その中で怪しげな光を見つけ、慎重に近づくが――。
もし、それが意思のある"何者か"であるならランプの灯りが近づいている事に
向こうも気がついている事だろう。
嫌な汗が伝う。
数秒後には戦闘が始まるかもしれないと思うと、
短剣の柄を握り締めている力も強まっていく。
オレは一定の律動で歩を進めていたが、
数秒立ち止まると、今度は早足ですぐに通路の角へと忍び寄って短剣を突き出し、
ランプの灯りを調整して鏡のように刀身を使いながら、通路の先を確認した。
その反射した光景には化け物が今、まさに襲い掛かろうとしている姿が
映し出されてもおかしくはないと覚悟していたが、
どうやら杞憂に終わったらしい。
「これは……遊戯区画で見た白影、か?」
危険が無いと分かり、通路の先へ身体を乗り出して目視すると、
そこには遊戯区画で見たような白い影が揺らめいていた。
しかし、遊戯区画のものとは違い、時が止まったように直立しているのではなく、
まるで意思があるかのように動いている。
「デタァァァアァァッッ!! オバケッ!! オバケェェッ!!」
「んもう、声がでかいっすよ。
ハナさんも外壁に入ってすぐの区画で見たでしょ」
「そ、そうだけドヨォ……人形を普通の家に置いトクのと、
お化け屋敷に置いトクのじゃワケが違ウだろーガ!!
それと同じデ、こんな所に居たら誰だっテビビるダロ!!」
「確かにそうだな……」
ハナさんの言う事も最もだった。
こんな幽霊やお化けが出てきてもおかしくないような所に、
白影が揺らめいていたら、さぞ驚くだろう。
現にオレも、その姿をはっきりと確認するまでは
緊張感で神経が研ぎ澄まされていた。
「だが、遊戯区画のものとは違って動いているな……」
「そうっすね……」
オレ達が会話をしている間に、その白影はゆらゆらと
横を通り過ぎ、二股の道をそのまま横断していった。
「……後を追ってみよう」
「嘘だロォ!? 止めとけッテ!!!」
「お前こそ何を言っている。何の為にここまで来たんだ。
虎穴に入らずんば虎子を得ずと言うだろう」
「あのラベンダー畑も虎穴みたいなもんでしたけどね……
後、もう少しでもあそこにいたら、今頃どうなってたか……」
「そ、ソウ言われるト……」
ハナさんは余程、幽霊のような白影を追うのは嫌だったのか、
全力で花頭を左右に振って拒絶していたが、
オレとティエルの言い分に言葉を失う。
もう、怖いだのなんだの言っている状況ではない。
ここで情報を得なければ全員の士気にも影響するのだ。
このまま、宛もなくこの世界を彷徨うのは精神的にも限界に近い。
「あの危険な場所から出て早々、怖い思いをさせて悪いが、
オレ達も必死なんだ。頼む。もう少し付き合ってくれ」
「…………アア」
ハナさんも覚悟を決めたのか、渋々と首を縦に振った。
オレはそれに頷き返すと、一定の距離を保ったまま白影の後を追い始める。
無論、短剣は抜刀したままで、いつ襲ってきたとしても、対処する準備は出来ている。
「わっ……また白い影っす」
「やはり、一人だけではなかったようだ」
白影を追って通路を進んでいくと共に、
その数は次第に増えていき、すれ違った白影達は
互いに軽く頭を下げているようだ。
その様子は、城で働いている女中や護衛のようであり、
遊戯区画にいる白影よりも、よっぽど生気があるように見える。
「……前に見た時は、よく見ていなかったが、
この輪郭は
「そうっすね……尻尾の形や毛並みがねーさんと似ているような……」
「…………」
「ハナさん。何か知っているのか?」
「……分からネェ」
「ソレイユと会ったら何か思い出すかもしれないな。
ただ、無理は禁物だ。思い出したくないと思ったら、
素直に自身の心の声に従ってくれ」
「ユランちゃんさ。ホント優しいのナ」
「……こんな時に何を言っている。バカバカしい」
「んナ事ネーヨ!! 俺……こんな優しくシテ貰ったノ、
初メテ……! うおぉぉおぉん!!!」
「今度は感動して泣いているのか……!?
全く、忙しい奴だな……! 大声を出すんじゃない!」
どうにか、ハナさんをなだめながらも白影の後を追っていくと、
長い長い廊下へと行き着いた。
端には調度品としていくつも花瓶が飾られているが、肝心の花は枯れ果てており、
何の種類かもよく分からない。
しかし、原型すらも留めていないのに、何故か強い既視感のようなものをオレは感じていた。
この花は見た事がある。確か――
「中に入っていったっすね……」
「見失う前にオレ達も行こう」
短剣を握り締めたまま、オレは静かに扉を開いた。
先程と同じように短剣の刀身を隙間に滑り込ませ、その反射で内部を確認する。
「…………?」
「何だ……? この部屋は……?」