朝になって外出の準備を済ませ、ザムエルは小舟で対岸に渡った。明るいうちから、ライザたちが出会ったという見慣れぬ白い魔物の捜索をし、可能であれば討伐するためだ。それは妻であるライザたちの身を守ることにも繋がるし、何よりも日頃血に飢えているザムエルの退屈凌ぎにもなる。
「できれば一匹だけじゃなく、大群のほうが嬉しいんだがな」
いざ戦うとなれば、歯ごたえがあるほうが楽しめる。ザムエルは戦意でギラつく双眸を向けながら、対岸に降り立った。
小舟に乗せていた荷物を持つザムエルだが、その中には武器はない。最近まで使っていた大剣は、この前の魔物との戦闘で暴れた際に壊れてしまった。それ以来、新しい得物を調達していなかったのだが。
「確か、アトリエの中に置いてあるって言ってたか」
大剣が壊れた日に、ザムエルは魔物の素材を手土産に、ライザに大剣の作成を依頼していた。ライザが習っている錬金術ならば、頑丈な大剣を作れるのではと考えたためだ。その後、ライザのほうで大剣の作成が終わったらしく、完成品はアトリエに置いてあると言われ、まずはその回収を先に行うつもりだった。
ちなみに、この場にいないライザは現在、幼馴染たちと一緒にクラウディアの家に寄っている。なんでも、クラウディアがライザたちと冒険に行きたいと言い出したようで、その許可をクラウディアの父親であるルベルトに取るため、説得に向かったようだ。
過保護な父親なようで、少し説得に時間が掛かるかもしれないとのことだ。
そういった経緯で、ザムエルは一人でアトリエに向かっていた。
相も変わらず小妖精の森は静かだ。森に入ってすぐに念のためにと警戒を強めたザムエルの存在に気がつき、我先にと森の奥へと逃げていく。いつも通りの光景だ。特に変わった様子はなく、見慣れぬ魔物の姿もない。
「まあ、そのうち出てくるか」
ザムエルは警戒を緩め、堂々と足を踏み出した。
開けた場所に出て、そこに佇むアトリエが視界に映る。
そのとき、テラスに立って周囲を見回している美女と目が合った。
「……ザムエルか。アトリエに何か用か?」
リラだ。おそらくは、朝から魔物の警戒を行っていたのだろう。
「今日からしばらくここで寝泊まりさせてもらおうと思ってな」
「ここでか? しかし、今この辺は危険だぞ? まだ安全が確認できていない」
「わかってる。妙な魔物が出るんだろ? だから敢えて泊まるんだよ」
「魔物と戦うためか……」
ザムエルの本意を察して、リラは呆れたように目を細めた。
「戦闘狂だな」
「おうよ。強い奴に久しく会えてないもんでな。歯ごたえのある奴と戦えるってんなら、面倒ごとに首を突っ込んでも構わねぇ。そこでだ、俺もお前たちの仲間に入れてくれ。何かあったとき、俺がいたほうが戦力になると思うぜ?」
「……確かにな」
ザムエルの体や身のこなしを見て、リラは納得したように頷く。
「私としても戦力が多いに越したことはない。が、私の一存では決められない。アンペルにも相談してみよう。おそらくは問題ないと思うが」
「ああ、リラと一緒に旅をしている奴か」
「そうだ。そう言えば、アンペルと顔を合わせたことはなかったな。ついでだ。紹介してやる。ついてきてくれ」
そう言って、リラがアトリエの中に入っていき、ザムエルはその後に続いた。
アトリエ内部は、以前よりも物が多くなっていた。主に増えたのは、生活する上で必要な物ばかり。ベッドも数台置かれていて、ここで寝泊まりするには十分だ。
「アンペル」
リラが声を掛けた先、ライザが錬金術に使っている大釜の前に、一人の男が立っていた。
「ん? 客人か?」
