自分の都合で祀り上げたり、人柱にしやがって。
英雄だかなんだか知らねぇし、クソみてーなヤツだけど、
オレにとってお前は、同じパンを食ったツレなんだからヨ。
――ルーブル・イクルシア
「へへへ……パンなんて食うの、いつ振りだろなァ」
寂れた屋根がどこまでも続き、塗装もされていない道を歩くは泥に塗れたネズミだけ。
その裏通りのゴミ溜めにネズミよりも慎ましく、オレは生きていた。
手に持っているのは、デカくて走る事だけしか脳のない荒狼共から盗んでやったパン。
その温もりと香ばしい小麦の香りを、
胸いっぱいに吸い込むだけでイッちまいそうだ。
元々、自分らじゃ不器用で作れねぇからって、
オレら猿狼を馬車馬のように働かせて作ったモンだ。
それを盗んだ所で何が悪いってんだよ。
オレら猿狼にはその権利がある。
いつか、絶対にアイツらにもネズミの小便を飲ませてやる。
「ンめ……」
「……ア!?」
気がつくと、持っていたパンが無くなっていて、
いつの間にか知らない猿狼が壁に寄りかかって、貪り食ってやがった。
「おま、オレのごちそう食ってんじゃねぇよォォォ!?」
取り返そうとするが、ハエみてぇな動きで逃げ回って
なかなか捕まらねぇ。
その間にもどんどんパンは小さくなっていき、
最後は猿狼の口の中に消えた。
「うォォォん……! 久々のメシ……それも
超々大ごちそうだったのによォ……」
「いや、悪リィ。オレももう、何日も食ってなくて
目が回りそうだったんだよ」
涙を流すオレを憐れんでやがるのか、
少し申し訳無さそうにしながら言い訳しやがった。
ふざけんな。その態度が余計に胸糞悪くなる。
「なら、今から腹いっぱい、そのフカフカしたヤツ食いにいかねェか」
「ンな金、どこにあんだよ?」
「こんな掃き溜めに住んでるオレらに金なんかあるワケねェだろ。
となりゃ、やる事はわかるよな? オレらにはお似合いの仕事だ」
ボロボロの外套を着た猿狼は、オレの在り方と大して変わらねぇ。
なのに、その瞳は淀んでなかった。
「……なんなんだよテメェ。どこの馬の骨かもわからねェ、
ヒトのごちそうを奪ったヤツなんかに
付いていくとでも思ってんのかァァ!?」
「オレはアシモフ。お前と同じ乞食。
いや、盗人? どっちでもいいや。
よォ、これでどこの馬の骨かも
わからねぇヤツじゃ無くなったな?」
「ハァ?」
――オレとアシモフとのクソみたいな出会いだった。
――――
「んで、その後からは霧見る度に蕁麻疹になっちまってよォ」
「無理もないね。霧中の中で野営をするなど、
常に喉元に刃を突きつけられているようなもの。
その度胸と判断に感嘆するよ……」
饒舌なハナさんの声に続き、頷きながら言葉を投げかけるヴェラクトーレ。
その腰には、オレの持っていたホルスターバッグがあり、
あれだけ汚花と嫌っていたハナさんはそこに収まっている。
ハナさんは覚えている事を色々語ってくれた。
遠い昔、
ヴェラクトーレやリバーシュのような二足歩行の
ハナさんの住んでいた国では
開祖アシモフがルーブル達、仲間の
当てもない旅に出て、霧の大陸にたどり着いた事。
その冒険譚は、まるで一冊の小説でも読んでいるかのようだった。
ハナさんの話は、現実離れしていながらもどこか生々しく、
想像力を掻き立てられる。
「信じていなかった訳ではないが、本当にハナさんは
過去に生きたヒトだったんだな」
「恐らく、界獣サヴァトが二つに分かたれて間もなく、
虚構のサヴァトに取り込まれたのでしょう。
まさか、そのような方がまだいらっしゃるとは思いもしませんでしたが……」
どうやら、フロストヘルムにとっても驚くべき事だったらしい。
彼の言葉によれば、オレ達のようにこの世界を生き延びた者はそれ程多くない。
ハナさんのように、途方もない時間を生き抜いたヒトは、
オレ達以上に想定外なのだろう。
「何を言う。開祖アシモフと共に、
界獣サヴァトに立ち向かった勇猛なる戦士だよ。
このような
造作も無い事だろうね」
昔、開祖アシモフと共に界獣サヴァトに
立ち向かった一人だと知るや否や、
掌を返したように態度が変わったヴェラクトーレ。
全く、現金な奴だ。
やれ汚花だの、捨ててこいだの言っていたのに。
「そういえば、ハナさんではなくルーブルと
呼んだ方がいいのだろうか?」
「今はハナさんの方にすっかり慣れちまったからなァ。
元の姿に戻れた時に呼んでくれヨ!」
「元の姿って、その、大丈夫なんでしょうか?
ユランさん達はリュメイヌにちゃんとした肉体があると思いますけど、
数百年も前のハナさんの肉体は――」
「エッ!? オレ、もしかしてこのまま!?」
確かに数百年も前の肉体が、そのままの姿のまま健在だとは思えない。
もっとも、オレ達の肉体も本当に無事なのかはわからないが。
突如、舞い散った花びらで全て凍りついてしまったのだから。
「……開祖アシモフの加護を祈るしかないでしょう。
もしくは――」
何かを言いかけたフロストヘルムは足を止めた。
その視線は地面へと縫い付けられるかのように微動だにしない。
「どうした?」
オレはフロストヘルムの隣に立って、同じく視線を下ろしてみた。
「これは……」