※この作品はR-18です。

龍闘士ユラン ~悦ヘト堕チル凌辱冒険譚~   作:キバガミ

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見せたいものがあるとセルバルとリバーシュにとある場所に案内されたユラン。
そこで見たものは、霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)がリュメイヌの大地に残した巨大な爪痕だった――。


三十五話 霧笛の軌跡を追って

「一体、どこまでいくんだ?」

 

「そう焦るなぷるん。

 早漏は女に嫌われるぞ」

 

 オレはセルバルとリバーシュに連れられて、

蒼に染まる黄金海の中を歩いていた。

 

 そこはレギオンから大きく外れており、

背丈以上にも伸びている、生い茂る黄草のせいで酷く歩き辛い。

 

「よし――ここだ。見てみろ」

 

「これ、は……?」

 

 セルバルの指さした先には見渡す限りの広大な湖が広がっており、

端から端まで歩くだけでも半日以上はかかるだろう。

 しかし、大きい事以外は何の変哲もない湖のようだが――。

 

「湖――だな」

 

「バカ、よく見ろクソトカゲ」

 

「…………?」

 

 そう言ってリバーシュが湖の底を指さした。

 見ると、そこには酷く苔がこびりついた

建造物が無数に乱立していた。

 

 湖の底を埋め尽くす程の数が点在しており、

オレはその光景にどこか既視感を感じた。

 

「街――か?」

 

「ご名答。この湖はな……

 ヤツが通った後……足跡だと言われている。

 不思議だろう? 踏み潰された筈なのに建物は無傷だ」

 

「こんな大きさの湖が……界獣の足跡だと……!?

 山以上の大きさではないか……!」

 

「霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)に挑んだバカな奴らの末路ってワケだ。

 これで分かったか? もう一度言うが、

 こうなりたくねェなら霧には近づくんじゃねェ」

 

 セルバルはリバーシュの言葉に静かに頷いた。

オレはただ、その事実に呆気にとられていた。

 

 蟻が象に立ち向かうが如く、圧倒的な生物としての"差"。

 オレはそれを如実に実感し、その姿すら想像出来ない

霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)の得体の知れない恐ろしさに身震いした。

 

「――そうだ、な……どうやらオレは、

 まだ心の何処かでどうにかなると思っていたらしい。

 すまない」

 

「ぷりんが謝る必要はない。

 そして、誰のせいでもない。

 我々はただ前に進むしか無いのだ」

 

「ケッ……何の役にも立たねえアイツが

 死に晒しやがった後も一丁前に他人を困らせやがって……

 本当にどうしようもねェヤツだ」

 

「なに、時間と酒が全てを解決してくれる。

 さ……戻って酒――見張り番の続きをせんとな」

 

「ハッ……! 酒盛りの建前にされて、

 オンドリッドも浮かばれねェな」

 

 月影に溺れそうな三人分の影は、

そのまま都市の水没した湖の水面から離れ、

静かに溶けていったのだった――。

 

 

――――

 

 

「――――」

 

 少し肌寒さを感じ、地平線の彼方に

薄っすらと明かりが灯る残夜。

オレはただ一人、首都へと向かう道を歩いていた。

 

 あれほど、セルバルとリバーシュが

止めてくれたのにも関わらず、

オレは愚かにもオンドリッドを探そうとしていた。

 

 彼らはオンドリッドという者の死を

悲しんでいない訳でも、全てを諦めた訳ではない。

 

 事実を受け入れて先へ進もうとしているだけだ。

 どう考えても、彼らの考え方の方が建設的で正しい。

 

 だが――皆が達観し、彼の死を受け入れて

しまっている事が、酷く悲しかったのだ。

 

 それに、オレまでそれを受け入れてしまっては、

"あの人"を探すという旅の意味が無くなってしまう。

 

 一縷の望みに賭けて、あの人を探すのは愚かな事なのか?

 現実を受け入れ、彼らのようにオレは

オレ自身の人生を生きるべきではないのか?

 

 そう、オレの理性は囁く。

 自身の行動が感情的で愚かである事は分かっている。

 

 リバーシュとセルバルがオレの事を心配してくれたのを

無下にする行為だとも分かっている。

 

 しかし、この歩みだけは止まらない。

 止めてはならないのだ――決して。

 

「む、ここが……リバーシュの言っていた場所なのか?」

 

 暫く道なりに進んでいると、一見何の変哲も無い所だったが、

良く見れば足元には木屑が散乱しており、

荷車の車輪の跡が強く残っている場所があった。

 

 荷車は草原狼獣人(アシモベルク)達が片付けたのか、

残骸は残っていなかったが、確かにここで

何かがあった事を物語っていた。

 

「しかし……こうもススキが伸び放題では……

 手掛かりを探すにも骨が折れるぞ……」

 

 道を少しでも外れれば、背丈の長い草木が生い茂っており、

ちょっとした手掛かりを探すだけでも困難を極めそうだった。

 

 手始めに車輪の跡や木屑の付近を調べてみるが、

当然、何も見つかるわけがない。

 

 こんな事で何か発見出来るのであれば、

草原狼獣人(アシモベルク)達が既に見つけているだろう。

 

(いや……普通に探すのではダメだ。

 草原狼獣人(アシモベルク)達が探さない所……

 もしくは――探せない場所)

 

 オレはセルバル達の言葉を頭の中で反芻(はんすう)する。

 彼らにとっては霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)とは、脅威ながらも生活の一部と化している。

 

 霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)には不干渉を貫き、

霧が少しでも出れば即刻避難する。

 

 という事は、逆に霧や足跡と言った

界獣の軌跡を追えばいい。

 きっと、そこに手掛かりがある。

 

「絶対に見つけてやる……!

