※この作品はR-18です。

龍闘士ユラン ~悦ヘト堕チル凌辱冒険譚~   作:キバガミ

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貴女が悠久なる太陽なら、私は泡沫の月。
太陽が温かく導いてくれるから、
月も一緒に輝けると勘違いしてしまったの。
さようなら。もう一人の私だったヒト。
鏡の国の扉は、永遠に閉じておきましょう。
                     ――ルナリス=ムーンライト=エフェメラル


百十四話 魔女の庭園②

 

「でも、その為には足りない物があるわ」

 

「足りない?」

 

「もっとも決定的で致命的な物。

 この世界は、イメージさえ明瞭ならなんだって出来る。

 でも、分かっていて? 想造の力は誰しもが持っているもの。

 この世界にいる他のヒト達は、貴方と同じイメージを持っているのかしら」

 

「……!」

 

「そう、今度は逆に、界獣サヴァトの負のイメージが重い枷となる。

 恐怖という心の奥深くまでこびりついたイメージを覆すなんて、

 並大抵の事じゃない。今のままでは界獣を打ち倒すなんて夢物語よ」

 

 オレは見落としていた。

 

 自分だけが、どれほど虚構のサヴァトを打ち倒す光景を

イメージしようが駄目なんだ。

 

 そんな独りよがりでは、ヴェラクトーレ達や 

霧氷の乙女達が無意識に抱いている、

界獣への畏怖や恐怖のイメージに押し潰されてしまう。

 

 そもそも、虚構のサヴァトを想造の力で容易くどうにか出来るのであれば、

霧氷の乙女やフロストヘルム達も世界に迷い込んだヒトを襲い、

目覚めを防ぐなどと、まどろっこしい事はしなかった筈だ。

 

 オレのすべき事。それは――

 

「皆に示せという事だな。

 オレが抱く、虚構のサヴァトに打ち勝つイメージを」

 

「頭の回るいい子ね」

 

 とは言ったものの、ヒトの抱いているイメージを

変えるというのは想像以上に難しい事だ。

 

 特に恐怖と言ったような、ヒトの深層心理に

結びつく物であれば余計に。

 

「……?」

 

 斬竜刀を引き抜き、彼女達の前に突き刺した。

鈍い金属音が響き、その刀身は鈍い光を反射する。

 

「この剣は、龍の国の界獣が一柱を討った事がある」

 

「えっ……?」

 

「……驚いた。嘘ではない、みたいね。

 見た事もないペトログリフが刻まれている。

 一介のヒトが持っていい代物ではないはず。

 貴方、一体何者なの?」

 

「ただの旅人だ。それ以外の何者でもない」

 

 霧氷の乙女だけではなく、ソレイユも驚愕の表情を浮かべている。

 

 無理もない。この事を語ったのは今まで旅を続けてきて、

彼女達が初めてだ。

 

 もっとも、聞けば半狂乱になりそうな奴に心当たりがあり、

それ故に語らなかったのもあるのだが。

 

「……本当に届きうるかもしれない。あの忌々しい界獣に。

 でも、それでもまだ足りない。虚構のサヴァトを倒すビジョン――

 そこに至るまでの感情が足りないわ。ヒトの心は言葉だけでは動かない。

 強い感情に伴う行動と言葉、それが人を惹き付け変えていく。

 今の貴方は覗いても何も広がらない、空っぽの万華鏡よ。

 ただ、虚構のサヴァトを倒したいという漠然としたイメージがあるだけ」

 

 剣を握らない物に剣の重さは分からないように、

物語を知らない者が語っても、何も伝わらない。

 

 今のオレの上澄みだけのような言葉では、

誰も何も感じてくれないだろう。

 

 界獣サヴァトやリュメイヌの全て。

 

 清濁併せ持った状態で尚、立ち向かうという意志を持ち、

自身の英雄譚と出来るのなら、他のヒトや自身のイメージが

虚構のサヴァトにも届きうる力になるかもしれないという事か。

 

「オレにできる事は無いのか……?」

 

「――開祖アシモフの英雄譚」

 

「……?」

 

「そのピリオドの向こう側を超え、新たな英雄譚を創る。

 目覚めた界獣サヴァトを屠る。新たな英雄の物語を」

 

「新たな英雄譚――」

 

「本来、英雄譚は作るものではなく、

 ヒトの辿った軌跡が自然と物語として語られ出来る物。

 でも、貴方はその逆。先に新たな英雄譚を創ってしまうの。

 新たな英雄譚を私達の夢――共有のイメージにして

 因果を逆転させればそれは揺るぎないものとなるはず。

 虚構のサヴァトであっても、影響は避けられないわ」

 

 奴にとっては、オレ達を通して心地良い夢を見ようとしたつもりが、

自らが屠られる夢を見せられ、再現されると言うのだから

たまったものではないだろう。なんとも皮肉なものだ。

 

 だが、四の五の言っていられない。

 

 どんな手を使ってでも、虚構のサヴァトを

静寂のサヴァトと邂逅させる訳にはいかない。

 

