「ハーレムルートを目指しましょう、先生」 作:アキラゼミ
「おはようございます、先生」
「おはようカヤ、早いね。……良い朝だね」
「そうですね。雲一つ無い快晴に、空調が無くとも程良い気温──そして何より……!!」
「今日の仕事は完全に
パチン────と小気味よい音を立てて、カヤとハイタッチ。
そう、今日は仕事が無い。完全に無い。皆無だ。10月末日の今日、世間はハロウィンで盛り上がる。それは私──否、彼女達とて例外ではなかった。
だから私は今日に備えて仕事を終わらせていた。わざわざ連邦生徒会に問い合わせて、早めに仕事を受け取ってまで仕事をした。
その結果がこの、完全に仕事の無い日。最高だ。私1人では、成し遂げられなかったかもしれない。きっとこれに関しては、割と本気でカヤのお陰かもしれない。
「……。もう秋です、か。早いものですねェ」
「だね。カヤを引き取ったのが、昨日の事のように思い出せるよ」
「ハッ。やめてください。折角、昔の制服でここに来たというのに、わざわざ連邦生徒会の制服なんか私に渡して……悪趣味もいいところですよ」
「でも何だかんだ着てるよね」
「……肌に合ってますから」
「そっかぁ」
カヤをシャーレに引き取って、直後にハーレムを作り始めてから結構な月日が経ったように思える。けれど、意外とそんなに経ってなかったんだね。
「どうぞ、眠気覚ましのダージリンティーです」
「ありがとう」
今では、カヤも紅茶を淹れるのが上手になった。カヤはコーヒー派だけど、私はやっぱり紅茶派だ。ナギサの影響なのか、それとも単なる好みなのかは今でもよく分からないけれど。
「──ところで、
「1週間前に。この後、朝イチで執務室に直接配達される手筈です」
「伝票番号は?」
「全て控えています。印刷し保管済み、スキャンし電子化済みです」
「量は?」
「予定プラス50人分で」
「カヤは?」
「超人です♪」
胸を反らしてドヤ顔。頭がまだ寝惚けてるのか、やけに可愛らしく見える。──あぁ、髪を
「よし。じゃ、後は皆が来るのを待つばかりだね」
「……私はその『皆』に入っているのでしょうかね?それともハーレムのメンバーだけでしょうか?」
「さぁ。でも、その答えを聞きたいなら、そろそろ制服でも私服でもいいから、着替えてきてね」
「そうですね。先生も着替えましょうね?」
「そうだね」
カップのコーヒーを飲み干し、パジャマのカヤは部屋を後にする。最近では目覚まし時計が鳴る前に起きる事が多くなってきた。私もカヤもだ。きっとこれもまた成長というものなのだろう。
私もテキトーに着替えようとクローゼットの中のスーツに手を伸ばして「おい待て」と踏み止まる。今日は休みなんだ、私服でいいじゃないか、と。
──私服、シャーレに引越しする時に大半は処分しちゃったか。やってしまった。これは凡ミスだ。生徒とのデートやお出かけなども基本的にスーツで行っているせいで……。
「……スーツでいっかぁ……はぁ」
今度、ミカに私の服でも見繕ってもらおうかな。いや、ここはノアかな。うーん。オシャレな子──コユキとか?いや流石にな。カズサとか良さそう。
食べ歩きとかは美食研究会か放課後スイーツ部の2択まで絞れるのに、オシャレとなると、ちょっと私には分からないな。
とりあえずいつも通りスーツに着替えて、朝食の準備に取り掛かる。トースターに食パンを刺して、ベーコンをフライパンに乗せて卵を割って……。
「お待たせしました〜……///」
「ん……?」
ひょっこりと顔を出すカヤ。何をそんなに照れているのやら分からないが、どうしたのだろうか。
「どしたの?」
「まだ朝ですけども、早速、ハロウィンのコスプレしてみました〜……///」
そう言って小悪魔コスらしい悪魔の角と翼、尻尾なんかを装備して、大きなフォークみたいなモノを手にしたカヤが現れた。
「ど、どうでしょうか……?」
「……ミュータンス菌のイメージ図のコスかな?」
「違いますよ!?小悪魔のコスプレです!!」
「冗談だよ、
「へ?……アキラ?……誰の事です?」
「カヤのクローゼットの奥に、梱包されてる状態でしまってあったから、新品と勘違いしたんでしょ?そのコス、もう見た事あるよ。今更、カヤがそれを着て恥ずかしがったりするワケないさ」
変装を解いたアキラは、ふぅ、と溜め息をついて小悪魔コスを丁寧に畳み手近な椅子に置く。全く、変装しないでフツーに来ていいよって言ったのに。でもまぁ、相変わらずピッチピチの下半身な上に、アキラも可愛いから、許しちゃうけれど。
「────私とした事が下調べが甘かったですね。それとも、流石は先生と言うべきでしょうか♪」
