嬉しくて張り切ってかき上げちゃいました。なおR-18作品なのに、閑話の今回はエッチな要素はないです。ゆるしてちょんまげ。
はぁ、1人の作業の時間ほど退屈な時間はないな。歩夢さんは来てくれないし……一瞬でもいいから話し相手が欲しい。正直言うと歩夢さんとの2人きりは少し気まずいけれど、1人でいるよりはずっと楽しい。
『コンコン』
生徒会室の扉がノックされる。歩夢さんが来てくれたのだろうか。
「どうぞー」
「失礼しまーす。……あ、雄介君!」
「侑さん?」
歩夢さんだと思ったら侑さんが入ってきた。制服姿ではなく、学校指定のジャージ姿だ。お茶会の前に練習をしていたのだろうか。
「お疲れ様です。何かご用ですか?」
「うーんとね、歩夢の様子が気になって。まだ生徒会室に行ってないってかすみちゃんから聞いたから」
「ああ、なんか飲み物を買いに行ってたらしいですよ」
「そっか。変なことに巻き込まれてたとかじゃなくてよかった」
侑さんは安堵した表情でそう呟きながら、俺の隣に腰かけた。
「あの……?」
「あとね、もう1つ用事があるんだ。雄介君に会いたくて来ちゃった」
「また全国の男子を勘違いさせそうなことを……」
「……」
何やら不服そうな顔をしている。まさか侑さんも……なーんて考えるほど俺は自意識過剰じゃない。わざとやってるわけではないだろうけど、きっと侑さんは誰にだって同じことを言う、そういう若干人たらしの気質がある人なのだ。
「お仕事の邪魔はしないから、このまま部屋にいてもいい?」
「別にいいですけど……まぁお茶淹れるんで、好きなだけゆっくりしていってください」
「やったー! 雄介君ありがとっ」
「あの、抱きつかれるのは困ります。お茶を取りに行けないです」
「あ、そっか。ごめんね」
なんでこの人は軽率に……さっきまで栞子としてたせいで、こうやって抱きつかれただけでも勃起してしまいそうだ。何気にこの人も歩夢さんに負けず劣らずのスタイルなんだよなぁ……。お茶を淹れている間に心を落ち着ける。
「どうぞ、粗茶ですが」
「ありがと。……うん、美味しい」
「よかったです」
俺もお茶を一口含み、タブレットを手に取って仕事を再開する。隣から視線をめちゃくちゃ感じるが、特に話しかけてくることもないのでそのまま仕事を続ける。
「……」
「……」
「……あの、そんな見られるとちょっと恥ずかしいといいますか」
「えへへ、いつ同好会のが来るかなーと思って見ちゃった。今更なんだけど、この予算申請書って部外者の私が見ても大丈夫?」
「んー、まぁ大丈夫なんじゃないですかね。少なくとも俺は部外者が見ても問題ないと思ってます」
「そんな適当で大丈夫?」
「ダメだったら俺が責任取るので大丈夫です。侑さんに責任が行かないよう、俺が守りますから」
「っ……どうしよう、今の言葉すっごいトキメいちゃった……」
あー、確かに今のは口説いてる感じのセリフだったかも。というかあの程度の言葉でときめくなんて大丈夫だろうか。将来ヤリチンに食われてしまいそうで心配になる。
「ちなみに、スクールアイドル同好会のはもうチェックし終えてますよ。却下しましたけど」
「えぇー!? なんでなんで!?」
「無駄にデカい謎の椅子が入ってたので。それ以外は問題なかったですけど」
「あーかすみちゃんが……うん、でもそれ以外が承認されるなら大丈夫かな」
「よっぽど変なことがない限り却下する理由もないですしね。来期も頑張ってください」
「うん、頑張る! だから雄介君もたまに部室に遊びに欲しいな。皆会いたがってるよ?」
「えー……」
「そんな露骨に嫌そうな顔しなくても……ちょっと傷ついちゃうよ……」
