大陸と大陸を繋ぐ危険な空の道――蒼穹の道《フィルフィロード》
を渡ろうとするが、その途中でとある浮遊岩を見つける――。
冷たく刺すような風がオレの竜皮を撫でていく。
見下ろせばどこまでも堕ちていきそうな青空が広がり、
飛び降りればそのままオレの身体をそのまま受け止めてくれそうな
大きい雲が無数に漂っていた。
「寒さに慣れているとはいえ、
流石に堪えるな……」
オレはもうこの街では情報は得られないと思い、
西へと向かうべく、大陸と大陸を繋ぐ空の道を進んでいた。
道とは言っても空に浮かぶ浮遊岩同士を粗雑に楔で繋ぎ止めたようなものであり、
まだ老朽化した吊り橋を渡る方が安全だろう。
大型の浮遊大陸や流通が盛んな場所はもっと蒼穹の道は整備され
多少は安全なものとなっているが、気ままに宙を浮かぶ無数の浮遊岩を繋ぎ止めて
道とするのは多大な労力がかかり、大体はこんなものだ。
それ故に大陸を渡る旅をするのは非常に危険であり、
だからこそ、人を惹きつけてやまない。
「オレは飛べない分、落ちたら一巻の終わりだな……」
真下には深い深い蒼が広がっており、
落ちたらひとたまりもないだろう。
そもそも、その先の果て――空の終わりがあるのかすらも定かではない。
まだ見ぬ土地を夢見て、空を降りていった人達も大勢いたが、
誰一人として帰ってくる事はなかった。
いつからか、空の下は
禁忌の地とされるようになったのだ。
「ん…………?」
どれほど浮遊岩を渡っただろうか、オレは一際大きい浮遊岩の上に到達していた。
その大きさたるや以前の街などすっぽりと入ってしまう程の広さであり、
人跡未踏を体現するが如く、草木が生い茂り放題となっていた。
これはさしずめ、小さな小さな大陸と言ってもいい程の大きさだ。
「丁度いい……まだ先は長い。
今日はここで野営するとしよう」
しばらく辺りを探索すると、木々の生い茂ったその先に建築物らしき物が見える。
「な…………? ここに人が住んでいるのか……?」
そう思ってオレは近づいていくが、それはすぐに勘違いだと悟る。
そこは人の居た軌跡だけが残り、どれほどの年月が過ぎたのか
かろうじて建物だと判別出来る程の家々だった。
壁はその白さを失い、くすんで真っ黒になっており、
窓らしきものがあった場所は空洞になっていた。
艶虎族の集落よりもずっと小さく、家らしき建造物は
片手で数えられる程のものしかない。
しかし、そこには確かに誰かが存在していたという跡が残り、哀愁が漂う。
「ちょうどいい……まさか雨風も防げそうな場所で
休めるとは思わなかったな」
蒼穹の道は夜になれば更に気温は下がり、
水でさえも凍りつくほどの温度になり、
酷い場所は凍った水分が細かい槍のようになって
暴風と共に襲いかかる、水晶風と呼ばれる危険な天候も存在する。
ろくに準備さえしなければ身も心も凍りつき、
一夜さえ越す事が出来ない程の過酷の場所だ。
オレもそれを覚悟で赴いていたのだが、
今日は快適な夜が過ごせそうだ。
「…………」
過ごす場所の目星をつけようとしばらく歩いていると、
まるで刺すような獰猛な視線を感じる。
それも一人ではない――――。
「誰だ、いるのは分かっている」
「やべぇ、バレてやがる!」
相手は観念したのか、建物や草、木の影から続々と姿を現した。
それは四人の狸獣人であり、体躯はオレの腰ほどしかない
小柄で可愛らしい者達だった。
しかし、フードを深く被っており、その隙間からは獲物を狙うような
眼光がギラつき、こちらを射抜いていた。
明らかに友好的な関係を結ぼうとしている者の目ではない。
「折角、人が穏便に事を済ませてやろうと思ったのによぉぉ~~~~!!」
「バレちまったんならしょうがねぇ!!」
「オラオラオラオラ!!
金出せ! 金出せ! 金出せ!
出せ出せ出せ出せーーーーーー!!!」
(なんなんだ……この絵に書いたような盗賊達は……)
まるで駄々をこねる子供のように金をせびる盗賊達。
一周回って可愛らしさすら感じるが、少し違和感を覚える。
――――何故、こんな危険な所に?
