「ハーレムルートを目指しましょう、先生」 作:アキラゼミ
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「────やって来ました、アビドス砂漠〜ッ!!相変わらず広いなぁ……」
「クックックッ……もしかしたら、ここにはまだ何か埋まっているかもしれませんね」
「ありうるな。地の底までスキャンできればいいがそのような技術は無い、と。またカイザーの力でも利用してみるか?」
「いえ、先生はカイザーを嫌っていますので」
「そういうこったぁ!」
ある日、ビナー(EASY)が出現したといった情報を得た私は黒服、マエストロ、デカルコマニーというゲマトリアのメンバー3人を連れてアビドス砂漠に来ていた。
どうやら今回は市街地戦らしい。編成するなら、やはりカズサは外せないだろうか。マキ、アカネも良いかもしれない。そして大トリはミカだろう。
しかし今回は、
今回はEASY。それなら、私がビナーと戦う。
当然、EASYとはいえど攻撃を喰らえば普通に死ねるだろう。だから、ゲマトリアを連れてきた。彼らのサポートがあれば私でも確実に勝てるはず。
「──と言い出した時には肝を冷やしましたね」
「全くだ。先生よ、精神まで若返ったか」
「芋ってるって言われそうだけど、私はスナイパー適性が一番高いみたいだから、遠くからペチペチと攻撃してれば勝てると思うんだよねぇ。でもそれはつまらないから────」
ビナーと真正面から対決したい。だから皆には、どうか私のサポートを頼めないだろうか────。
そうゲマトリアに依頼した私だったが、はじめ、黒服からの反対が凄かった。マエストロは困惑し、ゴルコンダは沈黙、デカルコマニーは黒服と同じく大反対といった様子。
しかし黒服もデカルコマニーも理性というよりは感情で反対していたようで、ゴルコンダの理性的な諫めにより「緻密に作戦を練った上で私達が全力で先生をサポートする」という条件でなら、と黒服とデカルコマニーを半強制的に頷かせたのだった。
デカルコマニーとゴルコンダが対立していたのを見るのは、私はこれが初めての事だった。どうやらデカルコマニーもしっかりと自分の意思があって、その上で普段はゴルコンダに同調しているらしい。
「先生──その『若返り』も、そろそろ、終えたらどうです?肉体だけでなく精神にまで作用しているようにも思えます」
「そうだな、そろそろ危険な領域だろう。肉体に、精神まで引っ張られているように思える」
「そういうこった!」
「え〜、ゲマトリアは反対で全会一致?まだ7日目なんだけどなー」
「それならば、丁度1週間という事でタイミングが良いではありませんか。若返り効果を打ち消す薬は常備しているのでしょう?」
「まーねぇ」
そう──私自身も肉体に精神が引っ張られているというのは自覚している。
高校生、つまりは思春期真っ只中。そして男には少なからず誰しもが感じた事があるであろう、あの無敵の感覚────「全能感」というものがある。
それが、今の私は、全身に満ち満ちている……。
だからこそ、キヴォトス人より遥かに劣る肉体を持つ私がビナーと対決しようなどという愚かな事を思い立ったのだから。
冷静に考えれば分かる。勝てるワケがないと。
それでも試したい。鍛えた技術を、今の自分を。その全てを、ビナーにぶつけてみたい。
死ぬのは怖い、当然だ。やり残した事だって沢山存在している。私だって死ぬ気は無いのだ。別に、死にたくてビナーに挑むのではない。
そう、これは────紛れもない、好奇心。
万能感、全能感の溢れる今の私は、ビナー相手にどこまで立ち回れるのだろうか?
