「ハーレムルートを目指しましょう、先生」 作:アキラゼミ
ある日の昼下がりの事。シャーレの近くで仕事があったらしいイオリが、その帰りに栄養ドリンクの手土産を携えて執務室に立ち寄ってくれた。
ゲヘナの風紀委員会であるこの子が、どうして、自治区を離れてシャーレ近くで仕事なんかする事があるんだろうかと純粋に疑問に思い、その辺を少し追求してみることに。
「──へぇ、シャーレの近くに風紀委員会の支部を設置?ゲヘナの自治区からは随分と離れてるけど、どういう意図があってそんな……?」
「さぁ?これまた
「ビルを?支部設置の為にビルを買い取るのかぁ。一部を借りるとかならまだ分かるんだけど。中々に豪快なお金の使い方だね……」
「変な所で、な。節約節約うるさいクセに自分達はこれだ、委員長が呆れるのも分かるだろ?それで、今はそのビルの改装中なんだ。今日は、その下見に来たってワケ。万魔殿の息が掛かった業者じゃない事は裏が取れてるから、その点は安心できるけど。でも絶対に何かしら企んでるんだよ、
イオリがここまで言うって事は、よほど万魔殿は信頼できないんだろう。けれど、イロハの所属が、その万魔殿のハズ。
だから私からすれば少し複雑な想いと言わざるを得ないが、思えば私の募集に応じるのは万魔殿だとイロハだけだった。だから、私からしても万魔殿は色々と不透明で、百鬼夜行と同じくらいに謎が多い組織ではある。
「改装──もしかしてあそこかな?」
「心当たりあるのか?」
「うん。そこまで高くないビルだよね。確か4階か5階くらいのビルが売りに出されてたのを目にした記憶があるかな」
「あぁ、じゃあきっとそれだな。確かに4階建ての小さいビルだったよ。まぁ支部だからな、そこまで大きい必要は無いしさ」
「そうだね。──それにしても、シャーレの近所に風紀委員会の支部、かぁ。なんだかなぁ。うーん、悩ましいなぁコレは……はぁ〜……」
誰がその支部の担当になるかもよく分からないが悩ましいと言わざるを得ない。だって、だってさ。誰が来ようとヤバいよね。仕事に集中できないよ。
ヒナ?最高でしょ。イオリ?最ッ高じゃないか。モルモ?めっちゃ搾られたい。アコはまた散歩でもしようか。チナツは……風紀の文字が泣くよね。
「何だよ、何か文句でもあるのか?」
「文句があるなんてとんでもない!イオリやヒナに会いやすくなるから嬉しいなって思っただけだよ。でも、会ってばかりだと互いに仕事が溜まるから、悩ましいなぁって」
「っ!」
「でもま、イオリ達が近くに居るってだけで嬉しくなるからね。私にとっては嬉しい知らせである事になんら変わりはないけれど」
「……そ、そう、か。でも残念だったな。あの支部はヒナ委員長は基本的には出入りしないぞ」
「ヒナはゲヘナ自地区内の仕事で忙しいからかな?それなら納得も……」
「違う。この支部は────ただ単純に、モルモをゲヘナ自治区から追い出す為の支部だからだ」
「…………えっ?」
風紀委員会内でモルモとその他委員や幹部の間で何かしらの軋轢が生じたとか、そういう問題というワケではないらしい。
モルモを風紀委員会にと推薦したのは私だから、本来は立ち入るべき問題ではないんだろうけれど、聞かずには居られなかった。
イオリが言うには──最近、自地区内において、モルモの単騎での活躍が目立ってきたとのこと。
それ自体は悪い事ではなく、寧ろ良い事だった。ヒナに次いでとはいえ、モルモも、その存在自体が自地区内においての抑止力になってきていたから。
