基本的に閑話は恋愛チックなお話中心になる予定です。
『ピンポーン』
「んー……」
チャイムの音で目が覚める。隣で寝ていた栞子も同じく目が覚めたようだ。寝起きがいいのか、パッチリと目を開いてこちらを見つめてくる。
「おはようございます、雄介さん」
「ん~、あと5分……」
「……」
まだ6時半だ。こんな早くに起きなくとも学校には間に合う。というかこんな時間にチャイムを鳴らさないでくれ。もっと寝させてほしいと布団の中に潜り込む。
だが栞子は無視されたことが不服だったのか、同じように布団に潜り込んできて、頬に手を添え軽くキスをしてきた。
「ちゅぅ……ん、目は覚めましたか」
「……あと10分」
「むっ……意地でも起きないつもりですね……雄介さんがそのつもりなら私にも考えがあります」
布団の中でさらにもぞもぞとしたあと、俺のズボンとパンツを下げ始めた。
「朝からこんなに……朝勃ち、というものですよね」
しなやかな指でそっと肉棒が包まれる。布団の中は暗く、どんな表情をしているかは全く見えないが、昨日の様子から想像するに、おそらく紅潮させながらうっとりとした表情をしていることだろう。フェラか手コキをするつもりなのかもしれないが、眠いから今は寝させてほしい。
「硬い……それに熱いです……」
栞子の手がゆっくりと上下に動く。手も肉棒も乾燥しているため滑りがあまりよくなく、はっきり言うと摩擦で少し痛く、あまり気持ちよくない。俺のことを想って頑張ってくれてるから言わないけど。あと二度寝させてほしい。
「ん、ふっ……ふっ……んー、乾燥していて少しやりにくいです。……あっ、唾液を使ってみてもいいですか?」
「んー、いいよー……」
「じゅるっ……もう少し……じゅる」
肉棒に粘性を持った液体が付着する。潤滑剤として唾液を垂らしたのだろう。昨日から栞子の知識というか発想には驚かされる。エッチ方面の適性高すぎるだろ。
「これでスリスリしやすくなりました。唾液でねちょねちょしてしまうのが難点ですが……雄介さん、気持ちいいですか?」
「んー……眠い……」
「はぁ、先程からそればかり……昨日の性交で、私にはもう飽きてしまったのですか……?」
「そういうわけじゃないけど……」
「でも今日は少し冷たいです」
「だってまだ6時半だし……」
「それを加味したとしても、眠いという一言だけなのはあまりにも冷たいです。私はもっと雄介さんと……その、い、イチャイチャしたいんです……」
手コキをしながら俺の隣に寝転がり、ピタリと体をくっつけてくる。栞子の瞳は不安そうに揺れていた。
「んー、じゃあこうしよう」
栞子の体に手を回して抱きしめ、ちゅっと唇を重ねる。舌を入れようとするとすぐに受け入れ、嬉しそうに頬を緩ませて舌を絡めてきた。
「んむっ……ちゅ、じゅるっ、ん、れろっ、れるっ、んっ、んくっ」
愛情を確かめ合うようにディープキスを続けながら、栞子は手コキで快感を与えてくる。寝たいという欲求より栞子と愛し合いたいという欲求の方が強くなったからか、先程まではあまり感じていなかった快感が襲ってくる。
「ん、ぷはっ……おちんちん、ピクピクしてますよ。特にここを擦った時、ここが一番気持ちいいんですね」
「うっ……」
そういってカリを刺激するように、素早くしごいてくる。俺の弱点を見つけて嬉しいのか、小悪魔のような笑みを浮かべている。こんな表情もできたのかと少し感心してしまった。俺も負けていられないと、シャツの上から胸を揉みしだく。
「ひゃっ! い、今は私が……んぁ、ぁ、ふぁ、あんっ! ちくびはだめぇ……」
シャツの上から乳首を爪で掻く。乳首が敏感な栞子は大きな反応を示し、肉棒を握る手にギュッと力が入った、急に強く締め付けられ、一気に射精感が高まる。