そういった好奇心が、全能感と血液と共に、脆いこの身を駆け巡っている。
「────行くぞ、ゲマトリア!!」
「やれやれ……私は先生のサポートに回ります」
「そういうこったぁ!」
「私は先生と共に攻め入ろうではないか」
私とマエストロがアタッカー。黒服がサポート、デカルコマニーはタンクを担ってくれている。更に留守番中のゴルコンダは、SPECIAL枠という形で、遠隔からこの作戦に参戦している。
『先生、ビナーが再び近くに出現しましたよ。右の路地を抜けた先の広場に居ます』
「サンキューゴルコンダ!────うおっ、居たぞビナーだ!よっしゃあああッ!潰せ潰せ潰せ!!」
「マエストロ、デカルコマニー。先生の、あの謎のハイテンションに釣られてはなりませんよ」
「無論だ」
「そういうこったっ!」
肩掛けバッグいっぱいの手榴弾や爆弾に加えて、量産型のアサルトライフルを持って、全員で路地を駆ける。色々と他にも装備品はあるけども、まずはコレだ。
「うおおおおおおビナァァァァァーーーーッ!!」
連射連射連射、リロードをしては連射連射連射。止む事の無い弾丸の雨を降らせてやる。黒服も同じアサルトライフルで攻撃し、デカルコマニーは盾を持ちつつ、ハンドガンで攻撃もしている。そして。
「────『爆発もまた芸術なり』……だ」
ドォン、ドォン、とマエストロはロケランを放ち定点ミサイルを設置したりなどモロに爆発系攻撃でダメージを与えていく。
EASYビナーのHPバーは僅か5本。大丈夫、既に1本半は削れている。マエストロの攻撃が特に効いているというのがよく分かる。しかし、その分マエストロはリロード時間が長く……。
「皆さんこちらに!──マロンッ!」
『はい。皆さん、黒服の近くに』
ビナーが攻撃してきた時、黒服が私達とマロンに指示を飛ばす。途端にアロナバリアのようなものを使い、黒服と一緒に私達を覆う事で全員にバリアを付与し、ビナーの攻撃をやり過ごす。
「よし今だ、集中砲火ァ!!」
ドガガガガガガガガガッ!!バキンバキンッ!!
ドドドドドドドドドドドドドドドドド…………。
ビナーのHPバーは残り2本半、案外ノーダメでイケるじゃないか────と思った瞬間、ビナーのラインが点滅を始める。そのピッチは段々と確実に早くなってきている。
アレはレーザーの合図だ。黒服のマロンバリアはクールタイムで使えない。そしてビナーはガッツリ私の方を見ていて…………。
「デカルコマニーッッ!!!」
「そういうこったァ!!」
「「先生ッ!!」」
弾が尽きたアサルトライフルを捨て猛ダッシュ。盾を広げて構えるデカルコマニーの背後に、本気のスライディングをキメた。
そんな私の足をマエストロと黒服が引っ張って、デカルコマニーの盾の守備範囲内に私を引き込むと同時にビナーのレーザーが発射される。
「うおおぉ……!」
「ギリギリだったな、先生」
「みたいだね……助かったよ黒服、マエストロ」
「危ないじゃないですか!もっとデカルコマニーの近くで戦ってください!ヒヤヒヤします……!」
「とはいってもね……」
黒服に抗議しようとしたその時、ビナーが砂へと潜って移動を開始する。当然、私達もそれを追い、遮蔽物を確保しつつダメージを与えていく。
それからもダメージを与えていくとビナーが気絶状態に陥り、完全に動きを止めた。
「ゴルコンダ!アレを!!」
『承知しました、転送します』
ヴンッと瞬間移動のようにしてそこに現れたのはゲマトリアの手で魔改造されたクロスバイク。そうロードバイクではなくクロスバイクである。
凹凸や山道に強い太いタイヤを持った、ロードとマウンテンバイクの良いところ取りの性能を持つ、クロスバイクだ。
「待ってください先生、それは!!」
「大丈夫。これでトドメを刺すから……!!」
