「ハーレムルートを目指しましょう、先生」 作:アキラゼミ
今日も今日とて事務作業である。溜め息が出る程同じような流れ、同じような仕事、同じような作業なので、それなりに疲れてしまった。
疲れてはいても慣れている仕事という事もあり、書類はさっさと終わらせられる。量はそれなりだ、多くも少なくもない、これまた「いつも通り」だ。作業に疲れた私は、連邦生徒会の他、各学校からも送られてくるお便りなどにも気休めとばかりに軽く目を通してみる。
「アロナ、プラナ、気になる手紙はありそう?」
『あまり、不穏な空気を感じるものは無いですね!平和なのは良いことです!』
『──今すぐの救援等を求めるような内容の手紙はありません。近況報告、雑談など絵に描いたような平和です』
「そ、か……
平和なのは良い事だ。
────思えば、私がシャーレの先生に就任した最初期に手をつけた仕事が、まさに
助けを求めるアビドス、いやアヤネから送られた手紙を読んで、その日の内に出発したんだったな。彷徨って倒れたり、シロコに拾われたりなどなど、今も鮮明に思い出せるくらい鮮烈な出来事だった。
あの時の事をふと回想し、ハーレムも何もない、まっさらな状態に、少し初心に帰るような気持ちでふと目に留まった手紙を手に取る。
ハドマ学園生徒会より──と記載のある手紙だ。
「ハドマ学園……?」
晄輪大祭でも名前を聞かなかった学園だ。ただの予想でしかないが、アビドスと変わりないくらいの規模の学園なのではないだろうか。
キヴォトスは数千もの学園からなる学園都市で、3大校の他にも幾つもの学園が出場していたし──あぁ、でも、SRTみたいなパターンだとしたら、外部からの力添えが無いと出場できないし、そんなパターンも一応有り得るのか……。
「アロナ、この学校はどこにあるか分かる?」
『ハドマ学園────ゲヘナ学園、トリニティ総合学園、レッドウィンター連邦学園といった3校の、およそ間にある学園です。自地区がかなり広くて、数十年前はそれなりに栄えていた学園ですね!』
「3校の間?」
『3校の成立よりも後に出来た、比較的歴史の浅い学園です。それぞれ3校を結んだときに作図できる三角形の中点の辺りに存在します』
『広いのは広いですが、縦長というか横長というかそういう意味で広いんです!しかも自地区の両端で気候が違う程に……
『肯定。レッドウィンター側は寒さが、ゲヘナ側は治安の悪さが目立ちます。トリニティ側は温暖で、比較的生活が楽です。学園の他、主な商業地帯や、住宅地を含む生活圏は、その9割がトリニティ側に集中しています』
「へぇ……トリニティ側は人口密度が凄そうだね」
『はい!ゲヘナ側は飛び抜けて治安が悪いですし、レッドウィンター側は単純にゲヘナ側よりも過酷な環境なので、自ら近寄る人は殆ど居ません!ましてそこを生活圏にしようという人も殆ど居ませんし、必然的に都市部──トリニティ側との人口密度は、他と比べて実に約1540倍はあります!』
「ミカのEXスキルの倍率かな??」
『それくらい凄い差があるんですっ!』
「ふむふむ……」
レッドウィンターは遠いが、トリニティ側からも通じているならそちらから向かうのがいいだろう。何より学園などの施設もトリニティ側との事だし、そちらから行かない理由は無い。
トリニティ経由でその先に向かう電車か────あの辺りならあるな。
「……よしっ、行ってみるか」
出張だ。善は急げ、思い立ったが吉日。手紙は、その道中で読めばいいだろう。まずは移動開始だ、この初動で全てが決まると言っても過言ではない。
髪を整え、外行きのスーツに身を包み、出張先に持っていく荷物を選別する。その最中────。
「先生。ハドマへ向かうつもりですか?」
「そうだよ。……あ、カヤも行く?」
「お断りします」
「だよねー」
「何よりあの学園は、連邦生徒会を嫌っています。私などが行けば、恐らく袋叩きに遭うでしょうね。恐らくというか……間違いなく、でしょう」