「あっと、その、皆さんに会いたくないってわけじゃなくてですね、単純に部室棟が遠いから行きたくないんですよね。あと部室棟に行ったらいろんな人から予算上げてくれって言われてめんどくさいんで」
「あー、なるほど……会計の仕事も大変なんだね」
「そうなんですよ」
いっつも予算のことで文句言われるし……はぁ、面倒な役職だよ、ほんと。はやくやめたいぜ。
「同好会の方はどうです? マネージャー大変じゃないですか?」
「まあね、最近ライブとかあったし……でも楽しいし、私のやりたいことだから大丈夫! ……あ、そういえば雄介君もライブ見に来てくれてたよね!」
「はい、一応」
栞子に来てほしいって言われたしね。言われなくても見に行くつもりだったが。
「誰に一番トキメいた?」
「うーん……」
そりゃ当然栞子なんだけど、即答したら関係を疑われかねないし……。
「誰って答えたら一番角が立たないです?」
「えー、誰だろう……うーん、誰を答えてもひと悶着あるかも……」
「なにそれ、めっちゃ困るんですけど」
言い方は悪いけど、かなりめんどくさい。栞子は理解できるし、歩夢さんもまぁなんとなく想像できる。……あれ、この時点で詰んでね? 対あり、乙でした。
「うーん、じゃあ無難に皆平等にときめきました、でどうです?」
「まぁそうなるよねー。……で、本当のところは?」
「あのあの、面倒ごとに引きずり込もうとするのやめてくれません?」
「私と雄介君の2人っきりだから大丈夫だって! ほらほら、雄介君にとって誰が一番だったの?」
「……」
侑さんはこちらにギュッと体を寄せ、限界まで顔も近づけて問いかけてくる。この人なんでこんなに距離感ぶっ壊れてるんだろう……一体何人もの男を堕としてきたのだろうか。着痩せするタイプなのか知らないが、見た目以上に大きい胸が腕に当たるし、栞子に負けず劣らずの可愛い顔がすぐ目の前にある。それも吐息がかかるくらいだ。俺が少し顔を突き出せばそのままキスできてしまいそう。
「あの……」
「あ、そうだ! あの時の写真があるんだけど見る?」
「み、見ます」
「いいよ、ちょっと待ってね」
スマホを手に取り、写真フォルダを漁っている。その時に俺から離れてくれたので、ひとまず自分の呼吸を整える。あの人のせいで心臓がバクバクだ。
「えーとね、これが歩夢! どう? 可愛いでしょ!」
「そうですね、可愛いと思います。ただ……なんかその……」
「ん?」
「……いえ、やっぱりなんでもないです」
スカートが短くて健康的な太ももが拝めてしまうし、肩や脇なんて丸見えだし、上乳もほぼ見えてるし、端的に言ってエロい。もう超エッロい。ライブの時は全くそんなこと思わなかったけど、改めて見るとヤバいな……。あの人『めっちゃ清楚です』『純真無垢です』みたいな雰囲気なのに、こんなヤバい衣装着るんだ……まぁ歩夢さんのことだから純粋に可愛いって気持ちで着てそうだけど。実際ピンクを基調にしたドレスみたいな衣装は歩夢さんに似合っていて可愛いし。でもそれはそれとしてエロい。
「次が栞子ちゃん! 栞子ちゃんも可愛いよねー」
「わかります」
可愛すぎて今すぐギュっとしたい。
「それでね、次が……」
同じ調子で皆の分の写真を見せてくれる。というかこの人皆に可愛いって言ってるな。その気持ちはわかるけど、やっぱり人たらしだ。
『コンコン』
「ん、来客か。どうぞー」
「失礼、します……」
「あっ、歩夢!」
「歩夢さん、いらっしゃいませ」
顔を後ろに向けると、扉から遠慮がちに顔を出す歩夢さんの姿が目に入る。パッと見る限りだと歩夢さんも制服ではなく練習着のようだ。
「どうぞこちらへ。座ってお休みください」
「う、うん……」
「なんか、私の時と態度が違うような……」
