※この作品はR-18です。

龍闘士ユラン ~悦ヘト堕チル凌辱冒険譚~   作:キバガミ

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サヴァト領へと向かうユラン一行。
途中で休息を終え、改めて出発したが
空には暗雲が立ち込めていた――。


六十一話 開祖の狼爪は誰が為②

「よーし……お腹いっぱいになったし

 まだまだ頑張るよお」

 

「頑張るのはガルガリオンのアルドだろ」

 

「いえいえ、騎乗するのも結構体力がいりますからね。

 きっとオンドリッドさんもすぐ痩せれますよ!」

 

「ヒトコトヨケイ……」

 

 オンドリッドは満足そうにお腹を擦り、

リバーシュは立ち上がって伸びをすると

各々割り当てられたガルガリオンへ騎乗する。

 

「…………」

 

「…………」

 

 オレも騎乗しようとティエラに近寄ると、

まだ先程の事を気にしているのか、

むすっと頬を膨らませていた。

 

 気まずい――――。

 

 だが、全てはオレの落ち度でもある。

 

 確かにティエラは筋肉質ではあったが、

よく見れば男性のガルガリオンと比べて、

骨格や肉付きは全く異なっており、

毛が長くて分かり辛いが識別出来ない程ではない。

 

 今では逆に、どこをどう見れば男に見えるのか、

自分でも分からなくなってしまっていた。

 

「乗らないんですか? そうっすよねー!

 ユランさんは乗るより

 乗られる方が好きなんですもんねぇー!」

 

「いや、本当に済まない……

 その……鍛錬された身体を見て……

 てっきりそうだと……

 

「ぷぷ、冗談です。

 別に怒ってもなんとも無いですから

 さっさと乗っちゃって下さい」

 

「あ、あぁ……?」

 

 もしかしてオレは遊ばれていたのだろうか。

 

 少しもやもやとするが、その笑う姿は

もう怒っているようには見えなかった。

 

 だが、これからはデリカシーの無い発言には

気をつけなければならない。

 

 同じ感覚なのかは分からないが、オレもメス扱いをされたら

羞恥心というか、不快な思いになるのは間違いない。

 

「おいおい、乗られるだけじゃなくて

 ケツにまで敷かれちまってンじゃねェか」

 

「竜人のダンナ様っていうのも

 悪く無いですねぇ~……

 キリっとしてて結構カッコいいですし」

 

「あまりからかわないでくれ……」

 

 自分が撒いた種だと思い、甘んじて嘲笑を受けるが、

なんとも煮え切らない。

 

「ねー、尻に敷かれてるとか以前に

 兄さんは童貞なのにねえ」

 

「テメッ……! ちょっとこっちこいコラァ!!

 シバく……!!!」

 

「んひぃッ!? アルドさん……!

 早く走ってえ!」

 

 オンドリッドが乗っているガルガリオン――

アルドはピンと耳を立て、ティエラを一瞥すると

目的地の方角へ一直線に駆けていった。

 

 オレもリバーシュと共にガルガリオンに飛び乗ると、

オンドリッドの後を追うように走り出す。

 

 今回、こちらは一番最後尾を走っており、

リニアオグタを出発した時とは真逆の立ち位置だ。

 

 今ではすっかりガルガリオンの騎乗も慣れたもので、

ティエルの足を引っ張る事も無くなり、

彼らに十分付いて行く事が出来るだろう。

 

 金色の大海原が一瞬の内に後ろへと流れていき、

この感覚がなんとも心地良い。

 

(遠くに黒い雲が見える……雨の予兆か?

 早く次の休息場所に目星を付けておいた方がいいかもしれんな……)

 

 オレは忍び寄る黒雲を睨みつけ、

手綱を強く握り直した――。

 

 

――――――

 

 

(……………)

 

 空が薄気味悪い暗雲で覆われつつあり、

黒い風が凪(な)いでいる。

 

 あれからオレ達は走り続けており、

日も落ちてきているのか肌寒さは強くなっていた。

 

 いつもなら地平線まで草の海原は紅に染まり、

美しい光景が広がっているのだが、

今はただ不気味に草木が揺れていた。

 

「かなり天気が悪くなってきたな……

 今にも雨が降ってきそうだ」

 

 案の定、暗雲は青い空に墨汁を垂らしたが如く

広がっており、夜のように薄暗い。

 

「そうっすね……流石にあーしも

 ずぶ濡れになりながら走るのはいやっす……

 結構やーな臭いがついちゃうんですよね……」

 

 オレの漏らした言葉にティエラが同意する。

 

 確かに毛量の多いガルガリオンならば、

一度汚れてしまえば身体を洗うのは大変だろう。

 

「早急に野営地を決める必要があるな……

 まだ、体力の方は大丈夫か?」

 

