でも生徒会のティーパーティーにとって政治的に大きな影響を及ぼしかねない程の……。
「──『遺物』を守る、『生徒』も守る。『両方』やらなくっちゃあならないってのが『先生』の辛いところだねぇ。覚悟は……まだ出来てないや」
「おお!ならば……先生!」
「どうにかして、ここからの脱出方法と帰る方法を考えよう────イチカ」
「!……はいっす!」
「……うん?私の事はスルーかね?」
「そんなつもりは無いさ、ただ────」
そのとき、私達が乗っている車両に、乗務員達がワァッと一斉になだれ込んできた。多い多い、数があまりに多すぎる。朝のラッシュ時の満員電車かと目を疑いたくなるような光景だ。およそ特急列車の車内だとは思えない。
「居たぞ、鬼怒川カスミだ!捕まえろー!!」
「「ゲッ」」
「ハーハッハッハ!来たぞ来たぞ、乗務員が!!」
カスミは単身敵陣に飛び込み戦闘を開始。中々にやるようで、場所が狭いからなのか、それなりには上手く立ち回っている。乗務員も乗務員で、場所が狭すぎて数の利を全く活かせていない。
「もっとだ、もっと応援を呼べ!」
「あの2人は仲間か?」
「この状況を見るに──」
「どう考えても鬼怒川カスミの仲間だろ!!」
「細かい事はどうでもいい、さっさと捕まえろ!」
「……は?」
「……え?」
「ハーハッハッハ!愉快痛快!さぁどうする先生、選択の時だぞ!私と手を組むか──否か!?」
「ッ……」
「手を組むなら、お嬢ちゃんと共に先生の指揮下に入り、この場を2人で鎮圧すると約束しよう!私の実力ならばそれが叶う!だ・が────もしも私と手を組まず、お嬢ちゃんだけを指揮するとなれば!私は乗務員とは敵対しつつ2人の邪魔にも入ろうと思う!」
「う……どうしようね……イチカ……?」
「……ははは、は。思っていた以上に厄介な事になりましたが……これくらい、まだなんとかなるっすよ。人生、山あり谷ありっすから……はは」
そうこうしている間に、更に増援がやってくる。この狭い車内でどんだけ追加で乗務員を詰め込めば気が済むんだ。どうやら、どうあっても、カスミを逃がしたくはないらしい。
「いたぞ鬼怒川カスミだ!」
「仲間もいるぞ捕まえろ!!」
「ちょ、ちょっと待ってください。私達はこの人の仲間じゃな──」
「ここにいる奴らを全員捕らえろ!問答無用だッ、例外はない!!」
「全員、突入ーーーーッッ!!!」
「うわわわわ……どうするっすか、先生!」
「や〜これはこれは大変だ!結構な数だぞ?先生、こうなったからには宜しく頼むぞ♪ あとそこの……お・じ・ょ・う・ち・ゃ・ん・も♡」
「…………先生」
ダメだな、こりゃ。カスミに負けた気分だ。だがこればっかりは1人で突破なんて無理難題だろう。イチカには悪いが……。
「私が指揮をするから、よろしくねイチカ。まず、目の前の状況をなんとかしようか」
「ひゅー!記念すべき取引成立の瞬間だな!いいぞ素晴らしい!それじゃあ、さっそく世話になろう!私だって────傍観しているつもりはないさっ!ハーハッハッハッハ!!」
そして私の指揮にて襲いかかって来た乗務員達を尽く撃ち倒していき、2、3分程度戦ってようやく乗務員の供給が止まったので一息つくが……。
これまでの流れ、現状、そしてこれからの事等を確認するが、その過程で、イチカの口からカバンを探しているという言葉が出てしまい、私達の目的がカスミに知られてしまった。
その言葉を聞いたカスミは、目の色が変わった。その瞬間を見逃さなかった。イチカは気付いているのか、気付いていないのか──何にせよまずい事になったかもしれない。
弱みを知られたようなものだ、利用される恐れがある。それができてこそ、カスミはカスミだから。ある意味、美食研究会より数段上なレベルで厄介な存在なのだから……。
◆
「さて、私はこれから先頭の方に向かうが、先生とお嬢ちゃんはどうするんだ?そのカバンとやらは、まず間違いなく、前の貨物車両にあるぞ?」
「もちろん取りに行くっすよ。でもそれはあなたと手を組むのとはワケが違うっすから、その線引きはしっかりしてほしいっす」