「そんなことないですよ。お菓子を持ってきてくれたからとか、そんな理由で態度を変えるなんてありえないです」
「……」
侑さんから冷ややかな視線が飛んでくるが、そんな些細なことは気にしない。お菓子の代償としては安いもんだ。
歩夢さんは少し俯きがちにこちらまで歩いてきた後、俺の目の前で立ち止まった。
「……?」
「隣、座ってもいい?」
「もちろんいいですよ。侑さん、隣にズレてもらっていいですか?」
「うん、雄介君も一緒にね」
侑さんに腕を引っ張られ、俺まで1つ隣にずらされる。そして空いたスペースに歩夢さんが座り、結果として俺が侑さんと歩夢さんに挟まれる形になってしまった。困ったな、ほんとは歩夢さんだけを隣にしたかったのに……侑さんに恋愛感情がなかったとしても、あの歩夢さんのことだから多少なりと嫉妬しそうだし。あともろもろの理由があってどうしても意識してしまう歩夢さん、距離感のバグってる侑さんに挟まれて無事でいられる気がしない。
「遅かったね。飲み物買いに行ってたんだって?」
「うん。雄介君と一緒に食べようと思ってたから。侑ちゃんがいるとは思ってなかったけど……」
「歩夢が生徒会室に来てないって聞いたから、心配で来ちゃった!」
さっき俺に会いたいからとも言ってましたよね? それは理由として言わないんですか? まぁ言わない方が賢明だと思いますが。……あれ? 歩夢さんの目元が少し腫れてる気が……。
「歩夢さん」
「どう、したの?」
「その、何か悲しいこととか辛いことでもありました?」
「……なんでそう思ったの?」
「目元が腫れていて、泣いた後のように見えたので。さっきの相談の件とかで、相手と何かあったのかなーと」
「相談?」
「そっか……うん、そのことについては大丈夫だよ。ちゃんと断れたから。気にかけてくれてありがとう。小さなことに気づいてくれる、そんなところが大好き」
歩夢さんに抱きしめられる。けれどその腕は震えていて、力も入っておらず、あまりに弱々しい。
「本当に大丈夫ですか? 相手に無理やりされたとか……」
「ううん、それも大丈夫。その人とは円満に終わったから。心配してくれてありがとう」
歩夢さんの力が少し強くなる。無理やり嫌なことをされたとかでないのなら一安心だ。そして安心したと同時にさっきまで意識してなかった情報がどんどんと入ってくる。汗と混じってさらに濃厚になった甘い匂い。柔らかい胸の感触、素材のせいか制服の時よりもより柔らかく感じる。そして歩夢さんの整った顔、すぐ隣に顔があって頬と頬が触れ合う。こんなのどんなに我慢したって勃起してしまう。侑さんがいるせいで腰も引けないし……どうにか歩夢さんにはバレませんように……。
「歩夢……その、雄介君の言ってた相談って何のこと? 聞いてもいい?」
「うん、その、クラスの人が告白してくれて、私どうすればいいのかわからなかったから、そのことを雄介君に相談したの」
「そうだったんだ。歩夢なら普通に断るかなって思ったんだけど」
「勇気を出して告白してくれたのがわかったから、そんなに簡単に断ってもいいのか悩んじゃって。でも雄介君にアドバイスをもらって、好きな人と結ばれるために私も頑張ろうって気持ちになったんだ」
「そっか」
……そういえば侑さんって歩夢さんの好きな人を知ってる可能性が高いんだよな? 侑さんはどういう気持ちで今の状況を見ているのだろう。声からは感情が読み取れない。
「あの、歩夢さん、そろそろお菓子食べたいっす」
「えー、もう少しこのまま」
「歩夢、お菓子を雄介君に届けるだけって取り決めだったでしょ? 一緒に食べるのはいいけど、それ以上は……」
「……うん、そうだね」
「約束? 何ですかそれ」
「雄介君は知らなくていいのっ」
