艶虎族の大移動の時期が近づいており、
それに合わせて捕らえられた男達も解放する手筈となっていて、
彼女達はわざわざユランの見送りをしようとしていたのだった。
そして、ユランはリーシェにある提案をする――――。
※十四話 ムーンライトシンドロームからの正規ルートになります。
「では、行く」
オレはリーシェから渡された整えられた装備を身に纏い、
集落の外の森のその先――開けた場所から続く丘までやってきていた。
丘の背後には大きく真っ白な月が浮かんでおり、静かで美しい夜だった。
少し肌寒さを感じる清涼な風が竜皮を撫でる。
リーシェから渡された装備は衣のほつれや
ボロボロになっていた箇所も綺麗に直されており、
新調したものとみまごう程だった。
「アァ、テメェみてぇな言う事聞かねェじゃじゃ馬、
さっさとどこへでもいっちまえ」
「もう、お姉ちゃんは最後まで……
じゃぁ……気をつけてね、ユランさん」
「済まない。斬竜刀まで研いでもらって……
こんな重い物を研ぐのは大変だっただろう」
「…………? わたし、剣は触ってないけど……」
リーシェがきょとんと首を傾げる。
「もしかして……お姉ちゃんが?」
「アァン? な、なんでアタシがそんな事しないといけねェんだよ……」
「そうだ、コイツがそんな事をするなんて
天地が裂けたとしてもありえない」
「アァン!? テメェ……チンポ引き千切んぞ!?」
「…………お前が言うと冗談に聞こえないから止めてくれ」
こんな巨大な物を華奢なリーシェがどうやって研いだんだと思っていたが――
ミネヴァが研いだなら合点がいく。
しかし、なぜ彼女が――――。
「おねえちゃんもユランさんの事、好きだからね」
「ハァ? なんでアタシが精液袋の事なんか好きにならなくちゃいけねェんだよ。
ボロボロだったし、アタシが傷つけたのもあったから……
そのまま返すのは後味がわりぃだけだ」
「…………済まない。ありがとうミネヴァ」
「うっせェ、早くどっか行っちまえ」
シッシと手で払い除けるような動作をしながら言うミネヴァ。
リーシェはその様子を朗らかな表情で見つめていた。
「あぁ、ではな」
言葉数も少なく、オレは二人に背を向けて歩いて行く。
しかし、数歩程歩いた所でその動きを止めた。
そして、踵を返すと二人の前まで戻り、
リーシェの目の前で背を合わせるようにしゃがみこんだ。
「オレは旅の途中、一度竜人の国――リンドヴルムへと戻る。
そこでなら……リーシェの両親が見つかる可能性もあるかもしれない」
「…………ぁ」
リーシェは唐突なオレの言葉に目を白黒させ、戸惑っていた。
無理もない、あまりにも突拍子の無い申し出だ。
しかし、今生の別れになるかもしれないと思うと、
彼女が望むなら――幸せを見つけられるのであればと、
自然に身体と口が動いてしまっていた。
「だから――もしリーシェが望むのであれば、
君の安寧の地が見つかるまでこの命、
あらゆる穢れを払う、一振りの刃としよう」
オレは胸に手を当てると、自身の言葉に誓うように頭を垂れた。
「あ、え……わたし、は…………」
「え? え? 純白の蕾って……まさか、リーシェの事か?
…………あらゆる穢れを払うって……ぶふぉッ!!」
「もうっ! お姉ちゃんはあっち行ってて!!」
吹き出したミネヴァをリーシェが物凄い剣幕で遠くへ押しやっていく。
少し臭過ぎたかもしれないと、頬が灼けるように熱くなっていくのを感じ、
それを隠すようにより深く頭を垂れる。
「おねえちゃんが茶々を入れちゃってごめんなさい……
ユランさんの言ってくれた事、すごくうれしい。
でも……わたしはここに残るよ」
「もうここが、わたしの居場所だから……」
リーシェが後ろで腕を組んで、月に向かって歩いていくとこちらに振り返った。
「もしかしたらおとうさんとおかあさんに会えるかもしれない。
でも、大切なモノ……もう、ここにあるから」
ミネヴァとリーシェの視線が交錯し、その眸は集落へと向けられた。
――――どうやら、いらぬ世話だったようだ。
リーシェは自分で自分の居場所を決められる、
確かなる強い意志を持っていた。
「済まない、いらぬお節介だったな。
それに、よく考えればミネヴァの世話をする者が居なくなるな」
「ね、おねえちゃん、結構さびしがりやだから……」
「アァン!? マジでそのチンポ斬り落とすぞ!?」
オレとリーシェはミネヴァを見上げながら笑った。
彼女達であれば、無翼者だろうと別の種族だろうと、
ずっと共にいられるだろう――。
「では、な」
オレは静かにその場から立ち上がった。
もう言葉は何もいらない。
「おい、種馬。持ってけ」
「…………?」
ミネヴァがオレに向かって何かを放り投げ、しっかりとそれを掴む。
それは幅の広い少し変わった形状をした刃――
そう、それはミネヴァが使っていた短剣だった。
「これはお前の――――」
「いいから、それともまた種馬生活に戻りてェのか?
アタシは別に構わねぇケドよ?」
ミネヴァは有無を言わさずと言った形で会話を断ち切る。
言葉よりも行動で――どこまでも彼女は彼女らしかった。
「いや、ありがたく受け取っておく。ではな」
「うん、さよなら」
「さっさとイッちまえ」
オレ達は互いにもう一度見つめると、
互いの輪郭は離れ、夜の帳へと溶けていった――――。
分岐からの続きが分かり辛いので後日修正予定です。