「ハーレムルートを目指しましょう、先生」 作:アキラゼミ
先生の手によりビナーが転送される前、ビナーを追い掛けていた者が居た。ビナーの出現地域にその学校を構える、アビドスの面々だった。
「ちょっとちょっと、なんでビナーがアビドスからシャーレ方面に向かってるのさぁ〜っ!?」
「こんなこと初めてです〜……」
「……ダメ、ジリジリ離されてる。自転車じゃないと追い付けなさそう……」
しかし今のシロコの手元に自転車は無い。ただ、自らの足を使ってビナーを追い掛ける他には無い。それはホシノもノノミも、アヤネも同じであった。
「やっぱり、学校を出る前に聞こえたあの地鳴りはビナー出現時のものだったんですね……!」
「アヤネちゃんの言った通りだったよぉ、どうしてこういう時にビナーが来るのさぁ〜……」
「大晦日、しかも夜ですしね。最悪も最悪ですよ、曜日も月も週も関係無く出てきたとしても、確実にいつも
このまま真っ直ぐ進むならシャーレにぶつかる。それに気付いていた4人は、誰より危機感を持ってビナーを追い掛けていた。
「うーん。このままじゃあ、サクッと先生を拐ってセリカちゃんのバイト先の神社に行くどころじゃ〜なくなるかもしれないね〜……」
「……ノノミ、射程距離は確保できてる?」
「ダメです、ギリギリ範囲外です〜……」
「なら一か八か、ドローンで────」
「お困りのようねっ!」
「「「「!?」」」」
ビナーが通過した跡にうまれた瓦礫の山に立つ、1つのシルエット。それを見た4人はつい足を止め声の主に目が釘付けになる。
(これ、アウトローっぽい登場の仕方よねっ!)
「その声は────!」
「便利屋69の尺八魔……」
「便利屋68よっ!あと、社長の陸八魔よっ!」
「ん。今のはボケた」
「わ、分かりにくいボケね……」
「おやおやぁ〜、便利屋の社長さんじゃないの〜。どしたの、こんな所で?」
「私もたまたま、こっち方面に用事があったのよ。そうしたら何よ、あの大きいヘビみたいなのは……!空が赤く染まったあの日に色違いの似たようなのは見たけど!」
そう言いながら、アルもホシノ達に合流して共にビナーを追い掛ける。街中では避難警報がうるさく鳴り響き、ビナーに近付こうとしているホシノ達がアルの目にも異端に写っていた。
「あぁ、色で言うのならコッチがノーマルタイプ。目の前のアレが、いつもの色なんだ〜」
「そ、そうなのね──って、それはいいのよ!何かアレが街中に居るし、知り合いのあなた達はアレを追い掛けてるし!一体、何が起きているの!?」
「あ、そうそう!アレ、ビナーってんだけどさー。どうもいつもより速くて止められないから、少し、足止めしたくって」
「足止め!?足止めしてどうするのよ!?」
「私達ならアレ撃退できるからさ。でも、なーんか妙なんだよね。いつもよりも小さいしいつもよりも速い。しかも、頭の部分にトサカ?みたいなのが、ピョコピョコピョコッ……と生えてない?」
「た、確かに……身体と同じくらい白っぽいのが3つくらい?生えてるように見えるわね……?」
「というか、人に見えませんか?」
「ん。白い格好の3人組……に見える」
実際、白い3人──アイン、ソフ、オウルが頭に乗っているので、そう見えるのは間違いではない。そしてアビドス組もアルも、シャーレに訪れていた3人とは既に面識があった。
ヤケに白い子達だな──とは思っていたものの、まさかデカグラマトンの預言者のエンジニアだとは夢にも思わず、そしてその3人がああしてビナーの頭に乗っているとは思わず、彼女達の中でビナーの頭上の謎の3人とアイン、ソフ、オウルが結び付くことは、ついぞ無かった。
「ともかく、アレの足止めができればいいのね?」
「え。……そうだけど、社長さん、できる?」
「遠ざかりつつあるビナーだけど────この位、簡単よ。片手でも命中させられるわ」
得意げにビナーに銃を向けるのと同時にビナーに爆発性の弾を放つ。爆発で足を止めるだろうと予想していたからだった。
しかし爆発すると思ったその瞬間、ビナーは瞬間移動でもしたかのように、彼女達の目の前でふっと消えてしまったのだった。
「…………あら?爆発前に消えた……?」
「潜っちゃった……ワケじゃないですよね?」
「もしアスファルトに無音で潜れる技術がビナーにあったなら、とっくにアビドスは廃校だよぅ……」
「で、ですね……」
「とにかく、ビナーはもう居ない……って事で、もういいんじゃないかしら?」