俺の知らないところで、勝手に俺に関することで約束されてるのは困るのだが。まぁとりあえず歩夢さんが離れてくれただけいいか。歩夢さんも侑さんも相変わらず距離が近いけども。
「えっとね、これが私が作ってきたクッキー。こっちが彼方さんので、これがその……せつ菜ちゃんの」
「わぁお、相変わらず禍々しい」
「えっと……大丈夫?」
「大丈夫です。何度もせつ菜さんの作る毒物に殺されてきたので、最近胃に耐性ができてきたんです」
「毒物って……それ絶対せつ菜ちゃんには言っちゃダメだからね?」
「わかってます」
俺なんかのためにわざわざ作ってきてくれるその気持ちは嬉しいんだけども、普通に毒物なので困る。初めて食べた時なんて前後の記憶が飛んだ。
「飲み物も紅茶と炭酸を買ってきたんだけど、2人はどっちが飲みたい?」
「俺は炭酸で」
「私もー」
「じゃあ……はい、どうぞ」
「あ、歩夢さんのコップも取ってきますね」
「ううん、自分で取ってくるから大丈夫だよ」
「いえいえ、客人にやらせるわけにはいかないので。栞子に怒られちゃいます」
「っ……じゃあお願いしようかな?」
「……? はい、取ってきますね」
何故か急に歩夢さんの表情が曇った。……今栞子の名前に反応したのか? もしかしてここに来るまでの間に栞子と何かあった……?
「コップです、どうぞ」
「……うん、ありがとう。さ、準備はできたからいっぱい食べて」
「やったっ、じゃあまずは……毒物の処理から」
「えっ、せつ菜ちゃんのから食べるの?」
「はい。俺の経験上、歩夢さんや彼方さんのは口直しとして残しておかないといけないので」
せつ菜さんが作ってくれた毒物、もといクッキーを1枚手に取る。刺激的な紫色に、禍々しいオーラを放っているように見える。うーん……でもいつもより美味しそうな気がする。
「いただきまーす」
「……大丈夫?」
「……うーん、オブラートに包んだ言い方をすると独創的な味ですね。でもいつもよりは美味しいですよ」
「ほんとぉ? 私も1つ食べてもいい?」
「いいですよ」
侑さんはせつ菜さんのクッキーを手に取り、おそるおそる口に含んだ。南無三。
「う゛っ」
「ゆ、侑ちゃん!?」
「あーあ、かわいそうに……」
「拝んでる場合じゃないよ!」
「……はい、お口直しのクッキーです」
歩夢さんが作ったクッキーを手に取り、侑さんの目の前に差し出す。けれど自分で食べる余裕はなさそうだったので、無理やり侑さんの口に押し込む。その際に唇に少し指が触れてしまったけどどうか許していただきたい。
「んぐっ……ん……」
「じゃあはい、飲み物も飲んでください」
「んくっ……」
飲み込むのが辛いみたいなので、侑さんのコップを手に持ち、顎に手を添えながらゆっくりと飲み物を口に流す。侑さんは喉を鳴らしながら、ゆっくりと口の中のクッキーと一緒に流し込んでいる。口に入りきらなった液体が口の端から零れ、ぽたぽたとジャージやソファーに垂れる。飲み物が某ソーダという白い液体なので、まるで精液が垂れてるみたいでめちゃくちゃエッチだ……。あと歩夢さん、そんな『侑ちゃん羨ましい……』みたいな目で見ないでください。困ります。
「ん、ぷはぁ……あー、死ぬかと思った……確かにこれは独創的な味だね」
「でしょ?」
「これでいつもより美味しいのかぁ……」
「あくまでいつもより、なので」
「……雄介君、私もあーんしてほしいな」
「え、嫌ですけど」
「えー……じゃあ私もせつ菜ちゃんのクッキー食べたらやってくれる?」
「いいですけど、おすすめはしませんよ」
「そうだよ歩夢。気持ちはわかるけど、やめた方がいいと思うよ」
「むぅ~……」