しかし、だからこそと言うべきか、万魔殿の議長であるマコトは、遂にモルモに目を付けたらしい。
かねてより不気味がっていたモルモの台頭──、更にそれに伴う風紀委員会の増長。それを危惧したマコトは風紀委員会にある提案をしたそう──。
「そう、か……戦力過多……」
「そっ。嫌味なくらいシンプルだろ?『ヒナ委員長だけでも、1人分の仕事が多いとはいえ風紀委員は成り立っていたんだから、特に、必要以上の戦力をゲヘナ学園内に留めておく必要性は薄いだろう?』なんて言ってさ」
「うーん。一度でも無理難題なノルマを達成すると次からそれが最低ラインになってしまう社会人の闇みたいなモノを感じる……うっ、胃が痛い……」
「せ、先生……?大丈夫か……?」
「……ごめん、足舐めさせて……」
「バカなのか!?」
「冗談」
「先生が言うと冗談に聞こえないんだよ!!」
「ごめんごめん。──けど、本当に困った話だな。マコトの話だと『ヒナだけで成り立ってたんだからこれ以上の戦力は不要』っていう事だよね。だけどこれって、ヒナがかなり無理してる状態がデフォになってるワケだから、別に必要以上ではないよね」
「そうなんだよ。でもマコトのヤツはヒナ委員長に楽させたくない、苦しませたい、何なら始末したいみたいな事すら考えてるから」
「…………」
「エデン条約事件の時も、ヒナ委員長に車を与えて会場に陸路で行かせたのも、委員長排除の一環だ。アリウスと手を組んだ──つもりになって、実際は自分もアリウスに騙されて爆破されたらしいから、ザマァないけどな」
「因果応報、人を呪わば穴二つ。マコトに会えたら是非ともこれらの言葉を送りたいね」
「ハハッ……確かにな」
そうかぁ。ヒナが目障りで嫌いで始末したいか。そうかぁ、そうなのかぁ。じゃあ私と敵対する事になるけど、そうなったらイロハはどうするんだろ。
イロハの事だし、万魔殿とやり合う事になってものらりくらりと躱してくれそうだな。イロハだし、それくらいはやってくれるだろう。
私は、基本的には生徒みんなの味方でありたい。そのスタンス自体は変わらないし変えたくはない。けれど、生徒同士が対立する事になれば、私なりに判断して、どちらかに味方する事も無くはない。
先日のカスミとイチカのやり取りの時なんかは、まさにそれだ。本当に困ったし。
「──それにしても、だよね。支部を設置なんて、幾ら思い付きにしたって急過ぎると思うんだよね。どうしたんだろう?」
「まぁ、アレだ。風紀委員会への嫌がらせってヤツだろうからな。思い立ったが吉日みたいな思考だ。いつもの事さ。タヌキ共め、ホンットに……!!」
「まぁたタヌキ呼ばわりして。私はマコトのことはよく知らないけど、話を聞く限りでは色んな意味でヤバイ人物っぽいね?」
「ヤバイというか、バカというか。ヒナ委員長への嫌がらせは元から酷かったけれど、最近になって、モルモが副委員長に就任した事を知ったらしくて。それで、改めて接触してきてこの話に至るっていう流れかな」
「それで、モルモをゲヘナ学園、ひいては自治区を追い出そう、と……か」
「そっ。シャーレ近くのビルを購入したのなんて、彼女を風紀委員に推薦した『シャーレの先生』への当て付けだろうから、そこまで深い意味は無いよ。少なくともヒナ委員長はそう考えてるみたい」
「そっか。ヒナがそう言うんならそうなんだろう。じゃあ、その支部が完成したら、モルモはこっちに来る事になるんだ?」
「仮で、だけどな。ヒナ委員長の負担を減らす為にモルモを副委員長に据えたんだ、そう簡単に奴らの策に乗ってやるもんか。末端の生徒を支部に送って事務作業を任せるさ。万魔殿に提出する分とかな」