「ハハハハッ!!援護は任せなさい、先生ッ!!」
「マエストロ!?」
「どういうこった!?」
「くっ……ならば先生、せめてバリアを!」
クールタイムを終えたマロンバリアを付与された直後、私は気絶状態のビナーに向かって思いっきりクロスバイクを漕ぎ始める。
「これで終わりだ、ビナーッ!今回は私が、お前を倒してやるッッ!!!」
ビナーの気絶状態が終わるまで、あと僅か。足に無理をさせる事になるが、ダンシングで速度を上げビナーに真正面から立ち向かう────。
「ナギサのように──優雅にっ!!」
手榴弾をビナーの口内に投げ入れて、爆破する。
「シロコのように、自由に!!」
クロスバイクでビナーの背中を駆け登り、軌跡に肩掛けバッグの爆弾をバラ撒いて、爆破していく。ギアを上げながらもダンシングの角度を深めつつ、更に速度を上げて、ビナーの頭部へ向かう。
「ミカのように!!パワフルにッッ!!」
背中を登り終えビナーの頭部をジャンプ台として飛び降りながら、奴の顔面を狙い、手元に
嗚呼、
けれど、景色は全て、スローモーションで。空を舞う砂の一粒さえも綺麗に、鮮明に見えてくるかのような奇妙極まりない感覚に襲われる。
そんな中、空中を舞いながら、たった一発限りのロケットランチャーを発射し複製し、発射して複製というサイクルを繰り返す────。
「やっべ……」
五接地転回法、だったか。高所から飛び降りる際この方法を使えば無傷で、もしくは怪我を最小限に抑える事ができるのだとか。ぶっつけ本番──だが今のゾーンに入った私なら……!!
「どういう、こったぁぁッ!?」
「おっととと……ナイス、デカルコマニー!」
「そういう、こった……ゼェ、ゼェ……」
盾を放り投げたデカルコマニーは、宙を舞う私をお姫様抱っこでキャッチしてくれた。流石タンク、やる事が違う。マエストロと黒服も、遅れながらも私達に追い付いて、合流を果たす。
そして、当のビナーは……。
「砂に潜って……消えた……」
「終わっ……た……のですか……?」
『ビナーの出現データはありません。現時点を以て戦闘終了────我々の、勝利です』
勝利を噛み締めるようなゴルコンダの声がする。ビナーはいつもなら二度移動するが、今回は一度の移動だけで終わったらしい。
それは、EASYだからなのか、それともHPを削るのが早すぎたからなのか────結局、それは分からないままだった。
勝利の実感も掴めないまま、地面に座り込む。
ビナーの背を登り爆弾をバラ撒きまくった挙句、爆風と一緒にビナーの頭部から飛び降りて、空中でビナーへロケランをブッパしまくった、あの刹那の感触──それだけが、今も尚、手に残っていた。
「勝った……勝ったぞおおおおっ!!あははははは!勝ったぞっ!黒服!マエストロ!デカルコマニー!ゴルコンダ!!──皆、ありがとう……!!」
「全く……。二度とこのような無茶をしないように、お願いしますね?」
「だが楽しかったな」
「……」
『ええ、全くですね。私は後方支援の参加でしたがとてもワクワクしました。マエストロの豹変ぶりも意外で面白かったですし』
「爆破……中々に爽快な気分になったものでな」
「だよね!なんか、凄く気分がスッキリした!」
「私は先生が怪我しないかとヒヤヒヤでしたがね」
「そういうこった……」
その場で全員座り込んで、初のビナー戦についてそれぞれが口々に感想を言い合う。しかしそれも、長くは続かなかった……。
「っ!」
「?どしたん、黒服?」
「『神秘』の気配だ。生徒が誰かこちらに来る」
「えっ」
「先生、我々は一旦ここでお暇させて頂きますね。生徒に見られると色々とマズイ事もあるでしょう。幾ら面通ししているとはいえ、心象は良くないはずですから」