またフグのようにほっぺを膨らませている。最初は可愛いなくらいにしか思わなかったけど、なんかあれだな、要求を通すためにわざとやってるように思えてきたな。俺が甘いだけなのかもしれないけど。
「わかりました、1回だけですからね」
「やったー」
「……はい、どうぞ」
「あむっ……んー、おいひー」
この人、何か食べてる時ほんと幸せそうな顔するよなー。というかお昼からお菓子を食べてばっかりじゃないか? 何がとは言わないが大丈夫なのだろうか……。
「……ふぅ、毒物処理完了っと」
「あはは……お菓子を食べてて出てくる言葉じゃないよね……」
「さてと、ご褒美タイムだ。どっちから食べようかなぁ~」
「……」
『私のものから食べて』と言わんばかりの歩夢さんからの圧を感じる……うん、これは彼方さんのから食べた方が面白そうだ。
「あーむ……うん、美味しい。さっすが彼方さん」
「……雄介君、私のも食べてほしいな」
「え、あの、自分で食べれるんで……」
「食べて、ほしいな」
「あ、はい。わかりました」
「はい、あーん」
「あーん……」
圧に負け、歩夢さんからのあーんを受け入れる。ふむ、歩夢さんが作ったクッキーも安定の美味しさだ。彼方さんのと比べても甲乙つけがたい、単純な俺の好みで言えばバター風味が強い歩夢さんの方が好きだな。
「美味しい?」
「はい、とっても。歩夢さんのクッキーが食べられて幸せです」
「っ……どうしてそんな……」
「歩夢、さん?」
「…………雄介君、好きっ」
「え……んむっ」
「ちゅ……」
歩夢さんは一瞬表情を曇らせた後、俺を抱きしめ、ちゅっと唇を重ねてきた。状況こそ理解できるものの、どうしてこんな状況になってしまったのか全く分からない。唇の味を感じるよりも前に、歩夢さんの顔が俺から離れていく。
「歩夢!? 急にどうしたの!?」
「ごめんね雄介君、侑ちゃん。私どうしても我慢できなくなっちゃった」
「……」
「雄介君、私ね、あなたのことが好きなの。後輩としても、友達としても、異性としても」
「……はい、知ってました。というより今日気づきました」
「そっか……私も気づいちゃったの。雄介君は栞子ちゃんと付き合ってたんだね」
「え……歩夢、どういうこと……?」
「その、見ちゃったの。雄介君と栞子ちゃんが生徒会室でシてるところ」
「シ、シてるって……?」
「雄介君のおちんちんを舐めたり、栞子ちゃんを気持ちよくしてあげたり……辛くて途中で抜け出しちゃったから、2人がどこまでしたのかはわからないけれど」
そうか、見られていたのか……俺も栞子も行為に集中していて、入口を何も警戒していなかった。思いっきり扉を開けたのならまだしも、そぉーと開けられると気づけないか。
「それで泣いてたんですね」
「うん……好きな人の見たくないところを見ちゃったのに、それでもまだ雄介君のことも栞子ちゃんのことも大好きで、雄介君と結ばれたくって……」
「歩夢さん……」
「でも雄介君には恋人がいるからできる限り我慢はしようって思ってたのに……あんなに嬉しそうに、幸せそうにクッキーを食べてくれる姿を見て、もうどうしても我慢できなくなっちゃった」
再び歩夢さんの顔が迫ってくる。顔を背けても、強引に正面を向かされる。押し返そうにも腕ごとガッチリホールドされていてうまく力が入らない。
歩夢さんの顔は今までにみたことがないくらい紅潮していて、瞳には興奮と不安、そして恐怖の色が見える。こんなことをして俺に嫌われてしまうことを恐れているのだろうか。確かに歩夢さんのしていることはとても酷いことだろう。けれど俺はどうしても歩夢さんのことを嫌いになれない。ここでキスを受け入れてしまうことはきっと浮気になるだろう。
「んっ……ぁ、んぅ……」