「いやいやぁ、そうもいかないよ。アイツ、地面に潜ったと思ったら少し離れた所から出てくるもん。今後しばらくはこの近辺で警戒する必要がありそうかもしれないねぇ」
「ですね。──そういう事で、社長さん♪」
「見回りにも、付き合ってくれるよね?」
「えええええっ!?な、なんで!?どうしてよ!」
「だってさ〜、今の流れを見ての通り?私達よりも社長さんの方が射程もあるし、足止め技術もあると思うんだよね。お願いだよー、今度お仲間も含めて柴関ラーメン奢ってあげるからさ〜?」
「っ!……その言葉に偽りは無いわね?」
「うんうん、アビドスの副生徒会長の言葉にウソは無いよ〜」
「分かったわ!ビナーの警戒に付き合ってあげる!もしもの時はドーンと任せなさいっ!」
「わぁ、さっすが社長さんだぁ。太っ腹〜」
「困った時の助け合い、ですね!」
「ところでアルさん、いつものお仲間さん……3人はどうされたんですか?」
「社員達なら、私をコッチに送り出して────」
こうしてアルはアビドス組とパトロールを開始。大晦日はそのまま、アビドス組とのパトロールで、しかも野外で夜を過ごし、朝を迎えた……。
◆
一方その頃……。
(ビナーが消えた?何があったんでしょう……?)
「あっれェ〜?浦和ハナコじゃん!こんなところで何してるのかな?」
「ッ!ミカさん……!」
シャーレの先生の手によりビナーがD.U.近郊から消えたその頃、ビナーの周辺に居た生徒は避難する流れでそれぞれが合流しつつあった。
「ん?あれ、聞こえてないのかな?
「……シャーレに向かっています、それが何か?」
「ッッッ」
「!?」
誰もが知るシャーレの先生の婚約者の問いにも、真正面から答える。その内容は、まず間違いなく、今発せられればミカと敵対すると胸を張って堂々と宣言するに等しい言葉。
それを聞いたミカは地を蹴り跳躍──空中で身を捻り、ハナコの顔へ回し蹴りを仕掛ける。
「キャッ……!」
身を屈めて蹴りを躱すハナコ、しかしバランスを崩して倒れてしまう。そんな彼女の前にしゃがみ、真上から見下ろす。
「大晦日のシャーレに何の用かなぁ?先生は今頃、もう仕事納めしてマッタリしてる頃だと思うよ?」
「ええそうでしょうね、だからこそ行くんですよ?私が先生の今年1年の疲れを労って差し上げようと思いまして♪」
「うーん。分かんないのかなぁ。そのお役目は私で十分だって言ってるんだよ?」
「いえいえ、わざわざミカさんが行かずとも、私で十分なんですよ?私の溢れんばかりの母性で先生を優しく包み込みますから」
埃を払いながら立ち上がり、更にシャーレ方面へ歩みを進める。ミカも立ち上がると、わざとらしくハナコの隣を歩き、顔を覗き込んでくる。
そんなミカの事をハナコは完全に無視して、目は真っ直ぐにシャーレへ向け、歩調を緩めずに前進。
「アハハ!面白いね?水着で所構わず出歩くような痴女のクセに、私の先生のそばに居ていいと本気で思ってるのかな☆」
「私の……ですか。ふふっ……あぁ、そうでしたね。ミカさんって、先生の婚約者さんですものね?」
「そーだよ?記念すべき新年は、未来のお嫁さんと過ごすべきじゃん?指輪で一目瞭然でしょう?」
「指輪が何の証明になるんでしょう。役所に正式な届出を出したワケでもない、言い方を変えれば未だただの口約束でしかない婚約で。指輪に、そんなに固執しているだなんて……」
「……口約束?…………言ってくれるじゃん」
「ですが実際、そうでしょう?──ミカさんって、ふわふわそうなその見た目通り、メルヘンチックなお姫様なんですね♪」
「────ッ!!」
拳を握り、満面の笑みを浮かべるハナコの顔面にアッパーを放つミカ。しかしその拳が顎に到達する前に、銃弾の雨がミカを真横から打ち付ける。
「いたたっ!?な、なに……?」
「嫌な予感がして来てみれば……一体何事?」
「あらまぁ……」
「ゲヘナの風紀委員長……?」
2人と同じくシャーレに向かっていた風紀委員長空崎ヒナが、ハナコを殴り飛ばそうとするミカを、すんでのところで止めたのだった。
しかしミカはゲヘナ嫌いで有名だ。よりによってゲヘナ学園の生徒が自分の邪魔をしに来たことで、ミカの拳には更に力が込められて、血管や筋などが腕にも手にも浮かび上がる。
「こんなシャーレの近所で問題を起こして、先生に知られたらどうするつもり……?」
「あなた、ゲヘナのヤツだよね。その『シャーレの近所』で、何してるの?」
