※この作品はR-18です。

龍闘士ユラン ~悦ヘト堕チル凌辱冒険譚~   作:キバガミ

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サヴァト領へと向かう途中にアシモフの爪一党に襲われてしまったユラン。
ようやく彼らを振り切ったと一安心するが――。


六十三話 開祖の狼爪は誰が為④

「霧……!? あれが不動の霧(ネージュネーベル)なのか……!?

 いつの間にこんな間近に……」

 

「ほんと……っすねぇ……進路を変えた方がいいかも……」

 

「よし……徐々に北西へ進路を変えつつ、

 そのまま西へ突っ切ろう」

 

 暗雲はいつの間にか雲散しており、

星々が顔を出していた。

 

 本当はそのまま北西へと進んでリバーシュ達と

すぐにでも合流したい所だが、

 

それでは、彼らを追っているアシモフの爪一党とかち合い、

挟撃されてしまう危険性がある。

 

 かなり予定は狂ってしまうが致し方ない。

 

「おっけーっす……丁度、にーさんが言ってた

 良さそうな……場所がありました……!」

 

 そう言ってティエルは太い枝へと着地し、

樹の幹の間をまるでリスのように優雅に、しなやかに

素早く移動しながら地上へと降り立つ。

 

「――――!!」

 

 背後を目視すると、追ってきていた

アシモフの爪一党は距離をより詰めてきており、

ティエル四人分程の距離まで肉薄してきていた。

 

 加えて、まるでオレ達が地上に降り立ったのを

待ちわびていたかのように狙いを定めており、その鋭矢を放ってきた。

 

 ミネヴァの短刀ですら引き抜くのが間に合わない――。

 

 死――――。

 

「ぐっ……!!!」

 

 オレは経験と反射神経のみで撃たれた矢を

首の動きだけで躱し、矢が通り過ぎる前に鷲掴みにすると、

 

そのまま、先程と同じ様にガルガリオンの正中線へ返し矢を放ち、

続け様に騎乗したアシモフの足を流れるように撃ち抜く。

 

「ぎぃぃいああぁぁ~~~~~~!!!」

 

 騎乗者を失ってガルガリオンも体勢を崩し、

その場に倒れ込む。

 

 巨大狼は負傷者を放置する事も出来ず、

こちらを忌々しげにギラついた目で一睨みすると、

苦痛にのたうち回っている騎乗者に駆け寄った。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 ティエルがオレの言った通りの場所に移動してくれた為、

太い樹が密集している場所のせいか、彼らのガルガリオンも巨大刃を

自由に振るえないようだった。

 

「飛んでくる矢を掴むとか……マジっすか……!?

 あんなの見たことがないっすよ……!」

 

「いや……身体が勝手に動いただけだ……」

 

 一見、凄い事をやってのけたように見えるが、

騎乗者の視線と構えた矢の角度から射線を推測し、

後の大部分は勘と経験――これは完全なる悪手だ。

 

 あのアシモフの狙いが少しでもぶれていたなら――

撃ち出すのがコンマ数秒早かったり遅ければ――

オレはもろに腕に矢を受け、戦う術を失くしただろう。

 

 戦場ではこういったリスキーな行動は最も避けるべきであり、

何度も針の穴を通すような博打にも近い

行動が通用する程、戦は甘くはない。

 

 客観的に判断するならば、オレが回避行動を取り、

ティエルの背中に矢が刺さるのを甘んじて受け入れるか、

 

肉を切らせて骨を断つ思いでオレ自らが背中で矢を受け、

すぐさま、反撃に移るべきだっただろう。

 

 竜人の竜皮は種族にもよるが、なまくらのナイフ程度は

簡単に弾き返す程の強度や滑らかさがあり、

矢も刺さりはするものの、大弓の矢程でないと致命傷にはならず、

腕や足、頭以外の部分で受ければ最小限の被害で済む。

 

 なので、間違っても飛来した矢を掴もうなどと

思ってはいけない。愚の骨頂だ。

 

(だが、先見隊は潰した……これで時間が稼げる……!)

 

 後ろにはアシモフの爪一党の本隊が迫ってきているはずだが、

それでも大分まだ距離があるはずだ。

 

 この状態で速度を意地出来れば、北西への移動を経て

西へと一気に横断する事が出来る。

 

 ティエルの疲弊具合も気になるが、先程の様子であれば

あまり激しい動きさえしなければ、まだ走れるだろう。

 

「よし……ティエル……ありがとう……!

