※この作品はR-18です。

龍闘士ユラン ~悦ヘト堕チル凌辱冒険譚~   作:キバガミ

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廃城の一階の探索を終え、二階へと探索の手を伸ばすユラン達。
しかし、一階の整った光景とはうって代わり、
まるで巨大な獣が暴れまわった後のように荒れ果てており、爪の跡が色濃く残っていた。


百二話 孤独のチェシャ猫は狂痕を残す

 痕、痕、痕。

 視界を埋め尽くす、残虐な爪の跡。

 床や壁は勿論の事、天井までも巨大な爪痕が色濃く残っている。

 

 カーテンや調度品は全て無惨に引き裂かれ、言われなければ元が分からない程、

その原型を留めていない。しかも、その爪痕は巨大熊や魔物ですら遠く及ばない位に大きく、

良くてティタノ級、最悪、リヴァイアサン級の化け物が付けたものにすら見える。

 

 それほどの巨大な獣が暴虐の限りを尽くしたような光景が、

無限回廊のように続いている。

 

 ――身の毛がよだつ。

 

 一階の寂れてこそいるものの、整った城内の光景が嘘のようだった。

 

 まともな武器も無いような状態で、その化け物と出会ったら――

 そう思っただけで背筋が凍りつく。

 戦う戦わないの次元ではない。

 

 大木のような巨大蛇と豆粒のような蛙やヒトと界獣のように生き物としての格が違う。

 出会った瞬間、オレ達三人は抵抗すら出来ず、全て終わりを迎えるだろう。

 

「…………」

 

 オレは自身の思慮の浅さに辟易とした。

 

 外に肉天馬や霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)らしき化け物が跋扈していたというのに、

何故、この廃城の中には同じような危険性のある奴がいないと思ったのだろう。

 

 歪な子供部屋があったとはいえ、一階は白影達が巡回しているだけで

然程、危険は無かったから気でも抜けていたのだろうか。

 

 オレは忘れてはならない。

 

 ティエルとハナさん。二人の命を預かっている事と、

ここが化け物の巣窟なのかもしれないと言う事を――。

 

「……二人ともオレの傍から離れるな」

 

「離れたくテモ離れラレネェよって……

 このやりとり何度目ダ!?」

 

「…………」

 

 今度はティエルの方が言葉を失っていた。

 

 彼女の普段の姿――大きなガルガリオンの姿でもこのような巨大な爪痕は、

決して付けることは出来ないだろう。

 

 オレの全身など完全に呑み込んで余る程に一つ一つの爪痕は大きい。

 もし、この生物が今も尚、健在であるのなら肉天馬など話にならない。

 すぐ傍に忍び寄る、明確な死のビジョンに心臓が握り潰されそうだ。

 

 ――ここが限界だろう。

 

「……戻ろう」

 

「え……?」

 

「これ以上は危険だ、もう十分に目的は達した」

 

 正直、不本意ではあるが、この得体の知れない怪物と出会った時に

二人を守りきれる自信がオレには無かった。

 

 一階の子供部屋からは、写真を得ることも出来た。

 これで十分かは分からないが、成果を得る事が出来たのだ。

 もういい。もういいんだと、自分に言い聞かせるように言葉にする。

 

「……あーしはここも調べるべきだと思います」

 

 ティエルは怯えた表情でこちらを見上げる。

 

 オレ以上に恐怖を感じている筈なのに、言葉に安堵する所か、

正気かと言わんばかりにその視線はオレの瞳を穿つ。

 

「…………」

 

 軍人としての判断を告げるのであれば、退却するのが得策だろう。

 装備もまともな対策もせずに、姿の無い凶悪な獣に立ち向かうなど無謀だ。

 

 ――では、準備を整えてからもう一度来るのか。否。

 

 次に"ナニカ"の襲撃を受けた時に生存出来る確率はどれほどだろうか。

 少なくとも、斬竜刀があった所でまともに太刀打ち出来そうな奴らではない。

 準備などいくらしても無意味だ。再びここに探索しに戻るという選択肢は無い。

 

 ――自分自身も迷っていた。

 

「迷ってンなら怖え方に行ケ。それが豊かニナル最善の方法ダ」

 

「…………?」

 

「俺の好きなヤツが言っテタ。必ずソッチで何カ拾エルってナ」

 

 ハナさんがそう口にする。オレはその言葉に少しハッとした。

 今までそういった選択を迫られた時に、勇気がいる方を選べていただろうか。

 

 怖い方に行く――今のオレにとっては、このまま二階を探索する事なのだろうか。

 いや、勇気と無謀を履き違えるな。今のオレの命は一人のものだけではない。

 オレの死はそのまま二人の死も意味する。冒険など決して出来ないんだ。

 

「ナーニ、失敗してモちょっと死ぬだけダロ。

 気にせず行ケヨ、ユランちゃん」

 

「死んだら終わりじゃないっすか。

 とても幽霊で泣きべそかいてた

 ヒトの発言とは思えねーっす」

 

「その気デいけっテ意味ダってノ!

 ソレトモ、このまま尻尾巻イテ帰ッテ、

 何か良イ事でもあるノカ?」

 

「…………」

 

「虎穴ニ入ラズンバ虎子ヲ得ズって、そういう事ダロ?」

 

 一番怖がっていたハナさんでさえ、オレの背中を押してくれる。

 もし、凶悪な獣がうろついていたとしても、出会わないように注視する事は出来る筈だ。

 以前のオレならば愚かな選択をしたと言うかもしれない。

 

「――わかった。行こう」

 

「…………!」

 

「無論、凶悪な獣がうろついているのならば、

 何かしら出会わないように考える必要はあるがな」

 

「これだけ、大キナ爪痕を残スほど巨大ナ獣ダ。

 居ルンなら、息遣イや足音ハ隠せネェ。

 ユランちゃんなら、気配ヲ察知する事くれェ、出来ンダロ?」

 

「案外、頭が回るんだな」

 

「頭、お花畑じゃネーヨ!?」

 

「今はそんな事言っとらん」

 

 冷静になって考えてみれば、これほどの大きさの獣であれば

息遣いさえも遠くから聞こえそうだ。

 

 それに、いくら広く間取りが作られているとはいえ、

そもそも、これほどに巨大な獣が悠々と闊歩出来る場所ではない。

 

 あくまでもヒトの住居に準拠した作りなのだ。

 決して気を抜いてはならないが、もう獣がいない可能性だってある。

 そう思うと、ほんの少しだけ気が楽になった。

 

「しかし、あれだけ白い影で一喜一憂していたのに、

 得体のしれない獣の事は怖がらないんだな」

 

「一喜モしてねーカラナ!? ああいう、よく分カラネー奴ガ怖エだけダ。

 ――それニ、姿ガある獣ナンテ、霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)に比ベたらよっぽどマシだゼ」

 

「……そうだな。ティエル、悪いが翔ぶのは止めて、

 歩くなりオレに捕まるなりしていてくれ。羽ばたく音が響く」

 

「わかったっす」

 

 そう言って、ティエルはオレの肩の上に腰を下ろした。

 獣であれば、恐らく耳はいいだろう。そうなると、彼女の羽ばたく音はよく響く。

 オレ自身も足音を立て辛い歩法を使い、注意して探索しなければならない。

 

(…………)

 

 オレは改めて覚悟を決めると、

狂ったように巨大な爪痕の付けられた

城内の先を睨みつけた――。




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