「うーん。まぁ、そうするのが無難か。設置させた以上は、万魔殿の子が視察に来るかもだから、誰も居ない状態にはできないよね」
「そういう事だな。けど最悪な事に、モルモの他にお互いの目付け役として幹部格をもう1人、
「えっ。幹部格って言うと、ヒナを除けばイオリ、アコ、チナツ……だよね?」
「そう、私達3人の誰かはゲヘナを離れてモルモと一緒にシャーレ近くの支部に籍を置かせろってさ。1人だと、モルモの独裁になりかねないからって。モルモ、確かに1人の方が強いけどさ。だからって独裁とかをするようなタイプじゃないんだけどな。マコトのヤツは、本当にモルモの事が嫌いらしい」
モルモ本人から、マコトが彼女を嫌ってるという話自体は聞いた事がある。あまりにマコトに興味が無さすぎて、マコトに万魔殿に誘われた時に、少し目を離された隙に(お得意の滑空飛行で)その場を離れたから不気味がられている、とかなんとか。
────ヒナ自体はゲヘナ学園に残れるとしてもモルモと幹部1人が抜けるのは風紀委員会にとってかなり痛い。いや、痛いなんてレベルの話ではないだろう。致命傷とさえ言えるんじゃないだろうか。
「……イオリが来るのかな?」
「モルモ1人で戦力的には十分なんだ、多分だけどチナツだろうな。アコちゃんは行政官だから嫌でもゲヘナに残るだろうし」
「ヒナがゲヘナに残る時点でアコも自動的にゲヘナ残留は確定だよね。私としては、イオリが来るなら嬉しいなって思うけれど」
「っ!?なッ……なんで、だよ……?」
「会いたくなったらすぐ会えるからでしょう?確かあのビルって、シャーレから徒歩20分も無いくらいじゃなかった?」
「そッ……そりゃ、まぁ、すぐ会えるのはいいけど!でもだからって……私が来ると……」
直接的な戦闘力という意味ではともかく、部隊の統率能力で言うならばチナツが上になるだろうか?ならチナツをゲヘナに残した上でイオリをこちらに来させるのがヒナにとっても負担は減るだろうか。
大部隊を率いる事ができる子はやはり少ないし、イオリが来てくれると私も嬉しいし。けれどヒナの負担の事も考えなくては。難しい問題だ。
「────な?やっぱり先生でも悩むだろ?お陰で風紀委員会も連日会議さ。そんな暇も無いのにな。因みにモルモは私を推薦してるよ。任務とかで結構組んでるからな、モルモとしては私だとやりやすい相手って事になるだろう。アコちゃんもチナツも、前線には出ないから……訓練相手にならないしな」
「……うん、私もモルモと同じ意見かな」
「!」
「ゲヘナに居ても、イオリとヒナで訓練できるワケじゃないでしょう?ヒナ、仕事に追われてるし」
「あぁ、そうだな……」
「それだったら、今後のイオリの為にも、モルモとこっちに来た方が良いと思う。モルモとなら訓練もできる、組み慣れた子なら改めて連携とか鍛え直す必要も薄いだろうし。仕事終わりにイオリに会いに行きやすいっていう事実を抜きにしても、支部にはイオリが来た方がいい、と私は思うかな」
「最後の最後に先生の欲望が見えた気がするけど、まぁ、いいや。分かったよ。次の会議では、先生のそのアドバイスも伝えてみる。ありがとう、先生」
こうして、シャーレ近くに設置された風紀委員会支部にはモルモをトップとして補佐役にイオリが、更には数十人の部下が赴任してくる事になった。
マコトとしてはこれで満足しているのだろうか、それ以降は風紀委員会への干渉も無くなったそう。
けれどもその数日後、問題が起きた────。
◆
「えぇ?