「まだまだ全然大丈夫っす。

 その気になれば一日くらいは

 ぶっ通しで走れますよ!」

 

 頼もしい言葉だ。

 だが、それに甘えてばかりもいられない。

 

(最悪、雨を凌げそうな場所が無ければ

 早めに設営の準備をしておいた方が

 いいかもしれんな……)

 

 そう思考していた刹那――"ナニカ"が

ティエラの進路上に突き刺さる。

 

 そのせいで彼女は回避行動を

余儀なくされ、大きく体勢が歪む。

 

「わっ…………!?」

 

「ぐッ……!? なんだ……!?」

 

 オレは飛んできた物を確認する為、

視界から消える前に急いで視線を後ろにやった。

 

 ――それは一本の矢だった。

 

 しかし、一般的に見る大きさの矢では無く、

大弓で使われる巨大な物だ。

 

 鼓動が激しくなり、全身の血が逆立つ。

 

 これはそう、剣で喉元を撫でられているような――

自身が被捕食者になったような得も言われぬ感覚。

 

「今のは何っすか……?」

 

「走れッッ!!!」

 

「へ?」

 

「全速力だッッ!! 死にたいのか!?」

 

 ただの矢であっても恐ろしい事だが、

オレはそれに込められた強い意思を感じ取っていた。

 

 それは強烈かつ、明確な殺意――。

 

 ティエルのような大柄なガルガリオンには

普通の矢を当てた所で大した傷にはならず、

その足を止める事は出来ないだろう。

 

 そして、当然体躯も大きければ毒も効きにくい。

 この瞬足であれば毒が身体を蝕む前に

あっという間に逃げられてしまうだろう。

 

 従って、迅速に動きを止めるには

より強い殺傷力を持った武器――

大弓の矢のような物が必要になる。

 

 野盗や山賊に歩いている姿を見られて

目をつけられたような雑な理由では襲われていない。

 

 そもそも縦横無尽に疾走する巨大狼を相手に

略奪行為を行うにも、、労力に対して報酬が少なすぎる。

 

 いつこんな場所を通るかも分からないのに、

ガルガリオンだけをわざわざ狙う必要はあるだろうか?

 

 つまり、オレ達は明確に標的にされており、

ここを通ると予想され、待ち伏せされていた。

 

 ――――狙われるべくして狙われているのだ。

 

「今、地面に刺さったのは矢だッ!!

 何者かに襲われているぞッッ!!」

 

「は……? え、えぇ!?」

 

 ティエルはとりあえず足は動かしているものの、

尚も状況が飲み込めていないようだ。

 

 無理もない。恐らく、ガルガリオン達には

何かに襲われた経験は殆どないのだろう。

 

 これほどの足を持っているのなら、

彼らは霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)と霧さえ

避ければ、この黄金海は彼らの独壇場と言っても良い。

 

 走って風を追いかけようとする愚者は居ないだろう。

 

「アルドッ! トプラクッ!

 全速力で走れッッ!! オレ達は狙われているぞッッ!!」

 

「…………ッ!?」

 

「な、なんで私達が……!?」

 

 前を走っているアルド達に肉薄すると、

リバーシュとオンドリッドを乗せている

ガルガリオン達に力の限り叫んだ。

 

 彼らはびくりと毛を逆立て、半信半疑と

言った様子でこちらに顔を向けるが、

 

 ティエルの凄まじい速度と切羽詰まった雰囲気に

釣られて逃げるように速度を上げていく。

 

「わ、わぁぁ……ッ!」

 

「おいッ……! 一体なんなんだ……!!

 

「分からん……! だが、どこからかともなく矢を撃たれた……!」

 

 背後を見ると、黄金海のあちこちから

ぬるりと人形の黒い影が湧き出し、

それらは群れを成してこちらへと迫ってくる。

 

 ティエル達が全速力で走っているのにも関わらず、

全く距離を引き離せない。

 

 長い丈のススキの区間を抜け、

見晴らしのいい草原地帯へと到達し、

 

その黄色の海を割くようにして

三人のガルガリオンは駆けていく。

 

「…………ッ!? 草原狼獣人(アシモベルク)……!?」

 

 影が勢いよくススキの中から這い出ると、

ようやくオレ達を追っていた者の姿が明らかになる。

 

 正体はガルガリオンに騎乗したアシモフだ。

 

 しかし、身につけている物は長剣や弓、槌や鎧といった、

物騒な物ばかりで、一目で友好的な相手では無いと分かる。

 

 中には、先程オレとティエルを狙ったと思われる

大弓を身に着けているアシモフも居た。

 

「"アシモフの爪"だッッ!!」

 

「あれが…………!?」

 

 彼らの瞳は爛々と歪に輝いているが、

野盗や山賊の類とはまるで性質が違う。

 

 強く、揺るぎ無い意思のような物が遠目でも感じられ、

どちらかと言えば戦場に赴く武人に近い物を感じる。

 

「何故、オレ達を狙うんだ!?」

 

 金品が欲しいならばオレのような

みすぼらしい旅人など襲わずに、

もっと別の者を狙えば良い。

 

 それに加え、俊敏なガルガリオンを捕えるには

相当用意周到な準備がいるだろう。

 

 それにも関わらず、こんなにも大人数で

襲ってくる理由が分からない。

 

「……ボク達が、霧からの生還者だから……?」

 

「あぁ、なるほどな……ハッ……!