「栞子、挿れてもいい?」
「え……で、でも今日は学校が……んんっ!」
「こんなに濡らしてるのに?」
割れ目を軽く撫でると、ねっとりとした愛液がぴちょりと音を立てた。昨日ほどではないけど、挿れるのには十分だろう。それにしても……
「ちょっとしかしてないのに、栞子はこんなに濡らしちゃうんだ。期待してた?」
「そ、その……さ、昨晩少しえっちな夢を見てしまいまして……朝起きたらもう濡れていて……」
「へー、夢で興奮しちゃったんだ。どんな夢だったの?」
「言いたくありません……」
「ふーん」
「あぁっ! 指入れちゃダメです! んんっ、言いますっ、言いますから!」
「ん。わかった。具体的によろしく頼む」
「うぅ……その、私と雄介さんが、ベッドの上でいっぱいエッチをする夢でした……。ギュって抱きしめてくれて、いっぱいキスしながら、いっぱいいっぱいおちんちんに突かれて……」
「そうされて夢の中の栞子は喜んでたんだ」
「……」
俺の問いには何も答えず、服をギュッと掴み、潤んだ瞳で見つめてくる。何を求めているのか察しろと言わんばかりだ。
「シたい?」
「……」
「恥ずかしくて言いたくない?」
顔を真っ赤に染め、コクリと頷いた。そんな可愛らしい仕草に思わずキスをしてしまう。
「ちゅ……ん、今日の雄介さんは少し意地悪です」
「だって朝早くに叩き起こされたし」
「まだそんなことを……」
「だから栞子とめっちゃ気持ちいいセックスをして目を覚まそうと思って」
「もう、性欲に忠実すぎますよ」
「いやいや、それは栞子もだろ。何も言ってないのに手コキとか始めておいて」
「そ、それは雄介さんを起こすために……んむっ、んぅ……ぷぁ、話している途中にキスしないでください!」
「ごめんごめん。必死に言い訳する姿が可愛くてつい」
どれだけ言い繕っても、肉棒から手を離さないあたり栞子もシたくて仕方がないのだろう。でも自分から言い出すのは恥ずかしいから、俺から誘ってほしい……って感じかな。
「栞子、ゴム取って」
「……はい」
栞子は嬉しそうに微笑み、布団から体を出してゴムが入った箱に手を伸ばす。昨日栞子とヤったしもう隠す必要はないかと机の上に置いておいたから、手に取るのも楽だろう。
『プルルルル』
「あ……姉さんから電話です。出てもいいですか?」
「もちろん。電話が終わったら、栞子の大好きなおちんちんでいっぱい気持ちよくしてあげるからな」
「は、はい。電話中はダメですからね」
「わかってるって」
布団から顔を出して、栞子の電話を見守る。
「はい。……あ、もう? もしかして先程のチャイムは姉さん? ……はい、今から受け取りに行きます」
「……薫子さんなんて言ってた?」
「もう家の前まで来てるみたいです。なので制服などを受け取りに行ってきます」
「あいよー」
「そ、その……戻ってきたら、いっぱい気持ちよくしてください」
「まったく、可愛い奴め」
体を起こし、軽くキスをする。
「ん……あ、姉が待ってますので」
頬を紅潮させながら部屋を出ていってしまった。……そういえば裸にシャツ1枚の格好で行ってしまったけど大丈夫だろうか。
『し、栞子!?』
『きゃあああああ!!!』
「あー……」
大丈夫じゃなかったかー……ドアが閉まった音がしたのに、栞子と薫子さんの話し声が聞こえる。多分薫子さんも家の中に入ってきたんだな。……よし、二度寝して薫子さんの追及を逃れよう。
あの後栞子は叫びながら俺の部屋に駆け込んで、俺から布団を強奪し、亀のようにその中に閉じこもってしまった。そのうち出てくるだろうと思い、リビングで薫子さんと雑談する。というかなんでこの人普通にリビングでくつろいでるんだろう……わざわざ栞子の荷物持ってきてくれたからいいんだけどさ。