「質問しているのは私よ。先に答えなさい」
「角の生えたゲヘナ人のクセに生意気ね。その角、へし折ってあげよっか?角が生えたそのシルエット見るだけでムカつくのよね。その角をへし折れば、少しはこの気持ちも落ち着くのかな?」
「……あなたのその姿、もしも先生が見たら、さぞやガッカリするでしょうね」
「どうかなぁ?先生、私がゲヘナが大ッ嫌いなのは知ってるし」
「それはそれとしてまずあなたのその態度に引くんじゃないかしら。嫌われる前に大人しく帰った方が将来的にあなたの為になると思うけれど」
「はー?なにそれアドバイスのつもり?あなたさえ居なくなれば先生にこの話が伝わることもないし、さっさと帰れば?」
「私はまだ帰らない。明日の新年を先生と祝う為、シャーレに行くから」
「それは私で十分だってば。さっき浦和ハナコにも言ったけどさ。そういうのはさ、将来のお嫁さんの私で十分だし?──それと、セイアちゃんは身体が弱くて来れないみたいだから、セイアちゃんの分も私が先生にご奉仕しなくちゃ☆」
「将来のお嫁さん……?面白い事を言うわね」
「……は?」
「それを言うなら私も、このハナコさんも、先生の将来のお嫁さんよ。先生、言ってたもの。『将来はハーレムの全員と結婚するからね』ってね。だから先生のハーレムに入っている子は全員が婚約者よ」
「!!」
「あなたは、自分は私達よりも進んでいると勝手に思い込んでいたようだけれど。実際の所、私達は、同じスタートラインで横並びになっているのよ」
「いやいや、どう考えても違うでしょ。私、指輪も貰ってるんだけど?」
「──先生のお金には限りがある。指輪が渡されるタイミングに差が生まれてしまうのは仕方ない事。というか、先生から贈られた指輪で──それでしかマウントを取れないなんて……小さい女ね」
「……あ?」
「行きましょ、ハナコさん」
「え、ええ……」
ハナコの袖を引いて、シャーレ方面へ歩き出す。しばらくそのままポツンと立っていたミカだったがヒナとハナコの背中が小さくなり始めた頃になり、アスファルトにヒビが入る程の
「あんた……何て言ったの?ねェ?」
「聞こえなかったのならそれでいいわ」
「聞こえてるよッッ!!どっちが小さい女よ、どっちが!!」
「自分の心に聞いてみればいいじゃない。いちいちマウント取って、上から見下したつもりになって。自分のその行動が先生の幸せを────ハーレムを壊しかねないと気付いているのに、やめられない。とんだ勘違い女だわ……」
「このッ……黙って聞いていれば!!」
「はぁ。別に事を構えるつもりは無かったけれど、そっちがそう来るのなら──もう、容赦はしない。実力行使で黙らせてあげるわ」
一抹の躊躇も無くヒナに銃を向けるミカ。それを受けて、このままやり過ごす事は無理そうと察したヒナは、ミカに向き直ると同じように銃を構える。
ヒナは手をヒラヒラと動かし、ハナコの事を先に行かせようとするが──ハナコはそれを拒みヒナの援護につく事にした。
「……勝てる見込みは薄いわよ」
「構いません。私1人なら、確実に負けますから。ですが、ヒナ委員長さんとなら幻の『万に一つ』が起こりうるかもしれない。私はヒーラーですけど、委員長さんのサポート程度はできるつもりですよ」
「……ウトナピシュティムでのあなたの活躍ぶりは、アコから聞いてる。
「ふふっ、光栄です♪」
そして始まった、ミカvsヒナ&ハナコ。後方からハナコがヒナの回復に終始し、ミカは肉弾戦を交えヒナを激しく攻め立ててくる。
大きな銃身は振り回すのに向いておらず、ましてパワーに劣るヒナは、じわじわと、ミカの肉弾戦に押されつつあった。
1発の攻撃力はミカが、機動力もミカが上回り、ヒナが勝っている点と言えば、上手くミカをハメた瞬間の連続攻撃くらい。
それでも、ミカの優れた防御力の前には及ばず、ヒナの見込んだ通りではあるものの2人掛かりにも関わらず早々に押され始まってしまった。
「くっ……『
「だからさ、そんなの私には殆ど効かないってば☆ まだ分からないのかな?……『
「ッ!痛いわね……どうして隕石なんか降らせる事が出来るのよ、神話のバケモノみたいな能力ね……」
「ふふっ、隕石を『痛い』で済ませるあなたも大概バケモノだよ。……じゃ、これでおしまいだね」
「「!!」」
「あなた達の為に────祈るね☆」
「っ……ここまで、ね……」
「諦めないでくださいっ!」
「「!?」」
「ここは私が一肌脱ぎますッ!
