中は異様な雰囲気が立ち込めており――。
「つ、着いたぁ~~~~……」
「流石に堪えたな……」
オレ達はとうとうレギオンへと戻ってきた。
紆余曲折はあったが、結果だけを見るならば
オンドリッドと愛羊両方とも助け出し、五体満足で凱旋したのだ。
これ以上無いと言ったような成果だ。
上手く行き過ぎて恐ろしい程に。
(いつか、その代償を
払わなければならない時が来るかもしれないな……)
今回の様にたまたまオレの無謀さが福へと転じる事があれば、
逆にいくら身構えていたとしても凄惨な末路を辿る事もある。
オレは今回の事で兜の緒を締める事はあっても、
決して慢心してはならない。
「…………」
カルバルの居る家屋へ向かっている途中、
レギオンの人々がこちらを見つめるが、
皆、一同に死人を見るような目でオンドリッドを見つめており、
喜んでいるというよりは生きていた事を疑っているかのようだ。
「なんか……みんな冷たいよぉ……
なんでだろ……?」
「テメェみたいな穀潰し大食い野郎が
戻ってきて迷惑してんだろ」
「ふえぇ……酷いよぉ……」
「そんな事は無いと思うが……」
現に、レギオンの子供達はオンドリッドに
話しかけようとそわそわしていたが、
大人達の様子に戸惑っているようだった。
どうやら、もう本当に故人として扱われていたらしく、
この様子ではどこかにオンドリッドの墓があっても
おかしくないような光景だ。
「よお、クソジジイ。
クッッッッソつまんねェ土産があるぞ」
「んぉぉ……? リバーシュ……?
帰ってきたのか……?」
「そっちかよ」
リバーシュは叫びながらカルバルの家屋の中に
入っていくが、彼は中には居なかった。
留守なのかと思った矢先、外からカルバルの声が聞こえ、
見てみると家屋の横にある柵の中で羊達の世話をしていた。
「あの竜人――むきぷるーんは無事だったか?」
数日空けていたせいか、オレを呼ぶ名前は
最早原型が無くなってしまっていた。
「済まない……世話をかけた」
「お、おじちゃん……」
「…………! そんな……まさか……」
カルバルは信じられない者を見たと言った様子で、
恐る恐るオンドリッドへと近づいていく。
確かめるように腕、腹部、顔と感触を確かめ、
次第にその瞳には大粒の涙が溢れる。
「あ……ぁぁ……こんな事が……
よく……よく無事で……」
「ふぇ……! し、心配かけてごめんよぉ゛ぉ゛~~~~!!!」
オンドリッドはカルバルの胸に抱かれ、
長い長い抱擁を交わす。
華奢な彼の身体はオンドリッドの豊満な身体に
押し潰されてしまいそうな程だったが、
今はその感触すら愛おしそうに見える。
「――――リバーシュ」
「…………」
オレ達は再開を喜ぶ二人の
静かにその場から立ち去る。
「……ジジイはオレ達の親代わりなんだ」
「そうだったのか」
適当にレギオンの中をぶらつきながら、
リバーシュは静かに語り始める。
親代わりという事は、本当の両親はどうしたのだろうか?
気にはなったが、そのような不躾な
質問をする程オレの面は厚くは無い。
「"アシモフの爪"一派のレギオンに殺された。
別によくある話だ」
リバーシュはオレの聞きたい事を先回りしてか、ポツリとそう言った。
その言葉に感情は含まれておらず、淡々と事実を告げるようだ。
「アシモフの爪……?」
「あー……なんかわりィ事ばっかしでかしてるレギオンの事だ。
気をつけろよ? このレギオンがそうだったら、
アンタ……今頃死んでるぜ?」
「あ、あぁ…………」
どうやら、レギオンと言っても一枚岩ではないらしい。
考えてみれば至極当然と言える。
同じ竜人同士や同じ国の人間でも争いが絶えないのだから。
「んで、アンタはこれからどうすンだ?」
「そうだな……とりあえずリュメイヌの首都――
リニアオグタへと行ってみようと思う」
「フーン……そういやアンタの旅の目的はまだ
聞いて無かったな?」
「そう言えば話してなかったな……」
話すも何も、オレがさっさとオンドリッドを
探しに行ってしまったのでその暇も無かったのだが。
「オレはある竜人を探している。
白妙の美しい毛並みの竜で、
純白の片翼をした女性なのだが……」
「へェ、恋人か? やっぱりヤる時はヤるんだな」
「そういうのでは……なんと言ったら良いか……
と、とにかく大事なヒトなんだ」
「竜人自体片手で数えるくらいしか見たことねェしな……
首都によく行くオンドリッドはオレより詳しいかもしれんが……」
「そうか……ならば後で聞いてみよう」
そうであれば話が早い。
今はあの様子なので、少し時間を置く必要があるが、
もしかしたら何かを知っているかもしれない。
それに、当の本人が何も知らなくても
首都は多数の人々が行き交う場所。
誰か道行く人に詳しそうな人を紹介してもらえれば
それだけでも大きな足掛かりとなる。
「多分、明日か明後日くらいに誰かがもう一度首都へ向かう。
そン時にオレも一緒に案内してやるよ」
「本当か……! それは助かる」
「ハッ……助かったのはオレ達の方だってのによ。
それまではまぁ……好きにしててくれや。
まだ身体ン調子が悪いならオレン家で勝手に休んでいいぞ」
そう言ってリバーシュはカルバルの所から
少し離れた場所にある簡素な家屋を指差した。
「ありがとう。リバーシュはどうするんだ?」
「あー……オレはあのジジイに話があるからな……
なら、先にメシでも済ませとくか……
アンタも来いよ、オレん家」
「そうだな……では
「間違っても前の晩餐の時みてェなご馳走を
期待すんじゃねーぞ?」
どこか朗らかそうにするリバーシュの後を追って
オレは彼と少し遅い昼食を共にする事になった――。