「ハハッ、嫌われたものだな。まぁいい、乗務員に襲われたらまた倒すだろ?その時だけ手を組もう、その方が互いに楽だし、確実に目的を遂行できる。それでいいだろう?……先生も?」
「……だね。乗務員に襲われたらまた指揮するよ」
「そう来なくてはな!ハーハッハッハッ────」
その時だ。ガシャアッと金属がひしゃげるような音が響くと同時に列車が減速し、思わずバランスを崩し倒れてしまう。
「何なんすか、今度は!カスミさん、どこかでまた爆弾でも爆発させたんすか!?」
「私じゃあないぞ。恐らく他の車両に衝突したな」
「衝突!?」
「当然だ。元は、この車両とて停車駅には停車する予定だったんだぞ?その予定をすっ飛ばし、しかも加速して『終点』に向かっている。そりゃあ、他の列車に──1本前の特急に衝突もするだろう」
「いやでも────気付かないうちに、そんなにも加速してたんすか!?」
「予想だが時速315km……320kmといった所かな。それでも尚、加速し続けていた。今の衝突によって幾分か減速したが、再度、加速しつつある……」
特急ってそんな速度出せるんだぁ。いやぁ、私も知らなかったな。キヴォトス凄いなぁ。怖いなぁ。よくこれまでこういう事件に遭遇しなかったな私。今後、列車での移動が軽くトラウマになるかもね。本格的にロードバイクでの移動を視野に入れた方がいいんじゃないかな?これ……。
私の脳内のイマジナリーシロコも、「ん、先生もそうするべき」って言ってるしね。
「ん……?」
「……?何か、前方が騒がしいっすね」
「衝突によって何かしら不具合が出たか、それとも衝突した列車からの侵入者か──もしくは乗務員の増援か。この三択ならどれがいい?お嬢ちゃん?」
「……。不具合が出た、っすかね……」
「ハーハッハッハ!!奇遇だな!私もその選択肢を望んでいたところだ!!やはり私とお嬢ちゃんとは気が合うなぁ!!──だが、現実は無常にも私達の希望を打ち砕くものだ。いつだって、な」
目の前の扉が開かれる。するとそこには、よーく見慣れた制服を着た集団が立っていた……!!
「────止まれ!!」
「そこまでだ!!武器を捨てて両手を上げろ!!」
「……やれやれ、まさか本当に侵入者とはな。全く、運が無い事だな。そしてどうやら我々の乗る特急がぶつかったのは1本前の列車ではなかったようだ」
「ホントに侵入者なんすか?この列車、まだ元気に走ってるっすけど?……あっ、あの格好は……」
「……?おぉ〜!これはこれは!風紀委員会の皆さんじゃあないか!」
「聞こえなかったのか?止まれと言ったはずだ!!これよりこの列車は────ゲヘナの風紀委員会が統制する!今後は全てこちらの指示に従って……」
風紀委員会の皆を指揮するイオリと、バッチリと目が合った。私と目が合うなり、言葉を切って頬を紅く染める。可愛すぎか、イオリ。
「……せ、先生……?どういう事だ……?何故、先生がこんなところに?」
「はぁ……こんな所で何言ってるんだ、先生は。で、隣の人は…………あ、正義実現委員会の……イチカ?」
「ハハ……この間はどーも……」
「どうしてお前がこの列車に……?確かこれはゲヘナ行きの特急のはずだぞ?」
「いやぁ、ワケを話すと長くなるんすけど、少し、列車を乗り間違えてしまったんす……」
「乗り間違えて、よりによってコレに乗ったのか。なんというか、運が無いな……」
「そうっすね、なんかゴタゴタが起きちゃって……。つくづく嫌になるっす……」
「で、もう1人は────え゙っ……カスミか!?」
「ひゅ〜!これはこれはっ!我らが風紀委員会の、イオリ様じゃあないか!久しいなっ☆」
「ま、まさか先生っ、ずっとアイツと一緒に居たんじゃないよな!?なあ……違うと言ってくれ!」
先程の呆れるような目とは違い、縋るような目で訴えかけてくる。そんな顔を見せられては私の頬も勝手に緩んでしまうワケで……。
「残念だなぁ〜イオリちゃぁん!先生は
「先生!!本当なのか?本当にコイツと?コイツの仲間になったとかそんなんじゃないよな!?私達がコイツを捕まえる為にどれだけ苦労してるのかよく知ってる先生が──!」
「私を信じてくれないの?」
