「ハーレムルートを目指しましょう、先生」 作:アキラゼミ
「ふんふんふ〜ん♪ おっひる〜ねに〜、ちょ〜どいい場所ぉはどっこかなぁ〜?」
「おや、お昼寝ですか?それでしたら私の膝枕でもどうです?丁度、仕事が一段落したところですし」
「え〜?ダメだよ先生ぇ。そんなことしたら、我慢できなくなっちゃうかもじゃん……♡」
「……ふむ、それは困ります。ではまたの機会に」
全く、どうしてこんなにも私の未来の彼女は──小鳥遊ホシノさんは可愛らしいのやら。膝枕をして彼女の頭を撫で回したいと思いましたが残念です。
彼女と付き合ったり、その先へ進むのは、彼女が卒業してからと決めている。それなのに彼女がもし我慢できなくなったら、その「約束」が破綻する。
それを防ぐ為なら、少しの我慢くらいしますよ。私は「大人」ですから。普通の約束は勿論のこと、子供との約束は絶対に遵守しなくてはなりません。
「──好きだよ、せーんせっ♡」
「私もですよ、ホシノさん」
「……んはぁ〜、あと半年も無いとはいえ、我慢って辛いなぁ〜」
「大丈夫ですか?おっぱい揉みます?」
「うへ〜、重いくらい大きいからってぇ〜……」
「ハスミさんには負けますがね。ククッ……まさか、私より大きい高校生がいるなど、キヴォトスに来るまでは思いもしませんでした……クックックッ……」
「んもー、先生ってばまた出てるよ『黒い笑い』!悪役みたいだから、それやめなって〜!」
「……アハハ……」
「表情は笑ってるのに、先生がそう笑うと泣き笑いしてるみたいに聞こえるのは何で……?」
首を傾げるホシノさんも可愛らしいです。彼女の一挙手一投足が可愛くてたまらない。はぁ、癒し。
それにしても、やはりホシノさんにもそのように聞こえるらしいですね。ふむ、やはりもうダメか。染み付いているんでしょうねぇ、あの笑い方が。
「ホシノさんの言う『黒い笑い』が染み付いてるのでしょうね、残念な事に。自分でも、こっちの方がちゃんと『笑っている』感じがしますので……」
「うーん……じゃあ無理に直さなくていいのかなぁ。自然に笑うのが一番……だよねぇ」
「クックックッ……ええ、その通りですね」
「……うん、聞いててそっちの方が安心するかもね。ごめんねー、ワガママ言っちゃって〜」
「いえいえ。この程度でワガママだなんて。可愛いものです、それくらい。そもそもこのような笑いが染み付いたのも、元々の性根が暗いからで……」
「ほらほら後ろ向きになるのはダメー!私は先生の前に居るんだよ?後ろなんて、壁しか無いよ〜」
「……ええ。そうですね……私のホシノさん」
「うへっ!?……も、もぉ〜、先生ってば……♡」
「ソファを移動させて日向ぼっこでもしましょう。きっと、ゆっくり眠れるはずですよ」
「おっ、いいねいいねぇ!ソファで寝よ〜うっ!」
仕事を終えた後に彼女と過ごす至福のひととき。こんな幸せが、いつまでも、いつまでも、それこそ永遠に続けばいいのに。
けれど現実はどこまでも非情でした。程なくしてキヴォトスの空は数ヶ月ぶりに緋色に染まりきる。それへの対抗手段は、もはや、この世に無く……。
◆
「〜♪」
「──ミカの歌声はいつも綺麗だな。それに加えて私の旋律との相性が抜群だ。やはり私の『譜面』はミカの歌声を以て完成するらしい」
「えぇ〜?先生が私に合わせた『譜面』を書いてるだけでしょ?」
「そんなつもりは無い。自分以外の何者かに寄る、そんなものは断じて『芸術』ではない。これは私がミカに合わせたのではない。ミカと合わせて初めて完成される、ただそれだけの事だ」
「はいはーい、もうそれでいいよ☆」
「全く、君はいつも……」
「で?今度はお裁縫?何を作ってるの?人形?」
「
「わーお……。先生ってホント多才だよね。先生って逆に何ができないの?」
「できない事は数知れず。できる事をこうして表に出しているに過ぎない」
「ふーん……?」
そう────私は決して万能などではない。寧ろキヴォトスの民と比べれば無能にも等しい存在だ。
多少、手先が器用だからとて、それでどうなる?それで命を守れるのか?否だ。こんなもの、ただの美学の追求に過ぎないのだから。
「この人形作りと並行して久しぶりに彫刻の製作も進めている。完成した暁には、是非とも君の感想を聞かせてもらいたいところだ」
「彫刻って────アレ?」
執務室の隅に立つ、
「そう、アレだ」
「なんで頭が2つ……?」