「いやー悪いね、朝からお邪魔させてもらって。もぐもぐ」
「いやあの、それ俺と栞子の朝飯なんですけど……」
「ん、後で2人分の朝ご飯買ってあげるからさ」
「そういう問題じゃ……」
朝飯用に買っておいたパンを勝手に食べている。1個だけならともかく、すでに2個目を食べ始めている。
「……でも2人が仲良くやってそうでよかったよ」
「さっきの栞子の姿を見て、薫子さんが想像した通りの仲の良さですよ」
「あー……うん、2人とも高校生だから、正直予想はしてたけどね。でも実際に妹のあんな姿を見るとね、覚悟してても動揺しちゃうよね」
「それは栞子も同じだと思いますよ。大好きな姉にあんな姿を見られて……」
「栞子も少し無警戒すぎるとは思うんだよねー」
「それはそうですね。せめてズボンか何かを履くべきだったとは俺も思いますよ。その場では言わなかった、というか言えなかったですけど」
「そこは栞子のためにも言ってあげてほしかったな」
「戻った後のことに期待してたのか、そそくさと出ていっちゃったので。ナニとは言わないですけど」
「……若い子は元気でいいねぇ」
薫子さんは顔を赤くしてボソリと呟く。そっち方面の話に耐性があるかと思っていたが、そういうわけではなさそうだ。話題に出すのはやめておくか。
「……それにしても、栞子が彼氏を作るなんて想像もしなかったなぁ」
「そうですか?」
「私が家を出るまでは恋愛の『れ』の字もなかったしね。戻ってきても男の子の影もなかったし。だから彼氏だって雄介を紹介されたときはこれでもかってくらい驚いたよ」
「あー、確かにあんぐりと口開けてましたもんね」
「……私は雄介が栞子の彼氏でよかったって思ってるよ。これからも栞子のそばにいてあげてね」
「もちろんです。ずっと栞子と一緒にいて、一生をかけて幸せにします」
「うんうん。浮気なんかしたら栞子は怖いよー?」
「でしょうね。別に浮気するつもりはないですし、そもそもそんな相手いませんし。俺のことを好きになってくれる人なんて栞子くらいですよ」
「あー……うん、そうね。本人がそう思ってるならいいや」
薫子さんは複雑な表情をしている。昨日の栞子もだけど、俺が誰彼構わず口説くような人間に見えるのだろうか。
「はぁーあ、まさか私より先に栞子が彼氏作っちゃうなんてなぁ……」
「薫子さんにもいい人がきっと見つかりますよ。いつになるかは知らないですけど」
「おーおー、無責任なこと言ってくれるねー。……5年経っても彼氏ができなかったら、その時は栞子と一緒に私も雄介にもらってもらおうかなー」
「薫子さんはもう恋愛対象外の年齢なので」
「……冗談のつもりだったけど、ずばずば言ってくるね」
お昼休み。綺麗な青空の下、レジャーシートに寝転がり、誰にも邪魔をされないゆったりとした時間を過ごせる、学校生活の中で俺が一番大好きな時間だ。特に今日は売店で買ってきた大量のお菓子がある。午後の授業をサボりたいくらい最高の昼休みだ。というかサボるか。
「雄介、君?」
「ん-? ああ、歩夢さんか」
上を見上げると不思議そうにこちらを見下ろす歩夢さんがいた。……なるほど、ピンクか。明らかに栞子と比べてお尻が大きい。揉みごたえがありそう……ってこんな妄想をするのをやめよう。歩夢さんに失礼だ。朝はいいところで寸止めされてしまったから、変にムラムラが溜まってしまっているのだろう。よくないなぁ……まぁこの素晴らしい光景を心のアルバムに収めるくらいはいいだろう。それにしても少し無警戒すぎる気もするが……俺じゃなかったら襲われててもおかしくないぞ?