「……へ?『私を信じてくれないの?』……って……、冗談を言ってる場合か!そう言うなら、先生の事を信じさせてくれ!こっちは今の状況を整理するので精一杯なんだよ!!妙にスッキリした顔してるし、絶対カスミと何かあっただろ!?」
あ。これガチで勘違いしてるヤバイパターンだ。
若返った事によって普段の疲れ顔が解消されて、それによって「妙にスッキリした顔」になっているワケだがイオリは以前もこの「スッキリした顔」を見た事がある。
それは即ち────
そりゃ、カスミとの「関係」も疑われるワケだ。信じさせてくれ、か──どうすればいいんだろう。つまり「事後じゃない」とアピールできればそれで大丈夫なハズだ。
「……イオリ」
「な、なんだよ……?」
イチカとカスミを後ろに控えさせ私は前に出る。そしてイオリの前に立ち、風紀委員会の子達すらも見ている前で、イオリを抱き締めた────。
「な……っ、なっ、何をして……やめっ……」
「大丈夫だよ。私はイオリが大好きだからイオリと敵対するような事はしないし、イオリと敵対してる勢力に味方する事もないよ。少なくとも今は絶対にそんな事は無い」
「……本当か……?それならどうしてそんなスッキリしたような顔をしてる?先生がそんな顔をするの、その……エッチの後……くらいじゃないのか……?」
「ワケを話すと長くならないけれど、若返りの薬を飲んでね。今は高校生くらいに若返ってるんだ」
ホントは「煙を浴びた」んだけど、薬って言った方がまだ説明としてはわかりやすいしね。
「高校生くらい……って……」
「うん、今のイオリと同じくらい。だから今の私とイオリは年の差が無いんだ。結婚もしやすいよ?」
「……!そ、そうなのか……っ!──って、いやッ、そんな話はどうでもよくてっ!!」
「私がスッキリした顔してるのは若返ったからで、別に、カスミとアレしたとかそういう事じゃない。だから、私とイチカの事、信じてくれると嬉しい。カスミに加担はしてないよ。寧ろ私達を助けてって言いたいくらいだから……」
「あー……カスミのダル絡みか……イチカとは相性が悪そうだものな」
「あの後のBBQで、モルモに絡まれてたイチカも似たような顔してたでしょ?」
「糸目だから表情は分かりづらいけど、確かに似た反応だったのは分かる。──分かったよ、信じる。だからその、今は離して。……仕事中、だからさ」
「わかった。ありがとね」
ポンポン、と背中を撫でて、最後に彼女の匂いを全力で堪能してイオリを離す。風紀委員会の子達もイチカも、そちらに目を向けると、羞恥からなのか顔を赤くして目を逸らす。
「……あれ?カスミは?」
「「え?」」
カスミが居ない。どこに行った──とそれぞれが周囲の探索を始めると、何と、白いカバンを携えたカスミが風紀委員会の子を押し退けて戻ってきた。
「……おやおやァ?我らがイオリ様と先生はどうやら
『そういう』関係のようだなぁ?」
「カスミ!どこに行っていた、お前……!」
「ん〜?なんてことは無いさ。ただ、トリニティのお嬢ちゃんと先生の『探し物』をな?ちょ〜っと、一足先に貨物車両に取りに行ってあげたのさ♪」
「「「なっっ…………!!」」」
トリニティの校章が刻まれたいかにも高級そうな白いカバン。アレにトリニティの校宝が、ナギサの望むトリニティの遺物が入っているのだ。
そんなモノがカスミの手に渡ってしまった……。
「な……カスミさん!それを返してくださいっす!」
「もちろんだとも!その為に、2人がイチャイチャしている隙に取りに行ったのだからな!だがまずはこの窮地を脱してからだ──分かってるよなぁ?」
「くっっ……」
「さぁ今一度手を組もうじゃないか!お嬢ちゃん、そして先生!先生の指揮にて風紀委員会を妥当し!暴走するこの列車を止め、悠々とこの場を去ろう!さぁ先生、頷け!首を縦に振るがいいさ!」
こ、このイケボメスガキ──!!
やってくれるじゃあないか。遺物を盾にされては私もイチカもロクにカスミに逆らっては動けない!こうする事で、私達の動きを限定させられると──私達の最大の弱点を最大限に活用されている……!