「テーマは『創造と模倣』、『本物と偽物』。少し哲学的な話になるがミカは『テセウスの船』というパラドックスを知っているか?いや、この場合は、テセウスの船より『スワンプマン』の方が正確か」
「うん、それくらいは知ってるよ。『雷は沼の中の枯れ木に落ちた。沼を訪れていた人はその枯れ木の近くに立っていたのでその雷の巻き添えで死んだ。そして雷を受けた沼の中の枯れ木が人のレプリカのスワンプマンに変身した』ってヤツだよね?」
「そう。あの『頭が2つ』というのは、自分と全く同じ思考を持ち、全く同じ記憶を持った『自分』が現実に居るとして、果たして、それは『自分』だと言えるのか?といった意味も込めているつもりだ。美しいだろう?いや、まだ未完成だからな、決して美しくはないか」
「うーん……」
「まあシミュラクラの概念を支持する私としては、
『原本』や『複製』といった区分などは無意味だと考えているものの──。これがもし『物』ではなく
『自分』と置き換えて考えてみた場合にも同じ事が言えるのか?といった、ある種の自問自答のような思考実験のような、そんな意味も込めているのだ。どう思うかね?ミカ?」
「完成してもアレは美しくは見えないかなぁ」
「なっ……」
「あんなのよりさっ、もっと曲を作ってよ!それでまたいっぱい歌うの!キリエも良いけど飽きるし!折角この執務室にグランドピアノ置いてるんだよ?もっと弾かなきゃ損だよ!」
遂には「あんなの」呼ばわりか。やれやれ。まだミカはお子様だな。だがそんな所もまた悪くない。いや、愛おしいとすら思える。
芸術を「あんなの」呼ばわりされても、あんまり悪い気はしない。……良い気もしないが……。
「……ふむ、確かにな。ならば明日、またシャーレに来てくれ」
「えっ、明日?良いけど、どうして?」
「明日は、セミナーの会計の子が──早瀬ユウカが当番なのだが、グランドピアノを購入した後から、妙に不機嫌な事が多くてな。だから、あのピアノの有用性を、ユウカに見せ付けてやる。私の演奏と、ミカの歌声があれば──私の『芸術』は完成する。それを彼女に示せば、認めざるを得ないだろう?」
「あー、早瀬ユウカね。領収書の管理とかあの子がやってるんだっけ?」
「そうだな。非常に助かってはいる、それは確かに事実なのだが、製作に金銭が必要なのは世の常だ。画材然り、材木然り、機材、粘土などなど。資金や材料があってこその芸術だというのに……」
「んー、ごめんね、先生。彼女の私が財布を握ってあげれればいいんだけど、そういうの苦手でさ?」
「案ずるな、私も未だに苦手だ。だからこそ、君と付き合い始めても尚ユウカに任せているのだから。だから、私の芸術の有用性を彼女に示してやろう。私達、2人で」
「……うんっ!そうしよっ!」
嗚呼、神はなんと美しき天使を創造したのか。
彼女の傍こそ、この世の
────ミカ。君は私が守る。たとえ、この身が木偶に成り下がり、朽ち果てようとも。「色彩」の脅威が、再び世界に襲いかかってきたとしても。
◆
「────書類作成、終わりましたよ。ノアさん」
「あっ……。ありがとうございます、先生。私の方ももうすぐ終わりますので、少し待っていて下さい。すぐに終わらせちゃいますね」
「私の事はお気になさらず。ゆっくりと、正確に。早さよりも内容の正確さを重視していきましょう。誤字脱字、フォント違い、サイズ違いなど無いよう細心の注意を払うのですよ」
「はい、先生」
我ながらセミナーの書類作成も慣れたものです。
ノアさんとお付き合いを始めてからでしょうか、自分の仕事を極限まで効率化し、彼女のセミナーの仕事すらも手伝うようにまでなったのは……。
ノアさんと共に仕事をしていく内に、普段、当番としてこちらに来ている彼女との違い等を目にする機会が増えたりして、中々に興味深いものです。
読書が趣味な者同士、やれ何の本を読んだだの、やれ最近は〇〇系に興味が出てきただのと、読書に関する話題も増えた気もしますし。会話が弾むのは素晴らしいものです。
「……おっと」
「今の通知音、他の生徒さんからのモモトーク──ですよね?その焦り様……何か疚しいことでも?」
「あぁ〜……いえいえ、特に疚しいなんてものでは。ただその、彼女である貴女に見られたら嫉妬されてしまうのではと……フフフ……」
「成程〜……デートのお誘いですね?」
「ギクリ」
「どうぞどうぞ、行ってきてください。それもまたシャーレの先生に必要な『業務』でしょう?」
「……せ、生徒さんとの交流を『業務』と捉えた事はありませんが……」