「……カヤ、ハドマの子に何かしたの?」
「違いますよッ!連邦生徒会長が行方不明になり、リン行政官が代行として台頭した途端、ヤツらは、連邦生徒会に反旗を翻したんです!だからです!」
リンちゃん、大丈夫かなぁ。カヤが反旗を翻した過去があるとはいえ、何だかんだ連邦生徒会も一応纏まってはいるように見えるけれど……。
もしかして、カヤどころかリンちゃんもそんなに人望は無いのか?いやいや、それは無いはず。多分きっと。それだけ連邦生徒会長が「超人」だったんだろう。カヤが「超人」に固執するくらいだし。
「ゲヘナすら、不足はあれどデータが送られてきているというのに!ハドマはそれすらも無い!忙しい合間を縫って連絡をしても、無視かガチャ切りで!書類を送付したって無駄!現地に足を運ぶ暇なんかありませんから、放置ですよ放置!だからもう──もはや陸の孤島も同然なんですよ、あの学園はね」
汚職していた防衛室長とはいえど、連邦生徒会の幹部だっただけはある。仕事上でのやり取りでも、連邦生徒会長が行方不明になって以降、実際にそのハドマ学園とやり取りする機会があったのだろう。カヤの言葉にしては、ヤケに実感が含まれていた。というか愚痴も混ざっているし。
というか……待て。もしカヤの言葉が真実なら。
「……連邦生徒会に反旗を翻しているなら……」
「ええ、そうです。先生の思っている通りですよ。シャーレは、連邦生徒会と強い繋がりがあります。つまり、同時にシャーレも敵視されている可能性があるんですよ」
「っ……参ったね」
「その手紙も、果たし状の類かもしれませんね?」
「ハハ……そうでない事を祈るばかりだね」
「というか、中身、見てないんですか?」
「ま、まぁ……うん……道中に読めばいいかなと」
「バカですか?内容も確認せず向かおうとするとは思いませんでしたよ……」
「……。ごめんなさい、今すぐ読みます」
「当たり前です。出張の準備を始める前にそうしてくださいね」
────ダイモニオン・ソサエティーだと?
これって確か、モルモの友人を学園内での抗争に巻き込んで殺してしまってモルモから復讐された、かつて万魔殿と抗争していた組織の名では……?
ゲヘナ学園内の組織で、既にモルモに皆殺しやら何やらされて、一夜にして姿を消した──っていう話だったはずだ。
まさか、モルモの襲撃の生き残りがハドマ学園に逃れていたのか?そしてそのままハドマで、新しい生徒会として台頭していた……とかなのだろうか。
実際はどうであろうと、ちょっとだけ、キナ臭い感じがしなくもない。
「というか…………併合?廃校オア併合なの?」
「あぁ、ハドマは中途半端に生徒が居ますからね。なので、ただ廃校にした所で
「大体どれくらい居るの?生徒は……」
「数百人規模……ゲヘナの10分の1程度ですね」
「多いね」
「多い、まぁ中途半端ですがね。ハイランダーやらヴァルキューレやらの方が、まだ多いはずですよ。ゲヘナ、トリニティ、ミレニアムは言わずもがな。百鬼夜行の方がまだ多いくらいですし」
「土地も広いらしいしね」
「広いというか凄く長いですからね、シンプルに。ですが人口は都市部に集中していますし。かつての栄華とやらは見る影もありませんね」
「栄華?」
「私達も生まれる前の話です。恐らく先生すらも。かつてハドマ学園は『ゲヘナ学園と双璧をなす』と言われた程に荒れていました。まぁ今もですけど、人数も今より多くて、荒れに荒れていたそうです」
「えぇ……」
「ですがトリニティやレッドウィンター、ゲヘナはそこからも更に成長していった。ハドマは、各校の著しい成長についていけず──それに伴い、生徒はそれぞれの学園に散って行き少しずつ過疎化したのだそうです。それで現在に至ります」
キヴォトスが荒れるようになったのは私がここに来る直前──連邦生徒会長が行方不明になってからだったはず。その頃は今のキヴォトスとは違って、割かし平和だったはずなんだ。