「どう、するっすか……先生……!!」
「…………」
「ヤツは何を持っている?まぁいい、全員かかれ!カスミを逃がすな!!捕らえろ!!」
「待ってイオリ!アレは壊されちゃ困るんだ!!」
「関係無い!私達は自分達の仕事をするだけだ!」
「〜〜〜〜〜〜〜っっ……!!」
イオリのおバカ!この猪突猛進褐色エロ娘っ!!
どうして止まってくれないの!それじゃあ校宝を守る為にイオリと敵対せざるを得なくなるでしょ!でもそんなの私の理性が許してくれな────。
「えぇい今だ!この隙にキャノン砲ぶちかませ!」
「「「!?!?」」」
乗務員達が風紀委員達の背後から持ってきたのは巨大なキャノン砲。見た目通りの威力なら、車両が吹っ飛ぶんじゃないかとすら思えるくらいの大砲。
ハイランダー鉄道学園の連中は何を考えている?車内にキャノン砲なんて。何を考えてあんなのを?キヴォトスだからってこれはヤバイんじゃないの?
「おい待て何だそれは!?くッ、カスミよりも先にキャノン砲を片付けるぞ!!」
風紀委員は、イオリの指揮でキャノン砲やそれを扱う乗務員達を処理し始めた。しかしそれはつまりこちら──カスミ側に背を向けているという事で。
「はは……ははははっ!いいぞ!今だ、お嬢ちゃんにチンピラ共よッ!ハイランダーのキャノン砲諸共、風紀委員をブチのめそう!!この場で日頃の鬱憤を晴らそうじゃあないか!!」
「よし、やってやる!あの銀髪風紀委員にはガチで腹立ってたんだよなぁ……!!」
「キャハハハハ!いいねいいね、ブッ潰してやる!ゲヘナ風紀委員会ィィ!!」
チンピラ達はカスミの扇動によって足並みを揃え風紀委員を襲う。これで風紀委員の生徒は乗務員とチンピラに挟み撃ちにされてしまい、しまいには、あのキャノン砲をブッ放されたりして、戦力が殆ど尽きてしまった。
「はぁっ……はぁっ…………クソッ本当にめちゃくちゃしやがる!だがそっちのチンピラ共も減ってきた!覚悟しろ、規則違反者共め!ここの不良生徒全員、捕らえてやる!!」
「……ほお〜う?そんな事を言っていいのかぁ?」
「何……?」
「確かに、チンピラはイオリちゃんたち風紀委員とハイランダーのキャノン砲によりその数を減らされ今やまともな戦力はお嬢ちゃんと私、そして数人のヘルメット団を含むチンピラのみ。だが風紀委員の戦力はそれ未満だ。どうやって捕まえると?」
「先生の指揮があれば勝てるから問題無しだ!!」
やだもうイオリってば!そんなに私の事を頼りにしてくれてるんだね!好き!大好き!舐めさせろ!
「まさか先生、イオリちゃん側につかないよなぁ?トリニティのお嬢ちゃんも。宝物が入ったカバンは私が持っている────分かってるだろうなぁ?」
本格的に脅しに来た。やはりテロリスト────少しでも手を組んだのが間違いだったのかも。だがさっきはあぁでもしないと場を突破できなかった。私の選択はどちらが正解だったのか────。
ドンッ!!
「……ごふっ!?」
イチカが、発砲した。それも、カバンを手に持つカスミに向かって。しかも、威力はとてつもなく、普段から爆発物などを取り扱っているカスミさえ、たったの一撃で気絶してしまった。
当然、カバンは落ちて……ガシャンと陶器の割れる小気味よい音が車内に響き渡った。
カスミがイチカに撃たれて、倒れた事実に、私とイオリのみならず、まだ残っていたチンピラ達も、目を剥いて驚きを露わにする。当のイチカは平然としている。
「……あ。撃っちゃったっす。ついカッとなって……ごめんす!でもまぁ……あんな事されちゃあ、もう、仕方ないっすよね?」
「い、イチカ……カバンが……」
「落ちちゃったっすねっ!ま、やっちゃったもんは仕方ないっす。中身は後で確認しましょうか!けど終わりっすね……多分。まぁ、こうなったからには、私だけってのもアレなんで────」
ジャキッとリロードし銃を構える。そして静かに瞼を開き灰色の瞳を覗かせて、場の全員に静かな、それはもう静かな──落ち着いた声で告げる。
「──全員で地獄に行くっすよ」
言うなり銃を乱射しまくる。復活した風紀委員の生徒も、チンピラも、乗務員も見境なく。イオリは持ち前の素早さでどうにか対処できているが……。
「あはっ、あはは!アハハハハハ!!」
「ちょちょちょ、イチカ!ストップ!イチカッ!!おーい!ストップ!ストップー!!」
「アハハハハハハハハハハハハァッ!!」
「〜〜〜〜〜〜ッッッ……イチカってツルギタイプのバーサーカーなのかよ……!?」
「オイ、どうしたんだ急にっ!?」
「まだ……居たァ……!!」
「やばッ見つかった!?」
「やめろイチカァッ!!クソ、逃げろイオリ!!」
「逃げてられるか!止まれイチカぁッ!!」
「アハハハァ!!