支援を申し出ておいて、前線に出てきたハナコ。ヒナは、目の前のハナコが何を言っているのか全く理解できず、頭の中がクエスチョンマークで瞬時に埋め尽くされていく。
「フォルム……?」
「チェンジ……?何を言ってるのか分からないけど、2人共、もう終わりだよ。『
「『
「キャッ────!?」
「え」
ミカのEXが放たれようとした瞬間、ハナコは、これまで使っていた回復の為のEXと異なるモノを使用していた。しかもハナコの服装は、ワイシャツ1枚だけを羽織りピンクの下着か水着が薄く透けて見えるという、極めて際どいモノに変わっていた。
「ふふっ♡ ミカさんってば、びっくりするあまりキャンセルしちゃいましたか?」
「な……に、よ……これ……!?」
「……少しは頭、冷えました?」
空気が澄み、星々がよく見える寒空の下────真冬の夜に、ミカは全身に水をかけられて、全身がぐしょ濡れになってしまった。
「せっ、折角おめかししてきたのに、ビショビショじゃない!こん……こんな、姿じゃ……ッ……」
「
「このクソ女ッ──『
「!」
「クッッ!」
「キャッ……ヒナさん!?」
ミカがハナコにEXを使う、しかしヒナが彼女を突き飛ばし標的をすり替え、ハナコの身代わりに。折角のオシャレも台無しになった事でミカはEXを放つなり背を向けてトボトボ帰って行ってしまう。
「ゲホッ……あぅ……ッ」
「ヒナさん、しっかりっ!」
さしものヒナも、ミカの攻撃を集中的に浴びればボロボロになってしまう。ハナコは、慌てて回復のスキルを使うが、ヒナはそれを手で制する。
「大丈夫……。近くに風紀委員会の支部があるから、そこで休んで帰るわ。私もあの人と同じ。こんな、ボロボロの格好で……先生の前には出られない……」
「……どうしてヒナさんが私を庇ったりなんか……。ミカさんを不必要に煽ったのは、私なのに……」
「まあ……確かにね。煽り過ぎだとは思ったけれど。だけどそれ以上に、自分だけが優位だと思っていたあの女の鼻を明かす事ができて、スカッとしたの。私、あなた程には口が回らないから……。それでも、言われっぱなしは癇に障るし……モヤモヤしてた」
「っ!」
「だから、ありがとう。こんな事は、絶対に先生の前では言えないし、言いたくもないけれど。今のはそれなりに……スッキリしちゃったわ」
「ヒナさん……」
「それでも、心配ではあるけれど。風邪引かないといいけどね。あんなビショ濡れで……」
「──大丈夫じゃありませんか?
「……。私、トリニティの中でも一番、あなたを敵に回したくないかもしれないわ」
「あらあら、ふふっ♡ 私も、同じ気持ちです♪」
「……それじゃ、気を付けていくのよ。先生のことは任せたわ」
「今度一緒に、先生のこと襲っちゃいましょうね♡ きっと、良い対比になってお互いが映えますよ♡」
「襲……っ!?」
「それではヒナさん、良いお年をっ♪」
「良いお年を…………って、水着のまま行くの?」
ヒナが振り返ると、既にハナコの姿は無く、ただ無造作に脱ぎ捨てられていた、ハナコの制服だけが残されていた。
それを見たヒナは小さく溜め息をつくと、綺麗に畳んで風紀委員会の支部へ持ち帰り、シャーレへの荷物として発送する事にした────。
次回────ハナコvs???
先生と親友以外にはドギツイ面を見せてくれミカ。そんな場面を
でも他の生徒もミカのそんな悪辣な面を知りながら先生には告げ口なんてできないんだよね。告げ口で先生の幸せが壊れかねないって考えてしまうから。
だからせめて、告げ口とは違う別な方法でミカから先生の心を奪おうと頑張るんだよね。
歪んだ性癖かもしれん。
そういう女に惚れてた過去があるせいかもしれん。
ミカ大好き……。