「こんにちは、こんなところで何してるの?」
「んー、お昼のリラックスタイムってところですかね」
「そうなんだー」
「歩夢さんはどうしてここに?」
ここは滅多に、というか全くと言っていいほど人が来ない場所なんだけどなぁ。だからこそ絶好のサボり場所として活用してるわけなんだけども。
「うーんとね……ちょっと悩み事があって、気分転換に歩いてたらこんなところに……」
「ふーん」
「……雄介君、私のお悩み相談してもらってもいい?」
「いいですよ。俺に答えれるようなことであれば、ですが」
隣をポンポンと叩き、ここに座るよう促す。すると歩夢さんは嬉しそうにはにかみながらそこに座った。
「うん、ありがとう」
「それで歩夢さんの悩みというのは? スクールアイドル関連のことです?」
「ううん。そのね……えぇと……」
珍しく歩夢さんの歯切れが悪い。そんなにも言いづらい内容なのだろうか。
「その、クラスの男の子から告白されて……」
「え、マジですか?」
「う、うん。『好きです、付き合ってください』って……」
「そ、それでなんて返事したんです?」
「その、まだ返事できてなくて……」
「断るでも付き合うでもなく? それはどうして……」
「どうしたらいいかわからなくて……すっごく真剣に気持ちを伝えてくれたから無碍にしたくないの。でも、その……」
「ん?」
「その、私……す、す……好きな子がいて……」
「え……えぇぇぇぇぇ!? ま、マジですか!?」
「う、うん……」
あまりの驚きに体を起こして真偽を尋ねる。すると歩夢さんは顔を真っ赤に染め、こちらを潤んだ瞳で見つめながら頷いた。
「そうなんですね、知らなかったなぁ」
「だ、誰にも言ってなかったから……」
「侑さんにもですか?」
「うん。でもきっと誰が好きかまで、侑ちゃんには態度でバレちゃってると思う」
「へぇ」
侑さんも知ってる、または多少の接点がある人か……誰だろう、同好会の関係者? 別に探る気はないけれど、あの歩夢さんの意中の人となるとどうしても気になってしまう。
「んー、まぁ歩夢さんの悩みは理解しました。答えになってるかはわからないですけど、歩夢さんが選ぶ選択肢は3つだと思います。1つ目が好きな人に振り向いてもらえることを信じて、告白してきた人を振る。2つ目が好きな人を諦めて、妥協って言い方はあんまりよくないですけど、告白してきた人と付き合う。3つ目が全てをうやむやにする。『告白? そんなのありましたっけ?』って感じで。でも歩夢さんは……」
「真剣に言葉を伝えてくれたから、私もちゃんと返したい」
「ですよね。だから1つ目か2つ目か、歩夢さんの心が望む方を選べばいいと思いますよ。振ることも諦めることもどっちも辛いことだと思いますけど、でもどっちもは選べないので」
「私が、望む……私の好きな子はね、すっごく素敵な人なの。不真面目に見えて実は真面目で、私が困ったり悩んだりした時は傍で一緒に考えてくれて、皆に優しくて……時々優しくされた人に嫉妬しちゃうけど、でもやっぱりその子の優しいところが大好きで……そんな素敵な人を諦めるなんてしたくない。それに自分の気持ちを押し込めてその人と付き合うなんて、好きな子にも告白してくれた人にも不誠実だよね。だから私もちゃんと自分の気持ちを伝えなきゃ!」
「はい、頑張ってください」
珍しく真面目なことをしたからか疲れてしまった。おやつでも食べて脳を休めるか。可愛らしく気合いを入れる歩夢さんを横目に、買っておいたベビーカステラの袋を開ける。
「あっ、私も食べていい?」
「いいですよ。はい」
2人の間に袋を置く。歩夢さんはそこから1つ取り出した後、俺と同じようにシートに寝転がり、取り出したカステラを口に含む。
「ん~おいひぃ~」
本人には口が裂けても言わないけど、この人意外と食いしん坊なんだよなぁ。そういうところが可愛らしくて、歩夢さんの魅力なんだと思うけど。
「雄介君はよくここに来るの?」
「んー、まぁそうですね。人がいなくて落ち着けますし、昼は日がよく当たるし風通しもよくて気持ちいいんですよ」
「確かに気持ちいいね。彼方さんが好きそうかも」