「あ……」
イチカの銃口がイオリに向けられる。カスミさえ一撃で気絶させられたあの攻撃がイオリに当たる。
────そんなの、私は嫌だ。
「ッ……」
「せ…………せん、せい……?」
考えるより先に身体が動いた。ここ数日間ずっと体感していた事だけれど、たとえ数歳だろうと若い身体というのは良いね。本当に素晴らしいものだ。
きっと「大人」の身体の私なら、鍛えていても、素の体力は衰えてたからこう動けなかっただろう。でも身体の動かし方とかは確実にサオリとの訓練が生きてる。バッチリだ。満点かな。今の私の動き、もしサオリが見ていたなら何点くれるだろうか?
「ゲホッ……」
頭で処理できない情報だって、己の肉体が勝手に処理できる事があるもの。そして処理のみならず、場に見合った最適解を弾き出し、実行に移す事すら場合によっては可能である。
勢いに任せ、私はイオリを突き飛ばし彼女の上に覆い被さった。今だけは真に下心も0だ。そんなの考えている暇なんか無いし、何よりも、この行動は脊髄反射的に行われたものだから。
「そんな……先生っ!先生!!」
「……イオリ……ハハッ……よかっ……たぁ………………」
「何も良くないだろ!何やってんだ!私なんかっ、撃たれても何ともないんだぞ!?なのになんでッ!どうして!?」
「好きな子……は…………守りたく……なる、のが…………男って……ヤツ…………
だからね……ぇ…………ハハッ……」
「もういい喋るな!え、えと、止血っ……クソッ何で包帯しか持ってないんだよ私のバカ!!」
イオリの手持ちの包帯が私の腹に巻かれる。少しキツくて顔を顰めるが、止血ならキツイ方がいい。そしてそんな中で、正気に戻ったらしいイチカが、ポロリと銃を取り落とし……。
「…………え?先、生……?そんな……」
「イチカぁッ!!お前っ……自分が何をやったのかっ分かってるのか!?」
「う、そ……わた…………私っ…………」
顔を真っ青にしてその場に座り込む。イオリは、本気も本気の警戒心、敵対心を剥き出しにして足を舐めた私にも見せないようなドギツイ目をイチカに向けている。
「…………イオリ……」
「っ!喋るなっての……傷が開く!!」
「う…………ぐ……ッ…………ゲホゲホッ……あ゙ー……起きた、ら……ぎゅッ……て…………させて、ね………………大……好き……だよ……」
ヤバい、もう口が動かない。目も開かないし息も絶え絶えというか、息できてんのかコレ。
とりあえず私が無事だってのはイオリに伝えた。あとイオリが好きだってのもまた伝えた。──いや伝わってるのかな。口動いてたのかな。自覚すらもできてないけど、まぁいい。
少し寝て、起きたらどうやってここからさっさとトリニティに帰るか考え直さないといけない。でも頭が働かないというか、なんというか。……眠い。
「先生っ!先生、起きて!目ぇ開けろ!閉じるな!閉じたら先生っ……死んじゃ────」
「だい、じょーぶ…………死にや……しないよ…………。まだ………………やる…………こと………………が………………」
イチカの暴走が治まる前の最後に放たれた銃弾は綺麗に私の身体を貫いていた。
熱く、それはもう熱く。そして鈍い痛みを感じ、けれどもそれ以上に大好きなイオリの温かな体温を全身で感じながら、ゆっくり目を閉じた。
イチカも正気に戻ったようだから、一安心だ。
「──!!……ッ、──っ、────ッッ!!」
どこか遠くでイオリの縋るような──というより子供のように泣き叫ぶ声が聞こえる気がする。別に死ぬワケじゃないんだから、そんなに泣かなくてもいいってのに。全くもうイオリってば可愛いなぁ。
今は少し寝かせてくれると嬉しいかな。イオリに包まれて眠りに落ちるのも、悪くはない。
彼女の