「どちらでも。──カヤはね、一度目は嫌がったり恥ずかしがるけど、次からはそうでもないんだよ。お陰で分かりやすかったさ」
「ふむ、参考になります」
「前回はトキ、今回はカヤか。ところで本物は?」
「あぁ、元代行でしたら、シーツ等で簀巻きにしてクローゼットに放り込んでありますよ。着替え中で無防備でしたのでね」
「分かった。……全く、変装しなくていいよって前に言ったでしょう?アキラも私の生徒なんだからさ」
「ふふっ、今日は他でもないハロウィンですから。今のは『小悪魔コスの元代行の仮装』という事で、笑って見逃して頂けませんか?」
「いいよ。特に、実害があったワケでもないしね」
「寛大なお心遣い、感謝します。──あら?朝食の準備中でしたか……?」
「うん。それがどうかしたの?」
「いえ、その……元代行は、まるで今からセック……エッチするような格好に着替えようとしていたので今は空き時間なのだな、と解釈していたのですが。あの人は、一体何を考えてあのような……?」
「アキラも食べてく?」
「お誘いは嬉しいのですが、私は食事より……♡」
ギラリと、アキラの目が輝いたような気がした。次の瞬間には、台風の突風のような凄まじい速さでアキラが私に迫ってきていて、キッチンの台に私をグッと押し付けてきた。
「フフフ……」
「……少し前にも、こんな事があったね……ッ」
「ええ、あの時は執務室でしたが。しかし今回は、当番生徒も来ないような早朝。──故に今回こそは邪魔が入る事もありません……♡」
「そうだね。じゃあ、エッチする?」
「ッ!?……え……と……?」
「私は良いよ?そしたら、少しくらい素直になってくれそうだからね」
「え……えッ!?」
「知ってるんだよー、アキラ?私の寝室に盗聴器、仕掛けてたでしょ?」
「!??」
「あの日──ノアと、初エッチした後だったかな。ヤケに部屋の物が動いてた日があった。心当たりは何人か居たからさ、お出かけと引き換えに、正直に話してもらって。でもどの子も仕掛けてなかった。それなら答えは1つ、アキラだけだ」
「ッ……!」
「全くもう、アキラってば。こんな逆レイプじみた迫り方しなくても、受け入れる準備なら万端だよ。盗聴なんかしなくてもいいようにもできるし……」
「あぅ……///」
「寝室、行こうか?」
「…………す……」
「ん?」
「失礼しますぅぅっ!!」
「……ありゃ」
彼女の手を取って、寝室へ誘導しようとするも、顔を真っ赤にして照れてしまったアキラは逆に私の手を振り解き、近くの窓から飛び出してしまった。
どうやらアキラは、逆レイプみたいな構図でなら私に迫れるが、押し返そうとすると、照れてしまい行為には至れないらしい。流石に私も初見でそれを見抜くのは無理だった。前回はアルが割って入ったお陰で中断されたのもあるし……。
◆
「────はい、確かに。それでは失礼します」
「お疲れ様です」
食後間も無く、配達員から大きめのダンボールの荷物を幾つか受け取る。それをカヤと運び込んで、いよいよ準備万端だ。
因みにカヤのハロウィンコスはマイクロビキニの悪魔っ子だった。確かに、アキラの言う「これからエッチするような格好」に見えなくもない。
「ふぅ……。それにしても多すぎません?何人が来る想定なんですか?」
「30人くらいかな」
「なら50人分も余分に発注した意味……」
「大食いな子が居るからね。足りないくらいとさえ言えるだろうと思ってるよ」
「流石にそれは大袈裟では?」
「いやいや。その子はラーメン50杯食べるからね。それと比べたら、お菓子50人分とか無に等しいよ。だからこれでも足りないワケさ。……来るはずだし、発注かけといて正解だったと思うけれど」
「えぇ……」
生徒が来る前にまずカフェにでも行ってみよう。
つい先日2号店がオープンしたから、いつもより生徒が来ているかもしれないし────と思いつつ階下のカフェに足を運ぶと、その入口前でヒヨリにバッタリ出くわした。
「「あっ」」
相変わらず凄い荷物だ。重くないのかな。いや、絶対に重いはずだ。それを常に持ち歩くだなんて、流石のバイタリティというか、なんというか。
「あ……せ、先生……っ!」
「ハッピーハロウィン」
「えへへ……トリック・オア・トリート!です!」
「おっと。タイミングが悪かったね。今、お菓子の手持ちが無いんだ。良ければ執務──」
「えぇっ!?そ、そんなぁ!?先生なら絶対絶対、ぜーったい、持ってると思ってたのに……!やっぱり世知辛いですね、罪深い私なんかがハロウィンとか行事を楽しむべきじゃないって事ですよねぇ……」
いつものように、この世の終わりのような絶望を露わにするヒヨリ。執務室に来てくれないかな、と言おうとした矢先にこれだ、全くこの子は……。