 よく頑張ってくれた……西へ向かって

 身を隠せそうな場所があれば休息を――」

 

「は、はは……ごめん……にーさん……

 ちょっとあーし……限界、かも……」

 

「おい……!? どうした……!?」

 

 弱々しくティエルが呟くと、その走る速度は

徐々に失速していき、その場にへたり込んでしまう。

 

 様子がおかしい。

 

 荒い呼吸はどこか艷やかで、

疲弊しているのとはまた違うようだった。

 

「はぁ……は、ぁ……なんだか……身体が熱くて……

 手足が痺れ、て……」

 

「まさか……矢に毒が……!?」

 

 いくらガルガリオンが巨体で毒が効きにくいとしても、

これほどの時間、全速力で走り続けていたのだ。

 

 当然、全身の血の巡りは早くなり、

一刻一刻と確実に毒は彼女を蝕んでいく。

 

 むしろ、こんなに長時間毒に苛まれながらも

風のように疾走し続けたティエルは

ガルガリオンの中でも最高峰の運び屋と言えよう。

 

「――端的に言って……時間切れだよ。竜人殿」

 

「…………ッ!?」

 

 ティエルの様子を見ていたオレの背後から

声が投げかけられる。

 

 振り向くと、そこには武装したアシモフが

騎乗したガルガリオンの上からこちらを見下ろしており、

熟練した動きで軽やかに地面へと着地する。

 

 周りは、アシモフの爪一党が取り囲んでおり、

最早、どこにも逃げ場は無かった。

 

「ふむ……もう少し早く麻痺媚毒が回り、捕らえた後は速やかに

 もう一方の部隊と合流する予定だったが

 随分遠くまで来てしまった……。

 そのメスのガルガリオンは実に優秀なようだ……」

 

 目の前の隻眼のアシモフは淡々とした声で語りだす。

 

 彼の身体の至る所には無数の傷が刻まれており、

ピンと直立した左耳に反して、右耳は

半分程の長さになっておりボロボロだ。

 

 その威風堂々とした立ち振る舞いは

歴戦の猛者の匂いを漂わせ、隻眼から覗く

鋭い瞳は些細な動作も見逃さないような

眼光を放っており、全く隙が無い。

 

「やはり毒か……! 何故、オレ達を付け狙う……!?」

 

 ティエルを庇うように目の前に立ち、

彼の目を真正面から睨みつける。

 

 オレの一挙一挙に周りの草原狼獣人(アシモベルク)達は警戒を強め、

中には弓矢でこちらを狙っている者もいた。

 

 不適切な対応を取れば、瞬く間にオレは

串に刺された肉団子と化してしまうだろう。

 

「――――霧からの生還者」

 

「――――!」

 

「街に放っている諜報員から聞いたよ。

 東より竜が来たりて、霧を穿ち、二の死狼を迎う(え)たり――。

 異人は数多く来訪するが、霧から帰った者は居ない」

 

「東より竜……?」

 

 その竜というのは、もしかしてオレの事なのだろうか。

 まるで吟遊詩人の英雄譚のようだ。

 酷く耳触りだけ良く、事実がどこまでも歪曲している。

 

 オレはただ、闇雲に霧の中を突き進み、

リバーシュに助けられただけだ。

 

「霧からの生還者だったら……何だと言うんだ?

 待ち伏せまでされ、狙われる理由が分からんな」

 

 正直に真実を伝えても良かったが、

わざわざ敵意のある相手に

手札のカードを切るつもりはない。

 

 それではこちらの選択肢が狭まってしまう。

 

 何を駆使してでも、オレはティエルと共に

この状況を切り抜けなければならない。

 

「理由は大いにある――。

 流浪の竜人殿には分からないかもしれないが……

 霧から生きて戻ってくる――これはリュメイヌに生きる者にとっては

 黒園(こくえん)から帰ってくる事と等しい」

 

 黒園(こくえん)はオレ達の居る浮遊大陸の遥か

底の底に存在する広大な大地の事を指す。

 

 穢土(えど)、錆色の大地と他にも様々な呼び名があるが、

実際に見たものは誰もおらず、そもそもそのような

大地が存在しているのかさえ不明だ。

 

 リュメイヌの霧と同じく、行けば、

二度と帰って来られないと言われている。

 

「私達はキミのような"英雄"を望んでいた――。

 待って待って……待ち焦がれ……

 そして……とうとう現れた……!」

 

 冷静沈着に語る彼の掌がわなわなと震え、

徐々に声に熱が篭り始める。

 

 周囲を取り囲んでいる草原狼獣人(アシモベルク)達も

腕を上げる者、声高らかに遠吠えをする者――

皆一様に昂ぶっている。

 

 しかし、中には何か気にするように

虚空を睨みつける者や、怯えた表情を

見せる者もおり、千差万別の反応だ。

 

「悪いが、オレはお前達が思っているような者ではない。

 どうやら、ハズレくじを引いたようだな?

 もう一方にはオレより卓越した、凄腕のアシモフの剣士がいる」

 

「リバーシュ・レインウォーカーの事か?

 確かに優秀な戦士だが……彼ではダメなのだよ……」

 

「何故だ?」

 

「――生粋の草原狼獣人(アシモベルク)だからだよ」




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