リラに呼ばれて振り向いたその男は、一見すると胡散臭いと感じさせる雰囲気のある男だった。やけにごてごてしたモノクル。毛先を装飾品でまとめた灰色の髪。目の下の隈は濃いが、顔立ちはそれほど老けているわけではない。が、若いと素直に思えるほどの青臭さも感じない。
学者然としたコートを羽織ったその男が、アンペルその人なのだろう。
「初めまして、私はアンペル・フォルマーだ。そちらの名前も聞かせてもらえるだろうか」
落ち着いた声音で、ザムエルを真っ直ぐ見据えてアンペルが促してくる。
「ああ、俺は」
ザムエルは言いながら、初対面の相手であるアンペルに対し、スキルを使用した。
「……っ」
アンペルが眩暈を感じたように額に手を当て、苦悶の表情を浮かべる。
「アンペル、大丈夫か?」
「……ん。少し、ぼうっとしてな……」
「話を続けてもいいか?」
「ああ、遮ってしまってすまない」
アンペルに促され、ザムエルは言葉を続ける。
「俺は、ザムエル・マルスリンクだ。あんたらに世話になってるレントの父親で、ライザとクラウディアの夫だ」
アンペルが正気であれば、このザムエルの発言を聞いて疑問を抱かずにはいられないはずだ。レントとライザたちが幼馴染の関係であることは知っているだろうから。息子の幼馴染である少女と、同世代の少女を同時に妻に娶る男など、普通では考えられない。
「そうか。レントの父親だったか。それにライザたちの」
何か噂を聞いているのか、アンペルが思い返すように呟いていた。
しかし、その反応はあまりにもあっさりとしすぎていた。
もしかすると、この奇妙な男はスキルに抵抗するのではないか。そんな考えが過ぎっていたのだが、結局は杞憂に過ぎなかった。所有者であるザムエルが認識している通り、『征服』のスキルは相手が生物であればレジスト不可能という効果を持つ。
このスキルに対する信頼感が確固たるものに変わったところで、ザムエルはリラの下へと歩み寄った。それにいち早く気がついたリラだったが、距離を取ることはなく、ザムエルの接近を許す。
「んぁっ……」
リラの背後に立ったザムエルは、リラの乳房を両手で抱え持つ。リラは微かに声を漏らし、白い頬をほんのりと赤らめるが、ザムエルのすることに文句を言うことはない。そのためザムエルは拘束具のような服の上から乳房に指を沈めていく。
「ライザとクラウディアだけじゃねぇ。実は、リラとも恋人のような関係でな。一度は、雄と雌として深く愛し合ったこともある」
「何? そうなのか? リラ」
さすがにその発言は簡単には聞き流せなかったようで、アンペルは追及してきた。
「……一度、雌としてこの男の性欲処理に付き合っただけだ。まだ恋人というわけでは、んぅっ……!? ぅ、ぁ、ああっ……!」
リラが話す途中で、ザムエルはリラの胸を両手の指で強く締め上げた。その圧力は衣服の上からでもお構いなしに胸の形を歪め、ザムエルの手の平に乳肉の柔軟さと体温を伝えていた。
「そう言えば、はっきりと伝えていなかったな。喜べリラ、お前は今日から俺の嫁だ。ライザとクラウディアの二人と一緒に、これから一生俺が可愛がってやる。まさか、断るつもりなんてねぇだろうな?」
言いながら手の力を強め、ザムエルは玩具のように手荒くリラの胸を揉み潰していく。乱暴すぎるその愛撫は、本来ならば痛みしか感じ得ないものだったはずだ。
「んぁぁあっ……!?」
だというのに、リラの口から漏れるのは艶のある声だった。膝をガクガクと揺らしていて、ザムエルに乳房を掴まれていなければその場で膝を突いていたかもしれない。ザムエルのスキルがよく効いているようだ。普段の澄ました表情も、嘘のように快楽に染まっている。
「返事はどうした」
ザムエルが耳元で低く囁くと、リラがビクンッと体を震わせた。