でもこんな所もヒヨリの可愛い所でもあるので、そんな彼女の頭をナデナデしつつ言葉を付け足す。
「執務室においで、そっちに置いてあるからさ」
「……ふぇっ!?わっ、私なんかがお菓子を頂いてもいいんですかっ!?ホントにいいんですか!?」
「いいんだよ。お菓子でお腹いっぱいになるくらい食べちゃってもいいよ。それくらいあるからね」
「わぁっ……!じゃあ、5日分くらい、いえ1週間分くらい持ち帰って、ゆっくり食べますね!!」
「そんなに持ち帰るのはダメだよ!?」
「こんな身体で良ければまた先生のおちんちん沢山受け止めますから!お願いします!」
「…………夜まで余ってたらね。余った分なら多めに持ち帰っていいから……とりあえず今は1人分ね」
「わぁ……!ありがとうございます、夜までカフェで待ってますね!えへへっ……♪」
「まだ朝なんだけどね」
「幾らでも待てます、お菓子の為ですから……」
「それはいいんだけどさ。あ、でもっ!こんな皆が通るような場所で、おちんちんとか大声で言わないことっ!分かったね?」
「分かりました……!」
トテトテと私についてくるヒヨリは、さながら、親鳥について歩く小鳥のよう。ヒヨリじゃなくってヒヨコか何かかな。
「わぁっ……ありがとうございます!」
「いえいえ」
そんなヒヨリに執務室にてお菓子を2人分渡すと足取りも軽やかにカフェへ向かった。ヒヨリの為の家具を3つくらい並べてあるから、カフェ1号店の一部の区画は彼女の特等席になっているような節はあるけれど……。
「はわわ……もしかして私、出遅れましたか!?」
「ん……?」
廊下の向こうから、聞き慣れたクソデカボイスが飛んできた。ヒヨリの「ヒィッ!?」という怯えたような声に続き、その声の主は、廊下の向こうからズダダダダとダッシュでやってきた。
「おはようございますッ!!先生ッッ!!!折角のハロウィンだというのに寝坊してしまいました!!出遅れちゃいましたか!?!?」
「だ、大丈夫、出遅れてないよ。まだ2人目さ」
「そうなんですか!!良かったです!!!」
「じゃ、はい。レイサにもお菓子ね」
「あ、はい!ありがとう、ございます……?」
小袋に数種類のお菓子を詰め込んだ、詰め合わせセットを1人分渡す。レイサは首を傾げつつそれを受け取り、お菓子と私を交互に見る。
「どうかした?苦手なお菓子でも入ってたかな?」
「あ、いえ、そういう事ではなくてですね!えと、このお菓子は一体……?」
「え……?ハロウィンだからって思ったんだけど」
「……?ハロウィンって、アメが無かったらイタズラしてもらえる日なのでは……?」
何を言ってるんだこの子。……いや割とマジで。
幼稚園児でも、そんな解釈はしないと思うんだ。梅花園の子供達でもそんな発想には至らな────いや待て。イタズラ「してもらえる」って言った?聞き間違えたワケじゃなくて?
レイサ、割とボッチっぽかったらしいし、多分、本当に多分だけれど「そういう事」なんだろうな。なんというか……胸が痛い。
「……レイサ」
「ひゃわっ!?せっ先生ッ!?だだだダメですよッこんな所でギュー、なんて……!!」
ダメと言いつつハグしても抵抗する様子は無い。こんなに小さくて、こんなにも子供だというのに、レイサはどんな過去を背負ってきたのか──きっと今の私には背負いきれないくらいに重く、暗いものなのだろう。
レイサは、自分の不幸を自慢したりするような子ではない。今の発言も、彼女がカマチョだったり、そういう過去を背負ってきたんだとかいうアピールなんかではなく、本気でそう勘違いしているが故の発言なんだろう。
「……レイサ。その解釈は、ちょっと変だね」
「……え?解釈が変?」
「ハロウィンっていうのはね────」
レイサにハロウィンの何たるかを軽く説明した。彼女とてバカではない。理解はしてくれたようだ。これまでの思い込みとのギャップに悩まされているようだがそこは彼女自身に頑張ってもらうしかないだろう。
「じゃあ、このお菓子は、そういう事なんですね!先生が私に、イタズラしないでくれー、みたいな、ある種の意思表示というか……!」
「……に、近いかもね。でもまぁ、イタズラくらいはいつでもバッチコイだけどね?」
「そうなんですか!?」
「もちろん!例えば……」
彼女の腰に手を回しこしょこしょと擽ってみる。レイサはビクッと身体を震わせ飛び上がるがすぐに私の餌食となり、涙を流すまでくすぐられる。
「ひぃ……はひっ……ひぃ……ふぃ〜……!!」
「……とまぁ、私は、イタズラはいつでもウェルカムだからね!」
「わ……かり、ましたぁ……」
この時の私は、まだ認識が甘かった。
まさかこの言葉が自分に返ってきてとんでもない目に遭わされるなんて、夢にも思わなかった……。