野営地で休息を取っていたユラン一行。
そこで行われていた事とは――。
「ま、参った…………」
「…………」
夜の帳を彩る蒼い黄金海の中、
利刃と壊刃の奏でる華と音が響き渡る。
その刃の舞踏会を制したのはリバーシュであり、
オレは斬竜刀を地面に突き刺し、彼を掌で制した。
何故、このような事をしているのかというと、
休息を取る為に野営地で簡単な夕食を終えた後、
リバーシュのふとした一言から、このような
模擬戦を行う事になったのだった。
(攻撃へ転じる暇もない俊敏な動きだ……
受けるだけで精一杯だった)
彼は今まで戦ってきた相手の中でも上位に食い込む程の実力だ。
リバーシュの二刀を活かした攻撃は、相手に息をつく暇も与えず、
流れるような動きは全て次の行動への予備動作となり、全く無駄が無い。
それに加えて、実戦経験が豊富なのかその戦い方は
いい意味で泥臭く、師に教示を乞うていた
オレの闘い方より遥かに実践的だ。
「おい、手加減すンじゃねェよ」
「…………? いや……
オレに手加減する余裕は……」
「オンドリッド。剣をよこせ」
「え…………? ボクの?」
「いいから早く」
オンドリッドは頭をかしげながらも、
リバーシュの言葉通りに護身用の剣を放り投げる。
「アンタ……本当は"コッチ"なんだろ?」
「…………」
リバーシュが放り投げた剣を受け取る。
オレは彼が求めている事を悟ると、
静かに鞘から剣を抜き、師と同じ構えを取った。
「ハッ……! ふざけやがって……
最初からやれってンだよ……ッ!!」
刹那――リバーシュの姿が陽炎のように揺らめく。
その疾さは決して
瞬きする暇すら与えられず、オレは距離を詰められる。
「――――!!」
彼の瞬刃は華が咲き乱れるかのように振るわれ、
その疾さは月光に反射した剣の残像でかろうじて視認出来る程だ。
本気で殺しに来ているのではないかと
思うほどの鋭い攻撃に息を呑む。
だが、その剣には彼の煮え滾るような
想いが込められているのが分かる。
お前ならば受けきれる。
何か持っているんだろうと。
全て見せてみろと――。
――――ならば、オレも応えない訳にはいかない。
オレは柄を捻ってリバーシュの剣の重心をずらし、
ひとひらの一閃を静かに放った。
「があぁぁッ……!?」
小鳥の叫び声のような
甲高い金属音で終わりを迎える。
リバーシュはその場に尻餅を付き、
その後ろには、弾き返された一対の刃が
肉に食らいついた牙のように地面に突き刺さっていた。
「あ…………? 今……どうなった……?」
「
オレが師から教えてもらった技の一つだ」
彼は何が起こったか理解出来ないような
呆けた顔でこちらを見上げた。
無理もない。
そういった、相手を撹乱させる事に重きを置いた技なのだ。
「ユランさんすっごぉ……兄さんが
誰かに負けるとこ……初めて見た……」
「凄いっすねぇ~~……どっちの剣も
全然見えなかったですわ」
遠くから篝火を囲んで見ていたオンドリッド達も
何が起こったのかは理解してはいないようだったが、
それでも目の前で起きた剣劇に感嘆していたようだった。
「やっている事は至極単純だ。
光の中に刃を隠した」
「刃を……隠す……?
よく分からねェんだが……」
「
眼球運動が起こる前に死角から一閃を放つ技だ」
「…………はん?」
こいつは一体何を言っているんだといった表情で
顔を傾け、ジト目を向けるリバーシュ。
ヒトの目はまず周辺視野で動きを捉え、
眼球運動を経て、中心視野ではっきりと物を目視する。
視野にはそれぞれにはっきりとした役割があり、
周辺視野は動く物を捉える事には長けているものの、
色や形を正確に認識する事は難しく、
自身はしっかり認識しているつもりでも
その実、脳内でそれらは抽象的に補完されている。
リバーシュに放ったものは火花を周辺視野に強く灼きつけ、
中心視野で形を認識する前に出来る、
相手の意識の朧な輪郭――その中に刃を隠し、穿つ。
人体の欠陥を突いた技なのだ。
「ええと……つまり……相手の視線を光に誘導して、
刃を見えなくする技だと思ってくれていい」
「煙幕とか目潰しみたいなモンか……?」
「確かにそれと似ているな。
目潰しと違って物理的なだけでなく
意識的な物も含まれるが……
後は――攻撃の動作が読みやすかったのもあるな」
「気に食わねェ……」
その場でリバーシュは胡座をかくと、
不服そうに頬杖をつきながらこちらを睨みつけた。
リバーシュの連撃は流れるような動作で
すぐに次の行動に移る分、剣筋自体は読み安い。
逆にフェイントや予備動作の無い行動には剣の動きだけで無く、
相手の視線や角度も調整しなければならない為、
針の穴を通すような繊細な動きが必要な、
朧隠しを放つのには適さない。
「てか……なんでそんなスゲェ事出来ンのに……
そんな鉄の塊みたいな剣使ってやがるんだ?
重くて今みたいな技を扱うには相性わりィだろ」
「…………」
痛い所を突いてくる。
確かに師から教えてもらった技の多くは
大剣で扱うのには適さない物が多い。
「そうだな……憧れ――いや、意地だろうか」
「全然分かんねェよ」
リバーシュはそんな事よりも負けた事実の方が悔しいのか、
苛々としながら人差し指で膝を叩いていた。
「なぁ……今の技……
オレでも出来るか?」
「むしろ、身軽な分リバーシュの方が
適正があるかもしれんな。
必要なら教えよう」
「マジか! でもいいのか?
その師とか言うヤツの顔すら見た事ねェし……
思いっきり赤の他人の部外者だぞ?」
「――"オレ"とはもう部外者じゃないんだろう?」
「ン……お、おう……」
リバーシュは虚を突かれたような
素っ頓狂な顔をしたかと思うと、
居心地が悪そうに爪で頬を掻いた。
「師も狭量なヒトではなかった。
きっと、この場に居れば嬉々として教えてくれるだろう」
「じゃ、じゃァ……早速教えてくれよ」
「あぁ、まずは視野角と剣の位置を覚える必要がある……
先程のは――」
リバーシュの後ろから握っている剣の柄に腕を重ね、
ラクシールがそうしてくれたように丁寧に動作を教えていく。
あの人の教えをまた、別の誰かに伝えていると思うと、
まだ、どこかで彼女が息づいているような気がした――。