※この作品はR-18です。

龍闘士ユラン ~悦ヘト堕チル凌辱冒険譚~   作:キバガミ

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アシモフは本当に凄いよ。
みんなの為に居場所を創ろうとしてる。
一緒に走っているのがとっても誇らしい。
でも、全てが終わった後。荒狼にも猿狼にも
成りきれなかった僕は、どこへ帰ればいいのかな……。
                        ――ガルガリオン・イクルシア


百十五話 混沌の領域①

「……ここが英雄譚を元に想造した領域、なのか?」

 

「なんなんですかここ……」

 

 目の前の領域は、今までのものとは全く違う物だった。

 

 リュメイヌでは全く見た事のない景色――

枯れた荒野を太陽が赤く照らし、

ひび割れた大地がどこまでも続いている。

 

 しかし、それより目を引くのは遥か頭上。

 空で荒れ狂っている灰色の巨大な渦。

 そして、あちこちの大地の裂け目から噴き出す無数の霧。

 

 まさに混沌。世界の終末とはこのような光景を言うのだろう。

 だが、それは空想上のものではなく。実際に起きようとしている。

 リュメイヌも、この世界も。虚構のサヴァトが器から解き放たれれば終末が訪れる。

 

 一刻も早く、領域を進んで想像力を養い、

霧氷の乙女の言う、新たな英雄譚を完成させなければならない。

 

「これ、ただの紙じゃないです。何か書いてます」

 

「ん……?」

 

 ソレイユが拾った紙をこちらへと差し出してくる。

 

 その中はびっしりと文字で埋め尽くされており、

どうやら、何かのページの一部のようだ。

 

「もしかすると、英雄譚のページの一部なのか……?

 ソレイユ、何か分かるか?」

 

「いえ、私もユランさんと同じで

 リュメイヌの事は全然詳しくなくて……」

 

「ふむ、こういう時にティエルやヴェラクトーレが

 居てくれればな……」

 

「すみません。何も役に立ってないですよね、私」

 

「いや、そういうつもりで言った訳じゃない。

 ソレイユが一緒に居てくれるだけで随分助かっている。

 こんな所を一人で歩き回るとなったら気が狂いそうだ」

 

 改めて周囲を見渡してみる。

 この噴き出している霧は虚構のサヴァトの影響なのだろうか。

 

 おそらく、今まで旅してきた所も含め、

このような光景が広がっているだろう。

 

 あまり、悠長にしている時間は無さそうだ。

 

「とにかく、まずは歩いてみよう。

 領域を進めば必ず何かあるはずだ」

 

 オレ達は混沌の荒野を歩き出す。

 今までと様相がまるで違うこの領域。

 それに加えて虚構のサヴァトの霧の影響もある。

 

 何が起きても不思議ではないだろう。

 

「霧氷の乙女。あの人は――」

 

「ん?」

 

「いえ、なんでもないです。先を急ぎましょう!」

 

 ソレイユの微かな声は乾いた風と回転草と共に

遠くへ、遠くへと流れていった――。

 

 

――――

 

 

 オレとソレイユは荒野を往き、ただひたすらに歩き続けた。

 その退廃的な光景は寂寥感ばかりが募り、自然と口数も減る。

 自分に面白味の一つでもあったら、この空気感も多少になるのだろうが。

 

「…………!」

 

 遠く彼方に、どこかで見たようなテントが無造作に建てられている。

 

 あれは、リュメイヌに点在しているレギオンだ。

 リバーシュ達の居た所も似たような場所だった。

 そこにはホワイトノイズの走った白影達の姿が見える。

 

 廃城にいた白影と似ていたが、

どちらかというと霧氷の乙女のものに近く、

その輪郭は表情も窺える程、鮮明に見える。

 

「見て下さいユランさん、ヒトですよ!

 でも、ちょっと様子おかしいような……」

 

「あれは廃城のあった領域で見たものだな。

 実際のヒトとは違うものだ。少し様子を伺おう」

 

 ここは霧氷の乙女が想造した領域であり、

あの白影も同じく作られたものだろう。

 

 となると、白影なるものはヒトの記憶や想像から

形作られた幻影なのかもしれない。

 

「オレの見たレギオンとは随分雰囲気が違うな……」

 

 リバーシュ達のレギオンは遊牧民の様に

あるがままに生活を営んでおり、

リュメイヌを象徴するような穏やかな雰囲気だった。

 

 だが、ここはそういうのとは全く違う。

 

 疲弊しきった者達や怪我をした草原狼獣人(アシモベルク)達で溢れており、

どちらかと言えば戦場の駐屯地や野営地のようだった。

 

 こういった光景を見ていると、

その時の事を思い出して胸がざわついてくる。

 

「……随分増えちゃったね」

 

 その時、レギオンに入って来た大柄なガルガリオンが周りを見ながらぽつりと言葉を漏らした。

 彼の姿には既視感がある。以前、霧の大陸で見たガルガリオンだ。

 そして、その背に乗っている男も。

 

「しょうがねぇだろ。オレらと同じあぶれモンだ。

 それに、界獣サボテンをシバけば霧も晴れる。

 そうなりゃ好きな所に住み放題、パンも食い放題だ」

 

「サボテンじゃなくてサヴァトだけど……」

 

 大柄なガルガリオンは呆れたようにして背に乗った男を見上げた。

 

 恐らく、あれが開祖アシモフと開祖ガルガリオンなのだろう。

 前に見た時から思っていたが、どちらも一般的に想像する英雄像とかけ離れている。

 恐怖の象徴たる界獣に勇敢に立ち向かう英雄とは、とても思えなかった。

 

「……ねぇ、アシモフ」

 

「あ?」

 

「どうして、霧の大陸に拘るの?