「へぇ〜、それでは『デート』と捉えていると?」
「『交流』、です……あくまでもね」
「N'est-ce pas ce que tu appelles un « rendez-vous » ?」
「……の、ノアさん?」
「いえ何でも♪」
まずいですね。相当キレている気がします。
メモリアルロビーで彼女が窓に書く文章、そして時たま彼女が発する謎言語は、私が元居た世界でのフランス語に相当すると最近になって気が付いたのですが、どうも、ノアさんがフランス語にて言葉を発するのは、隠しきれない本音を発する時らしく。
それを知ってからはフランス語の勉強をしたので今のノアさんの発言も理解できるのですよね。まぁ彼女には言っていませんが……。
今の発言は、おおよそ「そういうのをデートって言うんですよ?」という意味合いになります。
……めっちゃキレてますね、コレ。胃が痛い……。
「……先生?」
「……はい」
「女の勘──あまり甘く見ない方がいいですよ♪」
「────ッ!!」
胃袋がキュッと締め付けられたような気がした。
心が見透かされている、そんな感じが。
確かに、今現在、私は浮気しそうになっている。ノアさんとこうして付き合いつつも、ゲヘナ学園の棗イロハさん、更には、あの────。
だがまだ未遂だ、他の生徒さんと同じ「交流」を逸脱するような事は断じてしていない。それだけはハッキリと強く断言できる。
私の気持ちだけが、ただ、浮ついている……。
「……何の事でしょうね?」
「ふふっ……。先生のそういうところ、嫌いじゃないですよ……♪」
「の、ノアさん?ノアさん待って……」
この後めちゃくちゃ搾られた上に分からされた。
◆
「おはよぉみんなっ!それでそれで、私に見せたいものってなになに!?」
「来たね、先生!そう、今日見せたいモノとは!」
「サクッと遊べるミニゲーム!その名も──」
「「C&Cゲーム!!」」
「……C&Cゲーム?」
「落ち物ゲームの要素を取り入れた、パズルゲームです。同じモノをくっ付けると、一段階進化して、最終進化したモノ同士をくっ付けると消えて盤面がある程度スッキリした状態で、また、ゲームを継続できます……!」
「クリア条件は?」
「クリアとかは無くて、延々と落ちてきます。上のラインに触れるとゲームオーバー、です……!」
「ほへー、どっかで聞いた事ある気がする〜」
「とりあえずやってみて、先生っ!」
「わ、わかったっ!」
ある日、ゲーム開発部のモモイに呼ばれて部室に遊びに来た。そこで、落ち物パズルゲームとやらを作ってみたから遊んでみてほしいと言われ、試しに遊んでみることに。
同じモノを繋げて消すなら、昔「ナンバ〇ボム」みたいな名前のゲームで遊んだ記憶がある。数字を消すヤツね。懐かしいや。キヴォトスに来るずっと前の話だね。
「あ、ネルが落ちてきた」
「ネル先輩は全体の下から二番目だね!先生を2つくっ付けるとネル先輩になるの!」
「ほへー。それって私が一番下ってこと?」
「うん!C&Cと先生、6人全員合わせても先生が一番ちっちゃいもん!」
「…………?もっ、もしかして、身長がってこと!?このゲーム、身長順!?」
「身長はネル先輩と変わんないよね、確か」
「わっ、私の方がネルよりおっきいもんっ!!」
「え〜?ホントかなぁ?」
「アリス、知ってますっ!!確かにチビネル先輩とチビ先生では、チビ先生の方がほんの少し、数値で表すとピッタリ1ミリだけ大きいです!」
「1ミリって!」
「じゃあ変わらないのと同じですね……ふふっ」
「しかし、ネル先輩にはアホ毛があります!それを考慮すると先生の身長はチビネル先輩未満です!」
「あははははっ!アリ、アリスちゃん、も、もう、追い討ちはやめたげて……あはははっ、お腹が……」
「ぷっ……ふふふっ……」
「ちょっと!?才羽姉妹ぃッ!?」
「先生、先生……」
「あぁん!?なにさユズゥ!?」
「よしよし、です……」
「うがーっ!ユズぅ!私より大きいからってぇ!!身長2センチ寄越せー!コンニャロー!」
「ふふ、それだと2人共148センチ、ですね……」
「私の方が高いもん!高くなるもんっ!」
「1ミリはもはや誤差です!」
「アリス貴様ァァァァっっ!!!」
「ぎゃはははははっっ!!1ミリネタやめなって、アリス!もっ、もぉっ、お腹が限界……」
全くもう、この子達は!モモイとミドリの方が、私よりも3センチ低いのに!寧ろ3センチもの差があるからこそ、1ミリ単位の差しかない私とネルをイジれるのかな??