「そーそー。なんか『4階に居たはずなのに何故か6階に居た』なーんて報告が相次いでんのよねー。イオリちゃんもビビっちゃってさー」
「イオリが!?うっ……」
「ふふふっ、やっぱ先生ってば、相当イオリちゃんラブだよねぇ〜。妬けちゃいそ……♡」
「ぐっ、あっ、ちょっ、ちょっと待ってモルモっ、カリ首締めるのはっ……効くから……っ♡」
「えぇ〜?もうイッちゃうのぉ?いいよぉ、ビビるイオリちゃんでも妄想しながら、モルモーちゃんの手コキで無駄撃ちしろっ♡ イケッ♡ イケッ♡」
「ッッ────♡♡♡」
「アハッ♡ 相変わらず濃ゆい精液♡……んじゃあ、調査と結果の周知よろぴくね♡ せ・ん・せっ♡」
◆
モルモから現地調査の依頼を受けた翌日、早速、改装されたばかりの風紀委員会の支部に直接、足を運んでいた。
以前イオリと話していた時に予想していた通り、風紀委員会の支部として選ばれた建物は、以前より売りに出されていたあのビルであると確信。
────ただ、私の知っている土地、知っている建物であるはずにも関わらず、改装されたとはいえ妙な違和感を覚えていた。ビルそのものに対して。
4階建てという極めて小さな建物だったはずだが妙に大きくなったような──それでいて、高さだけ変わってないような──どうにも言葉で表しにくい違和感がそこにはあった。
まるで
もっと意識して日々を過ごしていればこのような違和感の正体にも気が付く事ができたのだろうか。ビルが横に大きくなったように感じるなど、普通は違和感どころじゃないハズなのに……。
「どうしたんだ、先生?そんなボーッとして」
「おぉ、イオリ……!ホントに居た……!」
「ホントに居たってなんだよ、ここ担当なんだから居るに決まってるだろ」
「あはは……あまり実感が無かったから」
「……まぁいい、
「うん、お願いね」
モルモ、部下達は周辺のパトロールで、数時間は支部に戻らないそうだ。だから今のうちにササッと調査を済ませたいところだ。
特異現象ならヒマリ達の出番じゃないかな、とは思ったが、本当に特異現象なのかも確信が持てない以上は、まずはいつも通り私が現地に足を運んで、実地調査に踏み切る。その方が私としても楽だ。
「この支部は入口が2つあってさ。コッチ、私達の目の前にあるコレは東口なんだよ。反対には西口がある」
「入口が2つあるのは、非常口も兼ねてるのかな」
「多分ね。──それで、東口から入ると割とすぐにエレベーターがある。エレベーターはこの一機しか無いみたいで西口の方には無い。だから大人数での移動にはあんまり適さないかな」
「ふむ。それにしても、広いね。声もよく通るし、少し天井も高いかな?」
「
エレベーターの近くには階段がある。まぁこれは大抵の施設はそうだろう。昇降の手段は2つ以上、当たり前の話だ。
イオリが言うには、この階段から登ると4階建てなのに、西口の方の階段から降りると、6階建てになっている──との事だ。
「その『6階建てになってる方』、外から見た時、窓が少ないように見えたね。少ないというか、殆ど無いでしょ」
「あぁ、あっちは倉庫、射撃場、訓練所、武器庫になってるからな。だけどそんな怪奇現象が起きてるもんだから、誰も近寄らないんだよ。お陰で、まだ引っ越しの荷物がダンボールの状態で各部屋の隅に積んであるんだ。機材とかもあるのに……はぁ……」
「じゃあ早く解決しないとだね。行こう、イオリ」
「ああ。……は、離れないでくれよ……?」
「手、繋ぐ?どうせ誰も居ないんだし」
「……繋ぐ……///」
手を繋ぐに飽き足らず尻尾まで絡めてくる彼女を抱き潰したいと本気で思ったのは久しぶりだ。
手を繋ぎ、シンとした支部の中を進む。まずは、エレベーターから検証していこうという話になり、東口のエレベーターに乗り込み4階へと移動。
妙に長い移動時間は置いといても、文字盤などの表示を信じるなら、確かに4階に到着した。
東側は、倉庫や訓練所などなどではなく居住区域になっているとの事で、窓は普通の建物と同じようにあるらしい。
「ん……?」
ただ、窓から外を見て、周辺の建物とこの建物を比べてみると、奇妙な違和感があった。
