※この作品はR-18です。

龍闘士ユラン ~悦ヘト堕チル凌辱冒険譚~   作:キバガミ

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スリット内から卵を排出し終えたユラン。
野営地に帰ろうとすると、何者かの声が夜の草原に響いていた――。


四十四話 焔眼の中に映すモノ

「…………?」

 

 オレは最低限の応急処置を終え、

野営地の近くへと戻ると怒声が

夜の黄金海に響き渡っていた。

 

 この声はリバーシュのもので間違いないだろう。

 

「テメェ!! なんで霧が見えた時にすぐ離れなかった……!?

 首都に行くのは日をずらせばいいだけの話だろうが……!」

 

「だって……だってぇ……モコリゲスが荷車が倒れたのに

 びっくりして……霧の中に行っちゃったからぁ……!」

 

「んなモン見捨てろ! それで探しに行ったザマがこれだろうが!

 霧の中に入るのはヤベェって……耳にタコが出来るくらい

 小さい頃から聞かされてるよなァ!?」

 

「ひいぃッ……! でも……あの子は小さい頃から……

 ずっと一緒だったからぁ……!」

 

 話の最中に口論にでもなってしまったのか、

リバーシュは牙を剥き出しにしながら

オンドリッドに詰め寄っていた。

 

 当の本人は汗を垂らしながら腰を抜かし、

ぽろぽろと涙を流しながらリバーシュを見上げている。

 

「それに一番腹が立つのがよ、テメェを逃してくれた

 あの竜人の所に何の考えも無しにノコノコと帰りやがった事だ。

 頭ン中にまでナメクジに卵産み付けられたのか!?」

 

「ごめんよぉ……! ごめんよぉ……!

 ボク……どうしても助けてくれた

 あの竜人さんを見捨てられな゛ぐでぇ゛ぇ゛……!!」

 

「バカ! 本当にテメェはどうしようもねぇバカ!

 テメェみてぇなクソザコデブが戻っても

 アイツの邪魔になるだけってのが分かんねぇのか!?」

 

「んひぃ……!!」

 

「そのクソみてぇな行動はな、見捨てたテメェの

 後味が悪くなるっつーだけのただの自己満だ。

 自分を甘やかすのも大概にしろよ……!」

 

「本当にあの竜人の事を考えてンなら……

 テメェはさっさと逃げるべきだった。

 それから応援を呼ぶなり何なりした方がずっとマシだ……!

 例え、間に合わなかったとしてもな……」

 

「う……うぅ……」

 

 リバーシュは正論という名の拳で

オンドリッドを完膚なきまでに叩きのめす。

 

 実際、オンドリッドが戻ってきた時には

一刻も早くその場から離れてくれと願うばかりだった。

 

 リバーシュが居なかったらと思うと、

それだけで背筋が凍り付くような思いだ。

 

「どっちも助からずに一緒にクソナメクジに喰われるっつー

 あの竜人が一番避けようとした事態をテメェは起こしたんだ!

 いっぺん、マジでくたばらねぇと分からねェか!?」

 

「…………もういいだろう。

 オレが身勝手な行動をしたのにも問題がある」

 

 オレはオンドリッドの事がいたたまれなくなり、

激昂するリバーシュと彼の間に入った。

 

 こんな事、言う資格が無いのも分かっている。

 

 だが、オレには助けてくれた相手を見捨てる事が出来ない

オンドリッドの気持ちが、痛い程に理解出来た。

 

「うるせェ! これはオレとコイツの問題だ! テメェには関係ねぇだろ!

 大体、テメェもあれだけ霧には近づくなっつったのに……!」

 

 リバーシュはオレに噛みつくような勢いで近づいてくる。

 

 オレは殴られる事すら覚悟し、思わず目を瞑ったが、

突然、彼は憑き物が落ちたかのように、

その場に胡座をかいて座り込んだ。

 

「…………わりぃ。アンタはもう部外者じゃねェ。

 アンタは命懸けで弟を助けてくれた……

 どう感謝していいのかすら分からねェ……」

 

 彼は一度頭を掻き毟ると、誰とも視線を合わせる事なく

火の粉が夜空に還る様子を眺めていた。

 

「草原狼獣人(アシモベルク)にとって、霧は死そのものだ。

 抗う事なんて普通は考えもしねェ。アンタだって、

 老衰で死ぬ事から逃れようとはしないだろ?」

 

「…………そうだな」

 

 リバーシュの言葉に同意するかのように、オレは

炎から生まれる火の粉の行方を同じように見ていた。

 

 彼が語ったように、草原狼獣人(アシモベルク)達の価値観からすると、

いかにオレの取った行動が無謀で愚かな事かが分かる。

 

 豊穣の国リュメイヌはその天寵(てんちょう)を授かるばかりではない。

 光があれば影もあるように、その部分も見定めなければならない。

 霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)はその最も分かりやすい例だろう。

 

「そういえば、何故リバーシュはあそこに居たんだ?」

 

 ずっと疑問に思っていた事を言葉にする。

 今の話を聞き、余計にその違和感は膨れ上がったからだ。

 

 何故、大事な弟すら助ける事を諦めたリバーシュは

死の象徴でもある霧の中にやってきたのか――。

 

「ハッ……! 分かりやすいんだよアンタは……

 あの話を聞いた後で深夜にガサガサガサガサやってたら……

 誰だって何を考えてンのか手に取るように分かるぜ」

 

「むぅ…………」

 

「それであの置き手紙だ。誰がバカ正直にあれを信じるんだ?

