※この作品はR-18です。

龍闘士ユラン ~悦ヘト堕チル凌辱冒険譚~   作:キバガミ

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廃城にあった礼拝堂で休息を取っていたユラン達。
そこへ、深みのある低い声が響いてきた――。


百六話 晶域の中の絵画②

「――ッ!?」

 

 次の瞬間、耳を裂くような音と共に巨大なステンドグラスが弾け飛ぶ。

 

 氷龍の世界が壊れていくかのように散らばっていき、

硝子の一つひとつに錆色の光が乱反射していく。

 

 その光景は、まるで妖美な万華鏡のよう。

 

 オレは反射的にティエルとハナさんを抱え、硝子から二人を守る為、

自身の身体を盾にするようにして伏せた。

 

「上から失礼致します」

 

「ぐ…………!!」

 

 ステンドグラスから舞い降りたのは霧氷の乙女の従者――

フロストヘルムと呼ばれたガルガリオンであり、流麗にこちらに頭を下げると、

硝子を踏み鳴らしながらこちらに近づいてくる。

 

「貴様はッ……!!」

 

「驚かせてしまって申し訳ございません。

 私達の手の届かない所におられましたので、

 少し、手荒なご挨拶になってしまいました」

 

「全くだ……! 貴様達はまともに

 現れる事すら出来ないのか……!!」

 

「返す言葉もございません」

 

 フロストヘルムはそう言って礼帽を取り、申し訳無さそうに頭を下げた。

 

「……オレ達に何の用だ」

 

「本日は折り入ってお願いしたい事があって参りました」

 

「……馬鹿も休み休み言え。オレ達に害をなそうとするような、

 相手の願いを聞くお人好しがどこにいる?」

 

「……申し訳ございません。お嬢様の戯れが過ぎたかもしれませんが、 

 悪意や殺意がある訳では無いのです。どうか……」

 

「殺意はともかく、悪意はあったように見えたがな」

 

 霧氷の乙女の従者、フロストヘルムは反論する訳でもなく、

ただただ、こちらに向かって頭を垂れていた。

 

 あれだけの事をして、今更何を言っているのか。

 仮に殺す気は無かったとは言え、戯れにしては度が過ぎている。

 

 むしろ、野良犬を撫でる程度の感覚で襲われたのだとしたら、

こちらとしてはたまったものではない。

 

「……霧氷の乙女はどうした? 本当に頼み事をしに来たのだとしたら、

 本人が直接言いに来ないのは何故だ?」

 

「それは、私の個人的なお願いだからです。

 お嬢様は一切関与しておりません」

 

「…………」

 

 てっきり、フロストヘルムの事は従順なる霧氷の乙女の従者だと思っていた。

 前に彼女が行った襲撃にも加担しており、主の命令は絶対だと考えている者だと思ったからだ。

 だから、彼が一人で行動を起こすのは意外だった。

 

 しかし、これ自体が霧氷の乙女の命令であり、罠である可能性も十二分に考えられる。

 警戒は怠っていけない。何か危険な兆候があれば、すぐにでも二人を連れて逃げるべきだろう。

 

「……内容にもよるが聞いてやる。ただし、条件がある。

 オレ達の質問にも答えて貰う。この世界から脱出する為に必要な情報だ」

 

「私のお願いは、それにも関係する事でございます」

 

「言ってみろ」

 

「脱出を諦め、この世界で暮らして欲しいのです」

 

「はっ……!」

 

 その言葉を聞いたオレは、堪らず失笑してしまう。

 この男は何を言っている。

 オレ達がなんの為に危険を冒してまで、ここまでやってきたと思っているんだ。

 

「……ふざけるなッ!!

 オレ達がそれで納得して、この世界で手を繋いで

 仲良く暮らすとでも思っているのか!?」

 

「…………」

 

 フロストヘルムは口を噤んだ。

 だが、それは何かを言い返すのに言い淀んだようではなかった。

 それはまるで、何かを伝えるのを躊躇っているようにも見えた。

 

「……前に、この世界から出る方法は無いと

 申し上げましたが、正確にはございます」

 

「…………!」

 

「それは、この世界の創造主――霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)を目覚めさせる事」

 

「……目覚めさせる? どういう事だ?

