※この作品はR-18です。

龍闘士ユラン ~悦ヘト堕チル凌辱冒険譚~   作:キバガミ

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水晶花に寄生され、呑み込まれてしまったユラン。
目覚めると、そこは見たこともないような場所だった――。


第三章 錆色のアリス
六十六話 時間の兎は急がない


「――――」

 

 現実味の無い、虚ろな浮遊感と共に、

オレは目を覚ました。

 

 ――――意識がある。

 

「オレ、は……どうなって……」

 

 確か、最後の記憶ではオレは花びらの渦に巻き込まれ、

凍りついてしまっていたはずだ。

 

 だが、あれだけ身体を蝕んでいた華の根も、

刺すような凍えもどこにもなく、

 

水晶花が咲いていた右腕はその形跡すら存在せず

ピンピンとしていた。

 

 あれは一体なんだったんだ――。

 

 戦場で何度も体験した、確かな死の予兆。

 同じ匂いを感じ、白園(びゃくえん)へ逝くのを覚悟したが――。

 

「…………」

 

 周りは自分達が居たリュメイヌの森ではなく、

見たことも無いような歪な空間だった。

 

 まるで星月夜を蝋燭で照らしたかのような

淡紅(たんこう)に輝く夜の帳が無限に広がっている。

 

 オレの座っている地面さえも何もなく、

まるで自身が夜空の星々の一つとなったよう。

 

 しかし、そこを硝子や調度品に触れたような

滑らかかつ、硬い感触はあり、床は存在しているようで、

見下ろした銀河に落ちていく事は無さそうだ。

 

「――――お目覚めかね?」

 

「…………!」

 

 考えに耽っていると、背後から声が聞こえた。

 

 声の主はオレ達を襲ったアシモフの爪一党――

その指揮を取っていた隻眼のアシモフだった。

 

「貴様……ッ! オレ達に何をした……!!」

 

「落ち着き給え……私にも分からないのだよ……

 てっきり、水晶花に呑まれて死んだのかと思っていたがね」

 

「…………」

 

 そう言って彼はお手上げだと言ったような仕草をする。

 

 確かに、この隻眼のアシモフがあのような状況を引き起こしたのなら、

彼自身が氷像と化すリスクを負う必要はない。

 

 やはり、彼にとっても想定外の自体が

起きたという事なのだろうか。

 

「ここが死者と眠り人が訪れるという白園(びゃくえん)かな?

 確かに美しいと言えば美しいが……いつも訪れる場所とは違うな……

 まるで塵芥場(じんかいば)のようだ……」

 

「ここが…………?」

 

 オレは隻眼のアシモフの言葉を聞くと、

更に周囲を見渡した。

 

 空中には壊れた時計や玩具、人形の残骸が浮かび、

それが彼方まで無数に散らばっている。

 

 その大きさなども不定であり、オレ達が普段

使用しているようなお手頃な大きさの物から、

 

身体を思い切り広げても、まだ余裕がありそうな程の

巨大な時計の針のような物も浮遊していた。

 

 見れば見るほど歪な場所だ。

 

 少なくとも、オレはこんな現実離れしたような

光景は見た事がない。

 

「無意識下の者が最初に訪れる白園(びゃくえん)の第一層は御伽霧層(おとぎむそう)だと

 聞いていたが……リュメイヌでは違うのか?」

 

「いや、それで合っているよ竜人殿……

 リュメイヌには霧との戯れは白園にてという言葉もある。

 嘆かわしい事この上ないが」

 

 死者や眠れる者と言ったような無意識下の者が

必ず訪れる場所――白園(びゃくえん)。

 

 全部で十の層で構成されると言われており、

実際に観測されたのは第一層の"御伽霧層(おとぎむそう)"と呼ばれる場所だけであり、

他にも旅人が迎えられる第二層"旅愁乖層(りょしゅうかいそう)"など、

様々な層があると呼ばれるが、どれも憶測や神話の域を出ない。

 

 御伽霧層(おとぎむそう)は木漏れ日のような

暖かな光と霧に包まれ、神聖さを含んだ穏やかな場所であり、

今の場所とは似ても似つかない。

 

「では、ここは一体…………?」

 

「それを今から解き明かしに行くのだよ。

 霧中を往くのと同じようにね」

 

 そう言って隻眼のアシモフは手を差し出してくる。

 

「…………なんのつもりだ?」

 

「共同戦線だよ……竜人殿……

 この錆色の空間で野垂れ死ぬ前に、

 手と手を取り合って協力し、共にここを脱しようではないか」

 

 このアシモフはどの面を下げてそのような事を言っているんだ――。

 