そんな頃のキヴォトスでさえハドマ学園の内部は荒れていたとすると、ハドマもまた私が思っているよりも中々に厄介な感じの学校なのかもしれない。
「よくそこまで知ってるね……凄いや」
「防衛室長時代の私の部下の1人に、ハドマ自地区出身の者が居たものですから」
「成程。というかそもそも併合されかかってるのはどうしてなの?数百人規模ならそんな事をする必要無いと思うんだけれど」
「ハドマは既に──『学園』としての機能を、全て失っているに等しいからです」
「……え」
「ゲヘナ学園でさえ一部の生徒は真面目に勉強し、授業も行われています。しかしそれでも、ハドマは違うのです。教員ロボは既にそこには無く、生徒が自ら製作した人工知能に授業を押し付けテキトーに喋らせているだけで。────つまりは、色々と、中途半端なんですよ。何もかもがね」
「……凄い学園から連絡が来たなぁ」
「ですが、それでも良かったじゃないですか。特に敵意は無さそうですよ?」
「カヤを匿ってるって知らないからだろうね」
「ふふっ……違いありませんね、きっと。で、先生はどうするんです?」
「もちろん……行くよ、ハドマ学園に」
どんな学校か、興味が出てきてしまった。過去の話とはいえ、ゲヘナ並だとするなら今の生徒数には似合わないくらいの大きな校舎のハズ。それでいてあちこち生徒同士がぶつかりあったりなどしていて今も荒れているのだろう。
「連邦生徒会は既にゲヘナ学園と併合していく方で話を進めていると思いますが、何か対抗案でも?」
「何も。でも、私が関わった学園とかを無理矢理に併合させるとも思えないし、私がハドマと関わりを持てば、少しは猶予をくれたり、何かしら向こうもアクションを見せてくれるハズだ。実態も知らずにリンちゃんに直談判するのは、早計だろうからね。だから、助けるにせよ諦めさせるにせよ、一旦は、実際にハドマに視察しに行くよ」
SRT特殊学園は、実質的に廃校になっている。それでも私の口添えなどがあれば、小隊4人だけで晄輪大祭に出場できるくらいにまで手助けできた。
そうだ、私には晄輪大祭でミヤコ達を出場させた実績があるんだ。廃校後の学校でさえこの扱いだ、廃校「寸前」の今であれば間に合うかもしれない。
前例のようなモノなら既にあるんだ。上手くいく確率はかなり高い、自信を持っていこう。
「そうです、か。行くのなら気を付けてください。ゲヘナと違って、飛び抜けて強い風紀委員長とかが居ないせいで、あまり統制が取れていませんから」
「……わかった。ありがとう」
そう考えると、ヒナの存在ってかなり大きいな。確かにゲヘナは荒れているけれども、ヒナの存在で治安は……まぁまぁ保たれてはいる。
それに、完全に無秩序なワケでもないから、そう考えるのなら、ゲヘナ学園におけるヒナの存在ってかなり大きなモノなんだろう。存在自体が抑止力になるようなヒナだしな……。
「それと、最後に1つだけ。伝聞ですが、私の知識を先生にあげます。──トリニティが『天使』の、ゲヘナが『悪魔』の学園とするのなら、両校の間のハドマはそれら2つの要素を持つ──『堕天使』の学園……と言えるでしょう」
「え」
堕天使────天使が闇堕ちした姿とされているあの堕天使で解釈は合っているだろうか。それは、ちょっと気掛かりだ。色んな意味で。
「まぁ『天使も悪魔も居ますよ』って意味ですよ。良くも悪くも両校の特徴を有している──とっても素敵な、笑えるくらい中途半端に荒れた学園です」
「あぁ、そういう意味ね……」
「ですが明らかにおかしいですから。トリニティとゲヘナが手を組んでるくらいおかしいと思っていいハズです。警戒は怠らないよう、お願いしますね?くれぐれも、好みの子に鼻の下を伸ばしてその隙にズドン──などというマヌケ極まりない結末なんて迎えないでくださいね」
「分かってるよ!私の事、何だと思ってるの!?」
「淫行ロリコンクソ教師……以外にあります?」