「そうかもですね。俺の秘密の場所なので絶対に教えないですけど」
「……私もたまに遊びに来ていいかな?」
「えー……」
「むぅ~」
歩夢さんという名の監視の目がつくとサボりにくくなっちゃうし。俺の反応が不服だったのかフグのように頬を膨らませている。意外とあざとい……。
「いいもん、雄介君の許可がなくても勝手に来ちゃうもん」
「……まぁいいですけど」
「やったっ。えへへ、毎日来ちゃお~」
さっきたまにって言ったのに……別に俺も毎日ここにいるわけではないからいいけど。
「まだまだ雄介君と一緒にいたいのに、もう授業が始まっちゃう……そろそろ戻らないと授業に遅れちゃうよ」
「そうですね。ではまた」
「……雄介君は行かないの?」
「俺は午後の授業サボるつもりなので」
「えぇ!? だ、ダメだよ! 先生に怒られるよ?」
「大丈夫です。生徒会の仕事って嘘つけば公欠扱いになるので」
「……どうして生徒会にいられてるのかなぁ」
それはですね、教師の謎権力により生徒会に在籍させられているからですよ。成績がいいからか、サボりの理由に生徒会を使っても何故か生徒会担当の先生から怒られないのです。
「そういうわけですから、俺はずっとここにいますね」
「もうっ、サボりはダメ!」
再びフグのように頬を膨らませ、俺の手を取って無理やり立たせようとしてくる。だが俺も至高の時間を邪魔されるわけにはいかないので、全身全霊で抵抗する。
「嫌です! 今日は絶対にサボるんだい!」
「わがまま言わないの! 雄介君が停学や退学になったら悲しむ人がいっぱいいるんだから!」
「生徒会権限を全力で行使するから大丈夫ですぅ!」
「そんなことばっかり言ってたら本当に生徒会辞めさせられちゃうよ!?」
『キーンコーンカーンコーン』
「「あ……」」
歩夢さんとの攻防を繰り返しているうちにかなりの時間が経っていたようで、負ける寸前で授業開始のチャイムが鳴った。その音に気を取られた歩夢さんは手の力が抜け、その隙に手から逃れて再び寝転がる。
「ど、どうしよう……私も不良生徒になっちゃった……」
「まぁまぁ歩夢さんも今日くらいは俺と一緒にサボりましょうよ。いつも頑張ってるんですから、1日くらいサボったとしても栞子とせつ菜さん以外怒ったりしませんって」
「そんな無責任な……」
「俺の権限で、生徒会の仕事の手伝いをしてたってことで公欠扱いにしておきますから」
「……もうっ、こうなったらとことん私に付き合ってもらうからね!」
またしても頬を膨らませてプリプリと怒りながら、俺と同じように寝転がる。そして俺のお菓子に手を伸ばし、パクパクと食べ始める。お菓子を口に含んだ途端に怒りの表情が解け、柔らかく見ているだけで癒されるようないつもの笑顔になる。
「……? 雄介君も食べたいの?」
「いえ、そういうわけではないんですけど……」
「も、もしかして顔にお菓子くっついてる!?」
「それは大丈夫です。食べかす1つない綺麗な口元です。ただ、その……」
「その?」
「美味しそうにものを食べる歩夢さんは可愛いなぁと」
「きゅぅ……う、嬉しいけど、むやみやたらに言っちゃダメだよ……?」
「大丈夫です。心の底から可愛いと思った人にしか言わないので」
「も、もうっ、先輩をからかっちゃダメ!」
「あっ、バレちゃいました?」
歩夢さんってめちゃくちゃ純粋でいい反応をしてくれるから、ついついからかっちゃうんだよな。あと先輩とは言うけど、3月と4月で1ヵ月くらいしか生まれの差がないんだし、俺とそこまで変わらないだろうといつも思うんだよなぁ。もちろん尊敬や敬意といった気持ちはあるけどね。
「でも歩夢さんのことを可愛いって思ってるのは本当ですよ。心の底から思ってます」
「はぅ……もうっ、もうっ、雄介君のばか! もう知らないっ!」
顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。からかうつもりだったとはいえ、本当のことを言っただけなんだけどなぁ……あれ? こういうところが栞子と薫子さんから微妙な反応をされる要因なのか……?