 もうみんな限界。ボロボロだよ」

 

「………」

 

「別に他の所でもいいじゃない。

 なんなら、みんなで帰ったって……」

 

「――帰るって、どこにだ?

 ネズミの小便をありがたがって飲むような場所にか?」

 

「それは……」

 

 開祖アシモフは飢えた猟犬のような瞳で

開祖ガルガリオンを見下ろし、低い声で問いかけた。

 

 言葉に詰まった彼は俯き、緩やかな歩みを止める。

 

「多分、これからも増えるに違いねぇ。

 ならもう未開拓の――この大陸しかねぇんだよ。

 オレらが誰にも奪われずに生きられる場所はよ」

 

「分かってる。分かってるけど、界獣に傷なんてついてない。

 ただ、ちょっと疲れて地上に降りてるだけ。

 倒すなんて出来っこないよ……」

 

「そうメソメソすんなよ。地上へ引きずり下ろしただけで大進歩じゃねぇか。

 それに、なんでも北方のトカゲ共は界獣を討伐した事があるらしいぜ?

 その話を聞いて頭の中にピーンと来たんだ」

 

「頭の中にあるのは閃きじゃなくて、腐ったチーズみたいな脳みそでしょ。

 アシモフの考える事なんて、いつもロクでもない事ばっかりなんだから」

 

「うるせぇ。だから、明日から北方にある

 燐峰(りんほう)エレンティアっつーところまで行ってみる。

 んで、どうやって北方の界獣をシバいたのか話聞く」

 

「確かに何かいい情報が聞けるかもしれないけど、

 北の大陸向かうって何ヶ月もかかるんじゃないの?

 そんないきなり言われても……」

 

「いつもの事じゃねぇか。

 それに、お前も行くんだぞ」

 

「えっ!?」

 

 その言葉を聞いて開祖ガルガリオンは目を見開きながら

驚愕し、頭を抱えていた。

 

 そんな様子を開祖アシモフは面白おかしそうに見つめながら、

負傷した草原狼獣人(アシモベルク)に声をかけた。

 

「よぉ、随分ズタボロにされたじゃねぇか。

 お前の大好きなウイスキーでもぶっかけて消毒してやろうか?」

 

「テメェが後先考えずに界獣に突っ込むからだろうが!

 ちょ、テメ、傷口に染み……イデェ゛ェ゛ェ゛!!」

 

 開祖アシモフが負傷者にちょっかいをかけている姿を見て、

開祖ガルガリオンは文句を垂れながらレギオンの奥へと向かっていく。

 

 負傷者の山で凄惨な状況なはずなのに、あまり悲壮感はない。

 彼の人柄がそうさせるのだろうか。

 

「……なるほど。英雄譚を知るというのはこういう事だったんだな」

 

「英雄ってどんなヒト達なのかなって思ってましたけど、

 私達と何も変わらないんですね」

 

「そうだな」

 

 そういった物語は多かれ少なかれ脚色され、

それに釣られて人物像も風化していく。

 

 今や英雄と呼ばれる開祖アシモフ達も、

等身大の姿はこういったものだったのだろうか。

 

「…………!」

 

 もう少し周りを見て回ろうかと思ったが、

白影達は淡く輝き出すと月下美人の花びらとなり、

荒野の乾いた風に吹かれ、どこまでも流れていった。

 

「章の終わりという訳か。分かっていた事だが、

 界獣討伐にはかなりの犠牲を払っていたようだな。

 

「気になるのは、界獣サヴァトを倒す為に

 北方へ渡ったと言う事ですけど……」

 

「うむ」

 

 燐峰(りんほう)エレンティアはかつて、

氷龍アークフィアが収めた大陸にある霊峰の筈だ。

 

 そういえば、錆色の領域にあった

廃城のステンドグラスにも同じものが描かれていた。

 

 まさか、オレの住む北方の大陸がリュメイヌと

関連性があったとは思いもしなかったが。

 

「行こう。彼らが界獣サヴァトをどうやって倒したか、

 その結末を見届けられるかもしれん」

 

「それがわかれば、霧氷の乙女さんの言うように

 イメージを養う事が出来るんでしょうか……」

 

「かもしれんな。いや、そうなるはずだ」

 

 事の顛末を見届けたオレ達は先を急いだ。

 

 そう、開祖アシモフは完全に界獣サヴァトを討伐したという訳ではないが、

確実に追い詰めてはいたのだ。

 

 矮小なヒトでも、かの界獣にも立ち向かえると、

背中を押してくれているようにも見える。

 

 少しだけ光明が見えた――そんな気がした。




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