「お、おん……分かったよ。んじゃ、またね」
「ええ、また」
「近い内にまた会おう」
「そういうこったっ♪」
ゲマトリア3人は足早にその場を去って行った。私はそんな彼らの背中を見送って、背中が見えなくなってから、砂まみれの地面に寝転がった。
「ッ……」
────怖い。先程は感じなかった「恐怖」が、明確に感じられる。ビナーの背中をクロスバイクで登るってどういう事だ。ハイになっていたからだと言われればそれまでだけれど、自分の行動が怖い。
いや、勝てると確信していたからこそ、ああしてビナーに挑んだワケなんだけれど……。
「うへ〜……先生、だよね?何やってるの……?」
「……あ、ホシノ……?どうしたの?」
「こっちのセリフ。ビナーが出てきた感じしたから現場に来てみたら──なんで先生が、砂にまみれて地面に転がってるワケ……?」
「あー。今回のビナーは『EASY』だったから。だから私が倒しといたよ、ゲマトリアのサポートがあってだけどね」
「…………………………は?」
「戦場に立たずして生徒の気持ちは理解できないと思って。今後の皆の指揮にも役に立つだろうから、実際に、私も戦ってみようと思ったんだ」
「な……に、を…………言ってん、の…………?そんな、危険な事……」
「……?勝てる気しか無かったからここに来たのさ。実際、作戦通りに勝てたしね!」
「………………………………………………」
「いやぁ、ビナーの攻撃、実際に向けられると凄く怖いね……。みんな、よくあんなのと戦えるよ。私、改めてみんなの事を見直した。凄いよ、本当に」
「…………………………………………………………………………」
「だけどねホシノ!そのお陰でビナーとの戦い方、少しは改善できる気がす────」
頬に熱い衝撃が走った。ホシノの事を真正面から見ていたはずなのに、私の視線は荒廃したビルへと向けられていて……。
遅れて、ジンジンとした鈍くも鋭い、刺すような痛みが頬を襲う。そこまで感じてやっと、ホシノに頬を平手打ちされたのだと気が付いた。
「……え?」
「何をバカな事やってるの!?先生っ!!」
「バカな事……って……何が……?」
「分からないの!?本気で言ってるの、それ!?」
「……ビナーと、戦ったこと?」
「それ以外にあるワケないでしょ!?どうして!?銃弾一発が命取りな先生が、なんでビナーなんかに挑むの!?バカなの!?自殺志願者だったの!?」
「そんなワケないっ!」
胸倉を掴まれ、首が折れるかと思うような速度で思い切り引き寄せられる。
「じゃあどうして!どうして先生が!アイツに!?ゲマトリアの連中に余計な事を吹き込まれた!?」
「そっちは関係なくて……ただ、私が、あのビナーが相手なら……勝てると、思ってさ……」
「バカ言わないで!EASYだかなんだか知らないけど、先生がビナーに挑んでいいワケないでしょ!何でそんな事をするの!?銃弾一発で死ぬクセに!ただの爆弾1つで死んじゃうクセに!!なんで!?どうしてそんな事ができるの!?意味分かんない!ふざけてるのッ!?アビドスをここまで追い込んだ要因の1つがビナーだって知ってるよね!?なのにどうしてそんな事ができるの!?ねぇッ!!」
「…………ごめん」
「『ごめん』じゃない!!もし被弾してたら先生、今頃、死んでるんだよ!?遺された生徒の事とか、何にも考えてないんじゃないの!?」
「……死ぬ事を計画には入れない。初めから、勝算があったから挑んだんだ」
「だとしても!戦いに『絶対』なんて事は無いッ!ほんの少しの計算違いが、計算に入れていなかった要因が勝敗を狂わせる事だってあるんだよ!確かに先生の指揮は凄いよ!どんな劣勢でも、力の差も、状況全てひっくり返せるくらい凄いよ!だけどさ!そんなの、私達の耐久があってのモノでしょ!?」