現在地は4階のはずなのに、周辺の建物で見ると6階と殆ど変わらない高さに感じられるのだ。
「……ねぇイオリ?ここって本当に4階なの?」
「エレベーターで見ただろ。元よりここは4階だ。どうしてそんな事を気にするんだ?」
「近くのビルと比べてみて。窓の高さで見るなら、ここ、6階の高さだよ」
「……え?…………1、2、3、4…………ホントだ」
4階のはずが、6階の高さになっている。つまりこの建物は「西側に謎の2階層」があるのではなく東側に「謎の2階層」があり、
「……つまり、
「自然な流れで考えるのなら、そうなると思う」
「なッ!?不気味だと思ってた西側じゃなくて!?ホントに、東側に何かあるっての!?ヤダヤダ怖い気持ち悪いッ……!!」
「……とりあえず西側も見るだけ見てみようか。高さだけで判断するのは、早計だと思うから」
「うぅ……っ……どちらにせよ不気味だ……っ」
ぎゅっと腕に絡んでくるイオリに興奮したいが、今は原因究明が先決だ。
4階の廊下を移動し、西側へ移動。そこからは、階段を使い降りる。階段の踊り場の壁には「6」の数字があり、ここが6階であると示している。
階段を降りていくと、5、4、3、2と、綺麗にカウントダウンが完成した。先程の予想通り西側は特に異常は無さそうだ。
「────となると、やっぱ東側か」
「う……そんな所で寝泊まりしてたのか、私達……」
「次は、エレベーターじゃなくて階段から4階まで上がろう。何か分かるかもしれない」
「……そうだな……行こう……っ!」
繋がれる手に、ギュウウッと力が込められる。
東側は相変わらず天井が高く風も声もよく通る。これは、あの西側との大きな違いと言えるだろう。生活空間にするには丁度いいかもしれない。窓から差し込む自然光も、健康に良さそうだ。
「……何か少し疲れたな」
「そう?私はそんな感じしないけれど」
「体力でも衰えたのかな……自覚は無いけどな」
軽く息が上がるイオリ。妙な事もあったものだ、彼女は切り込み隊長だし誰より駆け回るはずだから体力もアコやチナツ以上のはず────いや待て。
「……東側、階段が少し高いね」
「えっ」
「しかも階段自体が少し長い」
「そういう造りなんだろ?」
「それを言っちゃおしまいだけどね」
そんな小さな違和感の正体をその場で解明しつつ4階まで登っていく。一段一段が高く、次の階まで到達するまでの距離が長い────ここにきて私は初めて今回報告された怪現象の正体に気が付いた。
「階段から登ってもやっぱり4階だったな……」
「……クックックッ……実に単純な問題だよイオリ」
「何その笑い方、悪役か?……って、単純だと?」
「そっ。これ、別に怪現象でも何でもなかったね。比較すれば簡単に分かる問題だったよ」
「わっ、分かったのか!?6階と4階が同じ高さになってる理由が……!」
「うん、至極単純だったね。4階側──東側はね、一階層毎の高さが高いんだよ。多分、西側の1.5倍かそれくらいの高さだと思うよ」
「なんでそんな具体的な数字を……」
「西側は、天井の高さも普通の建物と同じでしょ?でも東側だけ全体的に天井が高い造りになってる。その分だけ高さが西側より高くなってる。だけど、階層が少ないから、たまたま西側と高さが同程度になっちゃったんだろうね」
「天井の高さが違うのが鍵だったのか……」
「東側の階段の高さと長さが西側を上回ってるのもその高さのズレを補正する為の処置だろうね」
「じゃあ、西側の3階イコール東側の2階みたいな高さ関係なのか……」
「そうなるね。6:4=3:2だし」
「なんだ、そうだったのか。でもその割に『3階に居たはずなのに2階に居た』みたいな報告を聞いた覚えがないんだけど」
「『謎の2階分が現れた』方がインパクトが大きいだろうから、そっちに噂が流れたんじゃないかな」
「あー……って、業者のヤツ何を考えてこんなヘンな改装したんだ?それとも元からこうだったのか?」
「──多分、元は別々のビルだったんだよ。それを繋ぎ合わせたんだ」
「ビルを繋げた!?」
