※この作品はR-18です。

龍闘士ユラン ~悦ヘト堕チル凌辱冒険譚~   作:キバガミ

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ヴェラクトーレやソレイユと共に白銀の森で休息する事にしたユラン。
暖を取る為に火種を探し、森を彷徨っていたが――


百十八話 混沌の領域④

 

 休息の為、森の中へと向かったオレ達は

各々やるべき事を成していた。

 

「……これくらい集まれば、大丈夫だろう」

 

 火種用の枝の束を抱えて立ち上がり、純白に染まった森の中を彷徨う。

 

 この世界では眠気が訪れる事も、寒さを感じる事もない。

 理園(りえん)と違って生命活動を行う必要がないのだ。

 つまり、そういった視点で見るのなら、正確には暖を取る必要はない。

 

 だが、不思議なもので激しい運動をした後は疲弊し、

真っ白な雪を見ていると寒さを感じてくる。

 

 これが、精神の比重が大きい白園(びゃくえん)の特性なのか。

 炎に手をかざし、肌で熱さを感じるのではない。

 その光景を見て、脳や心が熱を認識し、実際に手も熱くなる。

 

 普段、オレ達が存在している理園(りえん)とは逆なのだと、

改めてその異質さを実感していた。

 

(だから、霧氷の乙女が言うように、

 想像力が重要になってくるのだろうな)

 

 そして、虚構のサヴァトを討伐する為にはオレだけではなく、

ヴェラクトーレ達の想像力も必要不可欠だ。

 

 彼らは度重なる事態に疲弊している。

 そんな状態では良いイメージなど抱ける訳が無い。

 

「ヴェラクトーレ達には英気と想像力を養って貰わなければな……」

 

 両手に抱えるほどの火種を持ち、帰路につく。

 ここが普通の森で良かった。

 

 あの、お菓子の森のようなふざけた所であれば、

木材など手に入らなかっただろう。

 

「――――」

 

 雪の積もった獣道。その傍らには雪だるまがあった。

 このような人気の無い森の中にある人工物。

 それだけでも違和感は凄まじい。

 

 だが、もっともおぞましいのは、それを構成している物。

 

 腕は木の枝ではなく、マネキンの腕や人形の腕が無造作に付けられており、

右手に至っては三本も取り付けられている。

 

 いや、突き刺してあるといった表現が正しいか。

 顔のパーツに至っては、顔の体裁を保っていない。

 

 鼻の部分には足、左目は獣と思われる人形の耳、右目こそガラス細工の眼球が

埋め込まれていたが、数十個ほどの目玉が規則的に埋まっており、

蓮の穴を見ているかのような、生理的悪寒を感じさせる。

 

「なんだこの薄気味の悪い雪だるまは……

 この歪さは、まるでこの世界に来た時にいた錆色の――」

 

 そう、思考を巡らせた瞬間、背筋が凍りついた。

 この狂気の雪だるまは一個だけではなかった。

 

 先に視線をやれば、草むらや木の陰、

獲物を狩る前の忍ぶ蛇のように、

存在感を殺しながら存在していた。

 

「…………ッ!!」

 

 抱えていた火種を全て投げ捨て、一目散に走った。

 戦闘経験も無いヒトでも間違いなくそうするだろう。

 それほどまでの異質さ。そして、心臓を握り潰すような恐怖を感じた。

 

「そうだった。この世界はこういう所だったな……!」

 

 生き物の息吹すら凍りついているほどの静寂の森。

 しかし、今では背後から何者かが追ってくる足音が聞こえる。

 狂ったように心臓が拍動し、全身の竜皮という竜皮から汗が噴き出す。

 

 振り向きたくない。振り向けば恐怖で卒倒してしまうかもしれない。

 だが、なんでもそうだ。ヒトは分からないモノに恐怖を抱く。

 自身の為にも、恐怖をどうにかする為には立ち向かうしかない。

 

「――――」

 

 感情を押し殺して振り返ってみれば、そこにはオレを追ってくる雪だるま達の姿があった。

 生やしたマネキンの腕を足のようにして、蜘蛛のように這ってくる者。

 生首のまま転がってくる者。見る者が見れば失神してしまいそうな光景だ。

 

 思ったより速度も速く、中々振り切る事が出来ない。

 

 第一、このまま逃げ続けたとして、行き着く先は

ヴェラクトーレとソレイユが休んでいる野営地だ。

 

 彼らに被害が及ぶ事はなんとしてでも避けたい。

 

 それに、進む先に別の雪だるまがいたとしたら、それこそ終わりだ。

 挟撃は戦いにおいてはもっとも避けるべき状況だ。

 なら、オレが取る行動は一つしかない。

 

「来るなら来いッ! 乱戦なら遅れは取らん!」

 

 振り向くと同時に大きく踏み込み、斬竜刀を大きく横薙ぎに振るった。

 

 鉄塊は暴力と言う名の剣閃と風を雪だるま達に浴びせ、

 凄まじい剣圧が積雪を舞い上げ、周囲の木々は一刀両断されていく。

 

「…………!」

 

 暴力の風刃に晒された雪だるま達の大半は消し飛ばされ、

残るは三割程度にまで減っていた。

 