 後を付けたら予想通り、アンタが霧の中に飛び込んでいったのを

 見て頭が痛くなったぜ。その後も途中で見失うわ道に迷うわで散々だ」

 

「す、すまない……」

 

 確かにあの晩、捜索する際に何が起きてもいいように、

就寝用に与えられた家屋で武器の手入れや荷物の整理をしていた。

 

 聞いてみれば、なんとも情けない話だ。

 

「まぁ、もういい。それに……

 オレだって薄汚えハイエナ野郎だ」

 

「…………?」

 

「アンタを無理矢理ふん縛って引き止める事だって出来た。

 でも、オレはそうはしなかった」

 

「何故だ?」

 

「――心の何処かで、アンタがこのデブを

 見つけてくれるのを期待してたんだ。

 笑えるよな。結局、オレはアンタに便乗しただけだ」

 

 自身を嘲笑するかのように、リバーシュは

僅かに口角を吊り上げた。

 

「リュメイヌの枠の外から突然やってきた来た

 よく分かんねェ竜人――。

 何か……ヤッてくれるんじゃねェかってな」

 

「…………」

 

「スゲぇよアンタ。オレは霧の中に入って

 弟を探すなんて……諦めて考える事すら出来なかった。

 なのに、アンタは脇目も振らずに霧の中に入っていったんだ」

 

「オレは間近に霧が迫ってきてるだけで足がすくんだのによ、

 どんどんアンタは先へ進んでいっちまう。

 無我夢中で追いかけたさ。あのクソトカゲに出来て、

 オレに出来ない事はねェってヤケクソになりながらな」

 

 リバーシュの哀愁漂う瞳には焔が反射して渦巻いていた。

 

 オレが霧の中を進めたのは、単純にどれほど

恐ろしいものだったのか知らなかったからだ。

 

 草原狼獣人(アシモベルク)達のように幼い時から

霧の恐怖や概念を刻み込まれていれば、

このような愚行は犯さなかっただろう。

 

「それは……オレが無知だっただけだ。

 今は後悔している」

 

「それは否定しねェ。あの気持悪ぃナメクジに

 捕まってる姿を見た時は、ホントコイツバカか?

 って心底呆れたぜ」

 

「返す言葉もない…………」

 

「そ、そんな事無いよぉ……ボクを庇ったせいで

 捕まったんだから……バカじゃないよぉ」

 

「あぁ、一番の大バカ野郎は

 間違いなくテメェだ。羊一匹追ったばっかりに

 オレ達まで危険な目に合わせやがってよォ……」

 

「うぅ……」

 

 リバーシュの収まりかけていた怒りは

オンドリッドの一声で再沸騰し、

ギロリと睨みつけられている。

 

 しゅん、とオンドリッドの耳と尻尾、視線は下がり、

怒られた子犬のようにへこんでいる。

 

「で、でもでも……居たのがあのナメクジだけで良かったねぇ……

 流石にリヴァイアサン級だったのは驚いたけど……」

 

「…………あれで良い方だったというのか?」

 

「何言ってんだ? 超ラッキーだろ。

 更に霧の中心部にはよく分からねェやべェ奴らが

 うじゃうじゃしてるって話だぜ?

 元凶の霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)に会ったらどうなるか――考えたくもねェな」

 

 リヴァイアサン級というのは、簡単に言えば生物の等級の事で、

単純な大きさやその危険性から総合して五段階に分類され、

その中の三段階目に当たるものだ。

 

 例外もあるが、リヴァイアサン級は強敵なものの、

決して討伐が不可能なレベルの生物ではなく、

一般的には五人から十人以上の規模で討伐が可能と言われている。

 

 北方――竜の国では界獣は存在せず、

生活が脅かされる事が無かった為、

 

書物で見た程度で実際にどれほどのものなのか

想像する事しか出来なかった。

 

 クチュラヌプス以上の生物が何匹も跋扈しているという

霧の中心地点――霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)。

 

 どうやら、オレはまだまだその危険性を

完全には理解していないらしい。

 

「少し喋り過ぎちまったな。明日はレギオンに着くまで休み無しだ。

 今の内にしっかりと身体を休めとけ」

 

「あぁ……流石にオレも限界だ……少し……眠る……。

 リバーシュも疲れたらオレを起こしてくれ。

 見張りを交代しよう……」

 

「分かった」

 

「ボクももう限界……もう寝るねぇ……

 ふぁ、ぁ……」

 

 オンドリッドは野営地まで歩く時の数倍の速度で

テントの中に入っていく。

 

 余程、疲れていたのだろう。

 

「――――とな」

 

「…………?」

 

 天幕に向かう途中、リバーシュが何かを呟いた気がしたが、

オレは強い疲労感からか聞き返す事もせず、

入ると同時にオンドリッドの横に転がったのだった――。




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