「……!」
「先生の耐久、持久力じゃ!砂に足を取られたとかみたいなほんの少しの事が原因になって、撃たれて死にかねないんだよ!私達じゃなくて!先生は!!それくらい弱いの!!幾ら鍛えても!!絶対に無理なんだよ!それくらい、私達には、絶対的な大きな差があるの!!」
「ッ」
「先生はさ、これまでずっと皆を指揮してきてさ!私達の耐久に慣れちゃったんだよ!だから、自分の耐久の無さを無視したかのような無茶な作戦なんか立てられるんだ!!そうでないならゲマトリアとの共闘だろうと自分で前線に立つなんて有り得ない!違う!?先生!!そうでしょうッ!?」
「…………………………うん」
「ッ……ふざけないでよ……!このバカッ!!」
もう一度、頬に衝撃が走る。
「先生が血塗れで倒れてたのを見た、あのとき──私、決めたんだよ?先生の事は私が守るんだって。だから、聖園ミカから先生を奪い返してこっちまで連れてきてさ。それなのに先生は──私から離れて1人になった途端に、そんな自殺行為……」
胸倉を掴む手の力が緩んで、私の身体がストンとその場に落ちる。
「お願いだから私に守らせてよ先生のことッ!私の知らない所で勝手に戦ったりしないで!私ならもう二度と先生にケガなんてさせないから!死にそうな目になんて、もう絶対に遭わせたりしないから!!ビナーと戦いたいんならそれでもいいよ、でも!!絶対に私を呼んで!!私が先生を守るから────何があっても、絶対に先生を守るから……ッ!!」
「……ホシノ……」
「先生は分からないんでしょ、知らないんでしょ?大切な人を守れなかった苦しさが、痛みがっ!!」
「っ!」
「何度も死のうとした!それ程の苦しさが、辛さがあるんだよ!先生はさっ、もう、今の私にとってはそれくらい大事な存在なの!!それなのに、先生はまたそんな苦しみを味わわせたいのッ!?私に!?先生と生徒でも、好き合って、付き合ってるのに!あんなに好きって言ってくれたのにどうしてそんなバカな事ができるのっ!?」
「…………ごめんなさい。調子に乗ってた」
「『調子に乗ってた』?フン、そうだろうね!最近ヤケに身体を鍛えてるもんね?鍛えたことによって得た力を試したくなったんでしょう!?生徒の事も何も考えないで!ホント、バカなんじゃないの!?ホントにどうしてそんな事ができるの……っ!?」
「…………」
何も言えない。身体を鍛え銃火器の扱いを鍛え、キヴォトスに来た頃に比べたら、遥かに成長した。そんな自分の力試す為に、たまたま出現したらしいEASYレベルのビナーを利用したのだから。
勝つ事しか考えていなかった、それ以外の事など何も考えていなかった。一瞬すらも考えていない。ホシノがこうして怒ってしまうのも仕方ない程の、愚行だった。
「──約束してよ、先生。もう二度と、自分の命を無駄にしかねない事はしないって」
「!」
「約束してくれなきゃ、私……ダメになる……」
「ホシノ……私は────」
「お願いだから先生、約束して……。先生のそういうチャレンジ精神は嫌いじゃないけどさ、それなら、絶対に私を呼んで先生を守らせて……お願い……」
遂には、嗚咽を漏らして泣き始めてしまった。
──こんなつもりじゃなかった。寧ろ、ホシノに褒めてほしかった。凄いねって。よく勝てたねっていつもの緩い顔で、口調で、褒めてほしかった。
ホシノを泣かせる事なんか、私は、望んでない。
……私は、大馬鹿者だ。
「……約束する。もう二度とこんな無茶はしない」
「……本当に?約束、してくれる?力試しの時には、私のこと呼ぶ?」
「約束する」
「本当に本当?」
「本当に本当だよ」
「……分かった。……ほっぺた、叩いてごめんね」
「いいよ……ホシノだもの」
「ふふっ……何それ」