 あれだけ他の草原狼獣人(アシモベルク)を侮辱し、

あまつさえ、ティエルの事を母胎や苗床としてしか見ていなかった。

 

 このような相手と行動にするなど不本意極まりない。

 

 だが、客観的に見れば何が起きてもおかしくないこの状況――

当然、手を取り合って協力するのがいいに決まっている。

 

 額に血管が浮き出ているのではないかと思うほど、

オレは拳を強く握りしむ。

 

 爪が掌に食い込み、皮膚を突き破りそうだ。

 

「…………」

 

 オレは感情を押し殺しながら

隻眼のアシモフの手を握り、立ち上がった。

 

「出来ればもっと早く、この手の温もりを

 知りたかった所だ……」

 

「いいか、もしアシモフの爪以外の草原狼獣人(アシモベルク)を見つけても、

 決して手出しするな……! もし手を出したら……

 その時は即刻、同盟は解消されると思え……!」

 

「分かっているよ……では、共に往こう」

 

 今だけはこうする方が最善だ、そうに違いないと

自身の選択をただ、ひたすらに正当化する。

 

 彼は相変わらずと言った表情だったが、

尻尾の方は回転するのではないかと思うほど激しく揺れており、

余程、自身の提案が受け入れられたのが嬉しいらしい。

 

「そういえば名前をまだ伝えて無かったね。

 私の名前はヴェラクトーレと言う。

 親しみを込めてヴェラと呼んで貰えると嬉しいね……竜人殿」

 

「では、"ヴェラクトーレ"と呼ばせて貰おう」

 

「ふむ……? まぁ、今は名前で呼んで

 貰えただけで良しとしよう……。

 私も竜人殿の事を名前でお呼びしてもいいかな?」

 

「好きにしろ、オレはユランだ」

 

 どこまでも食えない男だ。

 

「その手に持っているものはなんだ……?」

 

「これか……? 先程周囲を散策している時に見つけてね……

 見てみるといい……中々ユニークな生物だ」

 

 そう言って、ヴェラクトーレは何かを掴んでいるものを差し出した。

 

 それは、一見普通の兎のように見えるが、背中には巻鍵を

挿し込まれており、その部分だけはまるで玩具のようだ。

 

 それ以外は一見、何の変哲も無い兎に見え、

生物的かつ、温もりを感じる。

 

「わっ……!?」

 

 その兎が不意にこちらに振り向くと、

瞳孔が無く、血のように紅く染まった瞳の中に

円状に文字が刻まれていた。

 

 そのあまりに歪で見慣れない光景に

声を漏らしてしまい、顔を離してしまう。

 

「私も最初は驚いたよ……さしずめ、

 時間の兎と言った所かな?」

 

「時間の兎……?」

 

 もう一度、よく兎の瞳を観察してみると、

どうやら円状に刻まれていた文字は数字らしく、

その配置は時計の指し示す時間そのものだ。

 

「確かに、言われてみれば針のない

 時計のように見えるな……」

 

「つくづく訳の分からない所だよ……ここは……

 幸い、食料には困らなそうだがね」

 

「これを食う気か…………?」

 

 ヴェラクトーレはどうだろうねといわんばかりの

仕草をすると、そのまま時間の兎を放した。

 

 機械仕掛けの白兎は、普通のそれと全く同じ様に

元気そうに跳ね回りながら、無色透明の床を駆けていく。

 

「さて……これから私達はどうするべきだろうか?

 ユラン殿の意見があれば、それに従う事にするよ」

 

「そうだな……状況が分からない以上、

 基本的には、その場から動かない方が吉だが……

 それはあくまで、他の者の救助の可能性がある場合だ」

 

「ふむ……同意するよ……。

 もし、見知った誰かが居ても助かったと思ってはいけないよ。

 その者も同じく氷華に犯された者なのだから……」

 

「あぁ……オレ達以外にも

 空間にやってきた者がいるはずだ……

 きっと、ティエルも……」

 

 そう、オレ達は水晶花に寄生され、

意識を失って目覚めたらここに居た。

 

 ティエルや他のアシモフの爪一党も

ここにいる可能性は高い。

 

 それならば、まずは周囲を探索し、

ティエルを探しながら状況を把握するのが最適解だろう。

 

「あの時間の兎を追ってみよう。

 きっと、自身が安全だと思える場所へと向かう筈だ。

 ――だから、わざと逃したんだろう?」

 

「察しが良くて助かるよ……私の刃と命を預けるのに

 相応しい新風だよ……ユラン殿」

 

「命を預けるなんて止めてくれ。

 双方共に生き残らなければ意味がない」

 

 オレは一抹の不安を抱えながらも、

ヴェラクトーレと共に時間の兎を追いかける事にし、

歪な空間の中を歩き始めるのだった――。




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