「ろ、ロリコンじゃないやい!」
「あぁそうでした、守備範囲が広いだけでしたね。淫行クソ教師なのは変わりませんが」
「……何にも言い返せないのが悔しいな」
「結構。自覚があるだけ、ほんの少しマシですよ」
◆
その後、近くの駅から、トリニティ方面に向かう列車に乗車。直接向こうに行ければ良かったが少し乗り換え待ちの時間があるようだ。
折角こうして時間ができたなら、リンちゃんに、少しこの件について話すのも良いだろう。
そうこうしている間に、乗り換えの時間に。例によってハイランダー鉄道学園の運営する列車に乗りトリニティ自治区から更に先へ……。
気候的にはあまり変わらないが、優雅な風景からちょっぴり荒廃したような風景へと切り替わった。どうやら、出発数分で既にハドマの自治区らしい。
トリニティ寄りの雰囲気にゲヘナらしい荒れ具合という意味では、確かに、両校を合わせたようにも思えてくる。
『次はハドマ学園前〜、ハドマ学園前〜。お降りのお客様はお忘れ物の無いよう────』
「ん……割とすぐだったな」
列車を降りてすぐ分かる。確かに過ごしやすい。ホームという場所は得てして風通りがいいものだ。そして今日は比較的気温が低めの予報だったので、少し着込んできたが……余計だったかもしれない。
カバンに上着を仕舞い込んで、駅を出る。地図のアプリでハドマ学園の位置を確認しつつ、自治区の視察の意味も込め、徒歩で学園に向かう事にした。
「あんだコラァ!?」
「ブッ飛ばすぞテメー!」
「やってみろミソッカスがァ!!」
「「喰らえええええっっ!!」」
ゲヘナ自治区に慣れていると、コレですら平和に見えてしまうから驚きだ。確かに割とあちこちから爆発音や銃声は聞こえるものの、こんなのゲヘナに比べたら……。
「元気だなぁ」
こんな感想しか出ない。少しゲヘナに慣れすぎたかもしれない。シャーレ周辺は普通の都会だから、余計にそう感じてしまう。
「アロナ、準備は大丈夫だよね?」
『はい!いつでも不意討ちOKですよっ!スーパーアロナちゃんと!』
『……スーパープラナちゃん……が……?』
『『先生をお守りしますっ!』』
「ふふ、心強いや。もしもの時はお願いね」
『はいっ!』
『お任せ下さい』
道中、アロナだけでなくプラナにもハドマ学園について知っている事を聞き出そうと試みた。しかしプレナパテスはハドマ学園にノータッチだったので彼女が有しているハドマについての知識はアロナと同程度との事だった。
つまり私はこれから、プレナパテスも未到達の、完全に未知の学園に行く────という事らしい。少々、気を引き締めねば……。
護身の為に、ベレッタはいつも通り持っている。後は手榴弾が3〜5個くらいカバンに入っている。予備のマガジンは持ち歩いていない。今の私なら、アレくらいならその場で
それを創り出す場所も、私の任意の場所に可能になっている。とはいえすぐ近くでないとダメという制約自体はあるが、伸び代だと思っておこう。
「……なんか、如何にもな荒れ方だね」
弾痕があちこちにある。爆発跡やら何やら、酷い荒れ方だ。5人しかいないアビドスですらも、砂が中に入り込む程度だというのに。この荒れ具合は、ある意味で凄い。もし周辺舗装と大掃除をまともにやろうとしたらそれだけで数ヶ月は掛かるだろう。
こうして見ると、ゲヘナ学園は、荒れてはいるが後処理もしっかりしてるんだなと感心してしまう。学校に愛着を持つ者の仕業なのか、これらもまた、風紀委員会の仕事なのかは分からないが……。
「……お。落書き凄いな」
校門が見えてきた。だが落書きが凄まじかった。
あれもマキ風に言えば「グラフィティ」になるのだろうか。芸術性もあんまり見受けられないから、マキからしても落書き扱いになりそうだ。帰りに、校門の写真でも撮って送ってみよう。
ヒビ割れ、落書きまみれの校門を通過し、遂に、ハドマ学園の敷地内に足を踏み入れた。