「……ねぇ雄介君。雄介君は好きな人とかいないの?」
「急にどうしたんです?」
「いいから。私の好きな子のこと教えてあげたでしょ? だから雄介君のことも教えてほしいなぁ……なんて。さっきからかってきたことはそれでおあいこにしよ?」
「なるへそ」
さて、どう答えたものか……。もちろん俺の好きな人は栞子だ。だが栞子と俺の関係は薫子さん以外誰も知らない、トップシークレットの情報なのだ。だからバカ正直には答えられないし、かといって適当に濁すのは歩夢さんの瞳が許してくれない。少し潤みながらも、どこか期待をはらんだ瞳で真っすぐこちらを射抜いてくる。
きっと最良の答えは『歩夢さん』なのだろう。歩夢さんに恋愛感情は当然ないとしても、好意をぶつけられたらきっと嬉しいはずだ。でもそんな栞子にも歩夢さんにも不誠実なことはできない。歩夢さんのことは好きだけど、それは決して恋愛感情的な好きではないからだ。
「……答えにくいなら、私からいくつか質問していい?」
「いい、ですよ」
「じゃあ1つ目ね。その人は私の知ってる人?」
「イエスです」
「2つ目、雄介君と同じクラスの子?」
「ノー」
「次が3つ目ね。うーんとね、雄介君と同じ1年生?」
「それは答えられないですね」
「むぅー……じゃあ4つ目、その人の髪型は? ショート? それともロング?」
「うーん、それも秘密で」
「むぅ、全然答えてくれない……」
「だって今後の質問によっては個人が特定されそうですし」
「……じゃあ次が最後ね。その人は、スクールアイドル同好会に所属していますか?」
「……イエス、です」
「ふふっ、そっか」
候補者を13人まで絞れて満足したのか、にっこりと微笑み、未開封のお菓子に手を伸ばした。まだ食べるつもりなのか……。
「ふんふんふーん♪」
「ご機嫌ですね。たかが13人まで絞っただけですよ?」
「たかがじゃないよ。100人くらいの中から13人にまで絞れたんだもん。それに……」
「それに、何です?」
「な、何でもないの! 気にしないで?」
「ふーん」
何やらずっと顔が赤いし、妙に上機嫌だ。まぁなんでもいいんだけど。機嫌がいいのはいいことだし。歩夢先輩の腕の中にある袋に手を伸ばし、お菓子をつまむ。
「美味しい?」
「はい、おいひいでふ」
「よかった。……あっ! そういえば今日放課後に同好会の皆でお茶会するんだけど、よかったら雄介君もどうかな?」
「あー、それですね。今日はちょっと生徒会のタスクが溜まってて、行けそうにないんですよね……」
「そうなんだぁ……誰かからお茶会のこと聞いてたの?」
「はい、エマさんから昨日聞きました」
「エマさんが……」
「……どうかしました?」
「えっ!? そ、その、雄介君が来ないのは残念だなぁって」
「そんなにですか?」
「うん。だって雄介君となかなか会えないんだもん。部室にもなかなか来てくれないし……」
「だって俺スクールアイドル同好会所属じゃないですし。そりゃ用がある時にしか行かないですよ」
「それはそうだけど……でも雄介君に会えないのは寂しいだもん。ランジュちゃんも雄介君と遊びたいって言ってたよ?」
「ランジュさんか、確かにしばらく会ってないかも」
でも会ったら会ったで大変なんだよなぁ。人前だろうと構わず抱きついてくるし。その時の勢いが強すぎて、貧弱な俺では衝撃に耐えられないんだよ。しかもダイナマイトボディだし、いい匂いがするし、可愛いし。そんな人が俺に甘えるように抱きついてくるんだよ? そんなの健全な男子には無理じゃん。俺に栞子という彼女がいなければ危なかった。
「たまに、気が向いた時でいいから部室に遊びに来てほしいな。皆でいっぱいおもてなしするから」
「おもてなしって?」
「え、うーん……その、お菓子とか?」
「手作りですか?」
「どうだろう……毎回は難しいけど、事前に言ってくれたら頑張って作ってくるね!」
「やったっ、歩夢さんの手作りお菓子大好きー」
「えへへ、嬉しい」