 生死が分からない人を想い続ける

 辛さを味わうのは……オレ一人で十分だ」

 

 まるで自身の無謀な行為を正当化でもするかのように、

オレは霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)の軌跡を探す為、

更に探索範囲を広げたのだった――。

 

 

――――

 

 

「――――これは?」

 

 あれから小一時間、オレはススキの中を注意深く進みながら

探索を続けていると、足元に白く濁った石が転がっていた。

 

 それを拾い上げるとぶにょり、と歪に形を変え、

なんとも言えない感触が掌に伝わる。

 ゼリーより少し柔らかい固形物のようなものだった。

 

「もしや……これが霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)の付近で

 降るというゼリー状の雨……というものか……?

 こっちにも……」

 

 オレは白濁色のゼリーが溢れている方へと

どんどん歩みを進めていく。

 

 そして、その数はどんどん増していき、

暫くするとススキの無い開けた場所へと出た。

 

 そこにはセルバル達が見せてくれたものと

似たような大きい湖があった。

 恐らく、これも界獣によって付けられた物だろう。

 

「やっと見つけたぞ……! 霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)の手掛かり……!

 オンドリッド……無事いてくれ……」

 

 オレは焦燥感に駆られながら、すぐさま湖畔まで

駆け寄って周囲を注意深く観察した。

 

 すると、やはり先程見つけたゼリー状の固形物が

至る所に転がっており、まるでガラス玉を空から

落としたかのような少し幻想的な光景だった。

 

 しかし、こうしている間にもオンドリッドは

生死の境を彷徨っているかもしれない。

 行方不明になってから一週間なのだ。

 

 もし、水を摂取出来ていなければ数日程度しか持たず、

仮に水や食糧を確保出来ていたとしても、

一週間を超えれば死亡する確率は格段に跳ね上がっていく。

 

「…………!! これは……何かが這いずった跡と……

 焚き火の跡……? 火種は……炭化しているが、

 まだそれ程古くはない……確かに誰かがここに居た……!」

 

 これは大きな進歩だ。雲を掴むような軌跡から、

ようやく手繰り寄せた重要な手掛かり。

 

 当然、セルバル達以外の草原狼獣人(アシモベルク)の可能性もあるだろうが、

彼らの口ぶりからすれば霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)に好んで近づく者など

リュメイヌに居る者達からすれば禁忌――あり得ないだろう。

 

 それを踏まえると、霧を観測出来る危険な場所で

野営をするとは通常時では考えにくい。

 

 となれば、何らかの事情でここに

留まるしか無かったという事になる。

 

 点と点の間に張り巡らされた、透明な線が徐々にその形を表し

その先にはオンドリッドが生存しているという輪郭が

朧げではあるが映し出されていく。

 

「頼む……生きててくれ……!」

 

 心拍数が上がる心臓を置き去りにするかのように、

オレは湖畔を疾走し、陽炎のように白く揺れる霧の中へと

飛び込むのであった――。

 

 

――――

 

 

「クソ……奥に行く度に霧が濃くなっていく……!」

 

 オレはオンドリッドの残した手掛かりを頼りに

湖畔の霧の中を進んでいくも、捜索は困難を極めていた。

 

 二重遭難にならないように一定間隔で

破った布を巻き付けた枝を地面に突き刺し、

道標を付けながら進んでいたが、

 

当然、そのように進んでいれば

普段の数倍以上の時間が掛かってしまい、

体力がどんどん奪われていってしまう。

 

 そして、何よりこのような状況で

無視出来ないのが自身の精神状態だった。

 

 不明瞭な視界で少しでも気を緩めれば

自身も遭難してしまうという緊張感。

 

 そして、もう一つがオンドリッドの生死が

分からず、急がずにはいられないという状況から、

激しい焦燥感に駆られ続けてしまっていた。

 

 もし、既に彼が息絶えてしまっていたら、

リバーシュとセルバルにどんな顔をしてその事を告げればいいのか――、

オレ自身も、このまま帰らぬ者となるのでは――。

 

 そんな消極的な考えばかりが脳裏をよぎる。

 

「ダメだ……こんな事では……!

 こういう時は……無理矢理にでも

 前向きな思考をしなければ……!」

 

 自身を鼓舞するかのように大きめの独り言を呟く。

 そう、全てが上手く言った時の事を考えるんだ――。

 

「――――!!」

 

「…………ん?」

 

 一瞬、人の声のようなものが聞こえ、

オレは耳に集中し、虫の声一つすら逃さないように

神経を研ぎ澄ませていく。

 

「ぁ……! け……て……」

 

「…………! 声がする……!

 紛れもない……人の声だ……!

 こっちか……!!」

 

 足が湖の水やぬかるみで汚れる事すら忘れ、

無我夢中でその声の元へと駆けていく。

 

「…………な!?」

 

 オレがそこに辿り着くと、

信じられない光景がそこには広がっていた――。




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