 どうやら、個々の戦闘力は大した事はないらしいが、

未知の化け物はどんな事をしてくるかも分からない。

 

 小型の蛇の毒が致命傷になるように、

油断すれば寝首をかかれるかもしれない。

 

 どんな強者であっても、その命は糸のように脆く、儚い。

 

「雪だるまなら、達磨らしくその場で立ち尽くしていろッ!!」

 

 あれだけの力量差を見せれば、普通の生物であれば

危険を察して警戒するか、その場から逃げ去るだろう。

 

 だが、この雪だるま達は一考する素振りも見せず、

仲間の屍を踏みにじってこちらへと飛びかかってくる。

 

 その内の複数体を纏めて斬竜刀で叩き潰し、

死角から襲いかかるもう一体を、裏拳で粉砕する。

 

 蟲の群れの如く大量にいた雪だるまは既に片手で数えられる程度になっていたが、

恐怖を感じていないのか、全く物怖じせずに飛びかかってくる。

 

「ハ、アァアァァッ!!」

 

 積雪に埋もれた斬竜刀を勢いよく振り上げると、

竜の息吹のように風圧と雪が彼らを襲えば、

辺りはホワイトアウトしたかのように白い世界に包まれる。

 

 それが収まると、そこにあるのは大量の雪とマネキンの残骸ばかりで、

再び森に静寂が訪れた。

 

「一体なんなんだ、この雪だるまは。

 何故このような所に……

 いや、この世界に理(ことわり)を求める方が無意味か」

 

 この世界の出来事は考えれば考えるだけ、時間と脳のリソースの無駄だ。

 起こった事に振り回されながらも、臨機応変に対処するしかない。

 

「この光っているものは……?」

 

 マネキンの残骸からは、所々何かが光を反射して煌めいている。

 

 初めは雪か何かだと思っていたが、拾って確かめてみると、

どうやら糸のようなものであり、氷にでも触れているかのようにひんやりとしている。

 

「氷の糸……? これがマネキンを動かしていたというのか。

 確か、どこかで見たような――」

 

 記憶を掘り下げようと思っていた矢先、

不意に近くの草むらから音が響いた。

 

「まだ生き残りがいたかッ!」

 

「早漏が過ぎるよユラン殿。私だよ。

 キミの親愛なる下僕、ヴェラクトーレだよ」

 

 斬竜刀の切っ先を向けた先には歪な雪だるまではなく、

ヴェラクトーレの姿があった。

 

 殺意の塊を叩きつけられたせいか、

顔を引きつらせながら抵抗の意思はないと腕を上げている。

 

「ヴェラクトーレか。ソレイユと共に休んでいたはずだが、何故ここにいる」

 

「何を言う。ユラン殿がいつまで経っても戻ってこないので、

 こうして探しにきたのではないか」

 

「すまん。心配させてしまったな」

 

 どうやら、火種の収集と雪だるまとの戦闘に

随分と時間をかけてしまったようだ。

 

「何かあったのかね――む、これは……

 随分、お楽しみだったようだね」

 

 彼は周囲に散らばる雪だるまとマネキンの残骸を見渡し、

大体の状況を察したようだった。

 

「何がお楽しみだ。お前もこんな薄気味悪い奴らに集団で追われてみろ。

 心臓を一生分動かした感覚が味わえるぞ」

 

「私は遠慮しておくよ」

 

 未だに胸は激しい拍動を続けており、

額や腕には珠のような汗が浮かんでいる。

 

 インナーの内側は汗ばみ、竜皮にへばりついて

気持ちが悪い事この上ない。

 

「しかし、今までの情報から鑑みるに、

 錆色の空間にさえ気をつければ霧氷の乙女を除いて

 牙を向く者はいないと思っていたが、考えを改めないといけないようだね」

 

「そうだな、急いでソレイユの所に戻らなければ。

 この状況で彼女が一人でいるのは危険だ。

 すまないが、先に戻っていてくれないか?」

 

「共に戻ればいいではないか。

 何か野暮用でもあるのかね?」

 

「いや、奴らに追われる時に火種を落としてしまってな。

 オレはそれを回収してから戻る」

 

「水臭いではないか。私に命じればより早く終わるだろうに。

 ユラン殿が望むのならば、私は悦んで椅子でも玩具にでもなろう」

 

「何故、手伝おうという一言が、そんな気色の悪い言葉になるんだ。

 まぁ、確かに手を貸してくれるのは助かるが、それではソレイユが――」

 

「危険なのはユラン殿も同じだと思うがね。

 私が手伝えば、あの猫の元に戻る時間も早まり、

 二人とも安全な時間が増えるというもの」

 

 その考えはもっともだ。それに、また何かに襲われて

火種を落としてしまったとあれば、目も当てられない。

 

「悪いな、なら頼んでもいいだろうか」

 

「無論だよ」

 

「落とした場所の検討は大体ついている。

 オレが逃げてきた方から逆算すれば――」

 

 そう言って、ヴェラクトーレと共に歪な雪だるまの残骸を越え、

火種を落とした方角に向かって歩き始める。

 

 尻尾に絡みついた氷糸に気が付かないまま――




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