 "アシモフの爪"の連中の人気者ってワケだ……!」

 

「どういう事だ……!?

 

 "アシモフの爪"と呼ばれる非公認レギオンの派閥が、

良からぬレギオンだと言う事は前も聞いていたが、

その本質をまだ、オレは何も知らない。

 

 霧から生き残った者を狙う動機と

何か関係があるのだろうか。

 

「あの人達は、霧笛の濃獣(むてきののうじゅう)と共存する事を由としない――

 討伐する事を理念にしている過激派だよお!

 開祖――アシモフの意思を継いでるとか……自称だけど……」

 

「ホントはその辺りちゃんと話してやりてェんだが……

 悠長にしている暇はねェ!」

 

 リバーシュとオンドリッドは並走しながら

叫ぶようにオレに語りかける。

 

 細かい部分は朧げだが段々彼らの目的が見えてきた。

 

 霧の生還者たるオレ達から何らかの情報を引き出し、

あわよくば自らの派閥に引き入れようと言うのだ。

 

 確かに、書物などで伝えられた事より、

実際に霧の中での経験がある者の知識の方が

役に立つ事もあるだろう。

 

 何より信憑性もある。

 

 だが、そんな事より今は、

リバーシュの言う通り

この状況をどうにかする事が先決だ。

 

 状況はかなり切迫していると言っても良い。

 

 このような見晴らしのいい場所では

いくら瞬足のガルガリオンと言えども格好の的であり、

矢の雨を降らされてはひとたまりもないだろう。

 

「リバーシュ! オンドリッドを頼むッ!

 このまま展開するぞッ!

 奴らに的を絞らせるな!!」

 

「…………ッ!」

 

「わっ……!?

 

 リバーシュはこちらの意図を察してくれたのか、

三叉状に互いの進路は広がっていくが、

気持ちオンドリッド側へと寄って並走する。

 

 本当はもっと放射状に広がった方がいいのだろうが、

あくまで理想の話だ。

 

 荒事に慣れていないオンドリッドには

他の者のフォローが必要だろう。

 

 同じようにオレ達が騎乗しているガルガリオン達も

心配だが、今は信じる他ない。

 

「このままあの森へと向かおう!」

 

 進行方向の彼方には森があり、

あそこならば開けた草原より

ずっと狙いを絞りにくいはずだ。

 

「わ、分かりましたぁ……!!」

 

 ティエルは襲われているという事実に

恐怖を感じているようだが、

速度を落とすことなく疾走してくれている。

 

「大丈夫だ。ティエラは何も考えずに

 前に走るだけでいい。

 後の事はオレがやる」

 

「その言葉……信じていいんすねぇ!!」

 

 半ばやぶれかぶれになりながらティエルは

更に速度を上げていく。

 

 後ろを確認すると、大体、四対六の割合に分かれ、

多い方がオレを追ってきていた。

 

 一見、オンドリッド達の方に多く人員を割いたほうが

適切な気がするが、これは"群"の動きとしては正しい。

 

 有利な状況を維持したまま迅速に制圧するのが

最もリスクが低く、盤石な戦法だ。

 

 数の少ないオレ達の方をさっさと捕らえた後、

全員でリバーシュ達の方に取り掛かるつもりなのだろう。

 

「――――!」

 

 集団の一人が大弓をしならせ、蒼穹に巨大な矢を穿つ。

放たれた鋭矢が空を裂き、甲高い風切り音を

響かせながらこちらへと飛来する。

 

「ふ、ん……ッ! があぁぁッ!!」

 

 斬竜刀を振りかざし、横一閃に凪ぐと

放たれた矢と激突して火花が咲き、

 

剣と剣を打ち合った時のような金属音が響き渡って

腕にはとてつもない衝撃と痺れが訪れる。

 

 普通の矢と比べ、圧倒的質量の大弓の矢は

鉛のように重い。

 

 流石にこれほどの物を食らってしまえば

ガルガリオンとてひとたまりもないだろう。

 

「ひぃぃ……! あ、ありがとうございます……

 にーさん……」

 

「油断するな……! 足を緩めた瞬間、

 命は無いと思え……!」

 

「ひえぇ……!!」

 

 オレはティエルに念を押しながら、

金色の大海原にそびえ立つ

暗き森へと足を踏み入れた――。




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