ゲヘナ学園を参考にして建設されたのか外見上はあまり大きな違いは無いように見える。というか、シンプルに広い。校門から校舎までが遠い……。
「地雷とか大丈夫だよね?モルモ、かつてのゲヘナ学園にはアチコチに地雷があったって言ってたし」
『アロナバリア〜!……で無効化しますよっ!』
『ぷ……プラナバリア〜……も、頼ってください』
「本当に頼りにしてるよ、2人共」
道中、ハドマ学園の部活動や委員会について軽く調べてみた。見た所、風紀委員会など影も形も存在していなかった。それに関連してなのか「〇〇対策委員会」という名称の委員会が多い印象だ。
一番目立ったのが「連邦生徒会対策委員会」だ。まぁこれは何となく分かる。廃校や併合が嫌だと、そういう末路に抗う生徒の為の集まりなのだろう。これはよく分かる、併合されるかもしれないというハドマ学園の事情さえ知っていれば、よく分かる。
────しかし、だ。
その「連邦生徒会対策委員会」の次に、強く私の目を引いたのが「美食研究会対策委員会」だ。
ハルナは晄輪大祭でも屋台を爆破していた程だ、しかもトリニティの自治区でさえ爆破するんだし、ハドマの自治区内でもそういうトラブルを起こした過去があるのだろう。
そうでもないと
「ふぅ、やっと着いた。次はロードで来れるかな」
『流石に自転車はキツくないですか?』
「シロコとの2、300キロのライドよりは楽だよ」
いや、それを言ってしまったらおしまいか。
大きめの息をついて、目の前にそびえ立つ大きな校舎を見上げる。入口横に「第1校舎」という札が掛かっているので恐らく第2校舎もあるのだろう。第2校舎もあるならますますゲヘナ学園に近い。
道中、風紀委員会の本部のような細長い建物まで見掛けたし、本当にゲヘナ学園をモチーフにしてるようだ。
「……事務員は無し、か」
正面玄関から入ると、学校にありがちな小窓での受付口を発見。しかし中を覗いても事務員ロボなどそこには居なかった。というより事務室が使われた形跡すら見受けられない。
銃弾の痕、爆発片が突き刺さった所に積もった埃などなど、見受けられる光景全てが「ここには誰も足を踏み入れていませんよ」と、事務員の代わりに応えているように思える。
荒れていると予め分かっていたから、こんな事で焦る必要は無い。寧ろ予想通りまである。教員だけではなく事務員ロボも居ないとは、という意味では少しだけ溜め息モノだが。
「えぇと、生徒会室はどこかな……っと」
手紙の差出人は生徒会長だった。それなら近くの道行く生徒を少し呼び止めて、生徒会長は何処か?生徒会室は何処か?などを尋ねるのが良さそうだ。少なくとも、軽く見渡せる範囲には無いようだし。
「────そこの君、ちょっといいかな」
「……あぁん?あたし?」
黄色のロングヘアー、向こう側が見えるくらいに透き通った殆ど透明な翼を持つ少女に声をかける。掲示板か何かを見ていたらしいところ申し訳ないが近くに他に生徒が居ないので許してほしい。
「生徒会長さんって何処に居るか分かるかな?もし良かったら教えてほしいんだけれど、いいかな?」
「何よ、あんた?アイツの客人?案内すんのは別に構いやしないけど……どこの誰よ?」
「連邦捜査部シャーレの先生です、よろしくね」
「ッ!────あんにゃろ、マジで連絡したのか。あーもう、メンドークサイなぁっ!!」
「え、と……?」
「アレっしょ?ハドマがゲヘナと併合されんのは嫌だから先生に知恵を借りたいってヤツ」
「うん」
さっきの口振りからして、この子は、生徒会長の我猛リエではないらしい。しかし、その話ができるという事は、生徒会長と近しい関係にあると見ても良さそうだ。
「別に知恵なんか要らねーっつのに。連邦生徒会の本部にカチコミかけて首を縦に振らせりゃあそれで事足りるっつの。ね、あんたもそう思うでしょ?」
「流石に強硬手段が過ぎるとは思うけれど……」