歩夢さんの手がすっと伸びてきて、俺の頭を優しく撫で始めた。
「あの、歩夢さん……?」
「雄介君の髪サラサラだね」
「一応髪には気を遣ってるので……というかそういう話ではなくてですね、なんで頭を撫で始めたのかという……」
「ん-、撫でたかったからじゃダメかな?」
「ダメ、じゃないですけど……」
「ふふっ、よかった」
歩夢さんに撫でられていると妙に心が落ち着く。そういえば誰かに頭を撫でられた記憶って何もないな。親に撫でてもらったことはないし、栞子に対してはどちらかというと撫でる側だし……だから落ち着くのだろうか。もう少しこのまま撫でてもらいたい。この程度のことならば浮気にならないだろう。
「……雄介君にとって、私ってどういう存在?」
「姉、みたいな感じですかね」
栞子と付き合い始めてからは歩夢さんを始め、異性と会って遊ぶということはなくなったけど、会った時はいつも俺のことを弟のように可愛がってくれた。さっきは生まれの差的に俺とそこまで変わらないと言ったけど、そんな歩夢さんを姉のように慕っているのも事実だ。
「そっ、か……お姉さんなんだね……」
「はい。俺には姉も兄もいないので、もしいたとしたら歩夢さんみたいな人がいいなぁと。お菓子美味しいし、一緒にいると落ち着くし、優しいし、お菓子美味しいし」
「女の子としては、見てくれないの……?」
「もちろん1人の女の子、というか女性として見てますよ」
栞子がいるから、歩夢さんに対し恋愛感情を抱くことはないけれど。
「その、付き合いたいって、思ってくれる……?」
「……そうですね、歩夢さんと付き合えたら最高だと思います」
ただ栞子がいなかったらという前提はあるけれど。
「作ってくれるお菓子は美味しいですし、コツコツ努力家なところが尊敬できるし、可愛いですし、いい匂いするし、お菓子美味しいですし」
あと本人には言えないけど、体つきと雰囲気がめちゃくちゃエッロい。おっぱいとか服の上からでもわかるくらいの大きいし、さっき見た通りお尻もプリプリだし、唇も柔らかそう。一度でいいから歩夢さんとキスしてみたい。というか全体的に柔らかそう。
「……その、雄介君は美味しいお菓子が作れる人だったら誰でもいいの……?」
「まさかまさか。加点が大きいだけで、お菓子が作れる人なら誰でもいいってわけじゃないですよ」
「ほんと?」
「ほんとほんと。たとえ歩夢さんがお菓子作れなかったとしても、付き合いたいと思ってましたよ。……多分」
「多分って……でも、うん、すっごく嬉しい!」
「わむっ」
歩夢さんにギュッと抱き寄せられる。
「ちょ、歩夢さん!」
「んっ、あんまり暴れちゃダメ。今はもう少しこのままでいさせてほしいの」
「ぁ……」
首元に顔が埋められていて、歩夢さんの表情は何も見えない。だが声音でわかる。とても嬉しそう、心からの喜びが伝わってくる。この人、もしかして……。
「……」
歩夢さんの優しい手つきを頭で感じながら、自身の体の熱を排出する術を探す。栞子以外から好意を向けられるのは初めてだ。たとえ彼女がいるとしても、誰かからの好意・愛情は嬉しい。けれどその気持ちに応えることはできない。だからこうしてされるがままでいるしかない。
「えへへ、雄介君」
「何ですか?」
「なんでもなーい」
「さいですか」
歩夢さんはなかなか解放してくれそうにない。というかどんどん抱きしめる力が強くなっている気がする。この人いい匂いがするし、体柔らかいし、胸が当たるし……正直俺の理性がヤバい。でもここで襲ったりしたら歩夢さんの好意を利用して、歩夢さんの心を傷つけたクズ野郎に成り下がってしまう。抱きしめ返すだけでも浮気だし、そもそもこの状況自体浮気みたいなもんだし……はぁ、サボらずちゃんと授業受けてればよかった……。というかお菓子食べたい……。
この話、実は最初歩夢ちゃんじゃなく侑ちゃんで書いてました。
でも歩夢ちゃんで書きたくなったので、最終的に5000字以上書きなおしました。おバカさんかな?