艶虎族の集落で受けた扱いによって、身体はまだ完全に
回復してはおらずまだ疲労感や気怠さが残っていたが、
弓や短刀の構え方、立ち振る舞い、一つ一つの動作や挙動が
彼らは大した使い手ではない事を物語っている。
恐らくオレだけでもこの盗賊達を退ける事が出来るだろう。
しかし、先程の違和感がしこりのように残っていた。
大した使い手でも無いのに加え、思慮も浅い。
退けるのは、多少戦闘の心得がある者にとっては造作もない事だ。
なのに、このような危険で隔絶された場所で強盗――?
巨大な大剣を扱える大男相手に全く恐れぬ無鉄砲さ。
そんな盗賊生活を続けていれば、命がいくつあっても足りないだろう。
それにも関わらず、まるで略奪行為が成功する事を信じて疑わないような――――。
そんな違和感をオレは確かに感じ取っていた。
「これしか出せるものは持っていない」
そう言ってオレは、なけなしの旅銭を盗賊達の足元に投げた。
違和感の正体が分からず警戒していたのもあったが、
正直、この蒼穹の道で余計な体力は使いたくはなかった。
必要最低限の旅費で戦いが避けられるならそれに越したことはないだろう。
「銀貨……二枚……」
「うりゃぁあああああああ!!
足んね! 足んね! 足んね!
足んねーーーーーー!!!」
「金出せ! 金出せ! 金出せ!
金を出せぇぇええええーーーーーー!!!」
「もう無理だ、これ以上はオレの命に関わる。
後は……こんなものしかない」
そう言って、オレは小袋を彼らの足元へと投げた。
「すんすん……いい匂いがする……
これは……甘ぇ!」
小袋の中身は、以前艶虎族に囚われた男達を助けた時に
その中の子供からお礼と共に渡されたものだった。
「食うな! キャンディー如きで
オレ達が買収されると思うなよ!
どこまでもオレ達をこけにしやがって!」
「ボリボリ! もっと飴出せ! 飴出せ! 飴出せ!
飴を出せえぇぇえぇぇーーーーーー!!!」
「ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛~~~~~~!!!
金くれ! 金くれ! 金くれ!!
金を出せぇぇぇえぇぇぇーーーーーーー!!!」
「ぐっ……やはり無理か……!
止むを得ん……! 応戦するしか……!」
発狂した盗賊達は一斉にオレに飛びかかってくる。
オレは気怠い身体に鞭を打ち、斬竜刀を引き抜いた。
「待てぇぇぇ~~~~~~い!!!」
突然、図太い声が響き渡り、巨大な影が空を舞う。
そして、それは狸獣人達に向かって槌のような物を振り下ろすと、
凄まじい轟音と共に辺りは粉塵に包まれていく。
「ぷぎゅッッ!?」
その爆心地に居た三匹の狸獣人は無惨にも吹き飛ばされ、
情けない声を出しながら地面に倒れ込んでいた。
中には頭から地面に突き刺さっている者もおり、
完全に気絶してしまっていた。
「ふいぃ……! で、おめーはどうなんだ?
まだこの竜人から金をぶんどろうってか?」
「ひいぃぃぃいぃぃぃ~~~~~~!!!」
「このクソトカゲに仲間が居るなんて……
聞いてねぇぞぉぉ~~~~!!!」
戦闘に躍り出た謎の獣人が狸獣人をひと睨みすると、
ぶるりと身体を震え上がらせながら地面に突き刺さった
別の狸獣人を引っこ抜き、脱兎の如くその場から逃げ去っていく。
他の狸獣人達もその姿を見て、我先にとその場から立ち去っていき、
喧騒に包まれていた廃墟は静寂を取り戻す。
「危なかったな! トカゲの兄ちゃんよ」
「オレはトカゲではない、竜人のユランだ。
何はともあれ、助太刀感謝する」
オレを助けた張本人は、薄い桃色の肌に
深い毛が生えており特徴的な大きい鼻をしていた。
一見、豚獣人なのかと思ったが対となる
巨大な角が生えており、牛獣人や猪獣人とも見て取れる。
――――彼は雑種なのだろうか。
「良いって事よ! ガハハ!
最も……兄ちゃんも随分と腕に自身があるようだし……
邪魔しちまったかもしれねぇな?」
「いや、訳あってあまり身体は動かしたくなくてな……
本当に助かった……その……
因みに、そちらの名前はなんと言う?」
「オレはツノブタマン! 正義の聖獣ツノブタマンと呼んでくれ!」
彼はそういってオレに向かって親指を立て、
口角を上げた口の隙間からキラリと白い歯を見せつけた。
「はぁ…………」
オレは予想だにしなかった回答に困惑した。