「か〜ッ!!リエと同じ事言ってんだけどコイツ、マジ無理!それくらいアタシらならやれるっつの!どうせ連邦生徒会の連中なんて頭デッカチだろ!?雁首揃えて会議ばっか、書類仕事ば〜っかやってるようなクソマジメのイイコチャン連中だしさァ!」
「まぁ、まぁ。とりあえず生徒会長の我猛リエって生徒に用があるから、案内をお願いできるかな?」
「チッ、つまんね〜お話の始まり始まり〜ってか?校長室が生徒会室になってっから、先に行ってて。後で、あたしも行くからさ」
「え?」
「『先生』が来たら、
「……あ、ホントだ」
「んじゃ数分後にまた。リエは多分もう居るから、先におっぱじめてても構わないかんね」
まさか性的な意味で襲われるワケじゃないよなと少女の言葉に対して若干の焦りを覚えつつ、彼女の背中を見送ってから、生徒会室として運用している校長室──の扉を叩く。
これから面接でもするのか、という緊張がある。ノックから数秒の間を置いて、少女の凛とした声が木の扉を貫いて飛んできた。
「今開けますわね、少々お待ちになって?」
お嬢様っぽい口調は久しぶりかもしれない──と思っていると、静かに扉が開かれた。
扉の向こうには、生徒とは思えない程に目立った白のロリータファッションを身に纏い、まだ子供と思えない程に巨大──豊満な胸を備えたほんの少し身長高めの少女が立っていた。
「……初めまして、先生。
スカートの端を持ち上げ恭しく、お嬢様のように膝を折って礼をしてくれた。
如何にもトリニティに居そうな生徒が、こんなに荒れた学園の生徒会長を担当しているのか。どうも釈然としない。万魔殿と対立していた組織の名前をそのまま使っているのも気になる。
────警戒は、必要そうだ。
「リエ〜、とりま3人は来てくれたよ」
「はぁ……相変わらず集まりが悪いですこと……」
「唐突に呼んで5人揃えば十分っしょ。アイツらはどうせサンドバッグ殴ったり家庭科室に篭ってると思うし。あと、あたしも暇じゃねーんだしさっさと始めようよ」
「この場で一番忙しいのは、先生ですがね。我々のソレとは比較にならない程に、目まぐるしい毎日を過ごされているはずです」
「マジぃ?このデコひろし、そんな忙しいの?まぁストレスで髪も散ってるし、忙しいのかもね」
「おでこ、広くないよ??」
「は?鏡見てきなよ」
「まぁまぁ、落ち着いてくださいお2人共。では、少し早いですが早速、自己紹介からでも────」
「「遅れましたぁっ!!」」
唐突に扉が開かれ、汗びっしょりの少女と、甘い香りを漂わせた少女が追加で校長室に入ってくる。酷く急いだようで、甘い香りの少女もまた普通より汗をかいている様子だった。汗びっしょりの子は、服が肌に張り付くくらいには酷く汗をかいている。
「あ、来たんだルビー?アスカ?」
「別にっ……はぁ、来る気が無かった、ワケじゃあ、ない、ですから……片付けに、少し……はぁ……」
「私も……。片付けしておかないと、誰に盗まれるか分かったモンじゃないし……」
まぁそれを危惧するのは分かる。遅れてしまったこの子達は、どうやら、それなりに真面目らしい。
こうして、黄色髪の少女が招集を掛けた生徒達は全員が揃ったようだ。
生徒会長のリエを含め7人──私を含め8人が、この校長室に入ってきている。それなりに狭い。
「それでは改めて自己紹介から始め…………先生?」
「……ッ……」
汗臭い匂いに甘い匂いに女子の匂いが、絵の具をブチまけたパレットのように混ざり合う。頭が既にクラクラしてきているような気さえする。
これは……まずい。鼻の下が伸びる────!!
次回────中途半端、その意味。
先生のハーレム編である第2部に、ハドマの生徒はそんなに登場しないと思われます。
次回、第3部のリンクをペタリと貼ります。
今日の豆知識
実は「人口密度の差が1540倍」というのはそんなに非現実的ではないのです。都市部と田舎の差です。
日本国内で例えると、蕨市と夕張市の人口密度差が約1676倍なのだそう。