アリス、152センチだもんなー。うらやまー。
「……あ、ネルくっ付けるとトキ、トキくっ付けるとアカネになった……」
あれ?おかしいな。私の記憶だと、アカネよりもトキの方が大きかったと思うけどな。ネル方式で、アホ毛も含めカウントされてるとしても、そもそもアカネにアホ毛は無かったよね。
枠外の「シンカの輪」を見ても、シンカの順番に違和感しかない。もしこれを身長で表すとしたら、
──みたいな順番になるはず。という事はつまりこの順は身長順ではない……?
「────あぁッ!?これ、まさか!!」
「おっ!さっすが先生、気付いた!?」
「これ……おっぱいの大きさ順……ってコト!?」
「せーかーい!」
「こっ、こらぁ!誰のおっぱいがまな板よ!ネルもペッタンコじゃない!?」
「いいえ!アリスが見た限りでは、ネル先輩は少しふっくらしていますが、先生は断崖絶壁です!!」
「アリスが言うんならそうだよねー、と思ってさ!人の目よりも圧倒的に信用できるもん!」
「なので、先生+先生=ネル先輩にしてみました。あ、でも、悪意はありませんよ?」
「落ち物パズルゲームの題材として分かりやすいと思ったので……取り入れてみました、えへへ……」
「あ〜の〜ね〜……!!」
そんな話をしているうちにゲームオーバー。結局アスナは1つしか作れなくて、アスナ+アスナにはできなかった。けどまぁ中々楽しめはした。
リザルト画面にはそれぞれランキングが表示され私は「せんせい」の文字を入力。結果、モモイより少し……具体的には123点は上回っていた。
「おー。トップはやっぱりユズかぁ」
「えへへっ……。でもこの手のゲームなら、あんまり難しいテクニックも要求されないので、慣れれば、誰でもそれくらいはいけると思います……」
誰でもそんなスコアいけるなら、アリスとミドリだってユズと同じく9999点取ってるんだよなぁ。
カンストしてるじゃん。君ら開発側からして想定してない点数でしょ、これ。10000点以上が無いんじゃん。神すぎでしょ、ユズ……。
「ユズは誤魔化しています!アリス、見てました!このゲーム、当てる角度によって跳ね返る角度など変わりますが、ユズはそれらも全て計算した上で、トップのスコアをもぎ取っています!自爆以外でのゲームオーバーはした事がありません!!」
「ヒェッ……ユズは凄いねぇ」
「そんな、事は……えへへ……」
「もっと自信持ちなよ〜!!先生が認める!ユズは凄い、最強だっ!」
「ユズはどんなゲームでもこなせるからね!」
「ある程度のテクは必要だもん、このゲーム」
「そんなテクを持つユズはゲーム開発部最強です!誇るべき部長です!」
「そういうこった!ユズ最強!ユズ最強!」
「あわわ……」
結局その後、私がいくら挑戦しても、アリスすら超えることはできなくて、私は永遠の三番手としてランキング内に漂うことになった。
それからも私は、仕事をしつつもゲーム開発部の部室に通う日々が続いた。仕事にゲームに、たまに身長だのおっぱいの大きさだのでイジられつつも、それはもう、楽しい日々を過していた。
────エデン条約調印式の日に巡航ミサイルの爆撃を喰らう、あの瞬間までは。
◆
「ぐぁあああっ……せ、先生ぇっ……た、助け……」
「サオリィィィッ!!……くっ…………この化け物め!私の生徒に何をしているのですかっ!!」
「仕方がないでしょう?アズサの裏切りによって、ロイヤルブラッドのアツコは死んだ。しかもそれを気に病みアズサも自殺した。ミサキは手首を切り、ヒヨリは消えた。なればこそ、この儀式の生贄に、サオリを選んだまでです。生贄に違いこそあれど、ここまでは概ね、私の予定通りですよ」
「ふざけるな!!私の生徒を離しなさい!!」
白いドレスを纏った緑の肌の化け物は、私の叫びなんかどうでもよいと言わんばかりの冷めた視線を真っ直ぐに向けてくる。地面のアリを見るような、それ以下の存在を見るような……。