 今でも、その界獣は目覚めたまま、

 リュメイヌを闊歩しているじゃないか」

 

 霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)の事が良く分からなくなってきた。

 

 そういえば、この廃城に来る前にハナさんが、襲われた得体の知れない空飛ぶ獣の事を

霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)だと言っていたのも気になる。

 

「頼む。一から順を追って説明してくれ。オレは一介の旅人で、

 リュメイヌには旅の途中で立ち寄っただけなんだ」

 

「……畏まりました。まず、霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)と呼ばれている界獣――

 その真名は界獣サヴァト。太古の昔から霧の大陸を彷徨い続ける、

 静寂と虚構、消失を司る界獣です」

 

「そんな名前があったのか、確かに、この界獣だけ他のものと違って

 名前に違和感があると思っていたが……」

 

「あーしも初めて聞いたっす……」

 

 どうやら、ティエルも霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)の本当の名前は知らなかったようだ。

 となると、他の草原狼獣人(アシモベルク)も知らないのだろうか。

 ヴェラクトーレがいれば、すぐに分かるのだが――。

 

「そして、ここは虚構のサヴァトが見る夢――。

 かの界獣は夢を白園(びゃくえん)に具現化する力を持ち、

 そこは、既存の界層とは完全に隔離された空間です。

 目覚めて理園(りえん)に戻る事も、白園(びゃくえん)に旅立つ事も出来ません」

 

「待て、少し整理させてくれ。虚構のサヴァトとはなんだ?

 霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)――界獣サヴァトとやらは一体ではないのか?」

 

「元々は一体でした」

 

「……でした? 今は違うのか?」

 

「はい。昔、開祖アシモフは界獣サヴァトに勇敢に立ち向かいました。

 しかし、その時に界獣サヴァトを構成する一体――

 虚構のサヴァトが切り離され、二体に分かれました」

 

「となると、今、リュメイヌにいる霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)は……」

 

「はい、静寂のサヴァトとなります。その名の通り、全てを霧で覆い隠し、

 万物に静寂をもたらします。元の一体だった時の姿は、

 今より遥かに大きかったと伺っており、全土は霧に包まれていたと聞きます。

 ――故に、霧の大陸と呼ばれていました」

 

「…………」

 

 想像も出来ない。

 

 それこそ、誰もその姿さえ見たこともないと言われた巨大な界獣だが、

足跡とも言われる通った後に出来る湖の大きさを見れば、

山のように大きな存在なのは明白だ。

 

 それより大きいともなれば、正に世界を統べる獣。

 あちらから見れば、オレ達は蟻以下の存在にしか見えないだろう。

 

「お前は霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)を目覚めさせる事が

 この世界から脱出する方法だと言った。

 だが、リュメイヌで静寂のサヴァトは眠る事無く活動している。

 つまり、虚構のサヴァトの方をどうにかすればいいと言う事だな?」

 

「左様」

 

 正直、界獣に干渉するのは出来るだけ避けたい気持ちはあったが、

戦うという事でなければ、まだどうにかなるかもしれない。

 

「その、虚構のサヴァトとやらはどこにいる?

 恐らく、この世界のどこかにいるのだろう?」

 

「それは――」

 

 その言葉を最後に、ぴたりとフロストヘルムの動きが止まる。

 それは、何かに耳を傾けるようであり、ピンと立った耳が小刻みに動いている。

 

「……すみません、ルナリス様がお呼びですので、

 今日の所は失礼させて頂きます」

 

「な……!? 待て……! まだまだ聞きたい事が山程あるっ!」

 

 フロストヘルムは踵を返し、燕尾服を揺らしながら硝子の海を歩いていく。

 色々と情報を得る事が出来たが、肝心な部分はまだ聞けていない。

 

「また、近い内にご挨拶させて頂きます。その時にまた――

 それと、今後は錆色の裂け目や空間には近づかれない方が良いでしょう。

 ルナリス様が想造しておられない場所。

 純粋な虚構のサヴァトの空間であり、非常に危険ですので」

 

「おいッ!!」

 

 フロストヘルムは深く礼帽を被り、こちらに一礼すると

割れたステンドグラスの間から錆色の空へと飛び立っていった――。




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