栞子は怒るだろうか……まぁ怒るよなぁ。だってどう考えても浮気だもん。逆の立場だったら俺も悲しくなるし。どう謝ったら許してもらえるか、あるいはどうやったらバレずに過ごせるか。歩夢さんとの甘いキスでとろけそうになる頭をなんとか働かせながら思考する。
「んちゅ……んん……ぷぁ……えへ、雄介君大好き」
胸元に顔をうずめて甘えてくる歩夢さんに対し、俺ができることはただされるがままでいるだけ。抱きしめ返すなんて許されないし、押し返したりして怪我をさせたくない。
第一こんな状況になってるのはほとんど俺のせいだ。恋人がいるのに歩夢さんに対し中途半端な態度をとってしまったこと、学校で栞子とあんなことをしてしまったこと、全部俺のせいだ。
「歩夢……その、これ以上は……」
「侑ちゃん。侑ちゃんはいいの?」
「えと、その……」
「侑ちゃんも気持ちは同じでしょ? 我慢せずに伝えた方がいいと思うよ」
「……雄介君」
侑さんの甘えるような声が聞こえた後、背中に柔らかい感触が伝わる。あー結局こうなるのか……。
「私もね、雄介君のこと大好きなんだ。歩夢にも栞子ちゃんにも負けないくらい。ずっとずっと大好きだったんだ。恥ずかしくて告白できなかったんだけどね」
「……なんで皆俺なんかを……」
「雄介君。ちゅっ」
頬に手が添えられて侑さんの方に顔を向けさせられ、一瞬唇が重なる。歩夢さんとはまた違った甘い味がした。
「『俺なんか』なんて言っちゃダメ。私も、歩夢も、栞子ちゃんも、皆雄介君だったから好きになったんだから」
侑さんも歩夢さんも、俺を抱きしめる力が強くなる。浮気をしてしまうようなクズのことをどうしてこんなにも愛してくれるのか、俺には理解ができない。2人からの愛の囁きを聞きながらそんなことを考える。
「ちゅむ、ちゅぅ……キスってすごいね、こんなに夢中になっちゃう」
「もぉー侑ちゃんばかりずるいよ。雄介君、私とももっとしよ?」
「……はい」
自ら歩夢さんの方に顔を差し出す。その方が喜んでくれえるだろうと思ったから。予想通り歩夢さんは目を輝かせ、俺の唇に吸い付いてきた。
「ちゅるっ、んむっ、あ、はぁ……んっ、れろ、じゅるっ、んくっ……」
さっきまでと打って変わって濃厚なディープキスを交わす。歩夢さんにとってはキスも、ディープキスなんてさらに初めての経験だろう。舌の動かし方はとても拙く、必死な表情でキスを続ける姿はとても可愛らしい。
「んぁ……あぁ! ひゃぁ、んんっ、ちゅぅ、ちゅるるるっ」
「いいなぁ歩夢……」
舌を絡めたり吸ったり、歯茎を舐めてみたり。歩夢さんが慣れてないことをいいことに、激しく攻め立てる。そうすれば満足して俺を解放してくれると思ったから。
後方の侑さんはうっとりとした表情の歩夢さんを見て、自分の番はまだかとぎゅーッと抱きしめてくる。
「ん、ぷはっ……」
「ゆうす、んむっ!」
歩夢さんから唇を離した後、すぐに侑さんと口づけを交わす。今度は激しく攻めるのではなく、あえてゆったりねっとりと攻めてみる。
「んちゅ……ふぁ……ぅん……じゅるっ、ちゅ……んっ、こきゅっ、こきゅっ」
侑さんの口内に唾液を流し込む。それを嬉しそうに喉を鳴らしながら飲んでいる。
「んぅ……はぁ、はぁ……」
「ふぅ……これで満足していただけましたか?」
「やだ、まだまだ足りないよ」
「……雄介君、今日お父さんもお母さんも帰ってこないの」
歩夢さんの言葉の意味、何を求めてるかなんて当然理解できる。こんなのお互いのためにも断るべきだ。けれど2人の目が言っている、イエス以外の答えはいらないと。力いっぱい抱きしめられ、心も体も逃げられないように拘束されている。
「は、い……」
俺は震えた声で返事をすることしかできなかった。
純愛です。