「嗚呼──なんて愚かな。力無き叫びは虫の羽音と同じですのよ?無力で無意味で──そして、虚しいだけです。此度の失敗を来世で活かすといいです。失敗を忘れぬよう、愚かなあなたの魂に深く刻んであげましょうか。心に平穏を齎す、私達アリウスの言葉をね……」
「なに……っ!?」
「さぁ、私のサオリ。死にゆくあなたに、最期に、役目を与えましょう」
「……!?」
「これからこの世を去る先生へ、あの言葉を──。それはきっと、あなたから先生への最大の手向けとなるでしょう」
「ッッ!!」
「早く言うのです。さっさとなさい。そうすれば、せめて先生の事は楽に殺してあげるのですから」
「やめろっ、やめてくれ……っ!!マダム!!私は、私はどうなってもいいから!先生だけは!!」
「はい?あなたが儀式の生贄となって死ぬことなど既定路線です。先生が逃げようが私に歯向かおうが自殺しようが──錠前サオリが生贄として死ぬ事に変わりない。だというのに『どうなってもいい』?バカも休み休み言う事ですね。やれやれ……」
「っ……!」
およそ可愛い生徒に向ける言葉ではない化け物の言葉に、言葉にならない怒りが湧いてくる。頭が、拳が、ピクピクと震えてくるのが自分で分かった。
「黙りなさいッ!!サオリは私の生徒です!断じてあなたの生徒ではない!!」
「バカなことを。サオリを始め、アリウスの子供は等しく私の
「ふざけるのも大概になさい!私の生徒、サオリを離しなさい!さもないと────!!」
「大人のカード、ですか。フン、そんなモノで私に敵うと思っているのですか?確かに、仲間はソレをやたらと警戒していましたが……私は違いますよ」
「っ、ならば思い知るといいです……!!」
使うに決まっているでしょう。サオリを──唯一生き残った私の生徒を助けるには、もう、他に方法なんかありはしない。これしかないのですから。
大人のカードを使用した。もう召喚できる生徒は居ない。1人として存在しない。皆、死んだ。皆、殺されてしまった。
それでもサオリを助ける。この先の事なんか何も分からない、何も知らない。それでも、今は彼女を儀式から助け出す。それしか私にはできないから。
「ぐっ、ぐぅっ……ア……アグ、グぐ、うぐ…………!!うあああああああぁぁーーっ!!!」
全身に激痛が走る。視界がぐらりと歪み、焦点がまるで定まらない。どこを見ているのか?自分が、立っているのか寝ているのかすらも分からない。
「……そんな……!」
「ははっ。あははははははっ!!見なさいサオリ、愚かな女の末路を!何をするにも代償は付き物ッ!不可能を可能にしたいあの女にはそれ相応の代償が襲い掛かる事でしょう!そうですね、今回の代償は即ち────あの女の命、そして、肉体と言った所でしょうか……?」
「……先生……私の為に死ぬなんて、やめてくれ……!先生、もうやめろ、やめてくれ!!……頼む……!!先生だけでも逃げろ!!逃げてくれっ、先生!!」
喉を枯らして叫ぶ私の生徒。全く、おバカな子。生徒を見捨ててその場から逃げろなどと。そんなの私では──「先生」ではないでしょうにね……。
「………………」
「……死にましたかね。さぁ、儀式を続けましょう、サオリ。『色彩』よ……どうか────」
縛り付けられたサオリへ向き直る女。しかし次の瞬間、グサリと、触手のようなモノが身体を貫く。腹に大穴が空いた事に驚きが隠せない女は目を白黒させて、壊れたロボットのようなぎこちない動きで振り向いた。
そこには、とうに「
「生徒を……サオリを……離し……なさ……い…………」
「……ガフッ」
触手のようなモノを抜かれた女は倒れ、そして、程なくして息絶えたらしかった。異形と化した事によって、それに驚き怯えを隠せない様子のサオリを助け出す。……しかし、それでは遅かった。
「ぐっ……!?」
「サオリ……どうしたの、ですか……っ!?」
「……すまない、先生…………折角、助けてもらった、というのに…………どう、やら……もう………………」