「その英雄譚が他の人達の界獣サヴァトの恐怖を払拭出来るか、

 貴方が物語の主人公になれるかどうかは、ドラゴンさん次第よ」

 

「もう決めたんだ。尻込みしている暇はない」

 

オレがそう言うと、霧氷の乙女はオレ達に背を向け、

結晶のように凍りついた月下美人の海を歩いた。

 

 そして、瞑想するかのように目を瞑ると、辺りに静寂が満ちていく。

 

 悠久とも思える時間が流れた後、

彼女は口に手を当て、淡い吐息を漏らした。

 

 すると、その息から白い花びらが舞い、

咲き乱れながら一つの輪郭を成していく。

 

 その後には純白の扉が佇んでおり、

眉を擦れば雪に溶けてしまいそうな程、

汚れのない美しいものだった。

 

「さあ、行きなさい。古の英雄譚は終わりを告げる。

 全てを胸に刻み、心の旅を続けなさい。

 結末が、自然と貴方を器の元へと導くわ」

 

「これは……?」

 

「アシモフの英雄譚を元にした新たな領域。

 勿論、嘘偽りのない原本のね」

 

「この領域を進み、イメージを養う事が

 器の元へと向かう事にもなるという事だな。

 ……本当に助かった。何から何まで済まないな」

 

「ふふ、お礼はその逞しい身体で結構。

 それと、期待に応えられなくて残念だけれど、

 私は虚構のサヴァトとは戦えないわ。出来ないの」

 

 考えを見透かされていた。

 

 これだけの想像力を持っているのならば、

きっと、虚構のサヴァトとの戦いで大きな戦力となるなどと、

現金な事を考えてしまっていた。 

 

 あくまで虚構のサヴァトを討伐したいというのはこちら側の都合だ。

 その為に命を賭けてくれと、とてもオレには言えなかった。

 

 何より、従者であるフロストヘルムが、

主を死地へ向かわせる事を許す筈も無い。

 

 これで良かったんだ。

 

「……そうか。いや、道を示してくれただけで有難い。

 後は任せてくれ。ヴェラクトーレ達だけでなく、

 必ず貴女達も無事に理園(りえん)まで送り届けよう。

 貴女やフロストヘルムも、好き好んでこの世界に

 留まっている訳ではないんだろう?」

 

「……ええ、そうね。待ってる」

 

「ついでに、この腹の変な物も

 消して貰えると助かるんだが」

 

「駄目よ。その淫紋が貴方達の

 座標を示しているんだもの。

 それに……」

 

「……それに?」

 

「ある方が愉しいじゃない。

 貴方も案外、気に入ってるのではなくて?

 快楽に溺れても、全て淫紋のせいに出来るでしょう?」

 

「な……! そんな訳が無いだろう!

 こんな時にヒトを誑かしてどうする」

 

「こんな時だから、でしょう?

 愉しむ事を忘れた者に実りは無いわ」

 

 霧氷の乙女のこういう所は本当に慣れない。

 

 ただ、大変不本意だが淫紋にはくだらない効果だけでなく、

刻みつけた者の座標が分かるという。

 

 今後の事も考えると、残しておいた方がいいのかもしれない。

 決して、そういった不埒な思いで残そうとしているのではない。断じて。

 

「ちょっと待て。という事は、

 ヴェラクトーレが今どこに居るのか分かるのか?」

 

「曖昧だけれど、ね。

 今、私が想造した領域の近くにいるようだけれど、

 霧が深くて正確な座標は分からないわ」

 

 虚構のサヴァトが目覚めたせいなのか。

 

 という事は、フロストヘルムがどこにいるのかも

把握していないのだろう。

 

 最も聞きたい情報の一つだったのだが仕方がない。

 

「あの、一つ聞いてもいいでしょうか……?

 あなたは北方で――」

 

「……何? 私、猫獣人は嫌いなの。

 特に雪猫獣人(フェリタリオ)は大嫌い」

 

「す、すみません……」

 

 凍りつきそうな表情でソレイユを見つめる霧氷の乙女。

 

 その顔は今まで見た妖艶なものとも儚いものとも違い、

正に霧氷の乙女という名前に相応しいもので

背筋まで凍りついてしまいそうなものだった。

 

「随分、辛辣だな」

 

「ふん、もう長居は無用でしょう。

 虚構のサヴァトが器から解き放たれるまで時間が無いわ」

 

 後ろ髪を引かれるように、霧氷の乙女を見つめていたソレイユ。

 

 霧氷の乙女によれば、虚構のサヴァトは

目覚めてはいるものの、まだ活動はしていないらしい。

 

 彼女とフロストヘルムは"器"と言っていたが、

それが虚構のサヴァトを封じ込めているのだろうか。

 

 猶予は残されているようだが、あまり余裕はない。

 

「……世話になったな。ソレイユ、あの扉に向かおう。

 他の皆とも合流出来るかもしれん」

 

「……はい」

 

名残惜しそうにする彼女に声をかけると、

オレは純白の扉をゆっくりと開いた――。




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