未だ地面に座り込む私の顔を、そっと抱き締めてくれた。ホシノの幼女体型に包まれて、甘い匂いに包まれて、心の底から安心するような感覚に陥る。
私も彼女を抱き締め返し、しばらくそうやって、ホシノと抱き合っていた……。
「先生ってば何だかスッキリした顔してるし、色々ワケ分からないや。まるで5、6歳くらい若返って私と同年代になったかのような違和感が……」
「え。……分かるの?若返ったって」
「へっ?ホントに若返ってるの……??」
「う、うん、山海経のある生徒の薬というか実験の結果で……あはは……」
「薬?実験?……なんか、これまた意味が分かんない話が出たねぇ。解毒薬みたいなのあるの?それ?」
「うん、常備してる。ほら……あっ!?」
懐から薬のアンプルを取り出した途端、ホシノはそれを私の手から奪い、アンプルの先端をポキッと軽くへし折り、私の顔を掴むなり口に押し込んだ。
「んぐっ!?んっ、んぐ…………」
「これで治るのかな、若返り」
「ちょ……ちょっと、ホシノ……さん?」
「先生がビナーに挑んだ理由が分かったよ」
「え」
「多分それ『若気の至り』ってヤツだよ。だって、普段の先生からは考えられない行動だもの……」
「そう……なのかな……?若気の至り……なの?」
「そうだよぉ。だからゲマトリアに何か余計な事を吹き込まれたのかと思ったワケだから。アビドスで一番先生とベッタリしてる彼女が言うんだからぁ、それで間違いないよ〜。薬のせいかぁー、それならしょうがないよねぇ……。うへへっ、先生も若い頃は尖ってたんだねぇ〜……」
「…………」
これ以上は、余計な事は何も言わない事にした。
そして薬を飲んで間もなく、私は老けた。普段の肉体に戻ったのである。
こうしてこの日は、ホシノと共にアビドス高校に戻り、対策委員会の皆とラーメンを食べに行って、楽しく過ごしたのであった……。
◆
「──本当に良かったのか?先生を放置して……」
「構わないでしょう。無事とはいえ、今回ばかりは少々
「そういうこった」
「ふむ。イケイケな先生は新鮮だったが、方向性が色々とな。末恐ろしいものだな。あのような時期が嘗て
「マエストロもですか?私にはありませんでした。記憶を取り戻した今も、そう断言できますが……」
「……そういうこった」
「本音を言うならば、私も楽しかった。先生と共に戦場を駆け巡るあの爽快感には透き通るかのような青い春を先生と共に過ごしたような妙な感覚すらも覚えた。──アレを『楽しかった』と言わずして、どのように表現したものだろうか……」
「楽しかった、ですか。全く、こちらの気も知らず呑気なものです。恐らく『先生』は、
「……フフ。そうかもしれないな」
「私もデカルコマニーも困惑していますよ。しかしゴルコンダ────まさか、貴方が
『フフフ……。久しぶりの戦闘も、悪くはありませんでした。願わくば、いつかは自分の身体でその場に立ちたい所ですが……』
「……」
『おや、デカルコマニー、いつものように肯定してくださらないのですか?』
「……そういうこった」
「クックックッ……。残念ですが、デカルコマニーは間違いなく
『ふむ……。どうやら、先生とマエストロ、私にしかこの感覚は理解できないようですね』
「そういうこった……だな」
「クククッ、マエストロがそれを言いますか」
「フン……。少々、気分が高揚しているな。そろそろ心を落ち着けねばな。芸術の製作にも影響が出る」
「製作?──あぁ、人工天使擬人化シリーズ……」
『彼女達4人、いえ、ヒエロニムスを除いた3人がヤケにロリータファッションモチーフばかりなのはやはり──
「……さてな。私には分からない。
ゲマトリアの面々も何か思う事があったらしく、この件以降、ほんのちょっぴりだが、派閥のようなものが形成されたそうな────。