バタリと力無く倒れる。ヘイローは健在だ、まだ意識はあるらしい。痺れたように言う事を聞かない腕に鞭打ってサオリの目を覚まさせようとするが、そのサオリのヘイローに……異常が現れた。
「な……なんですか、コレは…………」
ガラスが割れるかのように、サオリのヘイローが割れた。消えはしない、割れただけだ。それでも、何かサオリにとって最悪な変化が起きたのだろうと嫌でも察する事ができた。できてしまったのだ。
「──サオリ!サオリ、しっかりなさい!!」
「っ…………先生……?」
「あぁサオリ……良かった……目が覚めたのですね」
「…………あぁ。先生……私の為に……人の身体を……」
「そんな事はどうでもいいのです、サ────」
タンッ──と軽い音が響き渡る。
サオリの弾丸が私のすぐそばに着弾した。
「……え…………?」
「────全て、理解した。やはりこの世は虚しいだけだ。私だけが生き残っても意味など何も無い」
「それは違う……サオリ!虚しい事なんか!」
「先生。せめてもの情けだ。私はこの世界を壊す。虚しさに溢れたこの世界を。でも──先生は違う。私を、いや、私達を助けてくれた先生は、好きだ。だから、私がこの世界から逃がす」
「……逃がす、ですって?そんなの……」
「どうやるのかもよく分からない。でも、できる。できる、気がする。先生を──別の時間軸へ。別の世界へ、送る。虚しさに溢れた世界は、要らない。私が全て破壊して────私も死ぬ……!!」
「やめなさいサオリ……やめなさい!!」
「Vanitas vanitatum, et omnia vanitas.──全ては虚しい。
「サオリ────!!」
トンッ、と優しく突き飛ばされる。床が、地面があったはずのその場所には何も無く、
「私はサオリを救えなかった──?……力が、もっと私に力が……力があれば……!私は、無力だ……!!」
目覚めた所は、よく見知ったキヴォトスだった。ヘイローが空にあるんだ、キヴォトスに違いない。
けれど世界線移動の代償なのか記憶がスッポリと綺麗に抜け落ちていた。何故自分が泣いているのかすらも、自分では分からない。
頭にある事は、ただ1つ。
我が名は────ベアトリーチェ。
ふらりと立ち上がった「
人間黒服:黒スーツの似合うダウナー系巨乳美女。お金に興味が無く、給料は生徒との交流や生活費にばかり使用している。ホシノとの水族館デートは、一度目の「色彩」襲来前からの鉄板である。
ホシノとガチ恋中。でも最低限の倫理観はあるので付き合うのもキスするのもその先も、ホシノが卒業してからと約束している。
プレナパテス&ホシノ*テラーを撃退済み。
二度目の「色彩」襲来で大人のカードを使用したが限界を迎えて、生きたまま異形となる。
更には「神秘」を持たない普通の人間なので、反転するものなど無いと思われたが、彼女は「性別」が反転した。結果、異形の男に。髪も失われた。
記憶が戻ったのは、現在過ごしているキヴォトスでシロコ*テラーに攻め込まれ、しばらくしてから。
今もシッテムの箱(だったもの)を所有している。
人間マエストロ:作曲、彫刻、作劇など、あらゆる芸術関連の物事に精通している、ワカメヘアー系のイケメン。今はハゲてはいないが将来的にハゲる。
芸術家気質だからなのか、どこか思考が偏っているものの、ミカへの想いは確かなもの。
特技の裁縫で人形を作るものの、「ミカはお姫様」思想が強すぎて、作る人形のどれもがお姫様っぽくなり過ぎる。結果的にロリータ系のファッションに見えてしまう。
プレナパテス&ミカ*テラーを撃退済み。
それどころか、ミカと2人でビナー討伐実績アリ。
二度目の「色彩」襲来で大人のカードを使用したが限界を迎えて、生きたまま異形となる。「神秘」を持たない普通の人間なので、反転するものは無いと思われたが、彼自身が製作途中の作品の木の人形と入れ替わってしまう。
「色彩」の影響で世界線を移動した際に、それらの記憶も失われていたが、それでもずっと自分の木の身体に対して嫌悪感を抱いていたのは「製作途中」だったから。