「増設する時にはよく使われる手法だよ。高ささえ揃ってれば繋ぎやすい。でも、今回の場合は2階と2階では少し高低差があるから、スロープか小さい階段でその差を潰してるハズさ」
「まさか、廊下とかに妙なスロープがある建物ってその手法が使われてたのか……?」
「全部がそうとは言わないけどね。だけど、十分にその可能性もあると思うよ」
「そうか……。というか先生、どうして2つのビルを繋いでるって気付いたんだ?繋ぎ目とかそういうのあったっけ?」
「東側と西側で天井の高さが違うのがまず1つ目。壁の材質が違ってるっぽかったのでそれが2つ目。それと、このビルのシルエットが、私の記憶にあるモノとあまりに掛け離れてた──ってのが3つ目。普通のビルだったと記憶してたんだけど、何故か、横に長くなったような感じがしたんだよね。お隣のビルと繋げたってんなら、納得もいくかな……と」
「待て待て、壁の材質?どういう事?コレって同じじゃないのか?」
「どちらの階段も手すり無いでしょう?だから私、壁に手をついて昇り降りしてたんだけど、どうも、壁のヒンヤリ感が違う気がしてね。同じ建物なら、壁の材質も表面の塗装も、統一するはずだからね。茶の間みたいな、特別な意味を持つ部屋ってのなら話はまた別だけれど──ただの階段に、壁の材質を変える意味は無いよ。予算的な意味でも。普通ならどちらかに統一するだろうからね」
シャーレの執務室に設置してある、私専用の簡易武器庫は私自ら手掛けた。だから工作系は得意だし触れるだけでもある程度の違いは分かる。
例えば、漫画を手にした時だと、テカテカの紙の本なら特に分かりやすい。その紙のフルカラー版は通常版よりも
シュリンクしてあっても、違いは簡単に分かる。
今回、壁に触れて材質なんかの違い等が分かったというのは、まさにこれと同じ事でしかない。少し鋭敏になってるのかもしれないけれど。
「……って事は?この建物は特に異常は無いのか」
「そういうこった、だね」
「えぇ……あれだけビビってたのにこんな……」
その後で、2階同士などの高低差があるであろう繋ぎ目部分を確認しに向かった。そこには確かに、長く緩やかなスロープ、もしくは段数の少ない階段なんかが存在しており、東西では高低差がある、と密かに示していた……。
◆
「────そういうワケで、特に異常は無かった。だから風紀委員の皆にもその辺は周知しといたよ」
「おけまる〜。ありがと先生、手間が省けたわ♡」
「え?」
「怪談話みたいになりかけてたけどぉ、皆の誤解は解けたんでしょ?んじゃ、これで安心してあそこに入居できるわね。皆が落ち着いたってんなら、私も落ち着けるわ。大体、パッと見で気付くってのに。目先の事にアタフタし過ぎなのよ、あの子達はさ」
「モルモは気付いてたの?」
「当たり前じゃーん!?そんなのにも気付かない程視野狭窄じゃないしィ?怪談話にビビったりなんかしないんだけど?」
「でも、私に調査を頼んだじゃない?」
「先生に頼みたかったのは
「──大丈夫だよ。今の君はちゃんと風紀委員会の皆から信頼されてる。だから『私はまだ風紀委員の子に信頼されてないだろうから先生に頼もうかな』みたいに、後ろ向きには考えないで」
「…………ハンッ。イオリちゃんは兎も角、他の子はどうなのかしらね。心が読めるワケでもないから、分かんないわ、そんなの。なまじ私に力があるから逆らわないでいるだけかもしれないしね」
「そんな事は無い。おふざけ混じりに見えるけど、風紀委員会に加入してからの君の仕事ぶりは、皆が見てきてるんだ。だから、そんな事を考える必要は無いんだよ」
「………………フンッ。どーだかね」
こうして、無事シャーレ近郊の風紀委員会支部にモルモとイオリ、他数十名の風紀委員会の生徒達が入居できる事になった。
しかし思っていた以上に話が円滑に進み、しかも逆らうと思っていた風紀委員会がろくに逆らわず、スムーズに支部に戦力を分散させた事に、マコトは逆に不審に思い、今度は支部を取り潰そうと決断。
────が、それを通達する前にマコトの企みを知った風紀委員会──主にヒナによって戦わずして返り討ちにされてしまったマコトであった……。