「あ、あぁぁ……。わ、わかった……。お前が私を求めるというのなら、受け入れよう……。私の体を好きに使え……。お前が飽きて私を捨てるまで、一生、お前の傍で、お前の恋人として、お前のために、生きて、やる……」
「はははっ……。だそうだが、構わねぇか? アンペルさんよ」
リラの言質を取って、ザムエルはアンペルへと顔を向ける。
「それは、突然だな……」
そのときに見たアンペルの顔は、先ほどまでの理知的な感情を霧散させ、強い狼狽を訴えていた。その根底には失意の感情も窺える。二人は長く旅をしてきたのだろう。男女の関係にはなっていなかったようだが、絆は芽生えていたはずだ。
「残念だが、あんたらの二人旅はここまでだ。何の用事でクーケン島に来たのかは知らんが、用事が済んで他所に移るときになったら、あんた一人で旅を続けてくれ。さすがに妻を他の男に長期間預ける意味もねぇからな」
「それは、確かにそうだ……。しかし、リラは、本当にそれでいいのか……?」
アンペルがリラの真意を探るように尋ねてくる。ザムエルの言葉を否定してほしいと思っているのだろう。二人がどういう目的で旅をしているのかをザムエルは把握していないが、その旅はリラにとっても大切なことだったようだ。
それを、リラはアンペルの問いに対し、
「……ああ」
深く首肯してみせた。
「っ……ほ、本当に、すまないと思っている……。しかし、ザムエルの許可を貰えない以上、私はもうアンペルとの旅は続けられない……。あぁあぁっ、んぉおっ……。わ、私はぁ、この島に残るぞ……。この男の妻として、するべきことがたくさんできてしまった……。後のことは全部、アンペルに、任せる……」
ザムエルの手で胸を揉みくちゃにされながら、リラはアンペルにはっきりと宣言する。
「そう、か……。そうだな……」
ここまで言われれば、アンペルも納得せざるを得ない。他ならぬ、ザムエルの要望だ。リラがそれを断ることができないのはアンペルも理解している。そうした認識をスキルで植えつけられている以上、こうなることは必然だった。
二人のやり取りを見て、特に落胆の色を見せるアンペルを見て、ザムエルは口角を持ち上げた。
「決まりだな。こいつは今日から、リラ・ディザイアスじゃねぇ。俺の妻の、リラ・マルスリンクだ。アンペル、てめぇもそれを重々理解した上で、リラと接しろ。間違っても、リラに肉欲を向けるんじゃねぇぞ?」
「言われなくとも、そのつもりはない。リラにそういった感情を抱いたこともないからな」
「ははっ、そうかよ」
本心で言っているのか、それとも嘘をついているのか。段々と平静を取り戻していくアンペルからは本当の想いは読み取れない。
ザムエルはアンペルの本心を暴きたくなった。これほどの美女と長旅を続けてきて、一度でも欲情したことはなかったのか。どれだけ枯れた老人であろうと、リラの女体を前にすれば、若い頃の性欲を思い出すはずと思っていたからだ。
自分の感情を偽っているのなら、確認してやろうか。
「おい、リラ」
「……何だ、ザムエル」
「今からアンペルの前でヤるぞ」
「なんだと……?」
リラよりも先に、アンペルが動揺を示す。
「元仲間への手向けだ。リラが立派に俺の妻として役目を果たせるってところを見せてやろうぜ。そうすれば、アンペルも安心して旅の続きをできるってもんだ。アンペル。てめぇはそこに突っ立ってリラのことをよく見てろ。これから、俺専用の雌になった元相棒の姿を見せてやるからよ」
ザムエルはそう言って、リラの服を締め上げる帯に手を伸ばす。複雑に絡み合って結ばれているそれを、正攻法ではなく手荒く引っぱる。それでも帯は緩み、しゅるりと衣擦れの音を立てて床に垂れ、少しずつリラの衣服は紐解かれていった。