記憶を取り戻したのは、擬人化ヒエロニムスを殆ど完成させた後。なので擬人化アンブロジウス以降はロリータ系のファッションになっている。
シッテムの箱は失っている。
人間ゴルコンダ:ノアと秘密裏に付き合いながらもイロハ、更に別の生徒の事も好きになってしまい、身を焼くような罪悪感から、後に精神が分裂する。
プレナパテス&ノア*テラーに敗北。
死亡したかに思われたが、世界は破壊されたもののゴルコンダ先生のみ平行世界へ。
大人のカードの限界を超えた使用と「色彩」による2つの要因が重なった上、己の後ろめたい気持ちを封じ込めていたツケが回ってきたのか、己の肉体を失い、自我を残したまま絵画の中に封じられる事になってしまった。
ノアを想う気持ちがゴルコンダへと、イロハを想う気持ちがフランシスに、別の生徒を想う気持ちが、第三の人格に成った。
ゲマトリアへの加入後に、フランシスとはまた別の第三の人格が表に出た事があるので、黒服達もその存在は知っている。
(その為、フランシスが出てきてからマエストロは
「よりによってフランシスか」というゴルコンダとフランシス以外の人格が他にまだある事を匂わせるような発言を作中でしている。)
記憶を取り戻したのは最近の事で、先生達と一緒にビナーを倒した後から。
シッテムの箱は失っている。
人間デカルコマニー:いつもニコニコ、ロリ先生。感情豊か。肯定は全力で、否定はやんわり。
身長は146.1cm、ネルより1mmだけ高い。ただし、ネルはアホ毛があるので、それを含むとネルの方が圧倒的にデカい。それをよくネタにされ、プンスコしている。
自身の見た目がロリだからなのか、ロリ系の生徒にとても好かれやすい。親しみが湧きやすいらしい。
イオリの足舐めは特技の「うるうる上目遣い」にて回避している。逆にイオリに「こんな子供みたいなヤツに何言ってるんだ私は」と強すぎるくらい強い罪悪感を植え付ける事に成功している。
エデン条約事件の際に、巡航ミサイルによる爆撃を受け、アロナバリアにて難を逃れたかに思えたが、瓦礫に頭や足などを潰され瀕死の重体に。
セナ達の治療を受けた後、こっそり病院を抜け出し紆余曲折を経てサオリ達と和解。救助に向かうも、ギリギリ間に合わずに、その儀式の影響でアツコは死に、「マダム」は「色彩」の力を得た。
「色彩」の力を持った怪物に変身した「マダム」によって先生は殺されそうになるが、大人のカードを使用して立ち上がろうとする。
そんな折に、「マダム」を通じて「色彩」と接触を果たして、低身長幼女→高身長男性に反転。
頭が無い、杖を所持しているのはその時の名残り。
記憶を取り戻したのは最近の事で、先生達と一緒にビナーを倒した後から。
シッテムの箱は失っている。
人間ベアトリーチェ:少し熱血お姉様系巨乳美女。サオリ達を救うにはあまりに力が足りなさすぎた。
アズサの使用した「ヘイローを破壊する爆弾」にてアツコは死亡済みで、それを見て絶望したアズサも自殺。ヒヨリはどこかに姿を消した上に、ミサキは手首を切り自殺した事によりアリウススクワッドはサオリだけとなった。
そんな最後の1人であるサオリを助けられるだけの力を求めて大人のカードを使用するも限界を迎え、赤い肌、複数の目を持つ異形と化した。
自ら人の身を捨てる事によって儀式を強制的に中断させ「マダム」を葬る事に成功。しかし「色彩」は既に接触してきていた。
ただし「マダムに」ではなく、神秘を有した「錠前サオリ」に接触しており、サオリはテラー化した。
全てに絶望し、虚しさを感じたサオリ*テラーは、テラー化した事によって得た能力で、怪物となってまで自分を助けてくれようとした先生のことだけは助けようと、平行世界のキヴォトスへ転送。その後世界を破壊し死亡した。
力を強く求めすぎた故か、平行世界のキヴォトスに来てからも、無意識下で「力」を欲していた。
シッテムの箱は失っている。